軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35 エレクトラの決断

「長々とすまないな、こんな話をして」

「いえ、教えてくださってありがとうございます。色々と知ることが出来て良かったです」

とはいえ、とりあえず、だ。

「まとめてしまえば。結局、ハリード様がリヴィア様に絆されたのは、本人の責任ですよね?」

「……そうだな。あの様子を見る限り、リヴィアが『公爵の娘』と分かっていたとは思えない。つまり、そういった利得のために彼女を選んだのではないだろう。公爵夫人側と繋がりがあった様子でもない」

「そうですか……」

結局、そこだろう。私の立場から気にすることは。

公爵家のゴタゴタや、リヴィア様の生い立ちなんて関係ない。

ただ、ハリード様が、私を裏切った。それだけなのだ。

その部分には策略が入り込む余地がない。

もちろん、二人の仲が良くなるように雰囲気作りくらいはしてくれたのかもしれない。

だが、妻が居ながら、他の女に執心し、その女を選んで、私とは離縁しようとした。

……これが、すべてだ。

本来なら慰謝料を請求すべきだったのだろう。

でも、あの時の私は、彼らと話すことすら嫌だったから。

合意の上での離縁、そこに慰謝料などの話し合いはなく。

ヴェント子爵家とは疎遠になって……それで終わり。

別にそれでよかった、と今なら思う。

公爵家を怖れる必要なく、実家に帰ったとして、慰謝料を手に新しい縁談を探して貰う日々だったはず。

それよりも私は、今の生活を気に入っている。

自身の才能を活かし、人のためになっている実感があって。

そして、ここには『彼』が居るから。

「あの、閣下。結局、私の正体を知りたかったということで、今日は来られたのですか?」

「いや、そうではないのだ。前置きが長くなってすまない」

どうやら、カールソン家周りの珍事件で話は終わらないようだ。

「まず、そういった事情がカールソン家やファーマソン家周りであった、これが前提だ」

「はい」

「公爵夫人の報復は、これからカールソン家を追い詰めていくだろう。それはもう、君には無関係なことかもしれないが……」

「……領民が心配、ですね」

2年間、頑張ってきた。彼らの生活を見てきたのだ。

使用人たちは、自身の進退をどうにか選べているようだけど。

彼らが心配であることは変わりない。

とはいえ、私が出来ることはもうない。離縁したのだから。

領民の生活をきちんと考えて欲しいと願うぐらいだ。

「シスター。カールソン子爵夫妻は、それぞれが別の理由で、君を求めるかもしれない」

「…………」

その言葉に、チカチカと予知夢で見た内容が思い浮かぶ。

明らかに離縁した後だったのに、やたらと執着され、追いかけられた光景。

実感はない。あの夢が結局、予知夢なのか、回帰なのか分からないまま。

「苦しい結婚生活で、以前の妻を求めようとする男。ありそうな話だ。そもそも偽者とはいえ、ああいう対処を取った時点で……そういう『 気(け) 』がある」

ただ、容易に想像が出来た。そうだろうな、という納得がある。

「リヴィアの方だが……。半年も『君』を家に置いて、それを当たり前と思っていたらしいからな。理解し難いと思うが……何かしらの依存をしているのなら」

「オルブライト夫人が居なくなった今、また私を捜し始める、と?」

「……推測だよ。ただ、今は人手も金もなく、そういった捜索は出来ないだろう。ただし、どこかで君を見掛けたら、と」

辺境伯も好きで、こういう話をしているのではないだろう。

結婚式での彼らの様子を見て、状況を考えて、『こういうことをしそうだな』と。

そう感じたのだ。私も、それには同意だ。

……会ったこともないのだけどね。

その上、『水色の髪の女』には心当たりがあった。

だから、こうして帰って来て早々、私と話し合いの場を持ったのだ。

「君は、これからどうしたい? この地で暮らす以上、私の領民だ。明らかに危険が迫っているのなら守らねばならない」

「これから……」

「ヴェント子爵家が何も言っていない、捜索届けも出していないことからして、同意の上で、あの地を出てきたのだろう?」

「はい、それはその通りです」

「なら、君がこの地で暮らすこと自体、誰にも咎められることはない。君が、この地で暮らしたいなら、私が責任を持って守るつもりだ」

「ありがとうございます、閣下」

これから、か。

今まで目の前のことや、気持ちに一生懸命だった。

人生の分岐点で、選択することよりも、とにかく脅威から逃げることが大事で。

けど、これからは……。

私は一体、これからどうしたい?

「……今日、君に話をしたのは、君がどうやら特別な存在らしいからだ」

「特別、ですか」

「ああ。君は、才能に恵まれていて既にその能力について噂も立っている。名声と言えるものだが……不本意だろうが、目立つ存在となった。すまないのだが、ハリードにも君の話、いや、『聖騎士』と『女神』の話はしてしまった。髪の色には言及していないし、本名なども出していないが……」

「そ、それは……控えて欲しいのですけど。流石に女神扱いは不本意なので」

「そうか。実際、報告された能力ならば、君こそが『聖女』と呼ばれるべきだろうな、と思っているのだ」

それは、ね。

私も、内心では認めてしまっている。

チヤホヤと持ち上げられたからではなくて、こう、能力的に『そうだろうなぁ』と。

別にこの国には、伝説の聖女が居たとか、そういう話はない。

神の御使いだとか、そういう伝説もないの。

だから『聖女』なんて呼称は、その時々でのイメージ商法というか。

そう銘打っておけば、人心が集まりますよ、という程度の話なのだ。

私だって他人事だったら、無責任に友人たちと噂していただろう。

『辺境の地には聖女様が居るんだって!』と。

「君が静かに暮らしたい、と。そう願っているのなら……もう君の力は使わない方がいい、と言わざるをえない。黄金の光と強力な治療魔法は、あまりにも……聖女だ。どうあがいても目立つし、噂になる。それは、きっとどこに行っても」

「あはは……」

そう。そうなのよね。

私は、自分の力を使う限り、どうしても目立つ。

以前のように細やかな治療を続けていくこともできるだろうけど。

でも、目の前に大怪我をした人が現れたら?

私には治せるはずなのに、自分が隠れて暮らしていたいというだけで……それを見過ごせる?

……出来そうにない。

そもそも、静かに暮らすことに大した理由もないのだ。

その方が楽だな、とか。

誰かに狙われているみたいだし、見つからないようにしよう、とか。

それぐらいの話。

その程度の気持ちは、目の前に現れるだろう大怪我をした人間の命とは釣り合わない。

今回、おおよそ私の感じていた悪意の黒幕の正体が、公爵だと分かった。

その公爵がこれ以上、私を狙う理由など、ほとんどないはずだ。

そうなると、特に大人しくしている理由もなくなってしまうだろう。

今の私が『能力を隠して暮らす』ということは……。

力を存分に使って、治療する『自由』を失うことだ。

「君が、その能力を活かす道を選ぶならば、噂が今以上に広がるのは避けられないだろうな。そして、君のことを彼らは、いつか知るだろう」

辺境の地で活躍している『女神』はエレクトラだ、と。

元夫が知る。そして、そうなった時、おそらく私に会おうとするか。

或いは……。

リヴィア様もどうも、そういう怖さがある女性らしい。

謎の執着心というか。

互いの呼び名的に、完全に比較される立場になる。

だから、これからもっと彼女の『拗らせ』は酷くなるかもしれない……。

どこまでも付いてくる因縁だな、と思った。

ファーマソン公爵だって、リヴィア様が未だに私に執着しているなら動くかもしれない。

公爵夫人は、私の味方ではないだろう。

使用人すべてを引き取ったワケでもないだろう、オルブライト夫人もまた。

結局、私は……彼らとの問題を解決していない。

私は、ハリード様とは話もせずに離縁し、逃げただけだったから。

これは、私の人生において、避けては通れない試練なのだ。

ただ、予知夢のお陰で、その因縁と、試練と戦う心の準備ができて、力を蓄えることもできた。

何より、私はきっと夢の中の私よりも……強く生きて来られたはずだ。

その自信が今は、ある。

ならば、なすべきことは一つだろう。

「グランドラ辺境伯閣下」

「ああ」

私の知れるだけの情報は、出揃った。

その上で『私がどうしたいか』を彼は問うてくれている。

辺境伯とは、侯爵相当の身分だ。特別な立場でもある。

公爵とは貴族の中で最も身分も高いが、その役割は『王族の血を継ぐ』という、これもまた特殊な立場。

身分の上下は確かにあるが、後ろ盾にできたなら、一方的に追い込まれることはない。

「実は、ファーマソン公爵家に因縁のある者が、まだ居まして」

「……ほう?」

「もし、お力添えいただけるのでしたら。彼と相談した上で、なのですが。……私の『報復』にお付き合いいただけますか?」

私が、そう告げると。

意外な言葉だったのか。辺境伯は、目を見開いて驚くのだった。