軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ダイス

「関係すればとな?なるほど。もしかしたら可能かもしれん。だがお主はどうやって、どのようにして事前にスキルを見ることをダイスを振ることに関連付けるつもりじゃ?」

じいさんの目に好奇心の光が宿る。どうやら興味を持ってもらえたようだ。

「このダイスには0の目はないよな?」

「見ての通りじゃの」

「つまりこのサイコロを振ればどんな悪い目がでても必ず一個はスキルをもらえるんだよなぁ。だって最低が1だしね?うぅん…スキルは必ず最低『1個』貰える…それってその必ず貰える『1個』に限ってはサイコロを振っても振らなくても関係ないと思わないか?」

「思わんの。その『1個』のスキルに関してはそうじゃろうがそれ以外はどうじゃ。関係するじゃろ。そのスキルを取ったことによって『結果』が変わるのじゃから。ダメじゃダメ。スキル1個の前借りは認めぬ」

ダメか。

だが、ここまでは予想通りだ。貰えれば儲け物。それくらいのつもりだったからな。

本番は次だ。次の俺の提案がまさに人生を天国と地獄に二分するだろう。

「そりゃそうか。仕方ないな。

それじゃあ次はこういうのはどうだ?俺がスキルを前借りした場合、6以外の目が出たときスキルはその前借りしたスキルたった1つだけ。つまり勝負にある結果は『6が出てスキルが6個貰える』と『6以外が出てスキルが1個しか貰えない』の2通り。その条件での前借りはどうだろうか」

俺の言葉を聞いたじいさんがぴたりと体を止めた。どうだ?いけるか?

「…くくく、ふぉっふぉっふぉ!面白いのォ!儂がどういう存在かもしっかりと理解できているようじゃな」

…………。

「で、答えは?」

「いいぞぃ。その提案受けようかの」

よしっ通った!

後は俺の想像する『あの』スキルさえあれば。

必ずこのじじいに一泡吹かせてやる。

「ただし、6以外の目が出た場合スキルは0じゃ。それに加えてマイナススキルを6つ付けさせてもらう。マイナススキルはいわば生きる足かせのようなものじゃな。スキルの代わりにそれをつけさせてもらうぞぃ」

「は?」

「ただこれじゃあちと割りに合わないからのォ…。リスクにはリターン、ハイリスクにはハイリターンをじゃ。6の目が出た場合スキルの数は倍の12個。さらにユニークスキルを2個つけてやろうぞぃ。ユニークスキルは本来の勇者なら一人一つじゃ。そこに二つ足される。アドバンテージには十分じゃろう?」

このじじいやっぱ本当に嫌いだわ。やること陰険だし、そもそも何勝手に人の了承もなく話を大きくしてるんだ。そういう姿勢が本当に腹立つ。ボコるか?

いや、落ち着こう。もともと6を出す予定だったわけだ。つまり結果から見ればこのじじいが勝手にくれるスキルを多くしてくれただけのこと。そう考えればなくもない。

俺には『理想』がある。理想とは『幸福』。

それは『理想の道を歩む』ということだ。今現状が『理想』じゃなくてもそれに向かって歩むこと、歩もうとすることはとても気高く、命を強く感じる行いだと思っている。だからもし『父親と母親どちらかしか助けることができない』という状況になっても『どっちも救う』という行動を俺は選択するだろう。例えそれで全員死ぬことになっても。なぜならそれが『理想』であり『幸福』だから。

なので俺は困ったときは『理想か』『理想じゃないか』で判断する。リスクは見ない。なぜなら『理想』に『試練』はつきものだから。長年連れ添って来た老年の夫婦のように『理想』と『試練』は寄り添いあっている。二つを分けることは決してできない。ならばわざわざ『試練』のことだけを考える必要はない。

そして今二つの『道』がある。それは何もなかったように『普通にサイコロを振る道』、そして『じじいの勝負にのり負ければ多大なハンデを背負う道』だ。

俺は考える。今までそうしてきたように、どちらがより俺の『理想への道』か。

「考えるまでもない…な」

「どうじゃ?この条件でもやるかの?ん?どうなんじゃ?」

人の反応見て楽しんでやがるな、こいつ。だが最後に反応を楽しむのは俺だ。

「わかった。ただし、だ。あんたやあんたに準ずる者の勝負への介入を一切しないと約束してもらう」

「よい、よいぞ!ではさっそくスキル選びにうつろうかの。主がどんなスキルを選ぶのか楽しみじゃわい」

提案した勝負は思わぬ形になったが概ね通りだ。しかし、来たときとは比較にならないほどはしゃいでるじじいを眺めると気持ちが萎える。いや、もしかして作戦か?じじいがはしゃぐという誰の得にもなりえない光景を俺に見せることによって辟易させる作戦なのか?なるほど。効果的だ。

俺の中のじじい嫌いメーターが少しずつ、だが確実に上昇していった。

一通りはしゃぎ終わったじじいが一転して真剣な顔をこちらへ向けてくる。

「では選ぶがよい。スキルは決定のところをタッチすると取得できるからの。間違って押すんじゃあないぞぃ」

視界を埋め尽くすほどのスキルの一覧が空中にずらっと並ぶ。よく見れば項目ごとに分けてあり、ただでさえ視界からはみ出るくらいの量があるのにまたここからさらに項目が細分化していくらしかった。

「…多いな」

♦︎

くくく…久しぶりに面白い小僧がきたのォ…

長年仲介者としてここでスキルの選定をする者たちを見て来たがこのような事態は初めてのことじゃ。それもまあ仕方ないことじゃろうて。

儂はこやつらの世界よりももう一回り大きな世界に住む存在。それを本能的に感じ取れるせいか、ここに来たものたちは全員儂の言う通りにする。萎縮してしまうのじゃな。儂に。

じゃからダイスを振ってスキルを決めろと言えば10分もかからず振り始める。そもそもダイスを振りスキルをもらうという一連の行程に自らが口出しできるはずないと皆決めつけているのも要因の一つじゃろう。

稀に儂のような存在が気に障り、長い時間押し問答をすることはある。が最後は儂の言う通りダイスをふりはじめる。そうするしかないしの。

この小僧も精々そこ止まりじゃと思っておった。じゃがふたを開けてみればどうじゃ。こんなにも儂の心を躍らせているではないかの。

さっき小僧の前に出したスキル一覧。

あれは世界に存在する、あるいは世界に存在した、『すべてのスキル』がのっている本当の意味でのスキル一覧じゃ。

勇者が取得できるスキルの数は多い。じゃがそれでもあのスキル一覧に載っているスキルの数はそれの何倍何十倍にも及ぶじゃろう。

しかし……。

そんな膨大な数のスキルをもってしてもこの状況を無事くぐり抜けれるような都合のいいスキルは両手の指の数にも満たないじゃろう。この状況に一部役立つようなスキルなら大量にある。じゃがすべてにおいてこの状況とスキルが完璧にマッチするようなスキル、少ないのは当然というものじゃ。

儂は必死にスキルの一覧を片っ端から目を通している小僧を見る。その集中力には目を見張るものがあるが果たしてどこまでもつか。すべてのスキルを詳しく正確に把握しようとすれば儂でも年単位の時間が必要になる。

「ふぉふォ…」

向こうの世界には面白い言葉がある。それは『試練を越えし者に祝福を』。

この勝負は小僧にとっての『試練』じゃ。何かを得ようとすればそいつは、『困難』は這い寄るようにやってくる。赤い糸で結ばれているように、自然と運命に絡み付いてくるのじゃ。

こやつがそれをどう乗り越えるのか、今から楽しみじゃい。

もし6以外の目がでたら儂の小間使いとして飼うのもいいかもしれない。儂を楽しませた礼としてのぉ?

「ふぉっふォ…」

♦︎

あれから俺はずらっと並ぶスキルを片っ端から見ていた。どうすればサイコロで6を出せるか、頭の中でシュミレーションをしながら必死になって考えてはスキルを読み込む。

なんせ人生が完璧に二分されるるのだ。手を抜けるはずがない。

そして今やっと最後の欄のスキルを読んでいた。これで一応すべてのスキルに目を通したことになる。そして最後の欄のスキル、これこそが…

▼運

【幸運】LV1

運があがる。レベルが上がれば上がるほど運の要素で左右される問題が自分に都合よく片付いていく。

【幸運】LV極

幸運を極めつくしたもの。もうこれ以上ないほど幸運に好かれ運命の女神に愛されたあなたのためのスキル。

【幸運の使者】

幸運の女神に愛されし者。幸運の女神の使者にして幸運の体現者。

【凶運】LV1

運がさがる。レベルが上がれば上がるほど運の要素で左右される問題が自分に都合悪く片付いていく。

【凶運】LV極

凶運を極め尽くしたもの。もうこれ以上ないほど悪運に好かれ運命の女神に憎まれたあなたのためのスキル。

【凶運の使者】

凶運の女神に愛されし者。凶運の女神の使者にして凶運の体現者。

【運命の放浪者】

凶運の女神にも幸運の女神にも愛される数奇な者。世界は、運命は彼を、彼女を放っておかない。ただひたすら渦巻いていく出来事の中を放浪していくだけ。

【運命の傍観者】

凶運の女神にも幸運の女神にも見放された数奇な者。世界は、運命は彼を、彼女を決して巻き込むことはしない。ただひたすら渦巻いていく出来事を外から眺めるだけ。

「ふふっ…ふふふふ…」

思わず口角がつり上がる。来た、来たぞ。絶対に勝ってやる。

「スキルを決めたぞ」

「おぉ…やっとかぃのォ。どれどれなににしたんじゃ?」

じじいが俺を見ながらニヤニヤしている。この笑い方は愚かな決断をする愚者を眺めて楽しむ、蔑みのこもった笑い方だ。これだからじじいってのは嫌いなんだよな。陰険だし。

だが俺も似たような笑みをクソじじいに向けているだろう。なんせ取得したスキルは…

「【思考計算力】LV極 だ」

じじいのまぬけな笑みが一瞬にして消え、鋭い光が瞳に宿る。さきほどまでの無邪気な様子はどこにもない。気のせいか空気まで張り付いていた。

「ほう、ニヤニヤと運の欄を見ていたから『【幸運】LV極』でも選ぶのかと思ったがのぉ」

「土壇場で運なんて目に見えないもの信用するわけないだろ。

それに世界に『可能性』なんてものは存在しないっていうのが俺の持論だ。明日の天気も人の行動も、サイコロの出る目も、計算に使う元の情報をすべて割り出し正しく計算すればこの世界に予測できないものはないと思っている。練習は好きなだけやっていいんだろ?なら情報と法則を割り出す時間はたっぷりとある。固有スキルにポテンシャルアップもあるしな。正確無比にサイコロを投げることも練習次第で可能だということだ」

「ふむ…考え方は悪くない、の。とりあえず第一段階は合格というところかのぉ」

すごい上から目線で言われている。まぁいい。今は放っておこう。

「とりあえず練習するからな」

「分かったぞぃ」

そして俺はサイコロを持ってじじいから離れ、白い地面に向けて黙々とサイコロを振る練習をはじめた。

♦︎

「とりあえず練習するからな」

小僧がそういって儂から少し離れた地点で練習を始める。

去り際の小僧の眼には強い光が宿っておった。まるで睨みで儂を殺そうとする勢いじゃ。じじいに対してそのような眼光はどうかと思うがの。じゃが、いい眼光じゃ。

「分かったぞぃ」

小僧が結局選んだスキルは『【思考計算力】LV極』。

なるほど悪くない手じゃ。いやむしろ良い手と言っていいじゃろう。突然勇者召喚などをされ、そしてダイスを振らされる。濁流のような状況の変化の中キチンと冷静に状況を把握し最善の手を考えている。

じゃが…ここまで無難に良い手を打ってこられると儂も年甲斐もなく対抗心やら悪戯心が湧いてくるというもの。

この『試練』、そう簡単には終わらせんぞぃ。

♦︎

「フゥ─フゥ──」

体が重い。当然か。文字通り人生が掛かっているんだから。それも、本当に天国と地獄が分かれる勝負だ。

何百何千回と練習で振っていたはずのサイコロがとても重く感じられる。体にかかる重力も、重い。

大丈夫、計算は完璧だ。体もサイコロで6を出す動きを完璧に覚えている。不安要素は無い。

「さて、それじゃあはじめようかの」

返答はできない。今サイコロを振るための動き以外をしたら今までのすべての努力が霧散していきそうだったから。

俺は変わりに顔を頷かせることで意思を示した。了承の意を察したジジイが始まりの合図をする。

「さて、それではこれよりスキル決めのダイスをはじめるぞぃ!振れぃィ小僧!今この瞬間から振ったサイコロが!勝負の結果じゃぞぃ──!」

「スゥ──…」

深く息を吸う。その瞬間、今まで感じていた体にかかるすべての重さが『熱』に変わったような気がした。

熱い。体が軽くなり重さがエネルギーに変わっていく。今なら…

──行けそうな気がする

俺は呼吸を吸い、そしてそのまま呼吸を続けるかのように、静かにサイコロを高く投げあげた。

特別な一投じゃあない。今まで投げて来た、これまで通りの一投だ。

サイコロが落ちてくる。ゆっくりと、スローモーションのように感じられた。だが落ちてくるその景色は今まで練習でみてきた景色とまったく同じだった。これなら、いける。

そしてサイコロ地面に落ちる、そのときだった。

「確か…儂がした『約束』は儂や儂に準ずる『者』が勝負に介入しないこと…じゃったかな?」

そんな声が耳に届く。

そして、それと同時に

ベコンッ

突然、サイコロが落ちるあたりの地面が音を立てながらへこんだ。