軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外 騎士隊長は挨拶する。

「すみませーん。アラン・バーナーズです。もうジャンヌ達帰ってますか?」

呼びかけながらノックを鳴らす。

二回目を鳴らし終えるより前に扉が内側から勢い良く開かれた。

おぉ……と、アランもあまりの勢いと扉の向こうの状況に顔が半分笑う。玄関の外から既に聞こえてきた声でなんとなく想像はついていたが、それ以上の状況だった。

扉を開けてくれたのはてっきり部下であるエリックだと思ったが違うこともすぐ理解する。

自分が現れたことで状況がそのままに固まったエリック達に、アランもご家族へ向けて「どうも」と挨拶をした。どうやらプライド達は先に帰ってしまったらしいと目で確かめながら、改めて玄関の扉を開けてくれた人物に目を向ける。

兄であるエリックと揉み合い真っ最中だったキースに。

「アランさん良いとこに‼︎ほら兄貴上官だぞ上官!アランさん‼︎」

「キース……お前本当に昔から…………」

ハァァァァ、とエリックにしては低い声と溜息にアランも笑った顔のまま僅かに引き攣る。

副隊長として自分を色々とフォローしてくれるエリックだが、こんなに不機嫌を露わにするのはやはり身内だからだろうと思う。

仲良いなーと暢気に言いたくなったが、すぐに止まった。エリックは今それどころではないことは一目でわかる。

校門前で会った時はいつも通りだった髪が、今は一方向だけぐしゃりと乱れていた。

更にはひったくり逮捕でもするようにキースを背後から右腕で確保し、左手が彼の懐へと伸ばされていた。足の組み方も、これ以上逃げられないように立ったまま弟へ引っかけている体勢はまさに騎士団での素手での格闘技術演習の賜物だった。

そんな兄から決死に懐を右手で押さえ守りながら、反対の手を伸ばして扉を開けたキースにアランの第一印象は〝現行犯〟という言葉が相応しかった。

無事ジャンヌ達を見送るまでは良かったギルクリスト家だが、消えて間もなく弟に色々してやられた兄が再び手帳を没収すると宣言すれば戦いは免れなかった。

没収しようとする騎士の兄から本気で逃げようとするキースにとって、アランの訪問はまさに助け船だった。

髪ごと押しやった兄の側頭部から手を離し、扉を開けて強制的に揉み合い中断を図った。いくら怒っても上官の前でも構わず兄弟喧嘩する兄ではないことはキースもよくわかっている。

目論見通り溜息と共に拘束を解かれれば、両腕で服越しに手帳を抱き締めながら早足でアランの背後に回った。

エリックももうキースを追う気はない。団服の皺を伸ばしながら、疲れた声でアランへと頭を下げた。

「アラン隊長、大変失礼致しました……。つい先ほどジャンヌ達は無事に帰りました」

「そっか。いやー遅くなって悪い。ちょっと手間取ってさ、城入ってすぐ走ったんだけど」

さっきの揉み合いはなかったことにするエリックに、アランもけろりとした顔で合わせる。

今日、親戚が世話になった立場としてギルクリスト家に挨拶をする予定だったアランだが、王族の馬車でセドリックを護衛送迎してからだった為エリック達よりも遅くなってしまった。時間短縮の為にセドリックから許可を得て彼の宮殿前ではなく今回は城門で一人馬車を降りて急いだが、それでも流石に間に合わなかった。

いえ、わざわざありがとうございますと礼を言うエリックも今思えばこのタイミングで良かったとも思う。流石にさっきのやり取り全てを上司であるアランにも見られたら余計に居たたまれなくなる。

アランの背後に避難するキースを無視し、改めてアランを両親に再度紹介する。ジャンヌ達のことで最後に挨拶にきてくれたと。そう重ねれば、両親も深々とアランに挨拶を返した。

本当に良い子達で、寂しくなります、と行ってくれるギルクリスト家に、アランもあくまで親戚としての感謝を告げながら持参したものを手渡した。

「あっ、これお礼には足りませんけど。ケーキ、皆さんで召し上がってください。ジャック達の親全員からもくれぐれもよろしくと言われてます」

おおおっ!流石騎士‼︎と、アランが差し出したケーキの箱に一番声を上げたのは背中に隠れていたキースだ。

ケーキとしか言われなかったが、王都でも買うことが難しい高級店のものだと一目で理解する。自分も噂や記事に関わったことはあっても、実際に食べる縁のない高級菓子だ。

こんな高級なの良いのですか?とギルクリスト家から確認されるのも笑って返すアランに、エリックもまた申し訳なさで頭を下げる。まさかアランからそんな上等な手土産を用意されるとは思ってもいなかった。

「本当お世話になったんで。今後も何かの折にはよろしくお願いします。自分は一番隊でエリックにも本当助けられていますし、困ったことあればいつでも」

「いえいえ。こちらこそ、ジャンヌちゃん達も学校後にいつでも寄ってくれて構いませんから

「いや~、まぁ。実は、フィリップ達にはまだ確定まで言ってないんですけど。……またいつ山に帰れってことになるかわからなくなってきてるんですよね」

折り合い悪くなってきて、と。流れるように言われたアランからの新情報に、両親もキースきょとんと眉を上げる。山に?折り合い⁇と尋ねる彼らにアランは笑いながら決めていた後情報を続ける。

ジャンヌ達の祖父がやっぱり山をもっと手伝って欲しいとごねだしている。ジャンヌ達にこれから玄関を貸す叔父一家とつい先週喧嘩をした。今後も学校に通えるかどうかは喧嘩の行方次第、と。そうプライド達とも打ち合わせていた通りに理由を続ければ、それ以上疑問の声は上がらなかった。身内のもめ事である以上、深くも聞けない。

「でも皆さんにはこれ以上迷惑かけないんで」とそのままさらりと置くアランに、エリックは家族に表情を見せないようにしながら感謝する。今自分はそこまで上手く嘘を言えるほどの気力が残っていなかった。

「ギルクリスト家の皆さんには本当にご協力頂いて感謝しています。どちらにしてもジャンヌ達には良い経験になりました。ご協力なかったらフィリップ達は一度も学校通えなかったと思いますし」

ありがとうございました。そう言って最後に深々と礼儀正しく頭を下げるアランに、エリックも自分の家族とはいえ並んで下げた。事実はどうあれ、今回の任務に家族が協力してくれたことには変わりない。

それでは自分も任務あるんで。と、アランから促すと共にエリックも続くように玄関を出た。また休みに、と家族に軽く手を振り、キースを軽く睨んでから扉を閉じた。

「すみません、アラン隊長ご説明全てして頂いて……。わざわざあんな高い菓子まで……。もしかして遅くなったのもそれで?」

「いや~まぁそうっちゃそうだけど。……………………聞いて平気か⁇」

びくっ、と。エリックの肩が不穏に揺れる。

まだキースも家族のだれも家から出てきてないことを振り返り目で確かめ、しかしもっと距離を空けてから聞くことにする。アランはいつものように笑って後頭部に両手を回しているが、今の言い方は気になった。

二十メートルほど離れ、周囲に気配がないことを確認してからアランは「まぁジャンヌの説明の方はその為に俺が来たようなもんだし」と断ってから、遅くなった理由に声を潜める。

「今日お前ん家行くから城門で抜けますって許可頼んだらセドリック王弟がそれなら馬車でそのままお前の家行こうって言い出してさ」

「……………………」

もう早々にエリックは目眩がした。

プライドの近衛騎士としてセドリックとも少なからずは関わりがあるが、それでも友人というほど深くない。どういう理由でセドリック王弟が我が家に、と思えば「俺の付き添いってことなら良いと思ったらしくて」と先に続けられる。

護衛の用事に予定を王族が合わせること自体基本的にありえない。しかしセドリックからすれば、今回の功労者であるエリックの家族にも作戦の趣旨は言わずとも挨拶したいと思うのは当然だった。今自分はフリージアに根を下ろしていて、過去にはアランにもエリックにも恩も迷惑をかけたことがあるのも変わらない。

一言挨拶だけでも、と望むセドリックにアランも流石に全力で断った。ただでさえ王族二人が家に訪れているだけであんなに疲弊していたエリックが、正真正銘王族が現れたらどうなるかは想像できた。

「で、ならせめて手土産でもって。アレ。いや~王族だと店混雑してても余裕で買えるからすげぇよな。なんか手土産俺も買おうと思ったけど、これあるなら良いかなって。折衷案としては良い方だろ?」

「ありがとうございます……!」

王族襲来阻止とそして王族の気配を全く出さずに手土産を提供してくれたアランに、エリックは今日一番頭が下がった。

一気に肩から足まで力が抜けそうになる。

あきらかに安心している様子のエリックに、アランは「ぶはっ」と笑いながらバシバシその肩を叩いた。

「セドリック王弟も、気を遣わせるから自分が買ったって教える必要はないって言ってたし。あっ、ケーキお前の分もあったけど、置いてきて大丈夫だったよな?」

「はい。もうなんでも良いです……。……今度、自分がアラン隊長に奢ります……」

力なく言葉を返すエリックに、アランはまた笑いながら肩を叩く。

玄関を開けた時の揉み合いの経過話も聞きたいが、今は我慢した。代わりに気の紛れる話題に変える。部下の気力を奪うにはまだ演習も残っている。

ひとまずはただ「おつかれ」と告げ、今夜の飲み会を約束した。