軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第100話 不穏まみれな新人冒険者

ギルド本部二階。

午前中に忙しなく人が行き交っていた会議室に人影はない。

その会話は会議室ではなく。

二階最奥の、建物内で最も内装が拘られ部屋。

『ギルド長執務室』にて、交わされていた。

「それで彼の合否は、どうするのです?」

淡々とした声で、尋ねられる。

だが付き合いの年月が長ければ、彼女の言葉に、微かな苛立ちが混じっていることがわかるだろう。それはギルド長たる自分自身の判断に不服だからなのか。それとも未知のものに対するストレスなのか。

残念ながらそこまで分かるほどの付き合いでは無かった。

「無論『合格』だよ、君。見たまえよ、この《ステータス》を。スキルのレベルだけなら『AAAランク』に居ても見劣りはしない、大したものだよ。レベル次第では『S』に届く可能性すら、あるだろう」

「それは見ればわかりますが……本当ですか? 散々問題点をあげておいて、人物像が不透明すぎると思いますが。第一、彼は一体何者なんです?」

「何者……か。その問いに答えられる人がどれだけいるというのかね。私はテールウォッチギルド本部の長。君たちは副長。そして料理屋は料理屋、材木屋は材木屋、子供は……子供だ。彼は、何者でもなかった。だから冒険者になりにきた。それ以上に分かることは、今は何もないのだよ、君」

「そういう話が聞きたいのではありません、ギルド長。審査という名目でこの人物と、手合わせをしたそうですね。そのときの様子は一体どのよなものだったのでしょうか」

半ば詰められる形で問いかけられる。二人いる副ギルド長の女性の方の意見だったが、もう一人の男性の方も視線が同じ意見であることを述べていた。

どちらも今日冒険者登録をしにきた『ある男』と、その《ステータス》、素性をかなり問題視している。

だからか二人とも語気がいつも以上に強かった。

ギルド長は質問に答えようと、口を開く。

ほんの数時間前の昼前に行った審査のことを、脳裏で鮮明に思い出しながら──。

◇◆◇◇◆◇

時間がくるまでの間に売っていた『白虹鳥』の羽は、想像よりも高く売れた。

かなり、驚くほどまでに。だから思わず、少し多めに売ってしまった。

おかげで金銭面はこれだけでどうにかなりそうなほどだ。

そうして売ったあと冒険者ギルドに戻って待っていると、会議を終えたギルド長がやってきた。

すぐに「場所を移す」と言って歩き出したので、その後ろをついて歩く。演習場のような場所が別のところにあるらしい。ギルドと直接繋がっているとかそういうことはなかった。知れば知るほど、現実の冒険者ギルドは世知辛い。

「千夏ちゃんも、勇者が好きなんだ!! 僕とおんなじだ! それじゃあ今度本を貸してあげるよ! ベリエットのすごい面白い本を、僕持ってるんだ!」

「…………文字が、読めない、から……」

「あ、そうなんだ。文字の勉強って、難しいよね……。僕も大変だったなぁ。あ、そうだ! じゃあ文字を覚えたら言ってよ、その時に貸してあげるからさ! そういう目標があったほうが勉強って楽しいらしいよ!」

歩いている間、一緒に歩いてる千夏とアウレンくんの会話が耳に届く。

アウレンくんもいるのはギルド長の気遣いだった。審査の間、千夏が一人になってしまうことを気にしてくれてアウレンくんの師匠だというヨクンという人に話を通し、依頼を出して、ついてきてもらっている。

背後の二人でしている会話は、仲良く……とまではまだいかないが

それでも楽しそうに聞こえていた。

「そういえば千夏ちゃんは、苗字はなんて言うの?

僕は、リーングラッセっていうんだよ!」

「苗字……?」

「名前の後ろにある家族ごとの名前みたいな、あっ、前にある時もあるんだっけ?」

「……わかんない」

「えっ、わからないの?」

「…………」

「え、あ……で、でも! そういうことも、あるよね! あはは……」

「………………」

「………………」

少し楽しげだった会話が一転して途切れる。

誰も何も口を開くことがなかった。どこか気まずく、重たい空気のまま、樹海近くの演習場にまで辿り着いてしまった。

その敷地の中にギルド長と一緒にはいっていく。

演習場の光景は、空き地と変わらないものだった。広い敷地のほとんどが剥き出しの地面で、その周りを柵が囲っている。そして角にぽつぽつと建物がいくつか立っているのが見えるが、それだけの場所だった。

広場の外側で、千夏とアウレンくんが遠巻きにこちらを眺めている。

それを横目、ギルド長と向き合った。

「さて、これはあくまで『審査』なのだよ。形は当然『実践形式』だがね。最低限、君が戦えることを示せばそれでいい。だからあまり無理をせず、怪我だけは気をつけたまえ」

そういってギルド長は『杖』を取り出した。それが使う武器なのだろう。

そして真っ直ぐに、杖を俺のいる場所へ──

いや、『俺がいた場所』へ向けて、武器を構えた。

「とはいえどうやら『やる気満々』といった感じだがね、君」

「──!」

キン、と。

甲高い音を立てて、攻撃が防がれる。

ギルド長は武器を構えた当初は前に向けていた体を、今は『後ろ』に向けて、剣の攻撃を防いでいた。

それが【ペテン神】を使って、ギルド長の背後から攻撃をしかけた結果だ。

「あれ!? 消えた!? え……後ろから攻撃してる!!」

アウレンくんが驚きの声をあげてる。

今頃、最初に立っていた俺の姿が消えているのだろう。

まるで『夢から覚めた』ように。

だがギルド長は【ペテン神】を看破って、背後からの攻撃に気がついた。さすがだ。興味を持って試してみたけど、やっぱり相当な実力者だ。似た感じで仕掛けた日暮は、そのまま首に剣を添えることまで出来たけど、そうはいかなさそうだ。

レベルも、こっちの大陸で出会った人だと、一番高い。

ギルドで会った、あの有名人を除いて。

「やれやれ、君の《ステータス》を事前に見ていたことに、『救われた』という感じかね。危ういところだよ、君。いくら私が世間体をあまり気にしないとはいえ、レベル1の新入りに一撃でのされたとあっては、さすがに業務に支障がでるというものだよ」

ギルド長の背後に現れた土の礫のような『魔法』が飛んでくる。

背後に飛ぶように引きながら避ける。

それでも飛んでくる礫を剣ではたき落としていく。

「ずるいんですね」

「実践形式とはいえ、いきなり背後から攻撃してくる君がいうかね。とはいえ、私も『神器』や『魔道具』は置いてきているのだよ。それで勘弁したまえよ、君。しかしさっきの一撃──とても『レベル1』には思えない」

素早くギルド長に駆け寄って、蹴り上げる。

「ぐっ」

しかしその蹴りは、残念ながら防がれてしまった。

だけど少し強く力を込めていたためか、苦しげな声を漏らしながら、ギルド長は体を宙に浮かせていた。

そんな飛んでいくギルド長を追って、走り出した──つもりだったが。

なぜか両足が膝まで地面に埋まってしまい動かない。

「(魔法……。何にも予兆がなかったな……)」

だけど、まぁ、ありえることだ。

そういう予想外の攻撃を喰らうことは。この世界では常に。

地面に埋まったまま、思い切り地面を蹴りあげる。

あげた足はすぐに自由になった。

それと同時に、巨大な土の塊が地面からくりぬかれて、吹っ飛んでいく。

それは凄まじい勢いで飛び、地面に着地しようとするギルド長へ襲いかかるようにして向かっていった。

「むっ」

土から分厚い壁が現れ、ギルド長を守るように聳え立つ。

飛んでいた土の塊は、その壁に当たって砕けてなくなってしまった。

壁はびくともしなかったが、土の塊はもはや地面に転がり、煙となって空中を漂うだけだった。

ギルド長の姿も壁に遮られ見えない。

その土煙の中に、走って入っていく。

そのまま勢いにのせて、土の壁を蹴りつけて破壊した。

壊れた土壁の残骸は、辺りを覆う土煙をいっそう濃くして視界を曇らせる。

そして壁に遮られてさっきまで見なかった場所で、濃い影が一つ土煙に浮かぶように目に入った。

順当に考えるなら、それは壁で自分を守ったギルド長自身のものだ。

キン、と。

再び甲高い音を立てて、攻撃を防ぐ。今度は俺が防ぐ番だった。

放たれた攻撃は、土煙に映っていた影の方からではなく、俺の側面から。

しかけてきたギルド長と目が合う。そのままその場で武器を打ち合う攻防が始まった。

攻撃の風圧で徐々に煙が晴れ、土煙に映っていた人影の姿もはっきりする。

それは土で出来た、偽物のギルド長だった。

「見た目や物腰に反して、随分と荒っぽい、力でどうにかする戦い方をするのだね、君。言葉を選ばなければ、なかなかに、乱暴だ」

打ち合いながら、ギルド長は余裕のある口調でそう言った。

「すごい……! すごいよ、千夏ちゃん! ギルド長と互角に打ち合うなんて、アキさん……千夏ちゃんのお父さん、こんなすごかったんだ!」

離れたところから、アウレンくんが興奮気味にあげた声が、耳に届く。

「…………? おとう、さん……?」

「わぁ〜! すごい……かっこいいなぁー!」

「………………」

アウレンくんだけでない、小さく呟かれた言葉も自然と耳に入ってしまった。

思わず、戦っている最中にも関わらず、ため息を漏らしたくなる。

そんな様子を見てギルド長は言った。

「──それに『集中力』がない、君は。戦っているのは私のはずなのに、意識を散らしているのは、周囲の情報を収集するためかね。ということは君は今この瞬間、別の誰か、別の所からの攻撃を想定しているというのかね。おそらく無意識の癖、なのであろうが。しかしそんな癖ができるほど、心の休まらない敵が入り乱れたところで育ったのかね、君は?」

「……出身については、すでに面接のときに答えましたよ」

「ふむ、帰ったら伺ってみるとしよう」

戦っているうちに、相手がどんな考えを持っているか、どんなスタイルの戦闘を好むか、癖、性格。あまり相手に情報を漏らしたくはないが、それでも生きているなら、一挙一挙に滲み出てしまう。それは人だけに収まることではなく、終焉の大陸にいる魔物ですらもそうだった。だからきっとそういうものなのだろう。完全に覆い隠すというのは、不可能だ。

俺もできない。

そしてギルド長もできない。

「……あなたは随分、堅苦しそうですね」

少し意趣返しするつもりで、そう言った。

ギルド長はフッと笑って、答えた。

「色々と大変なのだよ、責任を背負うというのは。手堅くもなるというものだ」

「………………」

それは感情が乗った本音に、聞こえた。

なんとなく自分にあてはめて少し想像してみる…………が、だめだった。

「俺には無理だな……」

誰に向けるわけでもなく、漏れたように呟く。

返事を期待しての言葉ではなかった。

むしろ誰にも届かなければいいと思った。

だけどギルド長はそれを聞いて口を開いた。

「ふむ、ならば君は、優秀な冒険者になりえるだろう」

互いに攻撃の手を止めることなく、会話が続く。

正直俺はもう目的は果たしたと思っているが、肝心のギルド長の手が止まらないのだから、こちらも手を止められなかった。

「『責任』なんてものは、所詮『社会の産物』なのだよ。冒険者が踏み込む、無機質で無慈悲な未知たる『世界』に、そんな、人の都合なぞありはしない。そんなものがあっては冒険よりも責任の方に時間を取られるだろうことは、間違いないと思わないかね。冒険者は無責任なくらいが、ちょうどいい。とはいえ──」

一瞬子供たちがいる方へギルド長は視線を向けたあと、再度こちらを見て言った。

「そういった人物が『親』になるのは、なかなか難しいだろうがね」

「そうですね」

すぐにそう返した。

それから数分ほど、無言で打ち合う時間が続き、ギルド長が再び口を開いた。

「……少し意地の悪い言葉だったか。しかしそれでも、一切揺らがないものなのだね。大したものだよ、君。スキルやレベルを抜きに、芯から強い人間というのは、高ランク帯にもなかなかいないというものだよ。この打ち合いもどちらが『審査』しているのか、最早わかったものではない。まるで稽古をつけてもらっているみたいだよ、君。これでも結構本気なのだがね」

「………………」

「まだまだ底が知れないな、君は。段々と君の『本気』に興味が湧いてきたのだが、どうかね? このまま本気の戦いに移ってみるというのは」

「……審査じゃなかったんですか?」

呆れ混じりに、そう答えた。

本気って言われても、殺すわけにはいかないし、今だって力の調節が繊細で大変だ。

種族を人間にしたおかげで大分楽にはなったが、それでも正直いえば気が進まない。

「ふむ、確かにそうだ。もうすでに当初の目的の戦えるかどうかの証明は、とっくに済んでいるというものかね」

内心の祈りが通じたのか、互いに特に合図もないまま、自然に戦いが終わった。

そしてギルド長は即座に「合格だよ、君」と言って背中を向けて、演習場の外へと歩いていく。

「早々になるが、ギルドに戻る。ついてきたまえよ、諸君。すまないが、昼食抜きは午後に響いて辛いのでね」

そうして足早にギルドへとまた戻った。

道中ではアウレンくんがずっと興奮気味に戦いの話していて、千夏が困惑しながら話相手をしていた。

ギルドへつくと、俺とアウレンくんに数言だけ言葉を残してギルド長は中に入っていった。ひとまず審査は終わったものの、手続きがまだあるようで、もう少しギルドで用事をこなさなければいけないようだ。

「アウレンくんは、このあとは? もう今日は終わり?」

軽く世間話のつもりで、そう尋ねる。

アウレンくんは笑顔で頷いた。

「はい! このあと依頼料をもらったら、用事がないのでうちに帰ろうと思ってます!」

「…………」

アウレンくんの言葉をきいて、ちらりと、千夏が残念そうにアウレン君を見たような気がした。まだ完全に仲良くなった感じではないけど、このまま接していけば、二人は友達になれるかもしれない。それをみて、そんなことをふと考えた。

「(──友達か……)」

それはあまり、これまでの人生で、関わりがないものだ。

だからか、俺はそれが本当に生きるのに必要なのかどうかは、いまいちよくわからなかった。

だが唯一、一人だけ頭に思い浮かぶ人物がいた。

──『ねぇ、灰羽くんって手先が器用なのね』。

あまり学校に居場所がなかった二人が、偶然近くにいた。

だから気付けば、長い時間を一緒にいたように思う。

──『だから、ね。私にも何か作ってよ』

思えば、彼女だけが唯一『友達』だと確信をもって言えるかもしれない。

異世界に来てしまったから、もう二度と顔を見ることはないのだろうが。

何にせよ……。

いるかいらないかは分からないとしても。

少なくとも、選べるべきなのかもしれない。

千夏自身が、それを。その結果、どちらであるかは本人が決めればいい。

そう考えて、アウレンくんに声をかけた。

「アウレンくん。もしよければこのあと、この街の案内を頼めないか? 俺と、千夏はまだ街に来たばかりで知らないことが多い。だから知ってる人に教えてもらえると、すごく助かるんだ。もし必要ならギルドに依頼を出してもいいし」

そう言うと、アウレンくんは全身から嬉しそうなオーラをだして言った。

「えっ!? それって指名依頼ってことですか? いいんですかっ、僕で!」

「あぁ、アウレンくんが一緒なら、俺も楽しいし千夏もきっと、喜ぶよ」

「ほんとですか!? やったぁー! やります、僕!

えっと、じゃあ……そうだ、師匠に話してきます!」

そうしてこの後、アウレンくんは師匠から無事に許可をもらって俺もギルドでの手続きを済ませてギルドの身分証をもらった。指名依頼も出し午後は、アウレンくんの案内で街へ繰り出すことになったのだった。

ちなみにランクは『Bランク』と書かれていた。

◇◆◇◇◆◇

バン、と机が叩かれる。

男性の副ギルド長が、感情に任せて机を叩いた音だった。

自身の執務室にて、ギルド長は、言い争う男女の声に耳を傾けていた。

「こんな《ステータス》は、ありえんだろう!」

「しかし『嘘』や『詐称スキル』の発動は、ありませんでした」

言い争いは、テールウォッチ冒険者ギルド本部にて、二人いる副ギルド長同士によって行われたものだ。

怒鳴り声に答える、女性副ギルド長の目つきはきつく睨むようなものだった。普段からきつい彼女の目つきが、今日ばかりはいっそう鋭く見える。淡々とした言葉も、付き合いが長ければ微かに苛立ちが混じっているとわかるが、それを指摘したところで誰も得しないのは、全員が了承している暗黙の了解だった。

「そんなの信じられん!」

「……私の【能力】を疑うと? 相手が同じ【能力】で偽装していたならまだ可能性があるにしても、この方の【能力】の名前を見るに偽装効果の代物とは思えません。確かに【ユニークスキル】に偽装スキルがありますが、【能力】が【ユニークスキル】に負ける道理が無い以上、彼の《ステータス》の偽装はありえない、それが事実です。ですが更に万全を期すため、総本部の審査を待つのは悪い判断では無いと思います」

「勝てないなら勝てないなりに誤魔化しようなどいくらでもあるだろう! それに『偽装』効果の【能力】で、【能力】そのものを偽装していたらどうするのだ! それなら相性とレベル次第ではお前さんでも見破れないだろう! ともかくこんなありえない《ステータス》は、信用するに値せん!!」

ギルド長は、深く椅子に腰掛ける。

……一度疑い出すとすべてが怪しく映ってしまうものだ

二人の会話に耳を傾けつつも、意識の多くは登録の際に記録した面談の映像に割かれていた。

──『ここから樹海の奥の、さらに奥にある……場所です』。

同じ場面を再生しては、巻き戻して、また同じ所を再生する。

副ギルド長の言う通り、彼は嘘をついたり、詐称スキルを使ってはいない。

《ステータス》は紛れない真実な可能性が高い。

だが詐称スキルや虚偽に頼らずとも、『真実を隠す』ことはできる。

もし彼が、ギルドの厳重な虚偽の審査を知っていたと仮定した場合、おそらくそちらの選択を好む気がした。だからこそ、この部分の少し遠回しな言い方が気になった。

──だが。

同時にこうも思う。

わざわざ隠すほどの真実があるのだろうか、と。

魔族の国からスパイに来たわけでもなしに。

何かを隠してるとしてもこの言葉自体に嘘偽りはありえない。ならば樹海の奥の、そのさらに奥といえば、樹海史上最大の竜木がある、湾岸都市の旧首都廃墟跡あたりのことを言ってるのではないだろうか。あそこも随分な魔窟だと聞いている。そこに人が住んでいたというのは驚愕な事実だ。しかしありえないことではなく、その事実に後ろめたいことなど何もない……はずだ。

「ギルド長は彼の《ステータス》をどうお考えで?」

話が振られ、映像から目を離し、向けられた二人の視線を受け止める。

「無論、気になるところは多くあるよ、君」

そのままの姿勢で質問に答えた。

「レベル1、スキルレベルの異様な高さ、知らないものから悪名高いものまで揃った豊富な【ユニークスキル】の数々。中でも【吸収】は『収奪系スキル』の可能性があるため注意が必要であり、【災獣使い】は……」

「それも要注意ですね」

「いや……確かに凶悪な響きだがね。しかし持っていてもどうしようもないという彼の話は理解できるものだよ。災獣は危険とはいえ生息数が極端に少ない出会えるほうが稀と言われる災害なのだ。スキルや能力に目覚めても一切使い道がないという事態は高い頻度で起こる不幸の一つであり、今回もそれに該当すると私は思っているがね、君。しかし。そんなところよりも一番気にかかるのが──」

ギルド長は、紙に書かれた《ステータス》のある部分をとんとんと指で叩いた。

それは【能力】でも、【ユニークスキル】の欄でもなく。

──『スキル』の欄の一つだった。

「私がこの《ステータス》で最も驚嘆しているのは、ここに書かれた【爆破魔法】という文字なのだよ」

「……確かに、不穏な響きですな。聞いたことない名前ですが」

男の副ギルド長が、そう言った。

「不穏も不穏だとも、君。魔法に精通する者なら知らないものはいない、別名『自爆魔法』とも言われる、『失われた魔法』の一つなのだよ、これは。《ステータス》で相手を判断する我々は知っておいても損はないのだ、勉強しておきたまえよ」

「は、はあ。私は魔法や魔術に縁がないものでして……その。いえ、わかりました、ギルド長殿」

失われてしかるべき、非人道的な魔法。それが『失われた魔法』だ。これらの魔法は『世界の法則』によって、そもそも『スキル』を手に入れる手段から完全に消しさられ、存在しない。だからこそスキルを持っている、ただそれだけのことに驚嘆させられる。

「さらに、不可解なのが『レベルが上がっている』ことなのだよ」

「…………? それは──なんででありますかな? レベルは、あがるものでしょう」

「ふむ、本当に君は相変わらず魔法に対して、からきしなのだね。いいかね、魔法は自分の魔力から作られたりするものなのだよ。そのために唐突に自分から遠く離れた場所で、いきなり魔法を発動させることはできない。そこに自分の魔力が存在しないのだからね。だからわざわざ『魔法使い』は自分の側に火の玉や土の礫などを出現させてから飛ばしてるのだよ」

「……ギルド長が何もないところに穴を唐突に空けてるのを、私は見たことがありますが」

「あれも、正確には『穴』を飛ばしているのだよ。バレない工夫はしているがね。

さて、『爆破魔法』は文字通り『爆発』を引き起こすだけの、陳腐で芸がないくせにやたら暴力的な魔法であるのだが、ここで疑問が生まれるはずだとも、君たち。果たして『爆発』というのは『飛ばせるもの』だと思うかね?」

二人の副ギルド長は「無理」とそれぞれ否定する。

「その通りなのだよ。爆発は、発動すればその瞬間から『爆発』なのだ。石や氷や火のように飛ばすも何もない。発動したその瞬間に、自分すらも巻き込み、暴威を振るう。その結果この魔法は『自爆魔法』と呼ばれるようになったのだよ。過去の歴史でこの魔法がどう使われたのかは、既に異名から察するに余りあると思わないかね。失われて当然の代物なのだよ」

「……ギルド長のいう『レベルアップ』してることが不自然だという言葉は理解しました。発動したらその瞬間に、普通なら命を失っている、ということですね。確かに恐ろしい代物です」

女性副ギルド長の言葉に、ギルド長はうなずく。

「となるとますます、わかりませんな。どうやってこの男が、そんな魔法を手に入れられたのか」

「……わからない、としかいいようがないというものだよ、君。何でもこじつけられるというものだ。『レベル1』の理由も『レベルの代わりにスキルが上がる』という『神器』を使った、と。そう言われたらそれまでの話だと思わないかね。私たちはそれが嘘でも信じるしかなく、真実でも疑うほかない」

「…………難儀ですな」

腕を組んで、難しい顔で黙りこくる男性副ギルド長を横目に、女性副ギルド長が口を開いた。

「それで彼の合否は、どうするのです?」

「無論──」

彼女の質問に、答えていく。

さらに会話の流れから、昼時にあった彼の審査時の戦いの話もしているときだった。

駆け込むようにギルドの職員が執務室へと入ってきた。

「失礼します。ギルド長、至急の問い合わせがありまして──」

「……何かね? 急ぎなのだろう。口頭で構わない、言いたまえよ」

「はい、『シープエット』の首都本部からなんですけど」

出てきた名前に、ギルド長と副ギルド長二人の顔が歪む。

「中央大陸の大国が、こんな辺境のギルドにだと?」

「騎士が街と樹海に入ったとは耳にしていますが、それ関連でしょうか」

「……とにかく、最後まで聞きたまえよ。続きを」

「はい。なんでも『竜王契約者』の身柄を差し出すか、情報をすべてよこすようにと言っていて……」

男性副ギルド長が、腰を席からあげて言った。

「『竜王契約者』だとぉ!?」

対して女性副ギルド長の言葉は、呆れ混じりだった。

「……竜との契約者すら、うちのギルドにはいませんよ」

「それならば答えはシンプルだと思わんかね。うちに該当者はいないと、返したまえよ、君」

「はぁ……それがもし心当たりが無いなら『極端にレベルが低い者』でも構わないと仰ってまして……。例えば『レベル1』ほどの人間がいれば、その情報でも構わないから知らせて欲しいと。どうやらその人物が『竜王契約者』の可能性があるみたいで……。でも……フフッ、『レベル1』の人なんて正直聞いたことありませんよ……ね……?」

室内の雰囲気が、ガラリと変わったのを感じ、語尾が弱くなる職員。

「………………」

「………………」

「………………」

神妙な顔で黙りこくる上司達を前に、職員は何かを察して口を閉じた。

「どう思うかね?」

「私はまだ『竜王契約者』と言われたほうが、《ステータス》には納得できますが」

「ちょっと、待て……。だとしたらおかしい。《ステータス》に竜との契約の痕跡が無い。【契約】はいくつかの効果に加えて、竜由来の【ユニークスキル】が発動して追加されるはずだぞ。ここに書かれた【ユニークスキル】はスキルと違って省略されてないから、すべてなのだろうが、全くスキルが追加されていないぞ。だったら契約はありえん。それにプライドの塊のような竜王が世界で一番弱い種族の人間……それもレベル1の相手に、契約するなんて信じられんぞ」

「ふむ、君は【契約】の効果を知っているかね」

「はい、ギルド長殿。私が以前いたギルドに、契約者が一人おりましてな。少しだけ竜自身にも教わったことがあります」

「私は竜に対してはからっきしでね。君の魔法をとやかく言えたものではないというものだね。もう少し竜に対して勉強する必要があるべきか」

「『竜』と『竜王』で違いがある、ということではないのでしょうか?」

「いやそれもない。俺は魔王《暴虐王》の《ステータス》を見たことがある。やつのにも竜王由来と思わしき【ユニークスキル】がいくつもあった」

「…………そもそも『竜王契約者』だった場合、うかつに手を出すことはできなくなります。どの『竜王』と契約を交わしてるかによって対応も変わるでしょう。『魔竜王』との契約だった場合、今日にもこの街は戦場です」

「……もう少し時間をかけて話の裏を色々と取る必要がある、というものだよ。現状は、竜王との契約者かは不明で、契約していたとしてもどの竜王とかも分からない。……私たちは様子を見るしか、無いんじゃないかね、君? とりあえず先方にはそう言ってお茶を濁しておきたまえ」

困ったように職員が答えた。

「ですが、その……『勇者』がこちらにすでに向かっているみたいで……」

ギルド長はため息をついて、天井を見上げながら言った。

「やれやれ……。『混域』の対応で慌ただしくなってきたところで、こんなに大きな問題が転がりこんでくるとは。二つ同時というのは、街の大きさに対して荷が重すぎるというものだがね。これでは──街が壊れてしまうというものだよ」