軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そして見定める。

『…ごめんなさい。』

……霞むような声が、聞こえる。

私のよく知った声。優しくて、誰かの為に痛がってくれる声。

『…………って言ったのにね。』

…………………お姉様……?

何故、……何故、そんなに悲しい声でお話しているの?

誰かに抱き抱えられたお姉様が、他の誰かに向けて優しく悲しい声で語り掛けている。

そしてその視線の先に居たのは、……金色の人。

何処かで見たことがあるような、ないような人。綺麗な金色が長く垂れて、顔を隠している。燃えるように赤い瞳と整った白い歯が食い縛られているのだけが髪の隙間から見えた。

そんな彼に、お姉様は信じられないくらい青白い顔色でたくさんの汗を滴らせている。力なく鎧に包まれたその手を、金色の髪を靡かせた人へ伸ばした指で頬を小さく添わせた。

男の人と同じくらい泣きそうな目をしたお姉様が、とてもとても辛そうで。

『ッ…何を、…っ言っている⁈俺のせいでお前はっ…‼︎俺、のっ…‼︎』

……辛い声。

悲しそうで、辛そうで、胸が痛くなるくらいのその声は後悔に満ちている。本当に、お姉様だけではなく彼まで傷を負っているのではないかと思うほど痛そうで……、……………………傷……?

どうして、お姉様は傷を負っているの?

騎士の間から痛々しく腫れきったお姉様の脚が見える。

どうして?あんなに、あんなに守ると決めたのに。

お姉様を守りたくて、あんなに毎日毎日頑張ったのに。

どうして私は守れなかったの?さっきの言葉はどういう意味⁇この人は……この人の所為で、お姉様は怪我を負ってしまったの?

彼は、誰?

彼が、お姉様にこんな酷いことをしたの?

どうして、何故お姉様にそんなことをしたの?

何があったの?どうしたの?兄様は?アーサーは?ヴァルはジルベール宰相はレオン王子は近衛騎士の方々は⁇

震える彼に、お姉様が無理に笑う。

まただ。お姉様はまた、きっとこの人まで許してしまっている。たった今、自分を傷つけた人まで許して守ろうと、救おうとしている。

お姉様だって今、本当はとてもとても辛い筈なのに。

……だめ。

こんなの、絶対にだめ。

お姉様を守るの。これ以上傷付けたりなんてしない。お姉様を傷付ける人は許さない。

どうすれば良いの?どうすれば……どうすればお姉様を守ることが、こんな酷いことを避けることができるの?私に何ができるの?

お姉様を守りたい、お姉様をこれ以上傷付けたくない。ずっとずっと誰かの為に傷付いて危険に身を晒してきた人だから。そんな優しい人だから私は

〝引キ止メナクチャ〟

……また、何かが私に囁いた。

……

「ハナズオ連合王国、サーシス王国第二王子。セドリック・シルバ・ローウェルと申します。」

この人だ。

最初に見た時、すぐにそう思った。

金色の揺れる髪。たくさんの装飾を身に纏って現れたその人は、燃えるような深紅の瞳を宿して私達の前に現れた。

今朝夢に出てきた人がそのまま目の前に現れたことが最初は信じられなかった。しかも素敵な夢だったら良かったけれど、二年ぶりに記憶に残ってしまったそれは、とてもとても怖い夢。

お姉様が〝傷付けられる〟夢。

今、目の前にいるこの人に。

息も詰まって、母上と話していることがほとんど頭に入ってこなかった。母上にどうだったか聞かれても、話の内容よりもここに通された時に単身だったことしか違和感にも気付けなくて。

ただ、お姉様をあの人から守らなきゃと思った。

「美しきプライド第一王女殿下。宜しければ少々お時間宜しいでしょうか?」

なのに、その人はすぐにお姉様と関わろうとした。

絶対に駄目。本当に夢の通りならお姉様が傷付けられてしまう。お姉様だけじゃない、彼だってあんなに後悔していたのに。

もし、どちらも悪くないのなら何かの事故なら余計に私が二人を守らなきゃ。

「わっ…私も御一緒しますっ‼︎」

誰にも言えない。

異国の第二王子がお姉様を傷付けるなんて言える訳がない。

それに、あれは私のただの夢だもの。私が少し心配になっているだけで、きっと何も起こらないに決まっている。もし、もし本当に現実になってしまったらそんなの夢じゃなくてまるでー……

「真紅の美しい髪。…良い香りだ。」

「えっ…⁈」

…………なに……?この人。

意味がわからない。

王族なのに、何故こんなに無礼ばかりを犯すの?

今まで礼儀や教養を学んでこなかったの?わざと嫌がらせをしているの?何故、そんな……会って間もない女性を恋人のように扱うの?お姉様はフリージア王国の第一王女なのに。

あの人が、怖い。

「お姉様、次は何かあったら絶対声を上げて下さいねっ!」

あの人は、お姉様を大事にしてくれない。

怖くて、心配で、私はお姉様の手を握ってはっきりとあの人に注意してと訴える。

お姉様は返事はしてくれたけれど、そこまであの人に怒ったりはしていないようだった。わかってる、お姉様はいつだって優しくて自分のことになると殆どのことは許しちゃえるような人だもの。

兄様にも、ジルベール宰相にも母上達にも言えない。同盟を結びに来た王子がそんなことをしたなんて知られたら、大ごとになって同盟の話もなくなっちゃう。国同士の大事なことにお姉様が今のことを秘密にしたい気持ちもちゃんとわかる。特に兄様とジルベール宰相は絶対すごくすごく怒るもの。私だって許せないけれど、ずっと皆が願っていた同盟をあの人のせいで台無しになんてしたくない。

でも、お姉様が傷付いてからじゃ絶対に遅いから。

『俺のせいでお前はっ…‼︎俺、のっ…‼︎」』

……あれは夢。ただの夢。

夢にあの人が出てきたのはきっと偶然か勘違い。今朝見たあれは、絶対に現実にはならないただの怖い夢。

現実にならなければ良い。現実になんて私がさせない。

第一王位継承者はお姉様。私は特殊能力も何もない第二王女。来年には婚約者も決められて、この国を出て行く第二王女。そしてお姉様は、皆を幸せにしてくれる素敵な女王になって全ての民に望まれて幸せに暮らすの。

国中の人が……ううん、同盟国の人達も皆がお姉様が女王になることを信じて望んでくれている。そして私もずっとそれを望んでいる。

選ばれた予知能力者は数十年に一人だけ、そしてお姉様は九年も前からずっと選ばれた人。なのに、なのにもし私が見た夢が偶然でも気のせいでもなくて、それを上層部や誰かに知られたら……。

そんなの、絶対に嫌。

私に特殊能力なんて何もない。ちょっと怖い夢を見ることが多いだけ。

今朝見た夢も絶対に起こらないし、お姉様は怪我もしない。だから誰にも相談する必要もないし、言う必要もない。絶対絶対あれはただの夢なんだから!

本当は、……本当は気にする必要もないくらい。

別に私が何をしなくても絶対にお姉様は怪我もしない。だって、お姉様の傍には私以外にもアーサーや近衛騎士の方々がいる。お姉様があんな人に怪我をさせられるのを黙っているわけが……

〝引キトメナクチャ〟

……怖い夢、怖い夢、怖い夢。

大丈夫、お姉様は私が守るもの。今度こそ絶対に。

現実には絶対しない。現実になんてなる筈がない。

あの人が滞在中にお姉様にこれ以上近付かなければ良い。同盟を結んだ後も絶対近付けてあげない。私が国にいる間は絶対にそんなこと許さない。

セドリック・シルバ・ローウェル第二王子。

貴方には絶対!お姉様を傷付けさせたりなんてしないんだからっ……‼︎