軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

元鞘とか無茶言わないで下さいませ

セルシオの婚約者並びに、側近たちの婚約者であった令嬢も彼らが魅了魔法にかかっているなんて当然わからなかった。アミュレットに似せた装飾品の質が明らかに悪いものであったなら、一目でわかるくらい酷い出来であったなら、もしかしたらそこから疑いくらいは持ったかもしれない。

けれど見た目だけなら本当に本物と同じくらいの物だったので、誰も気付かなかったのである。

そもそも禁忌とされている魔法は学園の授業で習う。こういう魔法は仮に使えるとしても使ってはいけませんよ、という風に。

悪事に用いたところでそれが明るみに出たならばタダでは済まない。一時的に自分に利益が生じたとしても最終的に身の破滅となれば、どう考えても割に合わない。

――という事を授業で徹底的に教え込まれる。

魅了魔法が使える事で、しかしお咎めがなかったのは魅了魔法を封じる魔法を作るためにと協力した者くらいだ。

その他の禁忌に該当する魔法だって、その力を恐れた者がどうにか封じる手立てを……と救いを求めた事でそれらを防ぐ手段は存在している。

アミュレットにそういった防御魔法がある以上、下手に使ってそれを防がれればその時点でアウトなのだ。

アミュレットを持たぬ平民に使えば防がれないが、わざわざ平民相手に魔法をかける意味が見いだせない。

何故って、魔法を使えるのは貴族だが、平民をどうにかしようと思うのなら魔法など使わずとも権力がある。

わざわざ自らの魔力を消費させて労力を費やすより、自分の手足となって働く者たちに命じれば済む話だ。

ともあれ、学園に通う貴族たちは皆アミュレットをつけていたし、そうでなくとも学園の中にはうっかり魔法が暴走した時や、外部からの侵入者を防ぐための防衛魔法が存在している。

学園内部で生徒同士の喧嘩などがあれば、守衛が駆けつけるまでの間が多少危険かもしれないが、そうでなければ学園内部は安全である……はずだった。

使い手など滅多に出ない魅了魔法を使える相手がいて、しかもその相手の前で油断しきってアミュレットを外し、ものの見事に魅了されるなんて者が出る、なんて学園に通う生徒のほとんどが想像していなかったのである。

魅了魔法にかかった四人の態度がもっとあからさまに露骨に変化していれば、もしかしたら……と疑う者も出たかもしれない。

けれどマレナの魅了魔法は巧妙で、彼らの言う通りパッと見は友人関係であるという言葉が通じるくらいのものだったから。

マレナを見るなり愛の言葉を囁いて、なんていう事にはなっていなかったから。

元平民が珍しいのかも、とか何か共通の趣味でもあったのかも……という風に思うくらいで、初っ端から魅了魔法のせいに違いない! なんて理屈に飛ぶような事もなかったのだ。

傍から見る分には、そこまでおかしな距離の詰め方ではなかった。

知り合って、友人になって。

そこから何らかの――気が合うような事があって一気に仲良くなっていった、と言われれば納得できてしまうような。

そういうものに見えてしまっていたのである。

そこに婚約者たちが介入しようとした結果、逆に彼らの関係は燃え上がったのではないのだろうか……一部の者たちはそういう風にも見ていたのだ。

実際セルシオたちと婚約者の仲はどんどん拗れていって、令嬢たちもいつしか彼らとの和解を諦めて関わらないようになっていったというのも、周囲で見ていた者たちにとっては事実だ。

そうしてその後、彼らが実は魅了魔法にかかっていたと知って。

てっきり魅了にかかったら最初からフルスロットルで愛を注ぐのだとばかり思っていた者たちにとって、実際そうではなかったという事実は驚くべき事であり、また同時に。

婚約者たちの事を本当に嫌ったわけではなかったのか……と彼らの関係が改善する兆しを感じ取った者もいた。

だがしかし、そんな気配は実際皆無だった。

彼女たちは婚約破棄、もしくは解消をと望んだのである。

魅了にかかっていた期間が長すぎた。

三か月くらいなら、まだどうにかやり直そうと思えたかもしれない。

だがざっくり三年だ。学園に入学して間もなく彼らはマレナと知り合い、そうして卒業まであと半年といった頃に魅了が消えたが、その間に彼らは令嬢たちに辛く冷たく辛辣にあたっていた。

最初の頃はそれでもどうにか関係の改善を……と努力した令嬢たちとて、淑女の鑑と言われようともただの少女である。今まで仲睦まじく、いずれ結婚して愛し愛される関係となるであろうと思っていた相手に冷たくされ続けて、挙句周囲の第三者たちが面白おかしく婚約者に見捨てられそうになっている事を惨めだと噂していたのだ。

気丈に振舞うにも限度があった。

このまま婚約を継続したところで、果たして意味があるのか。

令嬢たちは勿論そう考えた。

そして親に話をした。

勿論最初の頃はすんなりと信じてもらえなかった。

学生時代の一時的な遊びだろう、とか。

それくらい大目に見てあげなさい、とか。

結婚する頃には熱も冷める、とか。

親は直接見たわけではないから、軽く考えているのが令嬢たちにはわかってしまった。

こちらがどれだけ切々と訴えたところで、言い募れば募っただけ段々面倒になってきたかのような反応になって、話を打ち切られて。

部屋で人知れず声を出さないように泣いた事もあった。

確かに最初の頃なら友人だと言われて周囲もそうだと思うくらいの距離感だったとは思う。

けれども、二年の終わりごろから三年に入ってからは友人の距離感と言うには難しいくらいになっていたのだ。

周囲はその光景に慣れてしまって、相変わらずだな、なんて言っていたけれど。

少しずつ自然に距離を縮めていったからこそ、周囲はほとんど気にしていなかったが、最初の頃と比べると明らかに距離が近くなっていたのは間違いじゃない。

マレナが男性だったなら気安いやり取りだと思えたが、しかしマレナは女性だ。中性的な少年ですらない。

それなのに、周囲は既にマレナが彼らと腕を組んだり抱き着いていたところで何もおかしいと思わなかった。

いや、一応おかしいと言ってくれた人はいるのだ。ごく一部だが。

噂話として面白おかしく乗っかるような事をしないで令嬢たちに寄り添ってくれた友人たちだけが、異常だと彼女たちを肯定してくれた。

それがどれだけ救いになった事か!

ある程度の注意はした。警告もした。忠告だって勿論した。

落ち着いて話し合いをしようと婚約者である彼らにも言葉をかけた。

だが、それらは全て切り捨てられた。

その後友人としての距離感ではない状態であるけれど、彼女たちは観察し、そうして証拠を集めた。

誰が見たって不貞だと言うだろう状況だってあったのだ。

人前で熱烈に口付けしたわけじゃないが、それでも人目を忍んでの口付けはあったので。

魔道具には撮影できる物もあったから、そういったものでコツコツと証拠を集めていった。

音声を録音できるものもあったから、自分たちが精いっぱい状況をどうにかしようとした証拠だって集めた。

そうして令嬢たちは婚約破棄を望んだ。

思った以上の証拠を出されて、令嬢たちの両親はまさかここまで……と驚いた。

娘がちょっと大げさに言っている部分もあるのだろう、と思っていたからだ。

娘たちの年齢の頃は、潔癖な部分が多々見受けられた。若かりし頃の自分たちがそうだったから、今思えばあんな事で焼きもちを焼いていたのよね……なんていう思い出だってあったから、てっきり娘もそういうものだと思ってしまっていたのだ。

だがしかし、証拠の数々を見せられてしまえばそんな甘酸っぱい青春時代の思い出とは比べ物にならないものばかりで。

今まで娘の言葉を軽んじていた、という事実に両親はとんでもない事をした……! と後悔してしまったのだ。

それぞれが別の相手と浮気をしているのならまだしも、一人の女性を複数で。

マレナが誰とくっつくのかは知らないが、まさか全員で共有なんて恐ろしい真似はしないだろう。

だが、愛人とするにしてもどうかと思うが、誰か一人と結ばれたとして、他の令息たちはどうするつもりなのか。

いや、そんな疑問すらもうどうでも良かった。

令嬢たちの親は証拠を携え婚約者の親と話し合う事になったのである。

令息たちの親は、学園の中で行われている泥沼の修羅場を知らなかった。

噂を耳にするくらいはしていたが、こちらも令嬢の親たちのようにちょっとしたお遊びなんだろうな、と思っていたからだ。一応息子に遊びは程々にという注意をしたりはしたけれど、その注意にわかってるよ、と返されて。

本気なんだとか、そういう言葉が返ってきたわけでもなかったからこそ、じゃあ大丈夫かと安心してしまったのだ。

だが蓋を開けてみれば流石にこれを大丈夫とは言えない程に状況は進んでしまっていて。

遊びどころか完全に本気だとしか思えない。

今更息子を呼び戻して令嬢たちとの話し合いをさせたところで無駄だろうと思うくらいには、親目線で見てももう駄目だな……と思えるものだったのだ。

家同士の結びつきとはいえ、それでも以前は安心できていたはずなのに。

お互いが歩み寄って仲睦まじくなっていく様子を、微笑ましく見守っていたのに。

この状況で結婚をさせたところで、令嬢たちが幸せになる事は決してない。令嬢に我慢を強い続けてまで結ばなければならない縁談というわけでもないし、令嬢たちの親とてそうまでして結婚させたいわけではなかった。

だからこそ、話し合いはそれなりに長引きはしたもののそれでも令息たちの有責として婚約破棄で話がまとまりかけていたのだ。

ところがそこで、彼らが魅了魔法にかかっていたという事実が判明した。

判明してしまったのである。

そのせいで、本当にギリギリのところで婚約破棄の話は一度止まる事となった。

魅了が解けた後、気付いたら婚約破棄されていた、なんて令息たちからすれば絶望ものだろうけれど、令嬢たちにとってはあとちょっとだったのに……! という状況だった。

令息たちが心から想っている相手は婚約者で、マレナではない。

首の皮一枚で繋がったも同然な令息たちにとっては助かったと言えるかもしれないが、令嬢たちからすれば魅了にかかっていようといまいとどうでもいいからさっさと書類に判を押してくださいませ、と言いたくなる状況であった。

だって、本当に今更すぎたのだ。

そもそも仲の良い家族の前であってもアミュレットを外す事はしないようにと言われていたのに、彼らは出会って間もない女の前で外したのだ。そうして魅了にかけられたとか迂闊にも程がありすぎる。

婚約者である自分たちの前でも外したことがないのに。

本当は心から婚約者を愛しているとか言われても、今更だった。魅了魔法のせいでと言われても、令嬢たちの心は何も揺らがなかった。

だったら何故彼女の前でアミュレットを外したのかと。

自分の前でも外さなかったのに彼女の前で外したのなら、それってつまりそういう事だったのでは? というのが令嬢たちの言い分である。

令息たちからすれば、まさか本当に魅了魔法を使う者が現れるとは思っていなかった、という弁明以前の言い訳であるけれど、落ち度があるのは認めた上でそれでも婚約の破棄をすんなりと受け入れるわけにもいかなかった。

どうか、やり直すチャンスを下さい!

そう言って本当に縋りつきかねない勢いだった。

けれども、もう令嬢たちの心からかつて愛した彼らは消えたのだ。

かつて、想いを育て合っていた彼の事を思い出そうとしても、自分に冷ややかな眼差しを向けて、冷たい言葉を投げかけてくる姿しか思い出せない。かつて、手を繋いだ時の温かな感触も、触るなと振り払われた時の思い出に上書きされてしまった。

今更また優しくされたところで、嫌な思い出が綺麗さっぱり消えるかと言われれば、きっと無理だろう。

周囲の心無い噂も拍車をかけた。

確かに、魅了魔法のせいで愛する婚約者との縁が切れそうになっている、という点だけを見れば彼らは被害者かもしれない。

マレナと彼らの関係は加害者と被害者だ。

だが、彼らと令嬢たちの関係で言えば、彼らは令嬢たちにとっての加害者である。いくら魅了で本心ではない酷い言葉を投げかけていたとしても、彼らの言葉と行動で傷つけられたのだから。

主犯はマレナであっても、令嬢たちからすれば彼らは実行犯なのだ。

赦すとか、赦さないとか。

もうそういうところも通り過ぎた後なのだ。彼女たちにとっては。

いくらこの先今までのように優しく振舞ったとしても、ふとした瞬間魅了にかかっていた頃の記憶を思い出してしまうのだろう。

そうして、受け入れられないとこちらが態度に出せば彼はきっと傷つくのだ。

彼も自分が悪いと認めた上で、謝ってくれるとは思う。

でも、そうやっていつまでも許せないままの関係が続けば、今度はきっと第三者がまた心無い言葉で噂するのだ。

彼らだって被害者なのに、いつまで引きずるんだろうね……?

なんて。

確かに被害者かもしれない。けれども、彼女たちにとっては加害者でもあるのだ。

彼女たちも被害者なのに、周囲はきっとそんな事はお構いなしに彼らだけを被害者として扱うだろう事が容易く想像できてしまった。

本当にそうなるかはわからないが、しかし高確率でそうなるだろうな、というのが令嬢たちの予想である。

ならば、やはり婚約をなかった事にしてしまった方がお互いのためだと思うのだ。

赦せない事を気まずく思ったり、赦されなくて当然だと受け入れながらもしかしやはり拒絶される事に傷つくくらいなら。

それなら一度この関係をなかった事にした方がいいはずだ。

かつての円満だった頃を思い出しながら歪な関係を続けるよりは、余程いい。

だというのに、婚約をなかったことにすればその時点で令嬢たちとの接点が完全に途切れると思った令息たちは頷いてくれなかった。

実際その考えは正しい。

令嬢たちは関係が切れたら各々別の道を歩むつもりであった。

ある者は修道院に行こうと考えていたし、ある者は少し時間を置いた上で、新たな婚約者を探そうと考えた者もいた。とはいっても、今回の一件のせいで結婚そのものに忌避感しかないので、思うだけで結婚にこぎつけられるかはわからなかったが。

令嬢たちはすっかり恋だの愛だのというものに嫌気がさしていたのである。

もしかしたら、時間の流れで考えが変わるかもしれない。

だが、そうなる前から令息たちが縋りついてくるようでは、時間薬どころの話ではない。

令息たちが縋れば縋るだけ、令嬢たちは距離を取りたくて仕方がなかったのである。

それぞれの両親は悩んだ。

令息たちの気持ちもわからないでもないし、令嬢たちの気持ちも理解できてしまったから。

ましてや、マレナと浮気しているといった事実に関して最初軽んじてしまった部分もある。

なのでここでまぁ、彼らも反省しているし、やりなおしては? なんて言えば彼女たちがどういう行動に出るか、まるで予想できなかった。

そうでなくとも最初に大した事ではないだろう、と高をくくってしまったために、次にそういった発言をすれば娘は親は頼りにならないと、心の中で切り捨てる可能性もあった。そうしてある日出奔するような事になるかもしれない。流石にそこまでは望んでいなかった。

最初に軽んじてしまったからこそ、令嬢たちの親は今度こそは最後まで娘の味方であろうとしていた。

故に婚約の破棄或いは解消を、と望んだ。

魅了魔法の事実が明るみに出る前なら相手有責の破棄だったが、彼らは魅了魔法のせいでああなっていた、となっては有責とするにも哀れすぎる。

だからこそ、破棄ではなく解消でもいいと述べたのだ。

それは令嬢たちにとっては正解だったようで、今までまだちょっと信用できないな……という目を向けていた令嬢たちの眼差しは若干、本当に少しだが両親に向ける目はマシになったと思う。

令息たちの親も、流石に復縁は難しいだろうなぁと思ってはいたのだが、しかしここで息子に諦めろ、と言うにも酷な話だとわかっている。

一度の過ち。迂闊にアミュレットを外さなければこうはならなかった。

だが、彼らの親もまたまさか魅了魔法を使える相手が出たという事実に驚きを隠せなかったのだ。

禁忌とされていようとも、もっと頻繁に使われているようであればまだしもそうではなかったから。

ましてや元平民が魔法を使えるといっても、魅了なんて使えるとは思いもしていなかった。

魔力が安定して魔法を安全に扱える年齢は十代半ばからと言われていても、幼い頃から使える者は使えるし、実際マレナが市井で使っていると報告されていたのは水の魔法だ。

ちょっとした水を出して花壇に水をやっていたくらいで、魅了魔法を使っているような素振りはなかったのだ。

マレナがもっと考えなしに周囲をあからさまに魅了していれば事態はもっと早く明るみに出たかもしれないが、彼女が狡猾だったことが裏目に出た。

恐らくはマレナが魅了魔法を使えるなんて最初から警戒していた相手はきっとこの国のどこを探してもいないだろう。であれば、一度の過ちとはいえ彼らの油断だって、一歩間違っていたら自分たちもそうだった可能性がある。だからこそ、バッサリと切り捨てられなかった。

流石に同じ失敗は繰り返さないだろうと思いたいのもある。

いくら魅了魔法のせいとはいっても、しかし婚約者をほったらかして複数で一人の少女に侍る姿は学園内で散々見かけられていた、となれば醜聞なのもまた事実。

やり直したい令息たちと、別れたい令嬢たちはどこまでいっても平行線だ。

このままでは埒が明かない、となったためだろうか。

「一度。一度だけチャンスをやってくれぬか」

国王のその言葉に。

令息たちの目に光が宿り、そうして令嬢たちの目は昏く淀んだ。

それを見て流石に国王もそっと片手を前に出した。待て、と言うように。

「このままずっと話し合っても平行線を辿る一方だ。

何も許せと言うのではない。許さなくても良い。そのためのチャンスを、という話だ。

そなたたちも、いつまでも彼らに纏わりつかれ続けるのはよくないだろう?」

「父上……!?」

自分の味方かと思っていた王の言葉に、セルシオが困惑したような声を上げた。

王としては確かに自分の息子だし可愛い我が子という思いもあるけれど、しかし同時に黙れこのすかぽんたんという気持ちもあった。

お前が油断してアミュレットを外したのが事の発端だろうがよ、と吐き捨てられたらどんなに良かったか。

王族だって人間だもの、過ちを犯す事はある。だが、過ちの内容によっては切り捨てるしかない事だってあるのだ。

ここで無理にセルシオの婚約者であるメリスティアに我慢を強いたとして。

このまま結婚させたとして。彼女は表向きこそ立派な王妃として務めてくれるだろうけれど、しかしその内心では。

間違いなく王を憎む。夫となるセルシオだけではなく、この決断を下した国王も。

そうしてその憎しみはいずれ国全体へ向かうかもしれない。いつか、彼女の復讐で国が滅びる可能性すら。

国に向かわずとも間違いなくセルシオには向く。

それがわかっていて、軽率に一度だけ許してそのまま結婚してやってくれ、なんて言えるわけがなかった。言えば王妃も敵に回しそう。

一度やらかしたので、流石に次はないと思いたいけれど、たまにやるミスが致命的になりそうな予感しかしないのも、息子の味方に回り切れない原因の一つだ。

「試練を与えてやってほしい。

流石に死ね、などという明らかなものは問題だが、しかしある程度の無茶振りを乗り越えた時は、考え直してやってはくれまいか」

「そんな事を言われたら本当に全力で無茶振りをさせますわよ。明らかな無理難題でも構わない、と?」

「あぁ、毒を飲めとかナイフで首を掻っ切れとか、実行すれば明らかに死ぬようなものは困るが、それ以外であるのなら。

どれだけ困難だろうとも、チャンスである事に変わりはない。

だろう?」

最後の言葉は自分の息子を含めた令息たちに向けてのものだった。

「考え直すだけで、やり直さなくても良い、という事でしょうか?」

「あぁ、そのチャンスをモノにできなかった。そういう事だからな」

「そんな!」

「そなたらがやらかしたのは、それだけの事だと心得よ」

王の声は、最初から最後まで重々しかった。

令息たちからすれば、たとえそのチャンスと称された無理難題を達成できてもやり直せないかもしれないとなれば、悲鳴の一つ、文句の一つも出てしまうかもしれないが、令嬢たちにとってもう彼らは愛した人ではなく二度と視界に映したくない人物なのだ。

確実にやり直せるなどと思う方が甘いと思って然るべきであった。

令嬢たちからすればチャンスすら与える気もなくさっさとお別れしたいのが本音なのはわかりきっている。

だが、それでも。

チャンスを与えた上で、もしかしたら。

限りなくゼロに近くても、可能性を与えただけでも充分な慈悲だと納得するしかない。

「そうは言っても今すぐやれというわけにもいかぬだろうよ。

日を改めて、彼らにチャンスを一度だけ与えてやってほしい」

王にそこまで言われてしまっては、令嬢たちも「絶対に嫌です」と断固拒否の構えを取り続けるわけにもいかなかった。

それぞれが顔を見合わせて、そうしてややあってから、

「……わかり、ました……」

不承不承ではあるけれど、令嬢たちは確かに頷いたのだ。