軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第19話 自己紹介しませんか

「自己紹介しませんか?」

白髪のオトコ、 清(せい) が言った一言は先ほどの騒動で重くなったこの空間に清々しい風が通り抜けるかのように場の空気を一転させた。

といっても私は先ほどの騒動がなんで起こったのかも知らないのだけれど。

席が反対側だし。わざわざ面倒ごとに突っ込むタイプでもないのだ、私は。あのまとわりつくような冷気には少し驚いたけれど。

ちなみに何故私がこの白髪のオトコの名前を知っているのか。提案されているのだから自己紹介をしたわけでもないはずなのに。

その理由は……

「清さんに賛成ですっ!」

清に今まさにすり寄っている、この桃髪の女がここぞとばかりにこのオトコの名前を連呼するからだった。

桃髪の女は私の座っている列ではなく、その向かいに桃色の席がある。けれど桃髪の女はその席に座ることはせず、その隣にある空席の灰色の席に少しでも清との距離を縮めるために座っている。ご丁寧な事だ。

それでも間に黒髪の男の子がいるのだけれど、まるで空気のようにいない体で清と桃髪の会話に挟まれている。少し気の毒だ。

といっても私も彼女と似たような事をするのであまり悪くは言えないのだけれど。強い男に擦りより庇護下に入るのは弱い女の特権なのだから。

桃髪の女がいなければあの位置は私だった。先にやられてしまったから、邪魔をしないだけ。

男は他にもいるし、あの白髪の男が当たりだとは限らないのだ。

負け惜しみか……。

「はぁ……」

隣に座る眼鏡をかけた緑色の髪の毛をした男に気づかれないようにそっと溜め息をつく。

隣の男はブツブツと何かを呟き、周りを見回しては熱心にメモをとっているので話しかけ辛い。

隣も正面もこの調子で、一番端にいる私は一人で時間を潰す事を余儀無くされていた。

溜め息の勢いで、少し位置のずれた紫色の髪の毛が目に入る。

あの白い空間では確かに茶色だった。

なのに、強い光に襲われ再び目を開けると私の自慢の髪の毛はまるで産まれたときからそうだったかのように紫色に染まっていた。

紫色。正直おばさんくさい。

他の人に私の髪の毛はどのように映っているのだろうか。おばさんなんて言われたらぶん殴ってしまうかもしれない。いや、やっぱりショックで寝込むかも。

それでも私は、前でキャイキャイしてる桃髪の女みたいなド派手な髪よりはマシだと思うことにした。この女の後に見れば私の髪の毛の色も落ち着いていて、いいと思える。……はず。

「いいんじゃないですか?お互いのことを知っていたほうが後々いい状況というのも出てくるかもしれません」

「そうね。一応同じ境遇なわけだし、名前くらいなら知っておいてもいいんじゃないかしら」

そういえば自己紹介をやろうなんて話があがっていたのだった。

隣の男が賛成の声をあげ、さらに続く女の声でようやく今話している事柄が頭に入って来た。

後に続いた女の声は、先ほど騒動を起こしていた青髪の女の声と一致した。

さっきまで私たちを巻き込む騒動を起こしておいて、よくいけしゃあしゃあと賛同できるなと思ったけれど口にはださない。

あの騒動に巻き込まれて放り出されるなんてことになっていたら、私はあの女を一生恨んでいた。

「はい!じゃあ俺からやります!」

ガタッと勢いよく椅子から立ち上がる音と共に元気な声があがる。

視線を向けてみると、黄色の男の子が目に入った。

「じゃあ、トップよろしくね。皆さんもそれでいいですね?」

白髪の男、清が全員を見渡し確認したかのように頷く。

周りの人もどうやら異存はないらしい。

……これ、私も言わなければならないの?

「えっとぉ!俺、あ、いや僕の名前は 渡辺涼太(わたなべりょうた) って言います!17歳の高校生をやっていました!趣味は……」

黄色の子、渡辺君は立ったまま自己紹介をはじめた。

それにしても17歳の高校生なんて若い。私より5つも下だ。

「好きなたべものはチョコレート!ドラ焼きはこしあん派でそれから……」

話しているうちに盛り上がっていたきたのか渡辺くんの話しは少しずつヒートアップして関係のないことまで話の範囲を広げて行く。

「……で、それから……です!あ!でも……!……」

そして、そのまま5分ほど経つと部屋に微妙な空気が漂いはじめた。

誰か彼を止めてほしい。そんな共通の意識が空間内にできあがっていた。

しかし、その微妙な空気も渡辺君の発するある一言によって凍りつく。

「あ、あと能力は【経験値量増加】です!地味に結構チートじゃないかなぁって思ったりしてます!」

ぴしり。

そんな音がしてしまいそうなほど、一瞬で部屋の中の空気が固まる。

異状に気づいた渡辺くんは「えっ……えっ!?」と慌てながら周りを見回す。

しかし、その様子から見るに原因まではわかっていないらしい。

「クハッ……ここまでくると傑作だな」

吹き出すように笑いだす金色の席につく男。

切れ長の目や我の強そうな顔つきは結構好みだけれど、笑うのはかわいそうだと思う。

「……スキルや能力の情報は、あまり気軽に人に話さない方がいい。君の生死に関わる事だ」

橙の男が静かに、でも重みのある声で告げると、渡辺君は思い出したように自らの失態に気づき「はい……すいません……」とうなだれながら着席する。

私もさっきの騒動で、あの金色の男と青髪の女のやりとりがなければ同じ過ちを犯していたかもしれない。

『情報は大切』。その事を頭に叩き込む。

橙の男は「謝らなくて良い」と渡辺君に答えると周りを見渡して口を開いた。

「俺は 幌健介(とばりけんすけ) という。年齢は30、自衛隊員をやっていた。よろしく頼む」

渡辺君と違い、座りながら話す橙色の男、 幌(とばり) 。言葉自体も渡辺君と対照的に素っ気ないと言ってもいいくらいに簡素だった。

まぁあれは渡辺君のほうがおかしいのでしょうけど。

「自衛隊……」「すごい……」と、どこからか声があがる。

確かに自衛隊という肩書きはこういう非常時にとても頼もしく感じる。さっきも騒動をきっちり収めていたし彼自身も頼りになるタイプの人なのかもしれない。

でも顔は好みじゃないかな……。不細工ってわけじゃないんだけれど、堅苦しそうだし、話がつまらなそう。

「この順番から言うと次は僕、ですかね?」

幌の次に声をあげたのは、隣に座る緑色の男。

……って嘘でしょ。なんで勝手に順番決めてるのよ。

これじゃあ次、私じゃない!

黄色の席に座る渡辺くんの次に幌が自己紹介をしたことによって自然と渡辺くんから時計回りに順番が決まってしまったらしい。

隣に座る緑に、紫の私。そして私の列から向かいの列へと移り桃、空席の灰色を飛ばして黒、白、金、銀と続いて再び私たちの列へと戻り赤、青、そして最初の黄色へと戻る。

あぁ、もう。

私に順番が回ってくるのは避けられないとしても、もっと後がよかったのに。

「僕の名前は近月ペ……コホン、 近月天馬(ちかづきてんま) と申します。理系の大学院に所属していました。トップレベルの所ですので皆さんよりも一回り、頭の出来がいいですので何か困った事が在れば、無理せず私に聞いてきてくれて結構ですよ」

そう言いながら、長い髪の毛をよけ指で眼鏡を押し上げる近月。心無しか眼鏡がキランと光ったような気がした。

近月は、意識しているのかしてないのかは分からないけどいちいち言葉が癪に触る男だ。自然に私たちを見下している感じが言葉や視線から窺える。

確かに私はあんたみたいにいい大学行ってるわけじゃないけど、私のほうが人間として上よ!絶対に!

「えっ……今名前『ペ』って……。もしかしてペガサ」

黄色の子が皆が気になったであろう所を突っ込む。

「あ”ァ”!?」

内心「良いぞ、言ってやれ」って思ったけれど緑色の男の豹変具合と怒声の大きさに体がビクつく。

そして、ドクンドクンと内側から鼓動の音が少しずつ大きくなるのを感じた。

少しだけ汗がでる。

「なんだって!?もう一度言ってみろクソガキッ!」

「あ……いや、なんでもないです……」

「そうですよねぇ」

途端に柔らかい声に変わる近月。

どうやら穏便な顛末を迎えられたようだ。私以外は。

どくん、どくん。

近月のせいで、大きくなった心臓の音が一向に静まる事がない。

あーもう、最悪な気分よ。

怒声が嫌いだった。

いや、嫌いというよりは怖いと言った方が正しいのかもしれない。

いつからか。

いや、既になんとなくあの日からだろうなという予想はあるけれど。

でも明確にはしなくていい。

思い出すくらいなら、原因なんてあやふやで構わない。

いつからか、私は人の怒りという感情に強い恐怖を抱くようになった。

人の怒りという感情ほど、この世界で恐ろしい物はないと私は思う。

だから私は望んでいる。誰も怒らせることのない、平穏で安心で、お金に不自由する事のない日々というものを。

誰にも追われることなどなく……。

「私の名前は…… 小鳥遊芽衣(たかなしめい) よ。経歴は……まぁどうでもいいでしょ。まだどうなるのかわからないんだし。後、私のことは気軽に名前で呼ばないで頂戴ね」

私に向けられた、好気な視線へと答える。ただし、毅然とした態度で。

怒りの意志を向けられるのは確かに怖い。でも、ここで弱気な所を見せると人間というのは、すかさずに喰らいついてくる生き物だという事を私は知っている。

特に私と同じような類の女は容赦がない。私だって逆なら生き残るために骨までしゃぶりつくすだろうけれど。

幸か不幸か、ここにいる女性たちはそういうタイプではないらしいけれど。

赤の女の子は少し顔つきや瞳から真っ直ぐな感じが見て取れる。私とは似ても似つかない。

青の女の人は、自らの意志を持って行動している。ちょっと強引な所があるようだけれど。

銀の女の子はマイペースにうとうとと首を上下に振っている。

ただ一人、この女だけは私と同じ穴の狢だ。

「私は 白崎留美(しらさきるみ) っていいますっ!こんなことになっちゃって大変だけれど、皆で一緒に頑張って乗り切りましょう!」

桃髪の女。

名前は白崎留美というらしい。

両手を前に出して握り拳をつくりがんばるという気持ちを体で表現している。

私と同じような人間のにおい。なんとなく、分かるのだ。同じような人間というのは。戦いが起きる直前のにおいのようなものにもにていると思う。

桃髪の女、白崎留美はさっきまで清と話すために座っていた空席の灰色の席から、いつの間にか自分の桃色の席へと戻って来ている。この印象を悪くさせない手際や仕草や言動から感じる計算高さからも、私は見た目通りの女ではないのだと感じていた。

それにしても、『白崎留美』。どこかで聞いたことあるような名前。

「えっ!白崎留美ってSHF200の!?」

SHF200……。

SHF200は最近売り出し中の超大規模のアイドルグループだ。

オタク趣味の後輩がよく騒いでいたために、いつの間にか記憶していたらしい。皆同じような顔してるから名前覚えられないのよね、あれ。

黄色の子、渡辺君はどうやらそっちの趣味らしい。残念だ。

「えっ、あっ、分かっちゃいました……?」

少し狼狽えたあと、控え目に上目目線で肯定する。

「あ……はいっ!分かっちゃいました!」

顔を赤くしながら答える渡辺君。私が言うのもなんだけど驚くほどちょろい。コレから大丈夫だろうか、彼は。

その後も、自己紹介は続く。

黒髪の無口なクール系イケメンの 彰(あきら) くん。

むすっとしていて、嫌々な雰囲気を惜しげもなく晒しながらも寄せられる視線に耐えきれず、名前をぼそりと言って黙ってしまった。

それにしても何故名前のほうを言ったのだろうか。普通、人と関わりたくないのなら名前ではなく名字を言いそうなものだけれど。

それに対し白髪の 九重清(ここのえせい) はほんのりと優しげな笑みを浮かべながら、見た目通りの気さくさで名を告げ、軽くプロフィールを付け足した後最後に「困ったことがあれば何でも言ってほしい」と言った。

『俺の名前は 鳳蓮(おおとりれん) だ。足りない頭によく名前を刻み込んでおくんだな』

驚いたのは、金髪の男が名を告げたときだった。

他の人も、知っている人は知っているのだろう。その名前を聞いて目を見開いたり、口をあんぐりとあけていたりと顔に驚きの感情を浮かべていた。

『鳳財団』

鳳財団の当主が、まだ若い息子にかわったというニュースが数年前によく流れていた。私はあまり政治とか経済のことは知らない。けれど、その若い当主交代という話題だけにとどまらず、凄まじい勢いで業績をあげ、その勢力を拡大していく鳳財団の躍進はその後もたびたび報道された。

最初はただの物珍しさから流れていたニュースが、次第にその手腕や革新さを讃えるものに変わって行く様子が妙に印象に残っている。

そうして繰り返されるニュースに、刷り込まれるようにしてその名前は私の記憶へと刻まれた。

鳳財団、現当主鳳蓮。

そのニュースの出所が今ここにいるのなんて正直驚きが隠せない。

でも、現当主がいきなりいなくなって皆困らないのだろうかと思うのはよけいなお世話だろうか。

テレビで見た時よりも大分大人っぽくなり、髪が金色になっているが確かにあの自信に満ちた表情には見覚えが在る。

「おい、お前の番だぞ」

その鳳財団の当主、鳳蓮は今、いつまでたっても順番がきたのに言葉を発しない銀色の女の子にイラついたのか強めに声をかけていた。

「う……えあ……ご飯?」

眠そうな目をしながら起きる、銀色の女の子。

「違う。名前だ。早くしろ」

「名前? 穹峰(そらみね) 、 心螺(しんら) ……」

未だに場の流れを理解していないのか銀色の女の子、穹峰ちゃんは名前を聞いて来た金色の男だけに向けて名前をつげる。

一応微かに名前は聞こえたけれど……。確認のためにできればもう一度全員に向けて言ってほしい。

そんな願いを視線にこめ鳳蓮へとなげかける。

「よし、次だ」

満足げに頷き次を促す鳳連。私の願いは届く事がなかった。

一番端の席に座る、心螺ちゃんの次は順番からすると私たちの列へと戻り赤髪の子になる。彼女も渡辺君と負けず劣らずに若い。

「私は、 坂棟日暮(さかとうひぐれ) ……です。たぶん、この中では一番の若輩者になると思うが……思うけれどよろしくお願いします」

赤い席に座りながら、言葉を発し最後にペコリと頭を下げる坂棟。

「最後は私ね。私の名前は 幅音澪(はばねみお) 。困ったことがあればできうる限り協力したいとは思うわ。こうして同じ境遇なわけだしね。よろしくお願いね」

ちらりと赤紙の坂棟へ目を向けながら最後に言葉を発する、幅音澪。

長い青色の髪が彼女の凛とした美貌を引き立てている。

化粧もそんなにしていないのは、元がそもそもいいからなのだろうか。

別に劣っているとは思わないけれど、見ていると少しだけイラついた。

「おい、こっちに汁が飛んでいると何度も言っているだろ」

「もぐもぐ」

鳳蓮が銀色の穹峰心螺ちゃんに注意するが全く聞く様子もなく食を進めて行く。

自己紹介を終えると丁度タイミング良く料理が運ばれて来た。珍しいだけではなく、料理としても舌を巻くほどのおいしさだったので焦って食べる、銀色の心螺ちゃんの気持ちもわからなくもない。

ちなみに食器はなじみのある食器ばかりだった。ナイフやフォーク、スプーンに頼めば箸まで持って来てくれる。

「それで、私たちは結局これからどうすればいいわけ?」

料理も食べ終わり、時間を持て余した私は最初から私たちにぴったりと付いて回る美男美女の二人に気になっていることを問いかけた。ご飯を食べても私の心配は安らぐことを知らないのかもしれない。

「確かに。ここまでまだ何の説明もされていない。そろそろ、色々と話す必要があるだろう」

私の言葉に橙の幌が続く。

「ご安心ください勇者様。この国は勇者様を路頭に迷わすことは決して致しません」

二人のうちの一人、片割れであるイケメンの男のほうが私の質問に答える。いや、正確には答えていないけれど。私の心の中にある心配事に直接答えたのだろうか?

イケメンでなければ、気分が悪くなっていたかもしれない。

「いろいろとするべきこと、説明するべきことがあるのは存じております。ですが、まずはとあるお方々にあって頂きたいのです」

私たちに会っていただきたい?

なんだろう。王様とか?

「では、今お呼び致します」

ガチャリ。

大きな部屋の入り口を司る扉が開けられる。

少しずつ開く扉から現れたのは4人の男女。

それぞれが違う色の髪の毛をしている。

黄色、桃、白、金。

まるで、私たちと同じような色合いの髪をしていた。

「もしかして」

誰かが口に出す。もしかしたら私が無意識に発した声なのかもしれない。

「はい、彼らは皆様よりも以前に召喚された勇者様です」