軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17話 メインウェポン、解禁

中身は三十路とはいえ、一五のときからギルドに飼い殺しにされていた記憶しかない俺にとって、人間関係のあれこれは明確な弱点だ。

なので、”年頃のお嬢さんとの距離感を的確に掴む”なんてミッションを成功させたのはある意味で奇跡に近い。

六〇階層以降に出てくる魔物を相手にするよりも難易度が高いかもしれない。

奥野や切岸さんとは問題なくコミュニケーションが取れている?

いや、ポーションという餌に釣られて部下になった彼女らと、提携先の企業の社長令嬢を一緒にしていいわけないだろ。いい加減にしろ。

というか、お互い高校生という立場でありながら、片や上司で片や部下って関係は一般的に見て健全な距離感を保っているとは言えないのではなかろうか?

もちろん、立場を利用したパワハラやモラハラやセクハラなんて犯罪行為に直結しそうなアレコレはやっていないし、私生活に干渉するような言動もしていないと自負しているが、振り返ってみれば「そもそも高校生同士の関係ってそんなのを気にするもんだったか?」と思わなくもない。

でも、俺らって学生であると同時に探索者だしなぁ。

仕事でダンジョンに挑んでいるんだから、学生気分を引きずるのは良くないと思うんだよなぁ。

距離感を間違えると、それこそ男女間の問題が発生したり、同性同士でもギスギスすることがあるらしいし。

高校生兼探索者の男女にとっての適度な距離感とは一体……うごごごご。

まぁ、現状奥野や切岸さんとの関係で何かしらの問題が発生しているわけではないので、こちらから仕掛けたクイズの答え合わせを優先しようと思う。

「三〇階層に到達した探索者が最優先で行うべきこと、それは」

「「それは?」」

「この階層に出現するボスが生きているかどうかを確認すること、です」

「「な、なんだってー!?」」

「はい、テンプレなリアクションありがとうございます」

適当に感謝をしているように聞こえるかもしれないが、偽りなき本心からの言葉である。

実際に彼女らがどう思っているかは知らないが、教える側としては普通の反応を返してくれるだけでありがたいものなのだ。

お偉いさんの子供たちに同じことを言えば、白けた目を向けながら「そんなの当たり前のこと過ぎない?」とか抜かしてくるからな。

あのクソガキども。

わざわざ時間を割いて引率してやっている俺に対して「なにこの地味な人?」だの「【ギルドナイト】に案内してもらうなら【剣聖】の方が良かった」だの好き勝手言いやがって。

大人は暇じゃねぇんだよ。

あと、実力差を考えろ。

地味だろうがなんだろうが、お前ら程度なら指先一つで爆発四散させられるわ。

というか、もしお前らの前にいるのが【剣聖】だったら、お前ら全員事故死してたって自覚あるか?

俺がガキの戯言を真に受けない大人でよかったな。

ギルドの連中もギルドの連中だ。

ガキの引率なんて、俺らじゃなくてもできる仕事だろうが。

”自分たちの子供を【ギルドナイト】に案内させた”って感じの箔を付けたかったのも知れねぇけどよぉ。

結構な時間と労力を浪費させた上で、甚大なストレスを溜め込ませるような仕事を押し付けるなや。

下らねぇ用事を押し付けて、前人未到の六〇階層以降に挑んでいた【ギルドナイト】の足を引っ張るんじゃねーよ。

それで喜ぶのは【ギルドナイト】の独走を防ぎたがっている連中くらいじゃねぇか。

報酬もタダ券二枚だけだったし。

せめて一週間分(七枚)くらいよこせや。

もちろんありがたく使わせてもらったけど、それとこれとは話が違うだろぉが。

やりがいは皆無で報酬もセコいって、ありえねぇだろ。

さっさと滅べ、半官半民の非営利組織を自称する親方日の丸の人権無視団体どもが。

「あ、あの、怒ってますか?」

「え?」

過日のことを思い出していたら、シータさんから申し訳なさそうに問いかけられてしまった。

顔に出ていたか?

それとも雰囲気が悪かった?

どちらにせよ、これは良くないな。

お嬢さんとのグダグダした会話といい、今といい、油断が過ぎる。

「あぁ、いや、ちょっと嫌なことを思い出しまして。お話の最中に申し訳ない」

今の俺はそれなりにステータスが高いこともあって、この階層に出てくる魔物はもちろんのこと、ダンジョンの罠でも相当悪辣なヤツに当たらない限り負傷すらしないが、逆に言えば相当悪辣な罠があった場合は負傷するってことでもあるからな。

悔い改めよう。

命があるうちに。

と反省したところで、話を戻そう。

えーと、なんの話だっけ。

……あぁボスのことだったな。

「話を続けますね。現在、日本のダンジョン三〇階層で確認されているボスは、 野槌(のづち) という魔物ですが、詳細は知ってますか?」

「あーなんか教科書で見たことあるかも。たしか、太った蛇みたいな見た目をしているヤツだよね?」

「太った蛇、ですか。まぁ、そう見えないこともないかもしれませんね」

教科書に載っているとは思わなかったが、世界的にも知名度が高い魔物だからな。

そういうこともあるだろう。

なにせこの野槌こそ、世界で最初に発見された正真正銘の『龍種』なのだから。

ただ、先輩の言い方にはちょっと思う所がある。

おそらくだが、教科書に載っている資料には頭部が正しく描写されていないのではなかろうか?

アレの頭部を見れば『蛇』なんて表現にはならないはずだし。

確かに野槌は、全長が一〇メートル前後に対し幅も三メートルくらいあるので、全体的にずんぐりむっくりした印象を受ける体形をしている。

よって、ここだけを切り取れば『太った蛇みたいな魔物』と言われても納得できる。

納得できるのだが……頭部を含む全体像を見てしまえば、その限りではない。

教科書が頭部を暈かしている理由は……そうだな。

貴重で稀少な魔物の情報を隠蔽している可能性も否定できないが、まぁ単純にグロいからだと思われる。

通常時は花の蕾のように頂点部が丸く膨らんでいる感じなので、蛇でなければ巨大なミミズのように見えるかもしれない。

この時点では言うほどグロくはないのだが、問題は戦闘時。

敵を前にした野槌は、頭頂部が大きく開け、中心部にある大きな穴と、その中にびっしりと生えている多数の牙をガチガチと鳴らすことで、見た者の生理的な嫌悪をこれでもかと煽るゲテモノと化すのである。

その見た目から、かつてこの状態の野槌を見た探索者の多くは、口を揃えてこう言ったそうな。

『モンゴリアン・デスワームじゃねぇか。再現度たけぇな、オイ』と。

ちなみに、一五階層あたりに出てくるダンジョンリザードなどは”小型竜”に分類されているが、あれは恐竜の劣化版という意味でしかなく、神秘の塊である『竜』や『龍』とは別物とされているし、実際に別物なので、一緒にすると専門家から長時間の説教をくらうことになるから気を付けよう。

閑話休題。

そんなこんなで、今も一部の界隈で『実在した未確認生物』と認識されている野槌の価値は、いろんな意味で高い。

彼の魔物の価値を高める要因として、そのロマンあふれる種族もさることながら、二〇階層のボスであるオニとは違い、三一階層以降でも中々出現しないことが挙げられる。

ただでさえ元々生態が定かではない魔物たちの中でも特に稀少性が高いのに、出現率まで低い『龍』の価値が高くならないわけがないのだ。

その素材に極めて高い値段がつけられているのは界隈でも有名な話。

よって先輩が「高いから最優先で狙うの?」なんて聞いてくるのも無理はない。

だが、その問いに対する答えは、もちろん否である。

「いえ、価値がどうこうではなく、単純に危険だから優先的に調べなくてはならないんです」

「その、ノヅチは、そんなに警戒が必要なくらい強いんですか?」

「強いです」

シータさんは、適正レベルには届いていないものの、ステータスだけなら三〇階層に出てくる魔物に苦戦する要素はないのでは? なんて思っているかもしれないが、甘い。

『龍』というブランドと珍しさが先にくるためあまり注目はされていないが、腐っても三〇階層のボスなのだ。弱いはずがない。

「野槌とは大きくて、重くて、硬くて、高い生命力を持ち、それなりに速い上に蛇のような柔軟性を持つ獰猛なナニカです。シータさんの攻撃では傷一つ付けられないでしょう。それでも弱いと思えますか?」

速さはあっても攻撃が軽い斥候職にとって、一撃の重さが求められる頑丈な魔物は天敵である。

「あぁ、それは、強いですね」

「そうです、強いんです」

「私の魔法も効かない?」

「効きません」

相手の呼吸器官の情報がはっきりしていないため溺死は狙えないし、ステータスが足りないので、攻撃的な使い方をしても防御を貫けない。

それ以前に大地の化身とされる野槌に対して、先輩が使う水系の魔法は相性が悪すぎる――東洋で【魔法使い】を得た探索者の多くが影響を受けている五行思想では、土は水を吸収し、流れを受け止めるとされている――のだ。

一応五行思想には『強すぎる水の流れは大地を飲み込む』という反剋の関係もあるが、それは相当ステータスに差があるときにのみ発生する一種のバグのようなモノなので、ステータスが同程度かやや劣る程度しかない今の先輩では反剋が生じる余地がない。

よって、勝ち目もない。

まして、野槌の本領は防御力や耐久力ではなく、攻撃力にある。

「ちなみにギルドは討伐の適正レベルを三五としています。これは平均的なステータスが高いこともありますが、それ以上に、重さや攻撃の凶悪さに警戒する必要があると判断されたからです」

ジャイアントキリングが可能な必殺技を持つのは、なにも人間だけではないのだ。

巨体を利用した体当たりや圧し潰しによる物理的な衝撃は高レベルの探索者でも無視できるモノではないし、口らしき穴に飲み込まれたが最後、数えるのも億劫なくらい生え散らかしている頑丈な牙によって絶えず削られながら、極めて濃度が高い消化液をぶっかけられ続けるという、生き地獄を味わうことになる。

前者はレベル三九の前衛職を即死させるほどの威力があるし、後者に至ってはレベル四〇の前衛職ですら逃れられなかったのを見たことがあるからな。

どちらも、今の二人に耐えられるモノではない。

「こっちの攻撃は通用しないのに、敵の攻撃は一回でもくらったら死ぬのかぁ。……どうするの、これ?」

「……どうしましょう」

なんの配慮も誇張もないただの事実を伝えられた二人は、「なにくそ!」と若い探索者にありがちな反骨心を奮い立たせて反発する……なんてことはなく、ただただ困惑していた。

二人とも、先達から伝えられた情報をそのまま受け止める知性は備えているが、少しばかり視野が狭いところがあるようだ。

まぁ、元々自分を一介の兵士として定義づけているシータさんは当然として、先輩も積極的に動いて問題解決を図るタイプではないから、こうなるのも仕方ない。

教育を兼ねたレベリングということで、これまではできるだけ二人に考えさせる方向でやってきたが、時間に余裕があるわけでもなし。

ここは俺から問題を解決する手段を開示しよう。

「よし、出番だ。切岸さん」

「はい!」

「「えっ?」」

シータさんと先輩からしたら、盤外からいきなり飛車を打たれたような感じなのかもしれない。

でもな、そもそもダンジョン探索って、二人でやるものじゃないんだよ。

それにな、三〇階層って、レベル三〇の切岸さんにとっての適正階層なんだよ。

でな、適正階層では、どれだけステータスに差がある魔物をシバいても、弱いモノ虐め扱いされないんだよ。

それなら、彼女を解禁したっていいと思わないか?

いや、むしろ彼女に活躍の場を与えるべきだと思わないか?

そして、やるなら徹底的にやるべきだと思わないか?

「ボス以外も残さなくていい。見つけたら全部斃してくれ」

「了解しました!」

いきなり仕事を割り振られたというのに、面倒くさがるどころか喜ぶ切岸さん。

彼女にワーカーホリックの気があるのか、はたまた今までが暇すぎてストレス発散したかったのか。

「まぁ、不満を抱いていないならそれでいいか」

少し離れたところで鳴り始めた戦闘音らしき音をBGMにしつつ、俺は待機しているメンバーのために簡易トイレと簡易シャワーを用意するのであった。