軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Ⅱ425.見かぎり少女は提示し、

「いえっ、でもその……!」

「おいコラ兄弟。そこで俺様出すか?」

言葉を詰まらせ、汗で湿らせる。

ライアーが軽口を挟む中、プライドはレイとの繰り返し問答を重ねつつ自分の発言を後悔した。まさかこんな展開にまで動くとは思ってもみなかった。

いくら自分が遠回しに説明と断りをいれても、レイは全く動じず頑としたままだ。つい滑らせてしまった唇を噛みながら冷たい汗が全身にまで沁みていくのを感じた。

いえ、でも、もしかするとと何度も説いたが、一度決めたレイは全く考え直すそぶりすらみせない。構わねぇ、気にするかと突き放すように言っては自分の中で決定してしまう。

何度も問答を繰り返し合うプライドとレイの姿に、アーサーだけでなくステイルも丸くした目で眼鏡がずれかけた。

ステイルもプライドの考え程度は読めたが、この判断の是非は自分にも考えつかない。彼女らしいといえば彼女らしいが、同時にそこまでして撤回しようとする気持ちもわかった。それはアーサーもエリックも同じである。

しかし、当のレイがこれだけ言っても構わないと言っているのなら諦めるしかないとも考える。一度提案してしまったのはプライドの上、彼が条件全て飲むならば断る理由もない。あとは本人達の問題である。

ぽかんと口が開くアーサーを置き、ステイルは「ジャンヌ」と一声掛けた。助けを求めるように困る眉を自分に向けてくるプライドに、ゆっくりと首を横に振って促した。

もう諦めた方が無難かと、とその意思は言葉にせずともプライドの肩を落とさせる。

「……わかりました。では来月。…………本当に良いのね?」

「しつこい」

はぁぁぁぁぁ………、と王女としてはできないような深い溜息をうっかり吐き出してしまう。

残念ながらライアーからも反対の気配がなければ、レイの意思を止められる人間など存在しないと理解する。恋に落ちる中でレイを制御可能になるアムレットも今は不在の上、別方向に片思い中である。

プライドはうっすらと今から目眩を覚えながら今後の予定を新たに頭で練り直す。いっそ極秘視察を終えると同時に約束ごと有耶無耶にする手もあるがそれは自分がしたくない。約束は約束だ。

ジャンヌの了承と、そして疲弊した様子にレイも満足げに翡翠の髪を耳にかけた。予想とは違ったが目の前で疲れ切ったジャンヌの姿を見ればそれだけでも問答の価値はあったと思う。

変わらず肘を置いていたライアーも機嫌の良さそうなレイの肩へ今度は手をポンポンと叩いた。

「よーしもう満足したろレイちゃん。帰るぜ、飯までもう一眠りさせてくれよ」

「ッ誰の所為でわざわざ無駄足運んだと思ってやがる。大体城下でぐだぐだ遊び歩いていた分際で」

はいはいはいはいはいと。はいをいくつも繰り返しレイの言葉を上塗るライアーは、置いた手でそのままレイの肩を掴み引っ張った。

引っ張るんじゃねぇ!と怒鳴るレイだがそれまでだ。今度は振り払う素振りもなければそのまま引き摺られるような形でずるずると後退していく。その周囲には黒い炎が浮かぶ気配もない。

「じゃあな」と上がった声でライアーが女性陣の名前だけを呼び手を振り、廊下への扉へ手をかけた。

待って、と。

そこでプライドは思い立ち声を上げた。突然の呼びかけにライアーも肩を揺らして足を止める中、レイも釣り上げていた両眉でジャンヌを見返した。まさかここで呼び止められるとは思わなかった。

何かまだ文句でもあるかと見返せば、三歩だけ自分達の方へ前にでた彼女は鋭い目つきを更に少しだけ釣り上げる。

「私からも二人に条件があります」

当然ながらと言わんばかりにはっきり声を通らせるジャンヌに、二人もすぐには尋ねなかった。

こちらから要望を出したのならば、向こうからも対価を求められるのは当然のこと。レイが顔を上げ、ライアーが見下ろす形で目を合わせる様子にプライドは胸の前に両手を重ね握った。

もう明日でジャンヌも最後なのだから無条件で力になりたいと思う反面、やはりこのまま自由気まま過ぎる彼らに不安はある。ディオス達と違い、もう今後数えられるだけしか自分が関われないのならば余計にだ。

学校でも未だにファーナム兄弟を虐める以外孤立しているようにしか見えないレイと、女性であるヘレネとネルはともかくファーナム兄弟には雑な扱いしかないライアーへの一番の不安要素の解消を含め条件に決める。

「……ちゃんと皆で仲良くして下さい」

まるで、子どもの躾のような条件に流石のレイも隻眼を丸くした。

ライアーに至ってはこの年でそんなことを言われるなど予想もしていなかった。〝皆〟がどこまでの範囲かと思考を巡らせれば、その答えはすぐに彼女から続けられた。

「貴方達お互いだけでなくお向かいさんを含めた共同生活を行う全員とです。特にディオスとクロイを虐めるのも粗雑に扱うのもやめてください。二人ともヘレネさんの大事な弟で、ネル先生の同居人です」

もちろん学校でもです。と、そう告げればレイの眉がぴくりと動いた。

本音を言えばお向かいさんと言わず学校の全員と仲良くしなさいとまで言いたかったプライドだが、そこまで強制するのは酷だと思う。勿論仲良くなってくれればこれ以上はないが、誰と仲良くするもしないも本来であれば本人達の自由だ。

しかしこの先強制的に関わらないといけない人物だけでもきちんと仲良くするようにと、プライドは具体的人物名を一人ひとり挙げながら断った。

「わざと泣かせたり嫌がらせをしないこと。貴方は楽しくても相手は不愉快です。私達にとってヘレネさんやネル先生と同じくらいディオスとクロイも大事な友達なのだから」

本来であれば言わなくてもわかる筈であることを敢えて言葉にして説明する。

ライアーはわかっているだろうと思うが、レイに関してはその時点で説明が必要だと判断した。あまりにも説くには極当たり前の基本だ。

しかしその言葉に、ディオスは握り拳を作ってジャンヌを見つめた。

当たり前の指摘を受けているレイへの爽快よりも自分達を庇ってくれるジャンヌに嬉しくなる。友達、と明言されたクロイもつい小さく頬を掻いた。レイとジャンヌとの会話は自分達も引っかかる部分や不安もあったが、ジャンヌがここまで言ってくれたなら大丈夫だろうと胸の底で思う。

その様子が視界に入ったレイはギロリと一度二人を睨んだが、その途端視線が変わったことに気付いたプライドは「睨まないの」とまた叱る。この場でいっそ耳をまた引っ張って叱りたくなったが、ライアーの手前止めておこうと思いとどまる。

「困っていたら時々手を貸してあげるくらいはして下さい。こうしてお世話になっているのにそれができないのなら、私だって貴方達の希望全てには添いかねます」

あくまで交換条件だと。そう意図を込めた最後の言葉に、二人揃って肩が揺れる。間の抜けていた顔が引き攣るライアーが目を向ければ、片割れも仮面に隠されていない半分が険しく強張っていた。

その反応にやっぱりライアー以外の相手から強制されるのは聞かないかとプライドは音には出さず息を吐くが、ここは譲らないと口を結んだ後もレイを睨み返した。

本来であれば簡単過ぎる交換条件である。

今後ネルが防御壁になり守ってくれるとしても、ファーナム兄弟との関係が悪化するままではいつか綻びも生じる。

折角悲劇を回避できたのに、ここで不要な諍いで足の引っ張り合いもして欲しくなかった。今までのことを謝れとも、そしてゲームのように特別親しくなれとも言わない。しかし険悪な関係のまま物理的に近い存在ではお互いに百害あって一利ない。

今後自分がレイの性格を改善し続けることもできない今、これがプライドにとって精一杯の最善だった。少なくともこの条件を飲めなければ、自分もレイからの依頼には絶対に応えられない。

プライドと同様に無言を貫くレイは、腕を組みながら同じく沈黙で彼女に返した。「いいだろう」の一言が負けを認めるようで腹立たしい。

今にも黒炎を生じさせそうなほど険しく半分の顔を歪めるレイに、プライドも長くなるのならば家の外で話すべきだったかしらと思い直した時。

「~~……ッッよぉぉおしわかった‼︎レイちゃん了承決まり‼︎俺様も可愛い子ちゃんの頼みなら断れねぇから文句はねぇ、な⁈」

沈黙の亀裂にライアーが割って入った。