軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

29.悪役令嬢はこの人

まさかこのタイミングで情報を得られると思わなかったわ。

それにしてもローズさん、あんなに大きな声を出し続けて喉を痛めないの? なんて考えながら歩いていると、いつの間にか教室にたどり着いていた。

「ディア? 何かあった?」

「何か、ですか?」

「うん。心ここに有らずって感じだよ?」

やっぱり付いていくべきだったとウィル様の過保護発言を受け、さっきのことは頭の隅に追いやり、とりあえず午後の授業を受けようと気持ちを入れ替える。

「申し訳ありません。少しぼーっとしてしまいました」

「大丈夫?」

「はいっ」

ウィル様達は急ぎの用事があって、今日は放課後すぐに城へ帰らないといけない。さっきの件、聞いたままを話すより整理した方が良いよね。家に帰ったらまとめなきゃだわ。

自室の机に向かい、紙に書き留めながら情報を整理する。

「ポーラ、紅茶を淹れてもらえる?」

「かしこまりました」

一緒に用意された一口サイズの焼き菓子を口に含み、ローズの愚痴を思い返す。

……攻略対象者は定番通りだったわね。

わざわざ声に出してくれたおかげで、残りの攻略対象者だけでなく悪役令嬢も知れたのは幸運だった。

ローズは『キースにも全っ然会えないし、これじゃ攻略が進まないじゃないっ! 大体入学式の日だって、なんであんなに沢山の人と一緒だったのよ。ラインは1人で入学式に来るはずなのに! 絶対悪役令嬢のサブリナが転生者よ。入学式の日も一緒にいたし。上手く行かないのは全部サブリナのせいね。もう! 邪魔しなければ断罪しないであげたのに! 許さないんだからっ』と言っていた。

悪役令嬢はナタリー様じゃなく、サブリナだったか。そしてきっとメインヒーローはラインハルト殿下。

でもまさかウィル様の側近の皆が、ゲームではラインハルト殿下の側近だったとは思わなかったわ。……これは報告しないでおこう。『ラインの側近になりたかった?』ってウィル様が落ち込んじゃったら嫌だし。

ローズは入学式での出会いイベントが失敗し、なんとかラインハルト殿下に会えないかと何度か上位貴族棟に足を運んでいたそう。まぁ入口に立っている衛兵に止められて、中に入れたことは1度もないみたいだけど。

そして本来食堂でもイベントがあったようで、そこで挽回しようにも誰も利用していないから焦っている。

えぇっと確か……攻略対象者と一緒に昼食をとっているとサブリナが注意しに来る、だっけ? 当たり前でしょう。そこにいる婚約者も悪いけど、ほらっ、女の敵は女だから。しかも15.6歳の女の子だよ? 感情的に行動したっておかしくないわ。

それから……サブリナとぶつかった際にトレーに乗せていた昼食を落としてしまい、それがサブリナにかかってしまい叱責される。これも当たり前だよね? だって男爵令嬢が侯爵令嬢に昼食をかけて制服を汚してしまうんだよ? っていうか、身分差なんてなくても、昼食をかけられて洋服が汚れたら『ちゃんと前向いて歩きなよ』くらい言うよね。

しかもサブリナに叱責され泣いてしまったヒロインを攻略対象者が守る? はぁ? 話も聞かずにどちらが悪か、自分の物差しのみで決めてしまうような婚約者、こっちから願い下げなんですけど。大体ヒロインも泣く前に謝ろうね? ぶつかって痛いのはどちらも同じ。泣きたいのは制服を汚されたサブリナだから。

いくら上位貴族令息達が守ってくれたとしても、周りの人までヒロインの味方とは限らない。令嬢としてあるまじき行動だと、気付かないとかヤバすぎ。そんな令嬢と婚約を結んでくれる令息はいないよ?

まぁ……乙女ゲーム内はそれでいいかもしれないけどね。現実は婚約者が出来ない場合、どっかの貴族の後妻か修道院に行くしか貴族令嬢の進む道はないのに。

後はなんだっけ? 教科書を破られたり机に落書きされたり廊下で足を掛けられて転ける、だったかな? 校舎が違うからどれも出来ない。それをサブリナがやるの? あははっ! どんな顔でやるのか逆にちょっと見てみたいんだけど。……っていう冗談はさておき。

そもそもいじめが地味すぎるんだよね。侯爵令嬢が本気でいじめたら、その程度じゃ済まないって子供でも分かること。

心配無用だけど……一応サブリナには、今以上にローズと距離を取るよう言っておかなきゃね。

後、温室での出会いが彼で……市場は彼か。それで……はぁ。大丈夫だと信じているけど、名前を聞くとやっぱり不安になっちゃう。よそ見されないよう頑張ってきたつもりだけど……。

「私が引き返せないくらい好きになっちゃった」

ペンを机に置き、紅茶を飲み、ほっと息をつくとしみじみ考えてしまう。

「ウィルハルト殿下のことですか? 殿下本人にお伝えしたら、大変喜ばれると思いますよ」

「……ポーラは旦那様のこと、引き返せないくらい好き?」

「紅茶が冷めてしまいましたね。新しいのをご用意します」

そう言って部屋を出ていったポーラ。

「逃げたわね」