軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

60 言いたい言葉だけを

私は、近付いてくるリヴィア様に対応する前にリシャール様の腕を取る。

そうすると彼は安心させるように私に微笑みかけてくれた。

「大丈夫ですか?」

「もちろん」

事前に彼女がどのような人物かをオルブライト夫人から聞いている。

私なりに、どう対処するかは考えている。

「エレクトラ様……!」

「こんにちは、カールソン夫人。はじめまして」

私は、微笑みながら淡々と挨拶を返す。

さて。目の前にまで来た彼女の第一声は何だろうか。もちろん期待はしていない。

「私、ずっと貴方と話したくて……!」

「そうですか」

私から彼女に求めることはない。彼女の話は、基本的に聞いても意味がないと思って対応する。

「あ、あの、エレクトラ様……」

「はい、カールソン夫人」

ニコニコと静かに微笑むだけの私。けして彼女に親身な態度を取ることはない。

それは私の役割ではないからだ。『他人』として振る舞う。

「あの、ええと。ですから、貴方と話したくて……」

「そうですか」

先程と同じ言葉を繰り返す彼女。これも想定通りだろう。

きっと、こちらがイライラするほど頑なに会話を自ら発展させない。

私に対して、彼女が本来言うべき言葉はある。だが、それも期待したって無駄だろうな。

「……あの、えっと。エレクトラ様」

馴れ馴れしく名前で呼んで欲しくはないが。それでも互いに家名で呼び合いましょう、なんて、わざわざ言わない。

私も内心ではリヴィア様と呼んでいるものね。

「あの、ええと。あの治癒魔法、凄かったですね! キラキラと輝いて……どうやったのですか、あれは?」

「そうですか」

微笑みを絶やさず、私は同じ言葉で返した。

彼女が言うべきことは、それじゃないだろう。

私が、まともに答えないことに困惑と焦りを浮かべる彼女。

媚びるような態度。夫人の言った通り、甘えようというのか、他ならない私に。

「あ、その。お隣の方は……?」

「今度は彼に興味が湧いたのですか? 私が彼を渡すことはありませんよ、カールソン夫人」

「えっ」

え、ではない。まぁ、どれもこれも、そんなものか。

別に彼女が言葉を出せなくなるまで付き合ってあげるのも一興なのだけど。

それは、きっと時間の無駄というものよね。

「私に会って、カールソン夫人は謝罪しようとしてくださったのですよね、当然」

「え? あの」

極上の笑顔で彼女と対峙する。

きっと、放置していれば彼女は自分の話したいことだけ話すのだ。

そういう人間なのだと思っている。

そうではない、違うと言うならば私へ向けての第一声が謝罪以外であるはずがない。

だから、私は、私が話したいことだけを話すとしよう。

彼女と言葉のやり取りをする必要はない。

会話の受け答えではなく、会話の『投げつけ合い』をするのみだ。

「かつて結婚していた時に私の夫と恋仲になり、一方的な離縁を突きつけるために、彼と一緒に私の前に立とうとしたとか。とても不愉快なことを貴方はしましたね。あの時は私も事情があり、貴方の謝罪を聞く機会に恵まれませんでした。ですが、いいですよ、今なら。貴方の謝罪を聞いてあげます。リヴィア・カールソンが、私とカールソン子爵の、離縁の原因になった件について、当事者の一人としての、貴方の謝罪です」

怒りは感じさせず、微笑みながら自然体の態度で彼女に謝罪を促した。

表情だけは、さも友好的なように見せるのがポイントだ。

「え、あの、エレクトラ様? わ、私は……」

彼女は、そこで私に縋りつくように近付いてきた。

手を取ろうとする仕草だ。

私は、彼女と接触する気はないので、スッと後ろに下がる。

リシャール様も私に合わせて一歩下がったのが、少しおかしい。

ちなみに大会の期間中、私は動き易い靴を履いている。

ヒールなどの見栄え重視で動き辛い靴は履かない。

何かあった時に、きちんと自分の足で逃げられるようにね。

目の前で彼女の手が空を切る。

「触らないでくれますか? 謝るだけですから、手を取り合う必要はないですよ、カールソン夫人」

「……エレクトラ様?」

私がそう言うとショックを受けたような表情を浮かべた。

……彼女を理解しようとする必要はない。やはり、わたしの役割ではないのだ。

現実を突きつける必要さえないだろう。

その役割を負うべきなのはハリード・カールソンと、ジャック・ファーマソンだけだ。

「私、貴方と深く関わる気はまったくないわ。当たり前よね? 離縁して時間が経ったとはいえ、貴方は当時、私の夫と不貞を働いた。貴方が原因で私たちは離縁したの。私が一方的に去ったと責めないでね? そんな資格が貴方たちにあるはずもないのだから。既婚者に言い寄り、離縁の原因になることは最低のことよ。私は、貴方のことがとても不快だし嫌いだと思う。今後も関わって欲しくないと思う。馴れ馴れしく話し掛けられるのも嫌。謝る気がないなら今すぐ立ち去って欲しい」

痛烈な言葉を掛けるが、それでも私は微笑みを絶やさない。

言葉の羅列と、私の変わらない表情に彼女は言葉を失うばかりだった。

その態度からオルブライト夫人の、彼女への評価を理解できた。

悪意を持って私に勝ち誇りに来たのなら、もっと嫌な表情を浮かべるだろう。

リシャール様にだって、もっと興味を示したのではないだろうか?

かつて男を奪えた女の新しい恋人だから、という理由で。

だが、彼女はそうならない。私に辛辣にあしらわれることに理解が及ばないのだ。

悪意なき、悪人。悪女。それがリヴィア・カールソン。

絶句した表情で、呆然と私を見るリヴィア様。

その姿を目にした後、私は目を瞑り、首を横に振った。

「リシャール様、もういきましょう」

「……うん。行こうか」

リシャール様に手を引いて貰い、すぐにその場を去ることにした。

リヴィア様は、私に追いすがることもせず、次の言葉を口にすることも出来ず、ただ私たちを見るだけ。

まるで母親に置いていかれた子供のように。

「……はぁ」

彼女と対峙して。『正解』の態度は何だろう。

あちらの非を責め立てれば、まるでこちらが悪者になるみたい。

改めて思うけれど。

3年前、たった一人でリヴィア様と、それに絆されたハリード様となど対峙しなくて良かった。

『どうしてリヴィアを泣かせるんだ』なんて。

己の夫であるはずの人物に言われていたら、私の心は、どうにかなっていただろう。

今の私には、こうして隣にリシャール様が居てくれる。

「言いたい言葉は言えましたか? エレンさん」

「……ええ。すべてを吐き出したのとは違うけれど。無遠慮に近付いてくる相手に叩きつけるには充分なことを言えたと思うわ」