軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第2話 VSゴブリン

俺が森歩き出してから数分後のことだった。

「ギィ」

「ギィギィ」

何かが擦れるような不快な鳴き声が聞こえたので木に隠れて様子を伺ってみると、黒に近い緑色の肌で中肉中背に近い体型をした謎の生き物がいた。

だがそれは初見で確認をとっていないというだけで大体想像がつく。

──ゴブリン

そう、ゴブリンだった。ゲームの序盤や雑魚キャラとして表現されがちなあのゴブリンだ。

だが俺の想像する雑魚のゴブリンとは少し違った。それは異世界と俺たちの世界の少しの食い違いによるところなのか、それとも…。

生きるために発達されたしなやかな筋肉。持っている何かの動物の牙と爪で作られたのだろう槍と剣は使い古されていて幾千の戦いを共に潜り抜けたことが伺える。そしてそれは鋭い視線からも幾度の戦場を察する事ができた。

これが雑魚の佇まいなのか…?

とりあえずこんなときの鑑定だな。

「【鑑定】」

♦︎

ウォーゴブリン LV322

種族 ゴブリン

スキル

縮地 LV10

一刀両断 LV3

剣術 LV14

環境適応LV20

飢餓耐性LV11

ウォーゴブリン LV388

種族 ゴブリン

スキル

氷魔法 LV9

炎魔法 LV9

堅牢LV5

環境適応LV20

飢餓耐性LV11

♦︎

ごくりと唾を飲み込む。この音で見つかる可能性があったがそれでも唾を飲み込まずにはいられなかった。

強すぎる。

だめだ。これは勝てない。俺のレベルはまだ1なのにたいし、あのゴブリンたちは三百を超えている。この世界のレベルがどのくらい信用できるかはわからないが彼らの歴戦を感じさせる佇まいは信用できる。

やつらはヤバい。

ゴブリンが弱いなんて常識、誰が作ったんだ。

俺はその場からすみやかに離れるため体を反転し、目の前の光景をみて体を再び硬直させる。

なぜなら…

「ギィ…」

後ろの方向からもゴブリンが来ていた。

まだ俺に気づいていない。だがこっちのゴブリンには木の奥にいるゴブリンたちと比べて遮るものが何も無い。バレるのも時間の問題だ。

どうする?逃げるか?どこに?どうやって?

ふわりとした風が後方から流れてきて、それが体に当たる。

そしてその風とともに

「ギィ」

とゴブリンの鳴き声が耳に届いた。

そう、その声は俺のすぐ真後ろから。

声と共に吐き出された吐息が俺にかかるほど、本当にすぐ真後ろからだった。

振り向く手間をも惜しみ、前へ転がる。

その直後、転がっているときにちらりと舞い上げられた葉っぱがキレイに真っ二つに分かれるのが見える。それは丁度さっきまで俺がいた位置を舞っていた葉っぱだった。

ゴブリンによって斬られたのだろうか。

断定はできなかった。剣筋が見えなかったからだ。

転がった勢いをそのままに逃げるため走りだす。

だが、走った方向がいけなかった。前方にはさっきこちらに近づいてきていたゴブリンがいたのだ。

前方にいたゴブリンがこちらに気づき、目と目が合い思わず足を止めてしまう。そしてその隙を追って来たゴブリンが逃すはずもなく、剣がのどへ突き刺さった。

「ぎゃああああああ!!!!!」

醜い悲鳴が森に響く。その悲鳴をあげたせいでドクドクと剣と喉の間から血液が漏れ出た。耳をすませば空気がその傷口を通して出入りしていることもわかる。

喉に刺さった剣を抜こうと体をじたばたさせる。だが、ゴブリンは剣を高く掲げるようにし、足を地面から離させることで踏ん張れないようにした。

ゴブリンは手に伝わる感触が弱くなるのを感じ狩りの終わりを悟った。

手に感じる振動がなくなったとき、ゴブリンは達成感を感じていた。

ゴブリンは、仲間のゴブリンがやってくるのを待つ間、剣が刺さった既に息絶えた獲物を見ていた。苦悶の表情を浮かべたままの獲物の姿を。

──久々の狩りで得た獲物だ…仲間たちに自慢できるぞ

そんなことを思っていたときだった。

視覚にブレを感じた。一体何なのか、ゴブリンはブレを感じた獲物から目を話さずさらに目に意識をいれ注意深く息絶えた獲物の姿を観察する。すると少しずつ、まるで『夢から覚めるように』、獲物の姿が自分と同じ種族のゴブリンにかわっていく。

その姿を見て愕然とした。それも仕方がなかった。倒した相手を実は倒していなかったから…ではない。

なぜならそのゴブリンの死体は、彼と一緒に狩りにでていた同じ仲間のゴブリンだったからだ。

その後、森にはゴブリンの鳴き声が響き渡った。その声には悲しみか怒りか、何かは分からないがとてつもなく強い『感情』が篭っていたことだけは確かだった。

♦︎

「フゥーフゥー」

俺は息を整え、木の根元に腰掛ける。

「なんとか、逃げ出すことができたな」

【ペテン神】、本当に便利だ。使い方に工夫がいるが相手を騙すこと偽ることに関してはものすごく頼りになる。取ってよかった。

俺がゴブリンに追われているときゴブリンがいる方へ逃げたのはわざとだった。

あのとき、前のゴブリンは俺に『背を向け』て歩いていた。俺はそのゴブリンに背後からせまるゴブリンから見て重なるように走り、重なった瞬間【ペテン神】を使い『目の前にいる生き物が獲物だ』という背後のゴブリンが感じていた『固定観念』をさらに強化させた。

あとはゴブリンの視界から横に転がりフェードアウトするだけ。彼は知らず知らずのうちに俺の前にいたゴブリンを俺だと思いこみ剣で突き刺したのだ。久々の獲物なのか、興奮してたからよけいに暗示をかけやすかった。

腰を落ち着けてから数分後。なにやら遠くからドタドタと物音が聞こえはじめた。そして、その音は少しずつ大きくなっていく。どうやらその音はこちらの方向へ向かって来ているようだ。

異様な雰囲気を感じ取り、立ち上がって音の聞こえる方向を注視する。かなり遠くだがなにやら土煙が上がっていた。

土煙の根元は黒の塊だった。

黒い塊…あれが土煙をあげている原因か?

いや、あれは…

クソ、まずい!ゴブリンの集団だ!俺を追って来たのか!?

俺はゴブリンの進行方向に対して真横の方向に走りはじめた。進行方向上に逃げるといずれ追いつかれるし俺を追って来てないのならそのまま通りすぎてくれれば御の字だからだ。

だが後ろを振り返ると信じられない、というか信じたくない光景を目にする。

ゴブリンの集団は少しずつこちらへ、まるで俺の位置がわかっているかのように進行方向を曲げて来たのだ。どうやら狙いは完全に俺のようだ。

敵討ちか?でもやったの俺じゃないぞ!

というか。

「なんでッ位置…わかってんだよッ!」

クソ。何かで俺の位置を完璧に把握してるのか?これじゃあペテン神でごまかしてもその『何か』で見破られる可能性がある。【ペテン神】は悪手だ。

全身を余すとこなくフル稼働させて全力で走る。学生時代でもこんな本気で走ったことはなかった。

「何か、何かないのか?スキルとか魔法とか、何でもいい。状況を打破できる何かッ!」

走りながらも後ろをちらりと振り返る。粒のようだったゴブリンの集団は既にかなり近づいていて、一体一体の表情が見えるほどだった。そしてその伺える表情にはゴブリンのことを全く知らない俺でも『怒り』に満ちているとはっきりわかるくらいには、強烈な形相をうかばせていた。

早すぎる。こっちも全力で走ってるのにまるで振り切れる気がしない。

何か、何か手段は。【物質転移】、はだめだ。あれは物を一方的に送るだけで俺自身は転移することはできない。物を送ろうにも手元にはなにもない。何か他にまだ使っていないスキル。

「そうだ!【暗黒召喚】!」

なんとかこの状況を打破する一手となることを願い、走りながらユニークスキルの【暗黒召喚】を発動した。

手が眩く光り、掲げた先に何かの『力』がたまっていく。

そしてその直後、力がたまっていたところにボンッと音を立てて『ある物』が現れた。

それは俺も見覚えのある物だった。虹色のある物。いちごかぼちゃごぼうメロンパンだ。思い出しゲロをするほどまずい通称『暗黒パン』が空中で召喚され、コロコロと地面に転がっていった。

え…これだけ?

「うそだろおい!」

心に何か黒い感情が大量にわき上がるが無視する。そんな場合じゃない。

「クソ…何か…」

「ギィ──!!!!」

怒りの篭ったゴブリンの声が響く。どうやら俺をすでに射程圏内へ入れたようだった。声が聞こえた感じでも距離はもう既にすぐ後ろにはいそうだ。

「何か…何か使ってない『スキル』…」

『スキル』…?

そうだ。まだ使ってないのがあったじゃないか。

『スキル』じゃない。『能力』だ。能力がまだ俺にはあったはずだ。

「ギィーーー!」

あと数秒で追いつかれるところまできている。一番速いやつは俺の右後ろで今にも剣を振ってきそうだ。

「もうこれが本当に最後!【部屋創造】!」

発動してから数秒、そのままゴブリンに追われ走り続ける。

が、何も起こらない。

終わった。

ゴブリンに串刺しにされてる映像がふと頭によぎる。死ぬのか、俺は。

後悔があるとすれば一つだけ。それは父と母だった。俺を育ててくれた、尊敬する父と母。その二人の顔が頭に浮かぶ。

異世界に行くことが決まったときから、俺は二人に何も言えなかったことをずっと後悔していた。せめて別れの挨拶くらいはしたかった。両親のことが俺は好きだったから。

「父さん…母さん…悪いな…」

そんな絶望が一瞬俺を覆ったとき、目を疑うようなおかしな事態が起きた。いや、おかしなというよりはふざけた事態と表現したほうが的確かもしれない。

『ドア』が現れたのだ。

そう、『ドア』だ。

ドアというのは何かに入るためのもの。入り口だ。入る『先』があって初めて、『ドア』は『ドア』として存在できるものだ。

だがそこに現れた『ドア』は本当に、建物についているとか家にくっついているとか、全くそういうことはなく、一般的な外開きのドア『だけ』がポツンと地面に立っていた。

そしてそのドアは、軋むような音を立てながら少しずつ開いていく。

俺はその光景を見て直感で感じた。

『あそこ』だ。『あそこ』まで逃げ切れば俺の『勝ち』だ。あれを俺の最後の希望にしよう。

「うおおおぉぉおおお───!!!!」

筋肉が引きちぎれそうになるくらい無理矢理稼働させ体を加速させる。

すると体に電流のような鋭い痛みが走った。肩から刃が生えている。どうやら後ろのゴブリンが槍を投げたらしい。

だが、そんなものに構ってやらない。止まってやらない。俺を止めたいなら心臓に刺すんだな。

「ギィィイイイ!!!!」

後数歩でドアまで辿り着くというところで頭上を『何か』が通り過ぎていった。そしてその『何か』は、俺とドアの間を遮るようにして落ちた。

何だ?

「ギィーーー!!!」

その『何か』はもぞもぞと立ち上がる。

「うそだろ…」

正面に一体のゴブリンが立ちふさがった。もしかしてゴブリンがゴブリンを投げたのか…?

だがもうスピードは落とせない。そうした瞬間、俺は後ろのゴブリンたちに追いつかれる。止まるのは『敗北手』だ。このままトップスピードで前に進むしかない。

「【物質転移】!」

俺は地面から足を離す瞬間、咄嗟に『足のつま先』にふれていた『土』をすぐ目の前に転移させた。それもできるだけ多く転移できるように全力で。

ぽっかりとした大きめの穴が地面に空く。そしてそれと同時にゴブリンと俺の間になだらかな山ができあがった。人一人分くらいの割と大きい『土の山』だ。

トップスピードを維持したまま山にかけのぼる。

ゴブリンを俯瞰で見下ろせるくらいの高さ、土の山の一番上で駆け上がった勢いをそのままに思い切りジャンプした。

真下をゴブリンが通る。

さっきとは『逆』だ。俺がゴブリンの頭上を飛び越えていた。

一瞬驚愕に染まったゴブリンが咄嗟に俺へ突き伸ばした槍が足の臑あたりをズボンごと切り裂く。だがそれでも俺が止まる事は無い。転がるようにしてドアの中へ入り込んだ。

その直後、追うように大量のゴブリンがドアへ群がろうとする。

あれ?これゴブリンたちに入られたら終わりじゃないか?

「お前ら入ってくんな!入ってくんじゃねぇ──ッ!」

「了。『ルームルール』を設定します。なおこの設定には3000RPが消費されますのでご注意ください」

後ろから突然女の声が耳に入って来た。

「ルームルールを設定。

ルールその一『害意のあるものの侵入を禁ずる』」

女の声がさらに続く。そしてその声が何かをした瞬間、ドアをまたいでいたゴブリンの足が消えていった。

死んだのか?いや、違う。ドアを入ろうにも体がドアを通り抜けられないようだ。足が消えたはずのゴブリンの足が再びドアの外で現れては消えている。どうにかして入ろうと試しているのだろう。

「助かった…のか?」

「ご無事で、我が部屋の主様」

さきほど俺を助けた女の声が聞こえ、声がしたほうへ振り返る。

そこには灰色の髪の毛をしたキレイな女性が礼儀正しく立っていた。