軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14.義弟は前夜を超える。

「…っぐ、ああああああああ…」

ー誰だろう。誰かが泣いている。

暗い、真っ暗の中で呻きのような泣き声が聞こえる。…僕だ。

「あら?ステイル、もう戻ってきたの早いじゃない」

誰かが僕に近づいてくる。

顔が見えない、塗り潰したように真っ黒な顔の女だ。

ああ、そうだ僕は彼女の命令で、母さんを殺して戻ってきたんだ。

会えた途端に嬉しそうに、でも凄く驚いていた母さん。僕が必死に「逃げて」と言ったけど、わからないように棒立ちのまま、僕の刃を受けて死んでしまった。「ステイル…どうして」という言葉が今も生々しく耳に残っている。血を流して倒れた母さんは泣いていた。

死んだ母さんの顔をちゃんと見ることもできずに床に倒れた母さんを置いて僕は、僕は、僕は、僕は‼︎

「ちゃんと命令通りすぐ見つからないように戻ったのね、偉い偉い」

撫でられた頭が気持ち悪い。機嫌良さそうに言う女に殺意が湧く。

獣のように吠えて母さんを刺したナイフをその女に振り被る。女は避ける間も無く刃はその喉元を

突き刺す…寸前に手が止まる。躊躇なんて一寸もないのに、手が、身体が言うことを聞かない。

「アハハッ、馬鹿じゃないの?隷属の契約をした主を殺せるわけないじゃない。」

そう言って、女は笑う。ああ、この声を聞くだけで吐き気がする。

「どうして‼︎どうして母さんを殺させた⁉︎僕が、母さんがお前になにをした⁈」

力の限り怒鳴る。でも、その女には届かない。

「何も?面白いからに決まってるじゃない!ああ、可愛い奴隷、ステイル。貴方のお陰で私、最近すっごく楽しいわ」

女は笑う。子供とは思えない、残酷な笑みを浮かべて。

「っ…殺せよ‼︎そんなに僕を苦しめるのが楽しいなら殺せばいいだろ‼︎」

母さんの居ないこの世界に、もう何の未練もない。

「ハァ?貴方、契約の時は私を殺すって言ってたじゃない。もう死にたくなっちゃった?死んで母親のところに行きたい⁇」

彼女の喉元で、ナイフが震えている。あと少し、あと少しで殺せるのに。

「じゃあ…命令よ。貴方はこの先自ら命を経ってはならない。そして今日のこともこの約束も誰にも言ってはならない」

「なっ…」

死なせてすらくれない。

「ああ、良い顔。暫くの間、その顔でいていいわよ?じゃあね、おやすみステイル。明日の生誕祭までにその汚らしい庶民の女の血を洗い流しておいてよ」

そういって、鼻息混じりに女が笑う。

膝から崩れて地面に拳を叩きつける。

吠える、ひたすらに自分が人間なことも忘れて吠え続ける。いっそこのナイフで自らを刺して楽になれれば。

でも、もう死ねない。命令をされてしまったから。

許さない、あの女を、

あの、人の皮を被った悪魔を。

いつか必ず母さんの仇を。

その為だけに僕はー…

「ステイル様、おはようございます。」

カーテンの開く音で、目が覚める。

侍女が起こしに来たらしい。

「おはようございます…」

なんとか口だけは返事をしながら、もう朝かとぼんやり思う。

窓の光が眩しい、布団の中に一度潜り、目を擦る。

……なんだろう、何か夢をみていたような…

思い出そうにも、全く思い出せない。

侍女が「少し魘されていたようですが、大丈夫ですか?」と言っていたけど、良い夢か悪い夢かすらわからない。ただ、目を擦った時に少し涙が滲んでいたから楽しい夢ではなかっただろう。

母さんと別れてからも夢で泣いたことなんてなかったはずなのに。そう思いながらやっとべットから身を起こす。

…まぁ、夢以外で泣いたことはあるけど。

数日前にあったプライドとの色々なことを思い出し、顔が熱くなる。どれを思い出しても恥ずかしさが込み上げ、同時に暖かいものが胸に満ちてくる。

侍女達に身支度をされながら、今日の予定を確認してもらう。

ああ、そうだ今日は…

「そして、明日のティアラ様の生誕祭に向けて最終調整を行います。」

そう、プライドの妹。そして僕にとっても義妹になるティアラ姫、この国の第二王女。

まだ僕も会ったことはない、彼女の誕生会とお披露目会が明日に迫っていた。

「ありがとうございます。姉君も楽しみにしていますし、僕も今からお会いできるのが楽しみです。」そう言って微笑むと、侍女も笑顔で返してくれた。

ティアラ・ロイヤル・アイビー

この国の第二王女。プライドが楽しみにしているというのなら僕も歓迎しよう。幼い頃から身体が弱いというし、ちゃんと守ってあげないと。 母上も父上も、そして姉上も、国民全員が彼女の誕生と存在を祝福している。

…だけど、

そう思いながら、支度を終わらせて部屋を出る。広い廊下を進み、階段までたどり着いたところだった。

「おはよう、ステイル」

上り階段から声が聞こえる。将来、この国で最も愛されるべき方。そして僕の大事な大事な人。

「おはようございます、プライド。」

だけど、僕は間違えない。僕の望みはプライドの幸せ、ただそれのみ。

明日のティアラ様の生誕祭。そして同時に母上である女王が初めてプライドの補佐として養子になった僕や、王位継承権を確立させたプライドに会う日。

僕にとって大事なのはそちらの方だ。

全てはプライド、ただ彼女の為だけに。