軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Ⅱ258.頤使少女は手続きし、

「……でぇ?ならもう張り込む必要はねぇんだな?」

欠伸混じりにヴァルがそう言ったのは、私達が夕食を食べ終えた後のことだった。

レイの屋敷から無事帰還してジルベール宰相への報告も終えた私だけれど、それからも城全体はなかなかの忙しさだった。

学校についてはもうジルベール宰相が手を打ってくれていたから良かったけれど、それでも我が城下でそれなりに立場を持っていた侯爵家の処分は簡単なことではない。今もアンカーソンへは余罪の追及が続いているし、こちらはこちらで彼の後任について割り振らないといけない。暫くは領地も彼の上司だった公爵が管理してくれるし、その後の後継者を選ぶのも公爵だけれど面倒な手続きがあるからすぐにとはいかない。処分は一瞬でも、その後始末は一週間あっても足りない。しかも今回は上級貴族である侯爵家だから余計にだ。

お陰でステイルもジルベール宰相もそしてティアラまで大忙しだった。……公務自粛中の私だけがわりとのんびりしたものだ。

勿論、学校制度や国際郵便機関についてはちゃんと携わることも許されているから、ジルベール宰相から後任資料を貰って確認して判を押してとそれなりに業務はさせてもらった。

昨日、セドリックも穴埋めと国際郵便機関について相談したいと宮殿に訪れてくれていたとティアラが教えてくれたから、手が空けば行こうと思ったのだけれど……その余裕はない程度には手も埋まった。それでもステイル達の忙しさと比べれば大違いだ。こういう時、自粛中で手伝えない自分が恨めしい。

夕食で、ステイルとティアラに会った時には二人ともいつもより疲れた様子だった。食後ももう少しヴェスト叔父様と父上の手伝いをしてくると、ひと休憩したらまた王宮へと向かってしまった。私もやっと手が空いたから、セドリックの宮殿にでも行こうかなと思った時。……彼が来た。

「ええ。この一週間、下級層生徒の警護ご苦労様でした。レイの屋敷にも裏稼業の人間はもう雇われていなかったので、これで学校にもまた平穏が訪れるでしょう」

珍しく夜遅くに訪れたヴァルは、客間に来た時にはまた眠そうだった。

この学校休日、各国を配達の為に巡りまくってくれていたらしい。しかも一気に仕事を終えたかったのか、一国目に手紙を渡して返事を待つ間にまた違う国を跨いで戻って来てと、なかなかハードなスケジュールをこなしていた。学校で毎日我が国へ戻らないといけない分、この休日は数もさることながら往復が面倒な遠方の同盟国への書状も頼んでいたから余計に大変だっただろう。

また先の式典の為に出席欠席表明とかでフリージア宛の書状が多いこともあって、二日ぶりに会った彼からは各国分どっさりと手紙も受け取った。

次にお願いする分の書状とハナズオへの引き取り依頼、そして今回の報酬とを手渡した途端にすぐ帰ろうとしたヴァルだけれど、引き留めさせてもらった。一応明日からの業務にも関わる話だし、許可に関しても変更の予定だったから。

ステイル、ティアラに続きケメトとセフェクもちょっと眠そうに今はソファーで目を擦っている。ティアラもいないから余計暇なのかもしれない。

「なら、明日からはまた暫くは寝れるってことだ」

そう言って、ぐだっと足を組んだまま壁に寄りかかるヴァルは一際大きな伸びをした。

荷袋も横に立て掛けたのが倒れて砂が零れている。私の背後に控えてくれているアーサーとカラム隊長もあまりの怠惰っぷりに若干呆れ気味だ。まぁ、ついさっきまでは大忙しだったのだろうけれども。

カラム隊長に至っては若干眉間が寄っている。講師として授業時間を丸ごと昼寝休憩に数えているヴァルに思うところがあるのかもしれない。ただでさえ、カラム隊長は教師側の苦労をわかってくれている側だもの。

「真面目に受けろとは言わないが、せめて教師の胃に穴を開けさせるようなことはするな」

「生憎、勝手にビビってやがるのは向こうの方だ」

カラム隊長からの窘めにもケッ、と吐き捨てるヴァルは全く反省の色もない。

一応確認で「まさか教師まで脅したりしていませんよね?」と聞いて見たけれど、無視か睨む止まりではあるらしい。まぁ隷属の契約もあるものね。……正直、成人済みの大人でも、顔面凶悪なヴァルに睨まれたらそれだけで怖いだろうけれども。十八歳の姿でもカウントとしては大人だし、本当にヴァルのクラス担任になった先生が不憫だ。

ソファーから大分脱力気味のセフェクが「勉強すれば頭も良くなるのに」と言うけれど、彼は必要ねぇの一点張りだ。

「カラム隊長、因みにヴァルの学級担任の方は……?」

「気は少し弱いですが、とても真面目な良い教師です。他の高等部学級にも裏稼業の人間が潜んではいましたが、教師に恐れられていたのはヴァル一名のみでした。マイク先生もここ一週間は目に見えて顔色が良かったですが……恐らく」

そこで声を低めた言葉を切ったカラム隊長に思わず私もアーサーも顔が引き攣る。

ここ一週間。つまりはヴァルが下級層生徒警護の為に教室を出ていた期間だ。

本来ならネイトと同じように授業をサボる生徒は、職員室か授業に戻される。手間や厄介さで言えばちゃんと教室に居て授業を聞かないまでも逃走や行方不明にならず教室で大人しく寝ていてくれた方が安心だしそこまで問題もないのだろうけれども。……担任教師には、ヴァル不在の方が胃に優しいらしい。

レイが潜ませていた裏稼業生徒も、授業を真面目に受けていたとは考えにくいけれど少なくとも目立たないように振る舞っていたのだろう。

レイはライアーを探していること自体明るみにしたくなかったから、裏稼業生徒にも決して目立たないようにと指示をしていたに違い無い。実際、女生徒を軟派していた生徒とヴァルが追い出した生徒は一人も重複していなかった。

そして現役の裏稼業生徒の誰よりも、ヴァルの人相が一番恐かったに違いない。

「……ヴァル。〝許可〟を継続します」

ハァ……と片手で額を押さえながら言う私に、ヴァルが「あー?」とすぐにはわからないように片眉を上げた。

仕方ない。今日まで色々な意味で苦労をかけた教師へのせめてもの救済処置だと思えば諦めもつく。

無意識に同意を求めて背後へ振り返れば、言葉の意図をすぐに理解したらしいカラム隊長は〝黙認〟と言わんばかりに目を閉じていた。アーサーも一拍遅れて察した思のか、目をまん丸にして私を見返す。「良いンすか?」と言っているのが表情だけでわかる。

「残りの学校潜入期間、そして校内で正体を隠している間に限りバレないようにであれば今回同程度の特殊能力使用と……授業に出ずに潜んでいても構いません」

ただし引き続き施錠区域には緊急時以外絶対入らないように!と、続けて念を圧す。

その途端、ヴァルがニヤァと正直に上機嫌な笑みを浮かべてきた。疲れていたのは本当だろうけれど、よっぽどあの壁に作った仮住まいが気に入っているんだろうなと思う。

本来であればヴァルは、ステイルの提案で与えた許可は全部この任務終了と同時に没収する筈だった。

元々色々条件付けて許可を与えていたのに、更に特殊能力や授業ボイコット許可まで与えていたのは罪もない下級層生徒を守る為だ。もうレイが雇う心配もなくなった今、ヴァルにも登校初日の許可まで戻すつもりだったのだけれども、……もう大人しく校内に生徒として潜んでくれていればそれで良い。

施錠区域に入れない分、自分でこっそり特殊能力で潜んでいて貰った方が双方の為だと思う。どうせあと半月もしない内に私達の極秘潜入終了と一緒に〝退学処分〟される予定だ。

「主もサボりたくなったら入れてやろうか?」

「お気持ちだけ受け取っておきますッ!」

わかって言っているでしょう⁈

ケラケラと馬鹿にしたように笑いながら、敢えてとぼけてくるヴァルに思わず私も強めの口調で言い返す。

命令で私が授業にサボった関連全部秘匿してくれているヴァルだけれど、わざと仄めかしている。命令で大丈夫とはわかりながらも、危ないことは言わないで!と鼻の穴を膨らませて睨む。

バレないようにアーサー達に背中を向けてヴァルに顔で怒ってみせるけれど、彼はニヤニヤと楽しそうに笑い返してくるだけだ。本ッ当に人の黒歴史と弱み知っただけでこの笑顔‼︎

しかもお誘いに対して「結構です」と言えない自分が悔しい。確かもう禁忌の授業はない筈だけれども、もしもと思うと断りきれない。もし授業数調整とかで料理の授業がまた出たら、今度は逃亡する自信がある。……本当にこんなことになるんだったら、無茶でも男装して男の子の授業に加われば良かったと思う。……非力な私に、男子の力勝負満載な選択授業も乗り越えられるか疑問だけれども。

「ンじゃあこれでもう用はねぇな?」