軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18話 やりたいことと、やるべきことが多すぎる

「二人で勝てねぇなら、勝てるヤツを出せばいい、か。……傍から見ていた分にはそうでもねぇが、当事者だったら俺も思いつかなかったかもな」

「俺もや。これがコロンブスの卵、ってやつかも知れんのぉ」

「うーん。実際パーティーも分けてましたしなぁ。ここであの子が混ざるのは思いつきませんわ」

意気揚々と駆け出した切岸さんを見て、休憩をし始めた但馬さんたちは決め顔でそう言った。

まぁ、そうだよな。

ダンジョン過渡期とも言えるこの時代、もし『ダンジョン攻略を進めるために絶対に必要なモノを一つ挙げよ』と問われたならば、多くの者が『強い探索者』と答える。

この意見自体は間違ってはいない。

殺意を向けてくる魔物が充満している洞窟の中を探索するという極めて危険な行為が、弱い者に務まるはずがないのだから。

加えて世間一般のイメージとして『強い探索者』とは『魔物に対して大きなダメージを与えることができる職業に就いている探索者』のことを指しているため、探索者のことをよく理解していない企業や、新規にパーティーやクランを組もうとする若者たちの間では、直接戦闘に秀でた前衛職が優遇される傾向にあるそうな。

生活態度や人付き合い、ダンジョンへ挑む姿勢など、探索者として長く組むことを考えれば絶対に看過できないモノが目に見えて積み重なっていた状態であったにも拘わらず、結構な数の学生が奥野に声をかけていた理由がこれだ。

まぁ、それほど強力な魔物がいない上に、特殊な罠も少なく、なにより『レベルを上げて物理で殴る』という古の摂理がまかり通るダンジョンの上層や中層を主戦場にするのであれば、物理を優先した編成でもなんら問題はないからな。

むしろ、物理特化こそが最適解と言えるだろう。

しかし、ダンジョンの悪意が本格的に顔を見せるようになる二一階層以降では、このような編成は通用しない。

まず、物理攻撃を担当する前衛が不要になるわけではないので、いなくなれば普通に詰む。

同じく、盾職がいなくなれば、前衛が戦っている間に後衛職が狙われて死ぬので詰む。

加えて、索敵と罠の探知を担当する斥候役がいなけれれば、まともに進むことができずに詰む。

当然、魔法を使える後衛職がいなければ、物理攻撃を透過するレイス系の魔物によって詰む。

結局、誰か一人が死ねば詰む。

以上が、これまでダンジョンの下層に消えた多くの先達が体を張って遺してくれた貴重な教訓である。

この教訓を活かすため、現在Aランククランが抱える主力パーティーの多くは、バランスを重視する編成になっている。

『探索者なんざ畑から勝手に生えてくる』と嘯くような連中が幅を利かせている界隈に、先達が遺した苦い経験を糧にできるだけの度量があったことを喜ぶべきか、そうしなければ生き残れないダンジョン探索の過酷さを嘆くべきか、判断に迷うところであるが……今回の主題はそこではない。

ここまでの探索が順調すぎたこともあって「このままではダンジョンを舐めてしまうのでは?」と考えた俺は、彼女たちに「下層以降に挑むには『強い探索者』をバランスよく備える必要がある」こと、つまりは「【斥候】と【魔法使い】だけで攻略できるほど、下層は甘くはない」と教えたかったのだ。

最初から他の人に頼ろうとしないのは悪いことではないんだが、時には躊躇なく他人を頼る厚顔さも必要なのだ。

なにせ探索には命が懸かっているのだ。

大概のことは”死ぬよりは安い”と割り切って救助要請を出せる判断力も、優秀な探索者には必要なのである。

で、今回晴れて戦闘を解禁された切岸さんだが、彼女は奥野との差別化を図るためにレベル六から例の指輪を使ったレベリングをしてレベル三〇になっているため、六+(二四×二)で【鍛冶師】換算でレベル五四相当のステータスを有している。

対する野槌は、いくつかのステータスはレベル四〇の探索者を殺せるほどの高さを誇るが、他はレベル三〇前後の探索者でも対応できる程度しかない。

つまり?

野槌に勝ち目はありません。

お疲れさまでした。

「それじゃ、若葉ちゃんなら『三〇階層くらい一人でも問題ない!』ってことなの? それって凄くない?」

細かいステータスのことを暈して伝えたところ、目を輝かせた先輩がそんなことを言ってきた。

まぁな。

実際、Aランククランの登竜門扱いされている三〇階層のボスを一人で処理できるのは凄いことだし、それを彼女よりも年下の少女が成すところを目の当たりにすれば、彼女としては「凄い」としか言いようがないだろう。

その視線に「いずれ自分も同じことができるようになるかも」という期待とも羨望ともつかないモノが見え隠れするのも、探索者としては当然のことだと思う。

純粋に目を輝かせながら問いかけてくる先輩の心意気に水を差すのは非常に心苦しいのだが、今はダンジョンの厳しさを教えることを優先させてほしいので、あえて厳しい意見をぶつけることにする。

「まぁ、ステータスだけならそうなんですけどね。散々勝利が確定したようなことを言った手前申し訳ないんですが、実際のところ切岸さんが負ける可能性も皆無というわけではないんですよ」

「えぇ!?」

「えっと、どうやって負けるんです? ステータスに差があったら負けないですよね?」

”確定!”と表示された演出が外されたような顔をする先輩と、本当に疑問に思っていそうな感じで確認をしてくるシータさん。

気持ちはわかる。

探索者にとってステータスは絶対だからな。

圧倒的な差があったら負けないはずだもんな。

だが、何事にも例外はあるのだ。

いい機会だから教えておこう。

「切岸さんが負けるとき、それは……」

「「それは?」」

「油断しているところに奇襲を受け、飲み込まれてしまった場合です」

どれだけ強くとも。油断に油断を重ねたら負ける。

それがダンジョンの怖さなのだ。

「飲み込まれる? でも攻撃が効かないなら、牙でゴリゴリやられても大丈夫なんじゃないの?」

単純に考えればそう思うよな。

だが、飲み込まれた際に生じる現象は牙による攻撃だけではない。

「牙による磨り潰しには耐えられても、消化液によって溶かされるのを防ぐことはできないし、肉による圧し潰しと消化液のコンボによって呼吸ができなくなれば、普通に窒息してしまうんです」

「「あぁ」」

魔物の頭部に水を纏わせて溺死させることができるように、どれだけ強くなろうとも、普通の生物は呼吸ができなくなったら死ぬのだ。

「ただし、今の切岸さんほどのステータスがあれば、たとえ野槌に飲み込まれたとしても内側から攻撃を加えて爆散させることができるので、窒息死する可能性は極めて低いでしょうね。なので、彼女が負けるケースとしては『油断に油断を重ねて野槌からの奇襲を受けて飲み込まれ、そのまま敵の体内で死ぬまで気絶をし続ける』か『敵の体内で溶かされる自分を観測するためにあえて無抵抗を貫く』なんて変態的な選択をした場合に限ります。で、俺が知る限り切岸さんの感性はまとも寄りなので、無抵抗で体内に留まろうとはしないでしょう。だから基本的には彼女一人で大丈夫なんですが、油断が禁物ということに違いはありません」

結局、探索者にとってステータスの高さが正義であることに違いはなく、油断に油断を重ねなければ切岸さんが死ぬことはない。

そう結べば、二人はどこか納得したような表情をしてくれた。

「なるほどねぇ。そりゃ意図的に死のうとすれば死ぬよね」

「そうですね。自殺はどうしようもないです」

「けど……気絶はともかく、自分が溶けるのを待つ人なんていないですよね?」

「えぇ、普通はやりませんね。普通は」

常識的に考えたらシータさんの言う通り。

でもなぁ。

何事にも例外はあるんだよ。

たとえば、『魔物の生態を研究する』という名目を掲げて各種人体実験に勤しむ企業及び研究所の連中が、『治験』と称して探索者を集めて実験をしたり、『人間が生きながら溶けて死ぬ様を眺めて悦に入りたい』という変態から依頼を受けた探索者パーティーが、自分たちより弱い探索者を襲撃・拘束して野槌の口に中に叩き込み、そいつが死んでいく様子を撮影する、なんてことはそれなりにあったからな。

俺は人間の醜さと残虐さには詳しいんだ。

尤も、今はまだ余裕を持って野槌を討伐できる探索者が少ないこともあってか、前者はともかく後者のような商売は一般化していないようだし、野槌を完封できる【ギルドナイト】の連中とて、これからはそんな余計な仕事をしている余裕はなくなるので、しばらくは大丈夫だと思っているが……心のどこかで「いつかは流行るんだろうなぁ」と思っている俺がいる。

なにせ、金と暇を持て余した外道はどこにでもいるからな。

昔の人も言っているではないか。

”人間や、浜の真砂は尽きるとも、世に外道の種は尽きまじ”と

……そういえば、俺らに色々な依頼を出していた連中も普通に生きているんだよな。

一応【上忍】がいなくなったせいで連中の情報もそれなりに流出しているらしいが、基本的に【上忍】にとって不利になるような情報は流れないはず。

それなら、他はともかく【上忍】に依頼を出していた連中の多くは無傷のまま生き残るのか?

それは、良くないな。

今までは下手に動けば身バレしそうだったから放置してきたが、そろそろどさくさに紛れて消すべきだろうか?

今更正義の味方を気取るつもりはないが、道を外しすぎた連中を生かしておいたところで、得になることなんて何もないからな。