軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第66話 ケルラ・マ・グランデ

ケルラ・マ・グランデ。

それは広大な大樹海を指した言葉で、名前だ。

樹海は南大陸のおよそ『六分の一』を占めるとさえ言われており

南大陸を語るとき、この領域を無視することは決してできないだろう。

『南大陸最大の秘境にして魔境』──人々はそう語る。

「この『大樹海』の歴史は──『浅い』です」

その語り方は淡々としていて

まるで教師が生徒へ教えるかのようだった。

「一つの自然が形成されるまでの観点で言えば、はっきりいって『異様』です。樹海の『広大さ』と形成されるまでの『年月』が不自然なほど釣り合っていないんです。それはつまりどういうことか──簡潔にいえば”ここ”は、世界でも類を見ない『最も短い期間で最も雄大に築かれた樹海』……そんな領域なんです」

「『ヨクン殿』……我々も事前に下調べはして──」

「ええ、わかっています。ですが黙って僕の話を聞いてください」

一人の男の発言を、一人の男が遮るという、構図だった。

言葉を遮られた男は言われた通り口を噤みながらも、表情には不満を浮かべている。

対照的な格好をした、二人だった。

一言で言えば重装な男と軽装な男だ。

言葉を遮られた方の男は、重装だ。

頭部以外の全身を使い込まれた鎧で固めて武器を持って、これから一戦でもしにいくかのように完全武装をしている。

一方で言葉を遮った方の男は、軽装だった。

典型的な『探検家』といった装いで、持っているのも、武器というよりはロープやシャベルといった道具類が目立つ。背負ったリュックだけが唯一重量を感じさせるものだった。

ケルラ・マ・グランデ──『表層域』。

大樹海に接するとある『人間の街』。そこは周囲のほとんどを大樹海に囲まれているが、危険地帯とはいえ、街に近い部分は多少の整備がされているし、危険も定期的に取り除かれている。

そんな人の手によって多少は安全にされた領域を樹海の『表層』と呼び、きっと誰かの血と労力を対価に作られただろう表層にある広場の一つを占有して、その光景は繰り広げられていた。

「話を続けますね」

向かいあった軽装な男と、重装な男。

会話を主立ってしている二人だが、背後にはそれぞれ、同じ装いをした男たちがいた。

軽装の男の背後には二人の男。対して重装の男の背後には、ヨクンと呼ばれていた男を含めた軽装な男達の、四倍もの人数がいる。

そんなただでさえ武装をした集団が、さらに浮かべている視線がいいものではないにも関わらず。

全く気に留めずに、ヨクンは同じ口調で語り続けた。

「ケルラ・マ・グランデは、最も短い期間で最も雄大に築かれた──それは一体何故でしょうか?

元をたどればこの大樹海は、とある『二つの森』をルーツに持ちます。二つといっても、隣り合った森じゃありませんよ。途方も無い距離をこえて、南大陸の『遠い東』に一つ、反対に南大陸の『遠い西』に一つ。そんな、全くお互いに一切関わりのない二つの森です。

少なくともその二つの森が混じり合って、一つの大樹海になるなんて誰も想像すら、したことなかったでしょうね」

鎧の男達は、ヨクンが話を進めるたびに威圧感を増していた。

今にも全員が一斉に襲いかかってくるかのような重圧に、

ヨクンの背後からその背を見守るように立っている二人が、緊張から汗をかいてつばをのみこむ。

そんな二人だが、しかしヨクンを止めることはしない。

それは実際こんな状況だというのに、ヨクンの態度は変わっていないからだ。

集団で冷静なのはそんなヨクンと、直接対峙している、重装の男達のリーダーと思わしき者だけだった。

「東の森と、西の森。

もしその遠く離れ合った二つの森が混じり合ったとします。

そのときまず疑問に思うのは、『間』です。

離れあった西の森と東の森のその間には──『何があったのか』?」

ガキリ、と。どこからそんな音が鳴った。

ヨクンの質問の答えは、ここにいる全員がわかりきっていた。

男たちにとってヨクンの言葉は、わざわざ汚点を拾い上げてさらに掲げるような、侮辱にも似た行為だった。

だから鎧を纏った男たちは、怒りに満ちている。

ヨクンはそんな男達に一瞬白けた目を向けるが、すぐに元の調子に戻して言葉を続ける。

「答えは簡単です。森と森の間には一つの『人間の国家』がありました。ケルラ・マ・グランデは遠く離れた森と森が、間にある国を両方から押しつぶすように飲み込んで、混じり合い、短期間で『作られた』。そうした『経緯』と今もなお発揮し続ける『力』から正式名称を──『ケルラ・マ・グランデ広域竜脈森林地帯』といいます」

鎧集団とそのリーダーの間には、もう一人男がいる。

集団に混ざりきるわけでもなく、かといってリーダーほど出すぎるわけでもない。さながらサブリーダーのような位置に陣取っていた長髪の男は、ヨクンの言葉の後、唐突に立ち位置の均衡を崩す。

ヨクンとの距離を詰めるため、前へと歩を進める。

その顔は本来は美顔とも言うべきはずのものだが、今は見るからに怒りで歪んでいて、手は硬く握られすぎて少し震えている。焦ったように背後にいる集団が「副隊長」と呼びかけて止めようとするが効果はない──が、彼は進んでいる途中で歩みを止めた。

鎧集団の隊長が、その横を通ろうとした時に片手で抑えたからだった。

ガチリ、と鎧同士の当たる音が周囲に鳴った。

鎧集団の隊長は顔をしかめながら、ヨクンにきつい目を向ける。

「……それで話は終わりか?

子供でも知ってる話を、聞かされたところで今更何も得ることなどありはしない。それよりも、さきほどから言っているはずだ。我々は早くこの大樹海の中へと入り、『先へすすみたい』と。『お勉強』をしにきたわけではなくてだ。そのために『冒険者ギルド』に樹海の案内人を依頼をして、あなたを派遣してもらったと思うのだが……ヨクン殿」

「そうですね。依頼の内容に、齟齬はありません。僕も間違いなくその依頼内容を聞いて今日ここへ来ました。ですがまだ『受ける』とは言っていません。『樹海を案内しろ』と言われて、誰も彼もを『はい、わかりました』と案内するわけには当然いきませんよ。『一緒に自殺しろ』なんて言われて、誰がしますか?」

鎧の集団たちはざわめく。決していい感情を含めたものではない。含まれているわけない。

副隊長の男はヨクンをにらみつけ、隊長の男は顔をしかめた。

「僕が依頼を受けるか、受けないか。

それを判断するためにも、話を最後までしてからです。子供でも知ってる話をされているなら、それをされている意味を考えてみてください。とにかく『重要』なのはここからの話です」

ヨクンの終始変わらない、淡々とした口調に鎧の男達は全員が押し黙る。

隊長もまた同じだった。内心で『参った……』と呟きながら首の後ろを意味もなく撫でる。

会話の主導権を握っているのは、完全にヨクンだった。結局男たちはヨクンの言葉に、耳を傾けるしかない。

「この樹海は『一つの国』を丸々飲み込みました──ではそこにいた人々は?

黙って死ぬわけにもいきませんから、当然樹海の外へと逃げ出しました。といっても森は西と東からはさみこむようにせまっていて、南は海です。自然と向かう先は『北』へ絞られます。隣接していた北の隣国へと犠牲者を出しながら逃げこんで、手厚い支援を受けつつ兵をあげ、国を再び取り戻すために樹海へと再び乗り出しました。その結果は──」

ヨクンは、鎧の集団の一人一人の顔を覗き込むように見つめていく。

「皆さんもご存じの通りです。

この樹海に、現在も人間の国なんてありはしませんからね」

「…………」

「出来たばかりの樹海。そこで覇権を握るために起こった、厳しい生存競争へ乗り出したのは、元々その場所で争っていた『人間』と『魔族』だけでは済みません。結果的に国家は元の場所を取り戻すことなく『淘汰』された」

「……つまりヨクン殿はこういいたいのか?

我々ではこの樹海には『足りない』と」

隊長の言葉に、ヨクンは頷く。

「そうですね。必要のないものは、出来る限り置いていくべきでしょう。

まずはその『鎧』──」

「馬鹿なっ!!」

長髪の男が、声を荒らげて割り込む。

「お前はわかっているのか!?

我々『シープエット』の騎士にとってどれだけ『鎧』が大切なのかを!

豊かな才能、血の滲む努力、いやそれでもまだ足りないッ。そんな選ばれた『人間』だけが、国から授与していただけるこの鎧は、『強さの象徴』であり、【人間】という【種族】を牽引していく超大国としての『誇り』だッ! 世界の隅の隅にいるようなどこの誰とも知らない冒険者ごときが『鎧』の在り方を左右することなど──!」

鎧集団の副長は、自身の鎧を主張させるように胸を張り

そのまま殴りかかってしまいそうな勢いでヨクンに詰め寄った。

「だからですよ」

「は……?」

「『人間』、『超大国』、『誇り』、『強さの象徴』。

はたしてこの未開の大樹海でどれだけ役に立つのやら……」

「何──」

「『わかった気になっている』のは、僕とあなた方どちらなのでしょうかね?

冒険者ギルドが定める『AAランク』危険指定領域で。国家がすでに生存競争で敗北をしている──『人外魔境の地』で。あなたが言ったものがどれだけの役割を果たせるのかと、言っているのですよ。そこらへんに生えている草花一つの知識よりも役に立つというのなら、僕も考えないでもないですけど?」

「──我々は森林での訓練も積んでいる。それでは」

鎧集団のリーダーの言葉を、途中でさえぎるヨクン。

「それは『ケルラ・マ・グランデ』で行った訓練でしょうか?」

「……いや」

これだけ言ってまだそこらへんの『森林』と同じ感覚でいる彼らに、ヨクンはため息をつく。

やっぱり『見せない』と駄目か……と、広場の周囲を覆う森をキョロキョロと見渡した。やがてある箇所にピタリと視線を止めて、鎧集団で一番端の、森に一番近くに位置取っていた男を「あなた」と呼びかけた。

「なんだ?」

「ちょっとこちらへ来てもらえますか?」

呼ばれて不思議そうに近づいてくる男を、しかしヨクンは目も向けずに足元で何かを探す。

それから手頃な小石を拾って、呼びかけた男が『離れた』のを確認してから放り投げた。

ヨクンの背後にいた身内の二人がギョッとした目で彼を見る。その光景を見ていた鎧集団の隊長はすぐに嫌な予感を感じた。

投げられた小石は、呼びかけられた男が元々いた場所に放られていた。

そこにはある『花』が咲いていた。男の陰に隠れ今まで見えなかったが、とても目立つ膨らんだ花弁の、不思議な形の花。

小石はちょうどその花へ目掛けて投げられたものだった。

「ちょっと、ヨクンさ──ッ!」

軽装の男たちはヨクンの名前を呼びながら、慌てて姿勢を低くして身体を地面へ伏せていた。見ればヨクンはとっくに身を伏せている。

鎧集団の隊長がその様子を見て「伏せろ!」と即座に怒鳴り声をあげたのは冷静な判断だった。

でもそれは──投げた小石が膨張した花弁に当たり、花が『パンッ』と音を立てて割れたのと同時のことで。

結論から言えば、彼の行動は間に合わなかった。

「…………ッ!」

とてつもない衝撃が、身体を襲う。

最初は壁に全身が衝突したのかと思うくらいの、衝撃だった。

「う、ぉぉぉぉ────!!!」

衝撃のあと、今度は身体が強く『持っていかれそう』になる。とてつもない激流の川に身を委ねたような感覚。それが花弁から放たれた『風』だと気づいて、足に力を入れて最後まで踏ん張る事ができたのは、鎧の男たちの中で隊長だけだった。

ほんの数秒の、出来事だった。

一瞬の衝撃。それから二、三秒ほどの爆風。

たったそれだけで鎧を着た男たちの、隊長を除いた全員が花弁を中心に後方へ吹き飛んだ。ほとんどは投げられた石のように地面を転がっていたが、中には木に衝突した者や、薮に上半身を突っ込んだ者、泥まみれになった者などがおり、散々としかいいようのない光景だった。それでも気絶したものが一人もいなかったことは流石だろうか。

「──ケルラ・マ・グランデの危険性。それは『高いレベルでの生存競争』と『辿魔の発生頻度』ですが、これは危険指定を受けた領域ならばほぼ共通する事項でもありますよね。

さらに加えてもう一つ、この場所だけの特徴があります。『植物』です。異様に発達した、多種多様な植物が、樹海の中で満映し蔓延っている。これらは元々大樹海が生まれた元凶である『竜王の力』と地下に巡っているという『竜脈』の影響と言われています」

「植物ごときなんぞ!!」

起き上がった鎧集団の一人が叫ぶ。

他の鎧の男達も同じだった。頭に枝や草をのせながら、同じ言葉を目で語っていた。

戦闘訓練をつんだ自分たちが、植物ごときにやられるわけがない。やられたとしても魔物や魔族でもなく、刃を交えるわけでもない植物というのが、納得ができなかった。

ある意味それは意地にも似た気持ちだったが

隊長を除く鎧集団の全員から溢れ出た覇気や闘志は凄まじく、異変を感じた鳥が飛び立ち、伏せていたヨクンの仲間の二人は空気に呑まれて起き上がれなかった。

しかしやはりこの男には、関係なかった。

「さきほどあなた方が吹き飛ばされた『バクサンソウ』なんですが、あれはああやって爆散することによって種子を遠くに飛ばす種類の花です。なんですが、本来の種が飛ぶ季節は、本来はもっと後の『三ヶ月後』、ケルニカの始まり辺りです。これの意味わかりますか?」

「…………」

その言葉に、男たちは押し黙る。

「つまりあの爆風ですら、本領の威力ではありません。

さっきは膨らんで見えた花弁も、ケルニカ(冬)が近くになるにつれてもっとぎゅうぎゅうに『縮まって』、目立ちにくくなります。内部にある空気の圧縮のされ方はさらにきつくなり、威力が増します。

もしレベルの低い人が誤って踏んだりすればそれだけで致命的な事故につながりかねません……が毎年そういった事故はおきます。そんな植物に淘汰される光景は、この樹海では決して珍しいものではない。なぜなら厳しい生存競争に平然とした顔で『植物』が食い込んでくるからです」

「だが──」

「そろそろ、理解してくれませんか?」

ヨクンの声が、一段階下がる。

「魔物と違い、植物には《ステータス》がありません。

それはつまり事前に入手できる情報が少ないことを意味します。だから樹海では少しでも多くの『知識』を蓄えねばならず、起こった出来事から少しでも理解しようとする『学習の姿勢』が必要なんです。

ですがこの森を、たかが『超大国シープエットからきた』なんて根拠もない理由で侮っているあなたがたにそれを期待できるわけもない。侮ってるものから人間は何かを学ぶことはできません。なぜなら『侮り』は『学習』の対極にあるものだからです。僕が依頼を受けるためには、そういった樹海で役に立たないものはすべて置いていってもらう。それが条件だ」

「「「…………」」」

鎧の男たちが押し黙る。

「全員、鎧を脱げ」

隊長が、隊員たちを一瞥していった。

「ですが隊長……」

「代わりに礼式用の腕章をつけることで、今回は鎧の代用とする。

それぐらいはよろしいか、ヨクン殿」

「それぐらいなら構いませんよ。少し要点がズレましたが、最初に僕が問題視していたのはあなた方が戦闘を重視した装備だったからですね。樹海を進むのに必要なのはいかに『戦闘を避ける』かですのでそのままだと困るんです」

隊長はヨクンの言葉に頷く。その言葉に部下達も納得をした様子だった。

「実行へ移せ」と厳格に部下たちへ指示をする。

「ならば一度『街』へ戻りますか?」

「いや、このままで構わない」

「…………荷物としては嵩張りすぎませんか?」

大量に並べられていく鎧を見つつ、ヨクンは言葉を漏らした。

「心配ない。『収納』の『魔導具』が我々にはあるからな」

隊長は脱いだ鎧を受け取り、もっていた魔道具を使って収納をしていく。

代わりに積めていた荷物を取り出して隊員に背負わせている辺り、容量はそこまで多くなさそうだが。

しかしそれを見たヨクンは、顔を輝かせる。

「素晴らしいですね……!

先ほど失礼なこと言っておいてなんですが、この装備はシープエットの方だからこそですよ。僕たちみたいな『Bランク帯』の冒険者にはこの手の装備はなかなかそろえられません。ですので樹海の奥へ行きたくても、装備面の不足が足かせで踏めこめずにいたんですよ」

興奮したようなヨクンに、初めて隊長がフッと笑みをもらす。

「事前に決めた条件の通り、道中で必要だろう物資はすでに我々が用意している。

冒険者ギルドから信頼できると紹介された貴殿の知識と経験は、間違いなく本物だ。多少のいざこざがあったものの貴殿の実力をここにいる全員が理解するためと思えば必要な遠回りだったのだろう。どうか我らのケルラ・マ・グランデの旅路、その案内をつとめてはもらえないだろうか?」

「了解致しました。冒険者ギルド『BBランク』の『ヨクン・シーベル』が責任をもって案内を勤めさせていただきます。こちらの二人は僕の助手です」

「ありがたい。『ウォールグルト=ビグダム』だ。これからよろしく頼む」

二人は堅く握手をする。

彼らの旅路は、少しの躓きをえて、こうして始まりを告げたのだった。

◇◇◇

『表層域』を抜け、本格的に樹海へと入ってから数時間後のことだった。

樹海の中で、一行は立ち止まっていた。

集団の中に姿のないヨクンは一人で先行して、すでに検討をつけている安全な場所を見て回り、今日の夜を越えられそうな場所を探しに出ていた。

そのため残された者たちは現在、ヨクンが戻ってくるまでの待ち時間といったところだった。

そんな集団から少し離れた場所で、隊長と副隊長の二人が会話を交わしていた。

「どうでしょうか、隊長」

長髪の副隊長は未だ納得いっていない腕章を気にしながら、尋ねる。

その様子を隊長の『ウォールグルト』は気にもとめない。いや、それどころではなかった。少しでも情報を得るため、全神経を研ぎ澄まして集中していた──発動している【スキル】の感覚に。

やがて【スキル】の使用を終えたウォールグルトが、副隊長の質問に答える。

「いるな」

副隊長は腕章に向けていた視線を外し、真剣な面持ちの隊長と視線を合わせる。

何がいるのかを尋ねる必要はなかった。すでに副隊長は任務の全容を把握しているし、今隊長が何を探っていたのかも知っている。なので共有すべき情報は、【スキル】の結果だけで構わず、それは既に簡素な一言で済んだ。

だがウォールグルトは、齟齬がないよう正確に情報を共有するため副隊長の質問に──

「この樹海に『勇者』がいる」

──と。

最後まで答えきった。

ウォールグルトは【種族感知】のスキルを使って周囲に種族『勇者』がいないかを探っていた。

そして結果として、【スキル】は『勇者』を感知したのだ。

「それもこの感覚──『二人』だ。

最低でもこの樹海の中に、勇者が『二人』いる」

「ならば、予定通りこのまま樹海の奥地へ?」

「あぁ、それが任務だからな」

「了解致しました」

ウォールグルトと副隊長は会話を終え、何食わぬ顔で集団の中へと戻る。

それから少しして、ヨクンが戻ってきた。

一団は休息ポイントへと移動し、陣を作る。次の日から始まる本格的な移動にしっかりと備えるために。

「今回の『目的』ですが──」

ヨクンは、ウォールグルトを呼び出してそう切り出した。

「先ほどもいった通り『ケルラ・マ・グランデ』は、元々人間の国があった場所ですが、現在は『魔族領』として認知されています。本来なら魔族領であれば我々人間は警戒しなければならないはずですが……これだけ広大な領域を掌握しきるなんて、到底無理な話なので、事実上ここは『未踏領域』です。樹海を進みすぎて突っ切るなんてことをしないかぎり、『魔族』と鉢合わせることはまずないとみていいでしょう」

その後ヨクンは事務的な口調から素に戻して、冗談交じりに「人間と魔族が争った結果そのどちらもここにいられなくなったというのは、『元凶』の性格を感じますけどね」と苦笑いを浮かべながら言った。

ウォールグルトは、その言葉を聞いて笑えなかった。

自分たちは樹海に呑まれた国の人間というわけでもない。しかし魔族と争って勝つわけでもなく、結果として、生きる場所を奪われるなんて出来事。人間という種族全体で共有すべき恥であり汚点だ。やはりどうしても聞いていて気持ちのいいものではなかった。

ヨクンはそんなウォールグルトの内心を察してか、察さずか話を戻す。

「ですので今回あなた方が『目的』としている

『魔族』がこの樹海にいるかどうかは、僕もわかりません」

切り出された話に、ウォールグルトは顔色を変えずに返事をした。

例え先ほど副隊長と交わした目的とヨクンの言った目的に齟齬があろうとも。

「ヨクン殿は、存じあげないか?」

「そうですね。僕は物心ついてから樹海と共に育ってきましたが、見かけたことは一度もありません。ただいるかもしれないという『噂』だけは僕も耳にしたことがありますよ。なんでも『魔族』の中でも一番珍しく、また『美しい』種族だそうですね」

ウォールグルトはヨクンの言葉に頷く。

その『魔族』の存在を頭に浮かべて、さらに一言付け加える。

「それに『特殊』でもある」

ウォールグルトは周囲の気配に集中してスキルの【種族感知】を使用した。魔族の気配に絞って感知を行うが、しかし反応はなかった。このスキルの範囲は中規模な街一つぐらいなら全域を覆うほどの範囲があるが、さすがにこの樹海は広すぎて無理だ。『本気で探す』なら、奥へと進みながら一定の距離ごとにスキルを使用する必要があるだろう。

「──それで確認ですが、今回の目的は『それだけ』ですか?」

その言葉に感知スキルから意識を戻し、ヨクンの方へ視線を戻す。するとどんな挙動からでも情報を掴まれてしまいそうな、深く探る二つの瞳が自分を射貫いていた。

先ほど聞いたヨクンの情報を思い出す。冒険者ギルド『BBランク』という値は決して低くなく、侮っていいランク帯ではないことを実感する。

「大樹海にいるかもしれない『魔族』の噂は、数年も前からずっとありました。もし魔族を探すのなら、その噂が出た当時でよかったはず。なのになぜ今になって動き出したのか、『今』でなければならなかった理由……普段とは違う『樹海』の要素が──」

「──ヨクン殿」

ウォールグルトは武器へと手をかけながら、名前を呼んだ。

これまで他の者がどれだけ逆上しようと、彼だけは冷静さを保っていた。しかし今の彼の雰囲気は、今すぐにでも剣を抜いてしまう剣呑さがあった。

「それ以上は『シープエット』を敵に回す。

過度な詮索はお互いが不利益を被る。違うだろうか?」

「……そうですね。失礼しました」

ヨクンは敵意がないことを示すために小さくあげていた両手を、苦笑しながら下ろした。

「しかしこれだけは確認しておきたいです。

あなた方の『目的』はこの集団を『窮地』に追い込むものではありませんか?」

「あぁ。誓って意図的に窮地を呼ぶものではない」

「そうですか、それが確認できて安心しました。では僕たちはこれより一心同体です。

お互いの『目的』のために樹海の奥地を目指して頑張りましょう」

お互いの目的……。

その言葉に引っかかりを覚え、尋ねる。

「……ヨクン殿の目的は何だ?」

「僕の目的ですか?」

キョトンとした顔で、不思議そうに返した。

「言いたくないならば──」

「僕の目的は『異変』ですよ」

隠す必要がないとでもいうかのように、さらりと、ヨクンは言い切った。

「『異変』?」

「そうです。ウォールグルトさん。

僕がこの樹海で起きている『異変』が分かるって言ったら、信じられますか?」

「…………ありえなくはないだろう」

それは【スキル】か【ユニークスキル】か。はたまた【能力】か……。

そういった力があれば決して不思議な話ではない。

考えていることが分かったのか、ヨクンは苦笑しながら言った。

「これは【スキル】というほどの力ではないんです。ただなんとなく、昔からわかるんですよね。僕たちが樹海に対して抱いている『普通』と、現在の『樹海』の『差異』が感覚でわかるんです。あるいは波といっていいかもしれない」

「波……」

「はい。例えば樹海に何か普段とは違う異変があったとしますよね? するとその異変をまず真っ先に察するのは、樹海の中の生き物たちです。その生き物は異変が大きければ大きいほど、身構えたりおびえたりします。その様子を、さらに別の生き物が見て異変を感じる。その察した生き物を、と……。そうやってリレーのようにして伝わってくる、大樹海の『異変の波』のような物に対して敏感なんです」

「……その『異変の波』を感じれたとして

具体的にそれからどのような事が起こるのだ?」

「そうですね、『異変の波』を感じた後は大抵が碌でもないことがおこりましたよ。

樹海の奥地にしかいないはずの辿魔の魔物『ディガディンディル』が表層域に現れたり、増えすぎた大量の『リョカシッパネ』が街へ雪崩れこんだり、樹海で横行していた『赤角病』が街に持ち込まれて広がる……とかいったところですかね」

ヨクンの言ったものは、どれもが甚大な被害が想像できる『災害』といっていいものだった。

名前は聞いたことはないが強大な辿魔は一体でも街に紛れこむだけで被害はこの上なく、『リョカシッパネ』は虫の魔物で弱いがどんな隙間からでも食料のあるところに入り込んで根こそぎ食い尽くしていく。『赤角病』は魔物も人も関係なくうつる赤い角が生える治療困難な伝染病だ。

もし自分の住んでいる国で起きたら……と。想像するだけで背筋が凍る。

きっと何万人も人が死ぬだろう。逆にいえば彼の街ではそれだけの数が──。

「それらを本当に事前に察知できるなら、凄まじいの一言につきるな……。

たったそれだけでどれだけの命を救えることか」

そう言うと、ヨクンは暗い顔をして「いえ……」と首を振った。

「僕に分かるのは『異変が起きている』ということだけです……。

『どんな異変』が起きるのかは分からない。僕のことを信じてくれる親や兄弟、友達なんかは注意をしてくれますし実際そのおかげで無事でした。でもそれだけです。街が異変に飲み込まれるのを黙って見ていることしかできませんでした。根本的にどうにかするためには、異変そのものを、街が襲われるよりも『前』に知らなければ意味が無いんです」

「……それがヨクン殿の目的か」

「えぇ、樹海の奥地と『異変』の調査。それが『僕たちの目的』です。

ですので先に断っておきたいのですが奥地では僕たちのチームの一人か二人は別行動をする可能性があります。もちろん依頼である案内を優先させるため必ず一人は置いていくので依頼に支障は出しません」

ウォールグルトは少しの間思考を巡らし「構わない」と返事をした。

事前の冒険者ギルドではなかった事項だが案内には確かに支障がなさそうだった。それに今の話を聞いた後には断りづらいというのもある。『異変』の話が本当ならばヨクンにはその存在をしっかり把握してもらわなければ、へたすれば自分たちが襲われるなんてことになりかねない。

「今回の『異変の波』は大きく、長く続いています……。

魔物も植物も何もかもが、確かな異様を感じ取って、何かがおかしいのに。

それが何かはわからない。想像すらつかない。とにかく注意をしながら進みましょう」

「……期間があるのか?」

「そうですね。例えば先ほどあげた街を襲った異変は

どれも波を感じてから『一ヶ月』から『三ヶ月』くらいの期間で現れました」

一ヶ月から三ヶ月……。

考え込むようにウォールグルトは小さくつぶやく。

それから当然沸いた疑問を、ヨクンへと尋ねた。

「今感じている波は一体どれほど前から?」

「『一年』くらい前です」

一年……と呟き、顔をしかめる。

ただでさえこの樹海の認識が甘いと言われ、修正をしたというのに。

どうやらまだこの樹海の危険性の理解が足りなかったらしい。これ以上あがってもらっては任務どころではないというのに。

「期間は、その……。

こういってはなんだが『規模』と関係があるのか?」

「どうなんですかね? 僕もこんなに長く感じるのは初めてですからよくわかりません。ただどちらにせよ答えは『樹海の奥』にあると僕は思っています。

『異変』はあるのか、無いのか。大きいのか、小さいのか。

そもそも『異変』は何なのか──その答えは樹海を進めばわかるはずです」

ヨクンの言葉に頷いて、深く息をはき出す。

軽く目的を聞くだけのつもりだったのに、とんでもない話をきいてしまった。

上がっていた肩の力を抜いた時、自分がヨクンとの会話に緊張していたのに自覚する。だが彼との会話はそれほどの内容だった。

緊張をほどいた途端、少し冷えた風が身体をなでて軽く身体が震える。

「寒いな……」

そうつぶやいたときだった。

視界を白い何かが横切る。そのままそれを眼で追って、地面へ一直線に落ちていったそれを目に入れたとき首をひねりながら呟いた。

「雪か」

確かに寒いわけだ、と軽口を言うと──

「え……?」

呟いた言葉にヨクンが反応する。

空を見上げると、薄い曇り空だ。そこから雪が降っている様子はない。どこから降ってきたものなのだろう。

ヨクンが気候を観測できる助手に尋ねると、どうやらかなり遠くの沿岸部の方に分厚い雲がかかっており、そこで雪が降っているそうだった。樹海の沿岸部なんて大陸の端も端だ。樹海にほぼ入ったばかりのここからじゃ、尋常じゃない距離があるというのに。そこから風にでも流されて降ってきたものだろうか?

「雪……?

まだ『ココリス』が終わったばかりの『ル・コクア』の季節に?」

それからもほんの少しだけ、風に流されて振ってくる雪をヨクンは両の手を開いて受け止めていた。

その冷たさを何度も確かめるように、手のひらを開いては閉じる。雪が溶けきった頃にようやく、動揺を隠しきれず言葉をもらした。

その様子に、ヨクンと言葉を交わさずとも察した。

この『雪』がこの季節の樹海ではない、『異常』だろうことを。

「(これもまた、『異変』の一つだろうか?)」

ウォールグルトは疑問に思う。

だがその疑問に、自分が持っている答えはたった一つだけだ。

その答えを知るためには、この場所はきっとまだ『浅すぎる』、と。

それだけだった。

◇◆◇

──唐突な話。

『環境魔獣』に、縄張りを示す習性は存在しない。

身体をこすったり、尿をかけたり、威嚇したりなど。あえてここを自分の縄張りだと主張する行動のすべてを『環境魔獣』はする必要がない。

なぜか。

それは主張するまでもなく、ありありと、示しているからだ。

これ以上ないほどの形で。彼らは縄張りを示している。

構築された環境──それそのものが環境魔獣の縄張りの示威であり、また領域そのものだ。

「じゃあ、雹は帰宅ね」

「クゥ~ン……」

「そんな風に鳴いても駄目」

もうずっと木の陰に隠れ続けている雹に言い放つ。

俺がどうするのかを感じ取ったのだろうか?

嫌そうな声をあげて、頭から首を木にこすりつけている。

まるで病院にいくのを嫌がるペットのような状態の雹を前に、ため息をつく。

五日間氷の道を走り続けてたどり着いた大陸。

終焉の大陸とは違ってここの大陸の入り口は、とても高い絶壁だったが

そこは身体能力に物を言わせて強引に突破した。

ちなみに日暮は無理そうだったので飛べるティアルにパタパタと持ち運ばれていた。

吐いたため息は、白かった。

当然だった。周囲一帯では大分強めに、雪が降っているのだから。

既にかなりの量が降ってるし、吐いた息は白いし。

氷の環境魔獣である雹の力によって、すでに環境が構築されはじめていた。

まるで樹海という環境を侵食するかのように。このままだとここは豪雪地帯の仲間入りを果たしてしまうだろう。

聞けば普段のこの時期のこの場所は、間違っても雪は降らないそうだ。

雹も複数ある【魔物園】の一つ『氷雪領域』を管理する仕事があるし、五日間出っぱなしで相当負担をかけている。これ以上こちらの都合で空けるわけにもいかない。

寒いし、デカいし、目立つし。

はっきりいってこっちではいなくても大丈夫。

でも向こうは雹が必要だ。

うーん。

考えれば考えるほど、選択肢が一つしかない。

とりあえず雹は帰宅。これは決定事項だ。

「雹……。送ってくれて助かった、ありがとう」

そう言って、にっこりと笑いながら近づく。

雹は口から舌を出して、喜んだ様子でその場で何度も跳ねはじめた。

身体が無駄に大きいので、地味に地面や木などがえぐれている。日暮が若干引いていた。

「(単純な狼だな……)」

内心でそう思いながらも、笑顔を絶やさないようにしながら──

「【部屋創造】──【門作成】」

【能力】を使って【門】を作成する。

【門】は【部屋創造】で作られた【部屋】に部屋の外から繋いだり、あるいは部屋同士を繋ぐ事ができる。

役割で言えば【ドア】と全く変わらない。ただドアと違って何倍も大きくて、通れる所も広いので、雹のように身体が大きくてドアを通れない魔物でも通ることができる。

その分【部屋創造】の能力を使うために必要な【RP】が高くついてしまうが。

あまり気軽に設置することはできないので、ドアよりも設置する場所は、しっかり考えなければならない。

「(まあ今回はご愛嬌だけど)」

ゆっくりと【門】が現れる。

重厚さを強く感じる意匠がほどこされており、さながら地獄にでも繋がっていそうな異質な【門】。

むき出しに置かれたドアも『一体これは何だ……?』と思わせる不可思議さがあるが、むき出しの門というのもドアとはまた違って、『明らかに何かヤバい』と思わせる不可思議さがある。

喜んでいる雹の背後へ、気配を消して回り、開いた【門】の中へ毛むくじゃらな身体をグイグイ押し込んでいく。半分押し込んだ時点で、雹は諦めたのか自分から中へと入っていった。

なんだか妙な達成感を感じながら、両手を払い、放置気味だったティアルと日暮のほうへ向き直る。

二人は雹とのやりとりを口を挟まず、寒い中だまって傍で見守り続けていた。

「待たせて悪い」

二人は、厚手のコートに身を包んで、こちらを見ていた。

赤い髪の少女は少しむすっとした表情を浮かべている。また悪魔と喧嘩でもしたのだろう。

もう片方の、悪魔と言えば──。

「フッフッフッ、ハハハハ」

笑っていた。

堪えきれないと言った様子で。

楽しくて、面白くて。愉快で可笑しくて仕方ないといったように。

笑い声を、あげていた。

「どうしたんだ? そんな笑って」

そう尋ねると。

「ふふふっ、いやぁ、すまぬの。

ただどうしても抑えきれなくての。

ついに──『繋がった』と、そう思うとのう」

「繋がった?」

「『世界』と──『終焉の大陸』が、の」

そうか、と答えながらも内心で首をひねる。

終焉の大陸にいるのはとんでもない事だと、口酸っぱく言われてきたけれど。

まだ終焉の大陸を出て日の浅い俺には、やっぱりどうも理解しがたい。

ただ日暮の表情がさらにむすっとした様子から、あんま触れないほうが良さそうだ。

「まぁ、ほどほどにな」

適当に流して【門】へ身体を向ける。

開きっぱなしの【門】に向けて、頭の中で『閉まれ』と命じる。

たったそれだけで重苦しい門が地面とこすれる音をあげながら、ゆっくりと自動的に閉まっていく。

「さて、それじゃあ──」

雹を帰して、ここに残っているのは三人だ。

俺、日暮、ティアル。

奇妙な三人組だ。だがとりあえずはこの三人での行動になるのだろう。

なので一度相談や確認の意味もこめて、尋ねたつもりだった。

これからどうするか、と。

だが言葉が最後まで出ることはなかった。

──ガンッ。

金属に何かが当たったような高く響きのある音が、言葉を遮った。

周囲は森で金属物なんてあるはずもない。だからその音は、ついさっき設置したばかりの【門】からあがった音で間違いなかった。一方で聞こえていたはずの、地面を引きずっていた音が止む。

門が閉まりきった音だろうか?

いやもう何度も開閉しているから感覚で分かる。門が閉まりきるには少し『早い』。

不思議になって【門】に目を向けてみれば、微かな隙間を残して門は不自然に止まっていた。そういう機能があるわけでも、【門】の構造に不備があるわけでもない。

ということはつまり──誰かが閉まっている途中で【門】を止めたという事だ。

「誰だ?」

首をひねりながら呟く。

重いはずの門が、再び地面をひきずりながらゆっくりと開いていく。

同時に、【門】を止めているだろう人物の姿が現れる──

「ピヨピヨ」

隙間から水色の鳥が飛んで現れた。

歌うように鳴きながら、肩に止まる。

「(……いや、彗じゃなくて)」

もちろんだが、門を開け閉めしているのはこの鳥じゃない。

再び視線を門に戻すと

──ひょこり。

そんな音が聞こえるかのように、『白い髪』が見える。

それからすぐに門は開き切って、全容が露わになった。

「むっ……」

「あっ……」

ティアルと日暮が、その姿を目にいれて、それぞれ声を漏らす。

驚いたような日暮はともかく、少し嫌そうなティアルは何があったのだろう。

結んだ二つの、白い髪の束が頭の両脇で揺れていた。

着ている『メイド服』は部屋にいる誰よりも、かわいらしくアレンジされている。

表情はいつもそうであるように、楽しそうな笑みをにっこりと浮かべていて。そして一切崩すことなく、彼女はその表情のまま言った。

「──使用人、『千』参りましたっ!」

たぶんだけど、訂正をしなければいけないのかもしれない。

奇妙な『三人組』と言ったが、そうではなく。

さらに奇妙な『四人組』と一羽での行動に、

どうやらなりそうだった。