作品タイトル不明
602.継承者は飛び出した。
「お姉様っ‼︎本当に大丈夫なのですか⁈一体どうしてっ…‼︎」
ごめんなさい。
また私は何もできませんでした。
あの悪夢と同じように傷を負ってしまったお姉様に、そう思う。
私がちゃんと話していれば、私がちゃんと傍にいればお姉様はこんな痛い思いをしなくて済んだのに。
「ッ何故私と行動を共にすることを選ばれたのですか⁈」
「お姉様なら絶対貴方を連れて行きますっ‼︎だから私はそうしました!それにっ…」
ごめんなさい。
貴方をずっとずっと疑っていました。
ランス国王への援軍に向かいながら尋ねてくるセドリック王子に、そう思う。
あれは貴方のせいではなかった、不幸な事故だったのに。ずっと、……現実になる前から貴方が悪いと決めつけていた。
言葉にできない代わりにちゃんとお詫びがしたかった。
…………だけど、貴方がお姉様にしたことはやっぱり許していないから。
「ばかっ!」
やっぱり、貴方のことは嫌い。
お姉様にたくさん甘えてたくさん泣いて、いつもいつも助けて貰うのを待つばかりの人。お姉様だって同じ人間で、怖いものや苦手なものだってあるし、辛い事があれば傷つくのに。
お姉様に酷いことを沢山した。
お姉様を泣かせた。なのに今はきっと
お姉様のことが大好きになった人。
たくさんの人がお姉様を好きになってくれると嬉しくて、もっともっと好きになって欲しかった。
だけど貴方だけはまだ許さない。
お姉様をちゃんと幸せにしてくれる人じゃないと駄目。
お姉様に甘えて頼ってばかりの貴方じゃ、どれだけお姉様のことが好きでも絶対の絶対に相応しくなんてない。お姉様にはいつか、たくさん甘えて頼れるような人と一緒になって欲しいから。
今までずっと、私達にそうしてくれたように。
「ならば今、剣を取ろう。」
その剣は、あまりに鮮やかで。
息を呑むほどに洗練された動きが信じられなかった。銃の腕も、ナイフまで全てが完璧で。
さっきまで何も出来なかった筈の彼が、騎士に並ぶほどに健闘している姿に目を疑った。私達の動きや技を真似をしただけなんてあり得ない。そんな、そんな簡単に身に付けられるわけがないのに。私だって毎日練習して、ヴァルに教えて貰って、それでやっとここまで
「……プライドのような美しさが、俺もずっと欲しかった。」
……まるで、心を覗かれたようだった。
馬に乗る私を見上げ、向き直った彼の燃える瞳から目が離せなくなるほどにその言葉は私を確かに射抜いた。
言ってもない筈のことまで、知られてしまった気がして怖くなった。意味を聞くのも躊躇って、セドリック王子の次の言葉が投爆で遮られてくれたことにほっとした。
「ッあの気球を撃ち落とす…‼︎‼︎」
彼が、嫌い。
だって弱くて何もできないのに我儘ばっかり通すから。
「…我が名はセドリック・シルバ・ローウェル…!‼︎」
お姉様にたくさん酷いことをして、泣かせたからなだけじゃない。
お姉様が助けてくれるとわかった途端、たくさん頼ってたくさん甘えてきた貴方が嫌い。
「ハナズオ連合王国が〝王弟〟」
お姉様の前でばかり泣きたくなって、手を伸ばして貰えるのばかりを待って、お姉様なら何とかしてくれるとずっとわかっていた貴方が大嫌い。
「︎…これ以上、何者にも我らが国に手出しはさせんぞッ…‼︎‼︎」
弱くて泣き虫で甘えっ子で我儘で欲しがりで。お姉様にばっかり縋る貴方はまるで
……私、みたいで。
まだ、何も出来なくて弱かった時の私に。
だから貴方が嫌い、大嫌い。
私より二歳も年上なのに、国王であるお兄様達にずっとずっと甘えてきて、今はお姉様に甘える貴方が嫌い。
……だけど、今こうして立ち上がってくれたことは嬉しいから。
「セドリック王子っ‼︎」
貴方がお姉様のお陰で立ち上がれて、お兄様達の為に戦えることは私もとてもとても嬉しいから。
「…ランス国王の元に行かれますかっ⁈」
今だけは、許してあげる。
貴方自身の力で戦えるのなら、今はその背中を押してあげたい。
誰かの為に手を伸ばそうとするのなら、その手を掴んであげたい。きっとお姉様もそうあって欲しいと貴方に願うから。
「ああっ‼︎」
私は、その為に今日まで頑張ってきたのだから。
お姉様を守る為に、助ける為に。
そして、今度こそこの手を誰かへ伸ばすその為に。
助けたい人を助ける、その為に。
「ッ全軍‼︎ランス国王軍に纏う敵兵軍を掃討せよ‼︎」
「フリージア王国騎士団!私達を援護して下さいっ‼︎」
私よりもずっと長い間、弱くて情けなかった貴方が。
もし、私よりもずっと長い間そんな自分に苦しんできたとしたらどうか救われて欲しい。
手を伸ばすから、ちゃんと今度は迷わず掴んで。
お姉様よりずっと頼りなくて弱い手だけれど、私だって力になれるから。
我儘で勝手なことばかりする貴方だから、危なっかしいから守ってあげる。貴方が伸ばしたいと思った手を、ちゃんと大事な人に届かせられるまで。
兄姉の為に変わりたい、力になりたいという気持ちは、痛いほどよくわかるから。