軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Ⅱ283.頤使少女は向き合う。

「それで、あの後は皆さんちゃんと休めましたか?」

レイの一件から翌日の朝。

いつものようにギルクリスト家を介して学校へ向かう私は、エリック副隊長にお礼を伝えた後にそのまま投げかけた。

朝からアーサー達にも昨日のお礼をしたけれど、本当に何度お礼を言っても足りないと思う。ティアラも今朝から何度もお礼を重ねていた。

昨夜の予知直後が嘘みたいに明るい笑顔のティアラを見ると、それだけでほっとした。裏通りで闇夜の中、複数人が黒い炎で焼き尽くされる場面なんて怖くて当然だったと思う。けれど、予知してくれなかったらレイの余罪が更に増えていただけでなく、裏稼業の人間や民にも被害が出ていた。

ただでさえ学校私物化をやらかしていた後なのに、本当にあの子はほっとけない。そういう意味でライアーが早々に見つかったのも、どんな結果であれ良かったと思ってしまう。

少なくともライアーさえ見つかればレイがこれ以上暴走することはない。……筈、と思いたい。

「ええ、自分達は問題ありません。ジャンヌ達こそ、お疲れではありませんか?」

朗らかに笑いながら答えてくれるエリック副隊長は軽く手を振ってくれた。

流石騎士。アーサーもカラム隊長もそうだけれど、本当に疲れが見られない。むしろ調子が良さそうにすら見える。

お礼を言った時には「また何かあればいつでも言ってください」とカラム隊長とアーサーと同じことを言ってくれた。

昨夜、アラン隊長の部屋からステイルにティアラの部屋へ瞬間移動して貰った後は、すぐに私は近衛兵のジャックと一緒に自分の部屋に戻った。

ステイルもきっとすぐ自分の部屋に戻ったと思うのだけれど、……今朝からちょっと眠そうだ。私が気付いただけでも二度欠伸を噛み殺していた。今朝にアネモネ王国から使者が来たと聞いた時も、返事より先に欠伸を我慢していたくらいだ。

話を聞いても「すぐに部屋に戻りました」の一点張りだけど。まぁあの夜は突然私が呼び出した上に、ずっと待機していた私やティアラと違って近衛騎士達を瞬間移動し続けて大変だったのだろう。欠伸を堪える度、横でアーサーが少しおかしそうに笑っていた。

「今朝も、きっとまたいるでしょうね」

レイが、と。それを言われずともステイルの指している言葉はわかった。

アーサーも確信を持つように強く頷く中、私も一言で肯定してしまう。うん、絶対いる。

昨日のことを思い出せば、間違いない。何せ、昨晩一足早くアラン隊長からライアーの足取りが掴めたと報告が入ったのだから。きっと開口一番に「遅い」と文句を言われるのだろうなぁと今から想像する。

けど、アラン隊長のお陰で誤解も解けるし、それだけでも学校に向かう足が軽い。ただでさえアムレット達に正体を隠しているのにレイの恋人なんて嘘を吐き続けるのも居た堪れなかったから、一日でも早まるのは凄く救われる。

昨晩も部屋に戻った時に、色々安心要素が多過ぎて正面からベッドに飛び込んでしまった。勿論一番嬉しかったのはティアラとアラン隊長達のお陰で悲劇を防げたことだけれど。

ゲームには全くなかったレイの行動は、前世の記憶がある私にも全く読めなかった。

私が彼から権威も財産も部下も結果として取り上げちゃった上に、ライアーは中級層にも可能性があると話したからだし今回の暴走は私の所為でもある。……それでも、まさかライアーのためにできることから、自分が集めた裏稼業達の掃討に思考が行くとは思わなかった。ゲームより遥かにお手軽に闇落ちするなんて。

「ご心配はありません。アラン隊長のお陰で誤解も解けますし、寧ろ俺達の方から昨夜の苦情を言っても良いくらいです」

「そォだな。ライアーの足取りも放課後にはわかる予定ですし、もうジャンヌが我慢しなくても良いと思います」

ステイルとアーサーが交互に元気付けてくれる。

そうね、と言いながら肩が軽くなる。確かに、今までは私が勝手に協力させて貰ってる状態だったけれど、これで彼ももう関わるなとは言わないだろう。なら下手に出る必要もなくなる。勿論、恋人ごっこ兼ディオスへの嫌がらせに関与する必要も。

それを思うと、急激に今はレイよりもファーナム兄弟に会いたくなる。理由があったとはいえ、二人に本当のことを言えなかったのは本当に申し訳なかった。

話をしながら歩いていれば、とうとう学校にも近づいた。

生徒の影が増していくのに比例して聞かれては困る私達の口数が減っていく。校門に立つ守衛の騎士を目で捉えられるようになれば余計に下手なことはいえない。

よく考えると、もともとは私達の身の安全の為に置かれた守衛の騎士だけれど、今はレイにとっても安全圏確保になっているなと思う。流石に生徒として登録されている高等部生徒は止められないけれど、それ以外のレイの屋敷で雇われていた裏稼業はなかなか気軽には入ってこれない。しかも守衛する騎士は毎回温度感知の特殊能力者だ。

一応アーサーが守衛の騎士に気づかれないように歩く位置をエリック副隊長に隠れるように移動する。私とステイルも気付かれたら困るけれど、一番バレやすいのは同じ騎士であるアーサーだ。いつもの彼の動きに、エリック副隊長も慣れたように背中を貸す

「あっケメト!一緒に教室まで行こうぜ‼︎」

ッけれど‼︎⁈

ぎくっっ‼︎と突然放たれた名前に、私とステイルも顔を上げるより先にエリック副隊長の背後へ逃げる。逆にこの中では比較的ケメトに正体をバレても問題ないアーサーがエリック副隊長と一緒に背中で私達を隠すように一歩前に出て並んでくれた。

エリック副隊長とアーサーの背中越しにそこでやっと私は校門を改めて確認する。見れば、校門前でケメトが友達らしき男の子にちょうど手を引かれながら校門をくぐっていくところだった。嬉しそうなケメトの笑顔が今はその男の子に向いている。どこかで見覚えあるなと思えば、多分あの子かなとすぐに思い出す。確かアレン、だっただろうか。

こちらに気付く様子もなくそのまま門を抜けて校内へと去っていくケメトは全くこちらに気付く様子もなく背中を向けていった。ほっと安全を確認し、そろりそろりと再び守ってくれる背中から顔を出す。

「……仲良くやっているようですね」

「まぁケメトは昔っから性格良かったしな」

「そうね。同年の男友達もできているなんて嬉しいわ」

「他の生徒達も皆、いつも楽しそうですよ」

ステイルとアーサーの言葉に私もほっと頷く。更にはエリック副隊長の言葉を聞けば自然と顔が綻んだ。

そうなっていると、創設した側としても嬉しい。本来学校はケメトやその友達みたいな子の為のものなのだから。

ケメトの存在に一度足を止めてしまった私達は、再びエリック副隊長の背後に引くアーサーと一緒に今度こそ校門にたどり着く。私とステイルのリュックを背負ったアーサーがいつも通り守衛の騎士をやり過ごし、私達もエリック副隊長に手を振った。

もう三週間は経っているからか、エリック副隊長以外の保護者も大分減ってきたなと思う。それだけ学校への信頼が増したということでもあるだろう。……実際は色々とトラブルも起こっているけれど。こういう時に、情報統制をしてくれる優秀な宰相がついてくれているのはありがたい。

中庭を抜け、中等部へ向かえば昇降口からいつも通りの階段だ。行き交うクラスメイトと挨拶を交わしながら三階まで登れば

「おせーよジャック!ジャンヌ!フィリップ!」

……遅いぞ、を別の人物に掛けられる。

予想外の人物に足が止まる。ネイトだ。一個下の学年であるネイトがいつものリュックを背負ったまま仁王立ちで私達を待っていた。

私達の教室を知らなかったからか、待ち兼ねすぎたのか階段を登ったすぐそこで待っていた。リュックを背負ってたたずむ彼は若干階段を登ってくる生徒達の通行の邪魔のようだったけれど、ネイト本人はまったく気にしない。

「ネイト。おはよう。待っていてくれたの?今日から学校も授業も頑張りましょうね」

「待ってねぇし‼︎それよりジャック‼︎なんで昨日来なかったんだよ‼︎すっげーこと色々あったのに‼︎」

今日から停学が明けて再び生徒として戻ってきたネイトは、まったくいつもの調子で声を上げる。そしてズンズンとアーサーへと突撃してきた。「えっ、あ、すみません」と突然矛を向けられたアーサーが後ずさり、そのまま階段から落ち掛けた。

狐色の目を吊り上げて怒るネイトは、どうやら一夜明けてまだアーサーがレオンとの会合に来なかったのが不満らしい。発明を見せた時も一番に素直に褒めてくれたアーサーだから、余計に今回も一緒にいて欲しかったんだろうなと思う。たたでさえレオンを前に緊張と萎縮していたもの。

「ちょっと外せない用事があって……。けど、話はジャンヌ達から聞きました。本当にすっっげぇことだと思います。あの人に認められるなんて並大抵のことじゃねぇですし……遅れましたけど、本当におめでとうございます」

踏み外しかけた段差から体勢を立て直しながら、アーサーが最後にぺこりと頭を下げる。

途端に、尖っていたネイトの眼差しが目に見えて光った。「べっ、別に俺にとっては大したことねぇけど⁈」と大きな声で胸を突き出しながらアーサーに向き合う。

素直に褒められて喜ばれたのが嬉しいのだろう。一気に機嫌が治った様子のネイトに、今度はステイルが「ここで立ち話も何ですから教室に」と彼の肩に軽く手を背後から添えた。

すると、それだけで理解したようにアーサーも上から軽くネイトのリュックを浮かせる。まだ怪我で身体の調子が良くないネイトを気遣ってくれる二人にこっちが胸が温かくなる。私からもと、ネイトへ向けて手を差し伸ばしながら笑いかけた。

「本当に昨日はおめでとう。今日から勉強も頑張ってね。私で良かったら、遅れを取り戻すのも手伝うから」

時間は限られちゃうけれど、と付け足せば、私が勉強を教えられるのがちょっと意外なのか、きょとんとした顔になる。それでも私の手は取ったネイトは「あ、うん」と返事こそ淡白だけどトゲもない。

まるで三人でもう一人弟ができたような感覚にこっそり楽しくなりながら、ネイトと一緒に教室まで歩く。この後のことを知ればきっとびっくりするだろうなと今朝のアネモネ王国からの使者を思い出す。ネイトとしては昨日の今日での進捗よりも、用事の大部分はアーサーが昨日いなかったことの苦情だったのだろうけれど、せっかく会いに来てくれたのだしと

「遅い!ジャンヌ、俺様を二度も待たせるとは何様のつもりだ⁈」

……そうだ、まだいた大本命。

ネイトの登場で夢中になっていたけれど、まだ予想できる私達への訪問者はもう一人いた。教室の扉を開けた途端に浴びせられた俺様発言は、昨日よりも余裕がない。顔を引き攣りそうになりながら目を向ければ、やっぱり私達の特等席に足を組んだレイが座っていた。そりゃあライアーの情報を私からも詳細に聞けると思えば、焦燥もするし待ちきれずに苛立ちも増しただろう。

昨日よりはるかにご機嫌斜めなレイに、教室の子達の緊張感も昨日の比じゃないし申し訳なくなる。しかも、昨日はディオスとなかなかの中規模喧嘩を披露した時とは違う、超激不機嫌状態。更には今ここにはディオスが居ない代わりに

「なんだあれ?ジャンヌ、あの偉そうな奴だれだよ」

攻略対象者邂逅、再び。

…………なんか、また大変なことになりそうだなと。ゲームでは殆ど直接的絡みのなかった二人を前にそう思った。