軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

56.冷酷王女は呼ぶ。

「ロデリック。」

ロデリック騎士団長に声を掛けたのは副団長であるクラークだ。

ロデリックの目の前では騎士達がそれぞれ二人一組になって素手での模擬訓練演習を行っていた。

「クラーク、そちらの隊の演習は順調か?」

ロデリックの言葉に、紙の束を一枚一枚確認しながらクラーク副団長が軽い様子で答えた。

「ああ、勿論だ。そっちはどうだ?一人風邪で欠席と聞いたが…」

確か新入りの新兵だったか?と尋ねるとロデリックは間髪入れずに答えた。

「問題ない。一人欠けた場合の対応練習にもなる。この時期に新兵で体調不良者など出るのが当然だ。もう一時間ほどしたら射撃訓練と交代を…」

「騎士団長!副団長‼︎」

声のする方を振り向き、二人は驚愕した。

先程は誰もいなかった筈なのに。いや、それ以上にその人物の存在に驚かされた。

「プライド様⁈」

殆ど二人が同時にそう叫ぶ。

演習中にごめんなさい、と言いながらプライドは演習場の方へ目をやった。

「プ…プライド様、その格好は一体…」

ロデリックが目を丸くしてプライドの格好を確認する。真紅の騎士団服など、一体どこで仕立て、何故いま身に纏っているというのか。

「事情はまた今度お話します!それよりも騎士団長、副団長…」

演習場へ目をやったが遠過ぎて誰が誰だかわからなかった。二人ならきっと何処にいるか知っている筈だ。

「アーサーは‼︎大事な緊急の用事があります‼︎どうか今すぐに彼を」

「アーサー・ベレスフォード‼︎‼︎」

私が言い切る前に騎士団長の叫び声が演習場中に響き渡った。完全にドラゴンとか大魔神でも召喚しそうな気迫の声だ。

久々の大声に、私も傍にいた副団長も耳を押さえる。素手で格闘中の騎士達も皆、手を止めてこちらに注目している。そして「はい!」という声と共にアーサーがその中から束ねた銀色の長い髪を振り乱してこちらに駆け寄ってきた。

騎士団長は腕を組んだまま、「どうぞ」とだけ言うと副団長と一緒に後ろへ下がった。

アーサーは私の姿に気がつくと、驚いたように「プライド様…⁈なんでっ…」と声を上げた。

問答無用でアーサーの手を取り、騎士団長達に「暫くアーサーをお借りします‼︎」とだけ叫んで、人気の無い方へアーサーをそのまま引っ張っていく。

「ぷっ…プライド様…手っ…‼︎」

何やらアーサーが戸惑いの声を上げているが、とにかくステイルが来る前に物陰か何処かへ移動しないと。

なんとか人影のない武器倉庫の裏まで行き、やっと足を止める。走り過ぎて息が辛い。アーサーの方を見ると同じく息が苦しいのか顔を真っ赤にしていた。

「あの…プライド様、それで…俺に何か御用でしょうか…?」

何故かその目は一点を見つめている。気がつくと未だアーサーの手を握ったままだった。ごめんなさい、と謝り急いで力を込めていた手を緩め、離す。

「アーサー、貴方にお願いがあるの。」

ぎゅっ、と自分の拳を握りながら彼を見上げる。

「助けたい人がいるの。でも、その為には貴方を…貴方の人生を大きく変えなければいけない。良くなるか悪くなるか私にもわからないの…!」

わかっている。良くなるならまだしも、悪くなるかもわからない賭けに他人の人生を放ってしまうなんて我儘でしかない。それでも…

「それでも、どうか…アーサー・ベレスフォード、どうか私に力を貸してください…‼︎」

私の訴えにアーサーは驚いたように目を見開く。そしてそのまま私と同じように自分の拳を強く握り締めた。

「…なに、言ってんすか。」

ぽつり、と彼の言葉はすぐに返ってきた。

やはり、ダメだろうか。

それも当然だ。彼は最近やっと望む騎士になれたばかりなのに。そこで私がいきなり人生を変えるなんてことを言えば困惑するに決まって

「俺の人生なら、とっくの昔に貴方が変えてくれてる。」

そう言ってアーサーは無雑作に跪き、私の目を真っ直ぐに見上げてきた。

「俺は貴方の騎士だ、何でも仰って下さい。貴方の為ならこの命だって捧げます。」

アーサーの真っ直ぐな目に、泣きそうになる。なんとか堪え、感謝の気持ちを込めてアーサーの手を両手で握る。

許してくれた、私のこんな訳のわからない願いを。

ありがとう、と伝えて彼の顔を私もしっかりと真正面から見つめ返す。

「…アーサー、貴方の」

「プライド‼︎」

聞き慣れない声がして振り向けば、丁度ステイルが瞬間移動で地面に足をつけたところだった。わかっていた登場だけど、それよりもステイルの姿に一瞬私は思考が止まる。

「すっ、ステイル⁈な、何故そんな…」

ステイルの身体が大きく…いや、ゲームの開始時と同じ17歳の姿くらいの姿になっていた。伸縮性のある服が少し窮屈そうだ。私の名を呼んだ声もゲームの時のように低く、一瞬ゲームに変なバグでも起こったのかと本気で思ってしまった。

「話は後です‼︎それよりも、もうっ…」

私やアーサーより背の伸びたステイルが慌てた様子で声を荒げる。ステイルの背中越しに空を見ると、もう日が沈みかけている。

早く、アーサーに伝えないと‼︎

そう思った途端、私が握っていたアーサーの手を今度はアーサーが強く握り返してきた。

ぐっ、と強い力を与えられ思わずアーサーの方を振り向く。

「ステイルッ‼︎」

そのままアーサーがステイルの方へ手を伸ばした。

「連れてけ‼︎」

まだ、何も言っていないのに。

彼は躊躇なく私と共に行くことを決めてくれた。

そしてステイルもまたアーサーの手を掴んだ。

次の瞬間、アーサーと手を繋いでいた私ごとステイルは先に私達二人を瞬間移動させた。

マリアンヌさんの、眠る部屋へ。