軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10話 その心配は杞憂であると叫びたい

一番揉める要因である成果の分配についての話し合いが終われば、残るは実務、つまりはダンジョンを探索するにあたっての具体的なプランや役割分担の話となるが、こちらに関しては揉める要素は極めて少ないので、あまり時間はかからないと思っている。

なぜなら、彼らに三四階層以降の情報がないからだ。

ギルドや大企業など、より多くの探索者にダンジョンへ潜ってもらいたい連中は『探索者とは命を懸けて前人未到の地に挑む勇敢な者たちである!』などと囃し立て、世間の関心がダンジョンへ向くよう誘導しているが、本職の探索者は知っている。

基本的にダンジョンにおける”前人未到の地”とは、地形の情報も、罠の情報も、出現する魔物の情報もない危険地帯に他ならないのだ、と。

弱ければ死にます。

ナニカを間違えれば死にます。

何も間違っていなくとも、少しでも油断すれば死にます。

もちろん、油断していなくとも死にます。

そんな危険地帯に、なんの情報も持たずに挑む?

それは”勇敢”なのではなく、ただの馬鹿だ。

もちろん【ギルドナイト】のように、世界の最先端を突き進んでいるがゆえに事前の情報を得られず、結果として全部手探りとなっている連中もいるが、彼らのような存在は例外中の例外だ。

デビュー間もない新人はもちろんのこと、一定以上の実力を持つ探索者とて、事前に情報を得られるなら金を払ってでも買う程度には情報を重視しているし、但馬さんや西川さんらもそれは変わらない。

いや、むしろこれから死地に挑むことを自覚している彼らこそ、最も情報を欲していると言っても過言ではない。

で、ギルドの嫌がらせのせいで三五階層以降の情報が全くない以上、彼らは俺が唱える方針に文句を付けることができないのである。

情報を握る者こそ正義。

兵法書にもそう書いてある。

ということで、これからの予定を告知する。

「まず、人員を割り振ります」

ダンジョンにおける原則として、一パーティにつき六人までが限度とされている。

これは、七人以上でパーティーを組んだ場合、ドロップアイテムの分配で揉めるという実利的な意味もあるが、それ以上にレベルが上がり辛くなるとか、レベルアップ時に上昇するステータス値が下がると言った探索者としては見過ごせない現象が確認されているからだ。

よって、採取がメインでレベリングを考慮しない場合でもない限りは、人員を分散させるのが探索者界隈の常識となっている。

そういった常識を踏まえたうえで、現在この場にいるのは、俺、奥野、切岸さん、但馬さん、西川さん、筧さん、シータさん、霧谷のお嬢さんの八人。

単純な割り振りとしては、男性四人と女性四人で分けるのが自然なのだろうが、今回は敢えて変則的に行く必要があると思っている。

即ち。

「但馬さん、西川さん筧さん、切岸さん、奥野の五人で一つ。そして残った俺、シータさん、霧谷のお嬢さんの三人でもう一つ組みます。休憩などの際には俺が但馬さんらに合流し、奥野と切岸さんはシータさんらに合流する形で行きたいと思っていますが、どうでしょう?」

「兄さんがそう決めたんならそれでいい」

但馬さんはOK。

「右に同じく」

筧さんもOK、と。

「……兄さんがそう決めたんならそれでえぇ。従うわ。ただ、わざわざお嬢と俺を分けた理由くらいは聞かせてもらえるか?」

快諾してくれた二人とは裏腹に、渋い顔をしている西川さん。

まぁね。別パーティーと言っても多少距離が離れているだけなので、いざという時は簡単に合流できるのだが、逆に言えば合流するために多少の時間を要することになる。

そのため、お嬢さんを大事にしている西川さんが万が一のことを心配をするのは至極当然のことだ。

それでも強めに聞いてこないのは、先ほど俺が言った『質問や意見はちゃんと考えてから口に出すように』という忠告を理解しているからだと思われる。

『逆らった際にどんな報復をされるかわからない』という恐怖が彼の言動を縛っているのだ。

やはり暴力。

圧倒的な暴力はすべてを解決する……っ!

なんて本音交じりの冗談はさておいて、西川さんの問いに答えよう。

「もちろんお答えします。まずはお互いのレベルですね」

但馬さん、西川さん、筧さんのレベルは三人とも三四、奥野が三二、切岸さんが三〇と大きな差はないため、パーティーを組んでも問題はない。

対してシータさんと霧谷のお嬢さんのレベルは二〇しかない。

このままでは前者の五人との差がありすぎて、足手まといにしかならないのだ。

「今回の探索は前回の護衛任務と違って、皆さんのレベリングも兼ねています。当然、皆さんは適正レベルを超える三五階層以降に挑むことになりますよね? その際、足手まといを抱える余裕はあると思いますか?」

「そりゃ、まぁ、難しいやろな」

「ですよね」

ここで無意味に意地を張るようだったら、ダンジョンに挑む前に”わからせていた”ところだったが、さすがは西川さん。

現実が見えているぜ。

「なので現在レベル四二で、今回の探索でもそれなりに余裕がある自分が彼女たちの面倒を見ることにしました」

「「「四二!?」」」

「そうですが、なにか?」

レベルを公開したら西川さんだけじゃなく但馬さんや筧さんにまで驚かれたんだが、言ってなかったか?

……言ってないかも。

まぁ、いいか。

どうせ今回の探索で彼らも四〇近くになるし。

筧さんに至っては、これから西日本のダンジョンに潜りまくることになるんだからな。

(レベル四二くらいで驚けるのも今だけだぞ)

なんて思いつつ、話を続ける。

「あとは、シータさんとお嬢さんに少しばかりコーチングをしようと思いまして」

「……コーチング?」

「はい。基本的なこととして、探索者としての能力はレベルとステータスだけで測りきれるモノではありません。調子に乗った探索者ほど狩りやすい獲物はいない。そのことは西川さんも知っているでしょう?」

「そらまぁ、そうやな」

一般常識として、探索者の強さはレベルやステータスという形で可視化されている。

レベルが高ければ強い。

ステータスが高ければ強い。

それは紛れもない事実である。

だが「実戦においてレベルが高い方が必ず勝つのか?」と問われれば、多くの探索者が「そうとは言い切れない」と答えるだろう。

相手よりも良い武器を装備すれば多少のレベル差は覆るし、あるいはもっと単純に、相手よりも多人数でかかれば、多少のレベル差を覆すことは難しくない。

また、お互いの職業や戦闘方法による相性の問題もある。

もしもレベルの高い【魔法使い】とレベルの低い【剣士】が戦った場合どうなるか。

まず、常に一定以上の距離を保てるなら【魔法使い】が完勝する。

それは間違いない。

だが、近接戦闘が可能な距離まで接近できた場合は【剣士】が勝つこともある。

もちろん、距離が縮まってもステータスの差で【魔法使い】が勝つ可能性が高いことに違いはないのだが、だからと言って【剣士】に勝ち目がないと言い切ることができないのである。

このような感じで、レベルが低い探索者によるジャイアントキリングの成功例がいくらでもあるため、それなり以上の経験を持つ探索者たちの間では“【魔法使い】であっても近接戦闘技術をおろそかにするべきではない”とされているし、逆に“【剣士】のような戦闘職であっても遠距離攻撃への対処を学ぶべき”とされている。

また、それらとは別に探索者は、各々が持つスキルの理解度を高めることを重要視している。

なぜか、理解度によってスキルの威力が変わるからだ。

一例として【剣士】が覚える基本的なスキルの一つである【スラッシュ】というスキルを挙げよう。

このスキルは普通の攻撃に魔力的なナニカを乗せることで斬撃の威力を高める効果があるスキルであり、使い手の技量、もっと言えば、剣術に対する理解度によって威力が大きく変わることが広く知られているスキルである。

実際に、同じレベルかつ同程度のステータスの探索者同士が同じスキルを放った場合、具体的な例としては、剣を握ったこともないレベル一の【剣士】と、一〇年以上剣術を磨いてきたレベル一の【剣士】が同時にスラッシュを放った場合、必ず後者が勝つという実験結果もあるくらいだ。

そしてこの現象は【剣士】に限った話ではなく、他の職業が習得するスキルでも同様の結果が確認されている。

なので、本来の意味でのレベリング作業とは、単純に魔物を倒して数字を上げさせるだけではなく、探索者としての気構えや、各々が持つ専用のスキルを磨くことも含まれているのである。

翻って今回のメンバーはどうか。

普段から俺が面倒を見ている奥野や切岸さんに対しては、基本的な武術やらなにやらを仕込んでいるので問題ない。

但馬さんらに関しても、すでに『自分たちなりのやり方』があるだろうから、聞かれるまでは放置で構わないだろう。

残るはシータさんと霧谷のお嬢さんだが……。

「シータさんは、インドネシアで軍人としての教育を受けていたおかげもあってか、基本的な動きはできているのですが、探索者としては未熟です」

「うん、確かに」

基本的に対人を想定している軍人の斥候に必要な能力と、対ダンジョンを想定している探索者の【斥候】に求められているモノは、似ているようで違う。

この差異は、浅い階層であればそれほど問題にはならないが、奥に進むにつれて洒落にならないミスに繋がりかねないモノとなってしまう。

よって今のうちに修正しておく必要があるわけだ。

正直、これに関しては専門家である筧さんにお任せしたいところではあるのだが、今回の探索においてはさしもの彼とて余裕があるわけではないし、なにより次回以降彼が参加するとは限らないこともあって、俺が教えることにした。

霧谷のお嬢さんに関しては、もっと分かり易い。

「この中でまともに魔法を使えるのって、俺しかいませんから」

「……せやな」

それでは、今回の探索に参加しているイケているメンバーを見ていこう。

まずバリバリの前衛職である但馬さん、西川さん、奥野。

次いで斥候職である筧さんとシータさん。

最後に【鍛冶師】の切岸さんと【行商人(自称)】の俺と【魔法使い】のお嬢さんだ。

お気付きいただけただろうか。

今回集まったメンバーの中でお嬢さん以外に魔法を使えるのは、【鑑定】や【アイテムボックス】など様々なチートに加え“全属性の初期魔法を使える”というチートをも搭載している、【行商人(自称)】の俺しかいないことに。

「というわけで、レベルを上げるだけで良いなら奥野と切岸さんでも問題ないのですが、探索者として上を目指すのであれば俺が教える必要があるかなって思いました。もちろん西川さんやお嬢さんが『上を目指す必要はない』と言うのであれば、俺も余計なことはしませんよ」

「……なるほどのぉ」

説明を受けて苦々しい表情を浮かべる西川さん。

俺がそれなりに魔法を使えることは前回の探索で見せたので、実力を疑っているわけではないだろう。

もっと単純に、ダンジョンという危険地帯で自分と離れ離れになるお嬢さんの心配をしているものと思われる。

もしかしたら『お嬢さんと同年代の男を一緒にしたくない』と思っているのかもしれない。

なんなら『命の危険があるダンジョンに年頃の男と可憐な少女、何も起きないはずがなく……』なんて想像もしている可能性もある。

うん、まぁ吊り橋効果的なアレもあってか、そういうのは探索者の間こそ良くある話らしいので、保護者としては心配するのは当然のことだと思う。

お互い多感な時期だしな。

なので、西川さんが色々と危惧するのはわかるのだが……あえて「今回に限ってはそういう感じの問題が発生する余地はありません」と断言させていただきたい。

なぜなら俺の中身は三〇を超えたおっさんであり、高校生であるお嬢さんは守備範囲外なのだからして。