軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第37話 上級生

今学期残すところ後一週間になった今日、セレスはいつもより忙しい日々を送っていた。

「セレスティーナさん! 僕と付き合ってください!」

「想いを寄せていただけるのは大変光栄なのですが、私にはもう決めた人がいますので……」

告白が増えてきたのだ。

ウチのクラスは俺とセレスが結婚していることを知っているが、他クラスや他学年はまだ知らない人が多いらしく、夏期休暇を前にしたこのタイミングで彼女欲しさに告白してくる輩が増えたのだ。

「カズヤさん? どうかされました?」

「いや、何でもない」

帰宅の途につく俺たちは何気ない会話に花を咲かせながら道を辿る。

「ひょっとして嫉妬してくださいました?」

「んなわけ」

「本当ですか?」

「んぐ……」

「本当ですか〜?」

聞いてくるセレスに思わず気持ちを吐露してしまう。

「妻を口説かれて不快に思わない奴なんていないだろ」

「ふふっ、ありがとうございます」

そう言ってセレスは俺の手を取る。

「ちょっと充電させてください」

「充電?」

「はい、今日はいろんな方とお話しして少し疲れたので」

外気温とはまた別の温度に和みながら家にたどり着く。明日も今日みたいになるのだろうか。

翌日、いつも通りに学校に着いた俺たちは正面玄関で靴を履き替えようとしたとき、セレスの下駄箱の中に何か入っているのが見えた。

「恋文ですね」

「今どき珍しいな」

そんな話をしていると、葛西さんがセレスに寄ってきた。

「おっはよー! セレスティーナさん!」

「おはようございます、葛西さん」

「それってもしかして……ラブレター? 和也くんからじゃないよね」

「違うな」

「最近こういうのが増えてきてちょっと困ってます」

セレスがそう答えると、葛西さんは力強く頷いた。

「夏休み前に彼女がほしくなるのはわかるけど露骨なのよね」

「私にはカズヤさんがいるのでといつもお断りしているのですが、それもそれで気を揉むと言いますか」

「断るにも体力使うからね」

「葛西さんはそういうのあるのですか?」

「私はてんでないよ!まあ、決まった人もいないんだけどさ」

女子の会話に紛れるのも何だしと黙っていたら葛西さんは俺を見据えた。

「和也くんは何ともないわけ? 可愛いお嫁さんがいろんな人に口説かれてて」

「嫉妬じゃないけど、気分は良くはないな。セレスは俺の嫁なわけだし」

そういうとセレスは俺の手を撫でる。

……嫉妬じゃないって言ってるだろ。

「セレスティーナさんは和也くんのお嫁さんだー! って大々的に言えたら良いんだけどね」

「そういう認知があれば確かに助かりますが、さすがに大々的には……」

「まあ、機会がないしな」

「機会があればやるんですか?カズヤさん」

そうこうしていると始業のベルがなる。

今日もまた平和であれば良いのだが。

午前は順調に進み、お昼休み。

今日はセレスと葛西さんの三人で過ごす予定なので弁当を持ち寄り集まっていると、教室に異質な空気が流れた。

どうやら来客らしい。

「失礼する! セレスティーナさんはいるか?」

見慣れない人が教室に入ってきた。ネクタイの色的に上級生だろう。

「セレスティーナは私ですが、なんの御用でしょう?」

「ああ、君がセレスティーナさんか! 噂に違わず美しい!」

「ありがとうございます。それでなんの御用でしょう?」

「単刀直入に言おう! セレスティーナさん、あなたに告白しにきた!」

堂々たる発言にクラスは騒つく。

その発言にセレスは何も動じることなく応対を続ける。

「想いを寄せていただけるのは大変光栄なのですが、私にはもう決めた人がいますので……」

「それは聞き及んでいる!」

「だったらなぜ……」

「それでも僅かに可能性があると思ったからだ!」

「それでしたらありません。要件は以上ですか?」

「ま、待ってくれセレスさん!」

「……その愛称は家族だけに許したものです。あなたに呼ばれると不愉快です」

どうにも空気が悪くなってきた。この辺りで散らすのが無難か。

あの馴れ馴れしい様子が妙に癇に障る。

俺はセレスの側による。

「セレス」

「カズヤさん!」

「君がセレスさんの彼氏かい?」

「彼女のことはどうかセレスティーナと呼んでください」

「彼氏ではなく夫、です」

俺はわざとセレスの肩に手を回す。その意図を汲み取ってかセレスもまた腰に手を回した。

「彼女は俺の妻だ。それ以上口説く真似はやめてもらえますか?」

「ぐぬぬ……」

そう宣言すると上級生は渋々といった様子で退室していく。

少し静寂というような微妙な雰囲気に包まれる教室。それを破ったのは葛西さんだった。

「格好良かったよ! 和也くん!」

「うん。すごかった!」

「あんなこと滅多に口にできないぜ」

どれも俺を称賛する声だったが、どうにもむず痒く、二人を連れて教室を後にした。

「助かりました」

「悪い、セレスの仕事取ったみたいで」

告白が増えた頃に、一度話したことがある。

その時セレスは、自分に向けられた好意だから自分で対処したいと話していのだ。

「格好良かったです。さすがカズヤさんです」

「……あまりに馴れ馴れしかったからつい」

「それでもありがとうございます」

いつの間にか繋がっていた手をそっと口元に持っていき、そっと口付けを落とすセレス。

「また守ってもらいましたね」

「……君たちを守るって誓ったから」

「はい、私もあなたを守ります。ない方がいいのですけれど、今度機会があれば私が」

「うん、その時は頼むよ」

入道雲が浮かび、中庭での食事が少し厳しくなってきた昼下がり。

今日もまた平和だ。