作品タイトル不明
15話 予定は未定にして決定にあらず。されど予定は立てねばならぬ
男性陣のやる気が高まったからといって、いきなり「さっさと目標の三五階層に挑もう!」とはならないのが世の常というもの。
残念なことに、彼らのレベリングはお嬢さんとシータさんのレベリングを終えてから行う、という方針に変更はない。
ちなみに、彼女らの目標レベルはとりあえずのところ三〇に設定している。
現時点でのレベルが二〇なので、あと一〇レベル上げれば最低限の目標はクリアしたこととなるわけだ。
で、一般的にレベルを一つ上げるのに必要な経験値は、同レベル帯の魔物一五から二〇体分くらいとされている。
基本的に魔物のレベルは階層と同じくらいとされているため、二〇レベルの探索者が二〇階層でレベルを上げようとするなら、そこに出てくる魔物を一五から二〇体討伐しなくてはならなくなる。
この、自分と同格の敵を二〇体討伐することを“簡単”と思うか“大変”と思うかは、まぁ人それぞれだが、個人的には“大変”だと思っている。
なぜなら、こちらは戦闘の度に疲労や負傷が重なるのに対し、向こうは無傷かつ疲労もない状態で戦闘に及べるからだ。
これが楽なはずがない。
もちろん、一度の探索で必ずレベルアップをしなくてはならないというわけではないので、普通の探索者は何回かに分けて魔物の討伐数を増やし、着実にレベルを上げていくことを選ぶ。
ちなみのちなみに、前回の探索でお嬢さんは五くらい、シータさんは一〇くらいレベルを上げたが、アレは最初からパワーレベリングを行うことを前提として狩場を二〇階層に設定してレベリングを行ったからこそ得られた成果であり、パワーレベリングそのものが探索者界隈で忌避すべきやり方の一つに挙げられている昨今では、あまり推奨されない手法だったりする。
尤も、レベルに見合わないくらい上質なモノを装備していたものの――ある意味で当たり前のこと――レベリング自体は至極真っ当な方法で行っていたお嬢さんは、前回レベルが上がった際にもステータスの低下はなかったようだし、シータさんに至ってはパワーレベリングどころか半ば無理やり格上の魔物と連闘させられた状態だったので、ステータスが伸びることはあっても下がることはなかったため、前回の探索ではなんらマイナスになっていなかったそうな。
極めて微妙な表情で報告をしてくれたシータさんの心境を慮るのは後にするとして。
なにが言いたいのかというと、今回のレべリングもまた、前回同様に適正レベルよりも五階層プラスしている階層から始めているということだ。
階層を五つプラスした場合、レベルアップに必要とされる魔物の数は五から七体くらい、つまり同格を相手にするよりも半分以下で済む。
戦闘回数が少なくなれば、その分疲労は溜まらないし負傷する機会も少なくなるので、短期間でレベルを上げたいならこの方法を取ることを推奨する次第である。
尚、本来やる予定であったプラス一〇階層でレベリングを行った場合、一体か二体斃すだけでレベルが上がるので、急いでいるならこちらをどうぞ。
「……普通、そんなことしてたら一回目で死ぬけどな」
「ふっ」
但馬さんがなにやら呟いたような気がするが、きっと気のせいだろう。
……確かに、この方法にデメリットがないわけではない。
それは“レベルが一〇違えば戦闘にならない”とされるこの世界において、本来五レベル以上の差がある相手と戦うことさえ『自殺行為』とされていること、つまりこのレベリングで発生するデメリットとは『死ぬ可能性が高い』というモノだ。
戦闘は、レベルが高い方が勝つ。
それが常識とされている以上、今の彼女たちが二五階層で戦闘を行うこと自体が、常時命を賭けるという最大のデメリットを享受している状況とも言える。
事実、今まではその『何とか出来るナニカ』がなかったが故に、レベルの大小が戦力の決定的な差とされてきたし、それを否定できる者がいなかった。
しかし『全ステータス+一〇〇の指輪』と『レベルアップ時に成長率を高める指輪』があれば、レベル=戦闘力という定説は簡単に覆る。
定説を覆した結果、彼女らが現在行っているレベル差のある敵との戦闘は、デメリット満載の無理ゲーから、効率的に経験値を稼げるヌルゲーと化すわけで。
それは、目の前で二つの指輪を装備したシータさんやお嬢さんが、レベル二〇の身でありながら俺たちの力を借りずに二五階層の魔物を狩っていることからも明白であった。
「……見つけた。右に曲がって五メートルくらい。数は一。大きさは三メートルくらい、多分オークナイトです!」
「お、中々細かいところまで見えるようになったな」
スキルは、使えば使うほど熟練度的モノが積まれ、より深度を増すと言われている。
そうでなくとも、一歩間違えれば自分も仲間も死ぬような環境下で何度も使われて伸びないスキルなどない。
その証拠に、シータさんが使っている【気配察知】は使用回数が増える度に精度を向上させている。
事前に敵の存在を察知した際、通常の探索であれば、疲労や負傷を避けるために戦闘を避けるのが定石だ。
しかし今回の目的は、魔物を斃してレベルアップすることなので、魔物を見つけたら積極的に戦うことになっている。
積極的とは言っても、理性無き魔物相手に正々堂々と戦う必要など微塵もない。
よって、彼女たちが取る戦法は一つ。
「了解! うぉーたーあろー!」
「!?!?!?」
シータさんが【気配察知】で敵の位置を探り、お嬢さんが魔法で仕留める。
捻りも応用も必要ない、必殺の型。
呼吸が必要な魔物は死ぬ。
冗談は抜きにしても、シータさんやお嬢さんを知覚すらしていなかった魔物に活路はない。
「~~~ッ! ォォォ!!」
やや離れたところでドッタンバッタンと大きな音を立てて暴れる推定オークナイト。
彼からすれば、己の縄張りを歩いていたらいきなり頭を水で覆われて、窒息しかけてる状況だ。
そりゃ焦るわな。
残念なことに、どれだけ焦ろうとも頭部に魔法が当たった時点で詰みなのだが。
また、シータさんからの報告があったとはいえ、見えない敵の頭部にピンポイントで魔法を当てることができたお嬢さんのセンスは、素晴らしいの一言。
「お見事。悪辣でよろしい」
この、レベルが低くとも安全確実に魔物を殺せる必殺コンボにして、魔物の死にざまを見せられた人たちから幾度となく「人の心ないんか?」と突っ込まれた完璧な殺り方は、便利ではあるけど人を選ぶからな。
出来ない奴は一生できないし、出来るやつは簡単にできるようになる殺り方なので、最初は少しドキドキしていたのだが、静かに魔物が死ぬのを待てるお嬢さんの様子を見れば、それらが杞憂だったと断言できる。
なお、元々この殺り方を考案したのは俺ではなく、魔法研究の第一人者である【大魔導士】であり、彼女は基本的にこの方法で『送迎』をしているので、今更俺に苦情を入れても無駄だと宣言しておく。
個人的には、お嬢さんが彼女のような人格破綻者にならないことを強く願う次第である。
そんな俺の願いなど知ったことかと暴れていた推定オークナイトにも、徐々に限界が訪れてきたようで。
「……ッ!……ッ!」
おそらく、最後の抵抗と言わんばかりにビクンビクンと跳ねているのだろう。
しかし、なにをしても頭部に纏わりつく水に変化はなく。
推定オークナイトが暴れ回っているであろう音がどんどん弱くなっていき、そして途絶えた。
「カウント行きまーす。いーち。にぃー。さーん。よーん……」
音が消えてから一〇〇秒待つ。
その間に呼吸を整え、次の戦闘に備えるのが『【大魔導士】式窒息術』の基本にして奥義。
授けた教えをきちんと実践できているようで何よりである。
それにしても、これでこの階層で討伐した魔物は五体目となる。
早ければそろそろだと思うのだが、どうだろう?
「……あっ」
お嬢さんがカウントを続ける中、シータさんが声を上げた。
おそらくオークナイトが天に召され、その経験値を得たことでレベルが上がったのだろう。
「お、そっちが先だったか」
元々前衛として切ったはったはしていなくとも、索敵をしたり周囲を警戒しているだけでも経験値が入る仕様なのは知っていたが、オークナイトを殺った魔法の使い手であるお嬢さんよりも、シータさんの方が先に上がるのは、一体どういう理屈なのだろう?
元々溜め込んでいた経験値があったのか、はたまた職業によってレベルアップに必要な経験値が違うのか。
未だによく分からない仕様である。
まぁ悪い事ではないので、殊更に文句を言う心算はないけどな。
そもそも、補助を行う要員のレベルが上がらなければパーティーのバランスなど簡単に崩壊してしまうので、個人的には補助要員にもきちんと経験値が割り振られる現在の仕様は、むしろありがたい仕様だとさえ思っているまである。
ただ、世の中にはそうとは考えない人間もいるようで。
噂に聞いただけだが、稀に一部の前衛職から『命懸けで闘っている俺たちと、補助をしているだけのお前らが同じなのは納得できない!』などという苦情がギルドに上がることがあるのだとか。
そういった輩の大半は「そう思うなら補助なしで探索をしてみろ」と職員に挑発され、カッとなって「やってやらぁ!」と意気込んでダンジョンに乗り込み、そのまま戻ってこなくなるのだとか。
まぁね。
普通に考えて、補助役がいないと死ぬよね。
そもそも、ダンジョンの仕様をギルドの人間にぶつけたところで何も解決しないからね。
なんなら受付からの印象を悪くするだけ損だし。
その程度のことに気付けない阿呆は、死んだ方が良いよね。
幸い、というかなんというか、オークナイトを殺ったお嬢さんにはそんな歪んだ価値観はないようで、先にレベルが上がったシータさんに対して「よかったねぇ」と声をかける程度には余裕がある様子。
「……中々の人格者だよな」
失礼とは思うが、実のところ内心では(この人、元々「シータちゃんだけズルい!」と言って飛び入り参加してくるような性格だからなぁ。先にレベルアップされたら不機嫌になるかも?)なんて思っていたのだが、想像以上に大人しくて拍子抜けというかなんというか。
まぁ不機嫌になって当たり散らされるよりはよっぽどマシなので、わざわざ「嫉妬とかしないんですか?」なんて突いたりはしないが。
それはそれとして。
「良い調子ですね。あと一体か二体斃せばお嬢さんのレベルも上がると思います。そうしたら次に行きましょう」
「「はいっ!」」
一度やると決めた以上、彼女たちのレベリングをおざなりにする心算は無い。
だが、俺の社会的立場を担保してくれている彼らを死なせる心算も無いのだ。
「とりあえず、今日中に三〇階層まで行くことを目標にしよう」
時間にしてあと一〇時間弱。
優秀な斥候がいるし地図もあるから、レベリングを兼ねても二時間で一階層なら無理なペースではない、よな?
――このあと、滅茶苦茶レベリングした。