軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

37.騎士たり得る者は気づき、

騎士団の一番後ろに並び、城の中を歩く。

どこもかしこも煌びやかでキラキラしてて、今更になって昨日と同じ着の身着のままなのが億劫になった。

親父やクラークには鎧だの着替えだの用意されたが、この歳で服を用意されるのがダサ過ぎて断った。せめて髪を纏めろと言われても騎士団の前でこんな格好で親父似の顔を見せるのはもっと嫌だった。

だが、今あまりにも場に不相応な状況を自覚して、やっと親父とクラークが着替えを用意してたのを理解した。

謁見の間。

騎士どころか、親父や副団長のクラークすら滅多に入れない場所だ。

親父もクラークもまさかあの部屋を用意されるとは、と驚いていた。

騎士全員が真ん中の道を開けて二手に分かれる。誰一人何も言わず、プライド様が来るのを待った。

暫く待ち、時間丁度になるとプライド様が入ってきた。

昨日とは違い、豪奢なドレスを完璧に着こなして歩く。第一王子のステイル様、第二王女のティアラ様を引き連れて。

…ああ、やっぱ王女だったんだな。

なんとなく、やっと実感が湧いた。

綺麗な人だ。

昨日の立ち振る舞いが嘘のように、優雅に、そしてゆっくりと歩くその姿に頭がぼうっとなる。

まるで、別世界の人みてぇだ。

親父とクラークに合わせて、騎士団が跪き、俺もそれに習う。

そのままじっとしていると、プライド様が声を上げる。

「面をあげなさい」

騎士達に合わせて顔を上げる。そこには、確かにこの国の第一王女がいた。

「人払いは済ませてあります。今、ここにいるのは貴方達と…私と愛しい弟妹のみ。」

プライド様の言葉に合わせて、ステイル様とティアラ様が軽く会釈をした。

「私に言いたいことがあるのならば、今この場でのみ、どのような失言も咎めません。」

騎士団から緊張が走る。

すると、それを汲んだかのように続けてプライド様が話し始めた。

「ステイルから話は聞きました。私が現地に赴いた一件は内密にして下さったそうですね。ありがとうございます。」

俺もクラークから言われた。そのことについては厳守だと。お袋にもダチにもこれから先絶対言うなと。それが騎士団やプライド様の為になるならと俺もそれに同意した。

親父はプライド様の言葉に「いえ…此方としてもその方が助かりますので。」と答えるとそのまま、ゆっくりと言葉を続けた。

剣や狙撃、格闘術の経験はあるのか。

何故、奇襲者が特殊能力者だとわかったのか。

何故、単身でしかも他の騎士達に任せず自分があの現場に向かったのか。

親父の問いはプライド様も咎めるように続く。第一王女にあそこまでキツい言い方をする親父にも驚いたが、プライド様が剣や狙撃、格闘術の経験が殆ど無いことにも驚いた。あんな戦い方、ちょっと齧った程度でできるとは思えない。

本当は熟練なのにそれを隠してんじゃねぇのかとも思ったが、それにしては嘘が下手だった。

予知能力だとか、ステイル様の特殊能力の制限とかを聞いた時にはもうその事で若干頭がついてこなくなっていたが、次の瞬間親父の怒鳴り声で目が覚めた。

「それでも‼︎貴方が戦場に出られるより遥かに良い‼︎」

ビリビリと皮膚や鼓膜までくるような怒鳴り声。ここまでキツいのは久々に聞いた。

「もし他では間に合わぬ可能性があったとしても‼︎貴方が出るべきではなかった‼︎先行部隊にその男の特徴でも伝え、あとは私達に任せておけば良かったのです‼︎」

クラークが落ち着かせようとするが、ありゃあ駄目だ。完全に言う事を決めて怒鳴る時の言い方だった。

助けて貰ったってのにンな言い方あるかよ、とも思ったが、それ以上に親父の言う事は最もだった。

…そう、親父はいつだって正論だ。

王族は誰よりも優先されて守られるべき特別な存在だ。そして、その為に民は税を払うし言う事も聞く。騎士だってその為に命だって当然のように張って死ぬ。

その王族が、騎士団長とはいえ王族以下の人間の為に命を張るなんざ馬鹿げてる。

プライド様も途中からは堪えるように時折口を結んでは、親父の言葉を聞いていた。

騎士は王族の為に命すら捨て

騎士は王族一人に複数の命を捧げる。

王族はその一人の死すら国に、そして民に大きな影響を与える。

だから騎士は王族の為に生きて死ぬ事を誇りとする。

プライド様の行動は親父の死に方に泥を塗った。

…そこまで聞いた時、まさか親父はあそこで自分は死ぬべきだったとでも言いたいのかと気がついた。

ふざけるな。

あの時の絶望や喪失感は今も嫌なほど生々しく覚えてる。

テメェが生きててどんだけ騎士達が喜んだと思う思ってる?

俺が、どんだけっ…

「お捨てなさい‼︎自らを危険に晒すぐらいならば、例え騎士団長である私の命でも躊躇なく‼︎貴方は御自身の価値というものを全く」

いっそこの場で殴ってやろうか。

そう思って拳を強く握り直した時だった。

「黙りなさい。」

プライド様のはっきりとした声が響き渡った。

俺も、親父も、騎士達全員が言葉を無くす。

それ程の威厳がそこにはあった。

親父とはまた違う、ビリビリとした圧力に全員が固まる。

プライド様がゆっくりと、立ち上がった。

「貴方のおっしゃる通りです、騎士団長。私は短絡的な行動で多くの者に迷惑をかけました。貴方の望まぬ形で、貴方を助けようとした。ですが」

プライド様の言葉が静かに、冷たく紡がれる。そこには確かな〝怒り〟を感じられた。

最後に言葉を切った時、誰もが察した。

プライド第一王女が、怒る。

「私が救ったのは貴方一人ではありません!貴方が、そして貴方がこれから育て上げるであろう騎士達が‼︎これから先どれほどの民を救うとお思いです⁈」

ざわっ、と鳥肌が立った。

親父一人ではない、これから親父や親父が育てる騎士に助けられる民を助けたのだと。

彼女は確かにそう言った。

それほどの価値が、親父にはあるのだと。

ただ聞くばかりの俺達を見下ろし、その第一王女は続けた。

「己が価値を理解していないのは貴方もです騎士団長‼︎貴方に関わる人間がどれほど貴方を慕い、愛し、心を傾けていることか‼︎」

わかってくれた、この人は。

俺の、俺達の気持ちをちゃんとわかって、言葉にしてくれた。

俺にはそれが堪らなく嬉しかった。

「私は王族です‼︎第一王女であり、この国の第一王位継承者です!この国の民が為に生きる者です‼︎そして貴方方は騎士です‼︎直接民を守る、我々の希望であり光です‼︎騎士一人の死がこの先、どれほどの救えたであろう人に救えぬ結果を招くでしょう‼︎」

血が、震える。

こんな経験、俺はきっと一生味わう事はない。

〝民が為に生きる者〟

なんて神々しい存在なんだろう。

そして、そんな存在にとって騎士は〝希望であり光〟だという。

直接民を守る存在、そして一人の騎士の死もこの先に多くの影響を残すほど大きなものだと。

そうだ。

それが俺の憧れ続けた騎士だ。

「例え貴方が騎士団長でなく、単なる一兵卒であろうと私はきっと同じ行動をしたでしょう‼︎救えるとわかった時点で救わねば‼︎不要な死などこの私が許しません‼︎」

不要な死など許さない。

第一王位継承者のその言葉が、騎士達にとってどれだけ大きなものだっただろう。

その時俺はやっと理解した。

プライド様があの時、親父を助けに動いたことに俺は全く関係無い。

ただ、偶然居合わせただけだ。

俺への同情とかですら無い。

俺があそこに居ようと居まいと、この人は全く同じ行動に出ただろう。

同じように飛び出し、戦い、親父を救った。

救えるとわかった時点で救う…そのことがどれだけ大変で、勇気が要ることだろうか。

「貴方達は騎士であると同時に我が国の民です‼︎誇り高き民です‼︎我が民を守るのが我が王族の役目‼︎騎士と名乗るのならば、名誉高き死を迎えられぬことよりも、この先救えたであろうまだ見ぬ民を救えぬことを悔やみなさい‼︎」

とうとう身体まで震えた。

たった数秒の間に、俺は何度も何度も何度もプライド様の最後の言葉を反復した。

〝名誉高き死を迎えられぬことよりも、この先救えたであろうまだ見ぬ民を救えぬことを悔やみなさい〟

俺は、守りたかった。

親父を、お袋を、皆を。

だから親父以上の騎士になれないことが悔しかった。

俺の憧れが親父だったから

だからこれ以上親父の恥になるのが嫌で、騎士になるのを諦めた。

あの時…親父が死ぬと思った時

俺は何を悔いた?

これまでの人生、何を悔いて悔いて悔い続けた?

〝騎士になりたかった〟

〝守りたかった〟

〝強くなりたかった〟

誰だ?

親父の恥になるなんて、親父に責任全部押し付けて騎士なんざ遅いと俺を蔑んだのは。

親父か?違う、親父はいつだって諦めるなと、今からでも騎士を目指さないかと言ってくれていた。

親父の恥になると、今からなんざもう遅い、俺には才能がない、親父みたいには絶対なれないと。

何度も何度もクソみてぇに俺を殺し続けたのは‼︎

この、俺だ。

ー …ああ、まただ。

身体の震えが止まらない。

手をついたまま、プライド様の声を聞く。

騎士達に勝手なことをしたと謝っている。

ー…また、気づいちまった。

クラークが続いて話す。

親父を救ってくれたことに対する感謝だった。

クラークがそう言ってくれたことが、途轍もなく嬉しかった。

〝名誉高き死を迎えられぬことよりも、この先救えたであろうまだ見ぬ民を救えぬことを悔やみなさい〟

また、あの言葉が頭を回る。

他の騎士達も口々に礼を言い、平伏していく。

親父は一人驚いているけれど、こんなに沢山の騎士に慕われた親父が今は、ただただ誇らしい。

最後に俺も立ち上がる。

後ろから見ていたから上手くできるかわからねぇけど。

ど下手に平伏し、額を床にくっつける。

今はただ、感謝したい。

親父を救ってくれたことを。

後悔する前にまた、会わせてくれたことを。

俺は、怖い。

この先、本当に守りたいものを何一つ守れない未来が。

「…では、我々は失礼致します。」

クラークが合図をして、騎士が一人また一人と退室していく。

俺は、きっと悔やむだろう。

今、この場でまた諦めたことで、この先に俺が救えたかもしれない大切な人達を、救えなかったその時に。

「ッ…あの!…」

裏返りそうな声を抑え、なんとか舌を回す。

プライド様が俺を、見る。

もしかしたらもう、覚えてなんざいないかもしれない。

ただただ泣き喚いた情けないクソガキな俺のことなんざ。

それでも。

「俺からも、…良い…でしょうか…」

ー 俺はまだ、諦めたくない