軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

434.騎士は怖じける。

「あ〜あ。…つまんなぁい。」

いつものプライド様の部屋。そこでいつものように綺麗なドレスに身を包んだプライド様は、一時間前に朝食を終えて、……いつもと全く違う声色でソファーに身体を沈めた。

ティアラも朝からプライド様に会いに来たけれど、プライド様がまた手元の本を投げようとしたから急いでエリック副隊長が遠ざけた。

昨日と変わらないプライド様の反応に、ティアラは朝から泣きそうに顔を歪めていた。「あの子と食事なんて取りたくないわ!部屋に用意させてちょうだい!」と声を荒げたプライド様に、専属侍女のマリーさんもロッテさんも足早に食堂へと向かった。

近衛兵のジャックさんもだけど、プライド様の豹変にどこか冷静な部分もあってすげぇなと思う。…ただ、皆が表情は暗かった。

いつもは手紙の整理を始めるプライド様が、今日は届いた手紙に一つも手を付けようとしない。プライド様と面会しようと城前に集まった訪問客が目が覚めたら手紙だけでもと昨日今日で預けた手紙もあったけれど、その全部に一目もくれない。「適当に捨てといて」と伸びをしながら侍女達に命じた途端、マリーさんが急いで手紙をまとめ出した。「こちらで処理しておきます」と言い直していたから、多分どこかに保存しといてくれるんだろう。…プライド様が、戻るまで。

あまりにも当然のように俺達の前で違う姿を見せるプライド様が、…まるで本当にずっとこのままなんじゃないかと思うくらいに平然と自分の髪を指先で弄ってる。違和感が酷くて、見ていると頭がぐらぐらする。

「なぁんで、外出禁止なのよ?…父上も結局は母上の味方なのだから。」

フン、と鼻を鳴らすプライド様はつまらなそうに足を組み直した。

いつもは綺麗に両足を降ろすプライド様が、ドレスの格好にも関わらず。配置がプライド様の背後で良かったと心から思う。正面からだったら目も当てられない。

プライド様の部屋から女王達が出てきた後。プライド様の回復の情報を城内で留めるように箝口令が出された。更にはプライド様の異変についても知った者はそれも噤むようにと。お陰で騎士団演習場に戻った後も騎士達や父上や副団長のクラークにもプライド様はどうだったか聞かれたけれど、答えられなかった。

目を覚ましたことしか言えず「良かったな!」「これで安心ですね!」と口々に言われても上手く返せなくて辛かった。代わりにアラン隊長達が上手くはぐらかしてくれたり、ハリソンさんが「話せないと言っている……‼︎」って不機嫌気味に会話を叩き折ってて、改めて自分が情けなくなった。

…あまりにも、プライド様をプライド様だと認めることができなくて。

目が覚めてくれて嬉しい。生きててくれて良かった。

心からそう思う筈なのに、何故かそれ以上に落胆している自分が居た。…あんなに目さえ覚ましてくれれば良いと願ったのに。

ステイルは、まだ原因究明の為にヴェスト摂政のところにいるらしい。もし、プライド様を戻す方法を見つけてくれりゃあ良いんだけど、そうやって何でもステイルに頼るしかないところが余計に情けない。

昨日、プライド様が目を覚ます前に聞いたラジヤ帝国は…明日には帰国する予定らしい。尋問ができるのはプライド様が目を覚まさなかったらという話だったけどプライド様の豹変は明らかだし、断行に進めばと思う。……少しでも早く、あの人を取り戻したい。

レオン王子も、まだ来なかった。昨日は朝一番にプライド様の元に来たのに。どうかしたのかなと少し心配にな

「ッきゃあ⁈」

突然悲鳴が上がって現実に戻る。

見れば、ロッテさんがプライド様に足を引っ掛けられていた。エリック副隊長がロッテさんを受け取めて、俺がロッテさんが持ってた食器をトレーごと受け止める。ガチャシャンッ!と食器が鳴ったけど、なんとか床に落とさずには済んだ。ほっと息を吐くのも束の間にプライド様が「あら、コップ割らなかったのね」と馬鹿にするように笑う。

そのまま、何事もなかったようにロッテさんが淹れた紅茶を一口含んだ。侍女が食器割るなんて大問題だし、一緒に転んだら大怪我だってあり得んのに。

何やってンすか、って何度も叫びたかったけど、あまりにも平然と笑うプライド様が俺達の反応を待つみたいで、……しかも相手は王女様で。

何も言えず、自分でもわかるほど顔が強張ったままプライド様を見つめちまう。エリック副隊長に御礼を言ったロッテさんがそのまま「ありがとうございました」と俺からトレーを受け取った。プライド様へ怖々と侘びると、そのまま足元に注意しながら急いで食器を片付けた。

…朝から、こんなことばっかだ。

暇になる度、わざと床を汚したり、物を倒したり足を引っ掛けたり押したり蹴ったりと侍女達にやっては静かに笑う。

特によく顔を合わす専属侍女の二人には酷い。俺達にも似たようなことをしたけれど、流石に俺達は転ぶまではないしその前に対処できたから平気だった。でも、プライド様のせいで物を壊し掛けたり散らかすとすぐプライド様は嘲笑うか怒るから、本当に不条理過ぎて訳が分からなくなる。もう今朝からのプライド様には悪意しか感じられない。

いつもはプライド様に怒る時は怒るマリーさんすら何も言わない。寧ろ、何か心の整理がついてるみたいに淡々と済ませるから本当にすげぇ。…けど、まるでプライド様に何か諦めてるようにも見えて胸が痛くもなった。

「ねぇ?アーサー。」

はいっ…⁈と、突然声を掛けられて思わず肩が上下する。

目が覚めてから初めて名前を呼ばれた。

ずっと俺達を疎ましそうな目で見るか、居ないように振る舞うから全然話しかけられるとは思っていなかった。何でしょうか、と尋ねるとプライド様は何故か怪しい笑いを浮かべた。ソファーに凭れたまま仰向けに倒れ込んで、真後ろにいる俺を下から覗き込むように顔を反らす。俺に笑いかけてくれたその顔が、…何故だかゾワリと背筋を気持ちの悪いモンが走って。俺の表情の変化に気づいたようにプライド様は更に笑みを広げると、再び口を開いた。

「自分一人近衛騎士から外されるのと、近衛騎士ぜ〜んぶ廃止されるの。…どっちが嫌?」

「は……⁈」

完全に、血が冷たくなった。理解するよりも先に、本能的なモンが反応して…口が開いたまま動かなくなった。

どう、答えれば良いかもわからなくて。正直に廃止されてプライド様を守る人が減る方が嫌だと言うべきか、それとも。……この人が考えていることそのままだったら、反対の事を言うべきかと。変に冷静になっちまった自分にも焦った。呼吸が勝手に浅くなって、冷や汗が伝った。

「ねぇ?どっち⁇……簡単な質問でしょう?」

音が聴こえてきそうなほどニタニタと笑うプライド様が、完全に異物で。

もう、ただの俺の悪夢じゃねぇかと思うほどに現実から遠すぎて。隣でエリック副隊長が息を飲む音が聞こえてきた。

どう、答えればこの人を守れるのか。どう答えれば正しいのか。なんで俺はこの人にこんな選択を迫られているのか。視界が白黒に光って、プライド様の笑顔が上手く視界に入らなくなる。…ただ。

多分、この人の中で答えは決まってる。

引き攣るように上がった口端だけが、目に焼き付いた。