軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

伯爵邸にようこそ②

「クラウディア様! 聞いていますか!?」

「今まで怒られなかったわ」

ウィルハルト様を厨房に連れてきたら、ちょうど厨房に立ち寄った侍女長に怒られた。というか今絶賛怒られ中。

「クラウディア様……料理人たちは殿下に初めてお目にかかったのですよ」

「そうね」

「もし殿下が怪我でもされたら……」

「っ!! そ、そうねっ」

そういえば……初めて厨房に行った時も危険だって注意されたんだった。私もだけど、私が来ることで緊張してしまった料理人達自身も怪我をしてしまうかもしれない。だから来ちゃダメだって。

まぁ……それでも私が行きたがるから、必ずポーラと一緒に入口で料理人と話すだけならって許可がおりたんだけど。でもそれは私に限ったこと。私が来ることには慣れた料理人たちも、まさか王子を連れてくるなんて思わないわよね。

「ウィルハルト様、ごめんなさい」

私、ウィルハルト様を我が家に招待したこと、思っているよりテンションが上っていたみたい。

「僕は平気だよ」

「みんなもごめんなさい」

「いえっ! お気になさらないでください」

友達……でいいのかな? 友達を家に呼ぶのって初めてだから。嬉しくてちょっと調子に乗りすぎちゃった。

「クラウディア、みんなもそう言っているし気にしないで? それに僕もみんなも、クラウディアには笑顔でいてほしいって思ってるよ?」

ウィルハルト様は優しいからそう言ってくれるけど、ちゃんと反省しなきゃ。

「侍女長……」

「これくらいにしておきましょう。ふふっ、お嬢様は殿下がいらっしゃること、前々から楽しみにされていましたしね」

「なっ!!」

「そうなの?」

侍女長のその言葉にうんうんとポーラも頷いていて……なんなら料理長も頷いている。確かに楽しみにしていたのは認める。でも、そんな分かりやすかっただろうか?

「ふふ。僕も今日楽しみだった」

「本当ですか!? 私も楽しみで、だから今日のドレスもっ」

と、いけない。これは内緒。

「妖精のドレスがどうしたの?」

「えっと……」

「何日も前からどのドレスを着るか悩んでおられたのですよ」

「ポーラ!」

「えっ!」

「それは違うっていうか」

「違うの?」

「……違い、ま、せん」

一通りプリンセスなドレスは再現しちゃったから、次は妖精をイメージしたドレスをって思って作ったのはいいけど、私の中での妖精の服って緑色で。

赤い髪に緑のドレスってクリスマスカラーじゃん! って完成してから気がついたの。誰に突っ込まれるわけじゃないけど、気付いたら気になってしまって……他のドレスにするべきかって悩んだのよ。

…………その、ね? いつもは側妃宮だからそれなりに着飾らなきゃいけなくて、今日は我が家だからいつもとはちょっと違ったドレスを。とは思ったし、どっちの方が可愛いかなぁ? とか悩んでないって言ったら嘘になるけど。

でも色が気になったからで、別に可愛いと思ってもらいたかったとかそんな事は……。

「そうだったんだ! う、嬉しい……」

「へ?」

しまった! ウィルハルト様とポーラが何か話していたみたいだけど、全く聞いてなかったわ。

「ふふ。クラウディアはそのままでいてね」

「そのまま……? えっと、分かりました?」

もしかして声に出しちゃってた……?

ま、いっか。

「それで、じゃがいもをどうするの?」

「そうでした!」

侍女長のお許しも出てたので、思いついた料理を作ってもらうようお願いする。

出来上がるまでは応接室に戻って、紅茶を淹れ直してもらったんだけど……うーん、炭酸水ってどこかにないかしら。あれ? 炭酸ジュースって炭酸水と果汁を混ぜるだけでできたっけ?

「クラウディア? 今度は何に悩んでるの?」

「その、こう飲むとシュワシュワ~ってする飲み物ってないのかなって思ったんです」

「シュワシュワ~?」

「はい」

「うーん、探してみるね!」

「やった! ありがとうございます」

私が求めている物を説明し、絵なんかも書いてみたり……ふふ。ウィルハルト様もニコニコされているし、きっと炭酸ジュースが飲みたくなったんだわ。

あぁ、なんでもっと早くに思い出さなかったのかしら。今から食べるじゃがいも新料理には炭酸ジュースが合うのに。

コンコン。

「あっ!」

じゃがいもを薄く切り、それを油で揚げて塩を振る。作る工程で必要な処理なんかは料理人達にお任せ。

ふふふ~。

「じゃーん! ポテトチップスです!」

定番中の定番をよく今まで思い出さなかったものよね。私が甘党っていうのが大きな理由かもしれないけど。

「ポテトチップス?」

「ウィルハルト様っ、食べてみてください」

ん?

あれれ?

テーブルに置かれた物をみてビックリ!

「これは……」

「うん? いただくね?」

「あっ、はい」

これは……ポテトチップスの形をしたフライドポテトではないか。

ナイフとフォークで一口サイズに切り分け、口に含んだウィルハルト様。

「美味しい!」

でしょうね。

「ポテトチップスっていうんだ」

「……違う、かもしれません。……ウィルハルト様が名前を決めてください」

「いいの?」

「はい。なんとなく……なんとなく、ポテトチップスはこれじゃない気がしてきたので」

「そう? なら……じゃがいも揚げ……揚げじゃがいも……うーん、思いつかないや」

はぁぁ。楽しみにしていた分残念すぎる。

でも仕方ないよね。一口シュークリームですらフォークを使うのに、手づかみするしかないポテトチップスなんて改良されるに決まってたわ。

「クラウディア? 美味しいよ?」

「い、いただきます……」

お箸を作って……も、まずその使い方をマスターするところからになるから……うーん、どうやって再現させるか、新しい課題ができたわ。

……って!

「美味しいっ」

「でしょ」

外はカリッとして中はふわっとしてて。なんかもうこれがポテトチップスでも良くなってきた。

「やっぱり名前はそのままにしましょう」

「僕も今、同じこと言おうとしたよっ」

「ふふ。私達、気が合いますね」

「うんっ」

これまでにないくらいお上品にフライドポテト……ではなくポテトチップスを食べ、塩以外にも何が合うか話し合い、今度試食会をしようって約束した。

「そうだ。クラウディア、これ本当は会って最初に渡そうって思ってたんだけど」

モジモジとしながら差し出された、小さな青い箱。

「ありがとうございます。開けてみてもいいですか?」

「もちろん」

リボンを解き、ゆっくりと箱を開ける。

「可愛いっ!」

「その……気に入った?」

「はいっ! ありがとうございます」

入っていたのは私の色である赤いルビーを使ったブレスレット。付けていい? とウィルハルト様に聞かれたので、お言葉に甘えて付けてもらった。

今度側妃宮に行くまでに、お返しの品を見つけておかなきゃね。

*

数年後、ブレスレットを贈るのには『束縛』や『独占欲』という意味があるのだと知ったウィルハルト。婚約者になる前からクラウディアを独占したい気持ちがあったのか。と照れたのか納得したのかは……本人のみぞ知る。