作品タイトル不明
Ⅱ243.騎士達は共有し、
「ンで、明日早速レイって奴の家に行くことになったのか?」
ああ、と。アーサーの確認する投げかけにステイルは一言で返した。
演習を終えた後、ステイルを含めた六人はアランの部屋に集まっていた。女王ローザからの予知で少し騎士団内での演習系統も変わったことにより飲み会もいつもより少しだけ遅くなった。
上等な長テーブルを囲み、ジョッキやグラスを手に誰もが改めて今日の進捗を説明するステイルに耳を傾けていた。学校から帰城後、プライドの護衛に付いていたカラムとアラン以外全員にとってあまりにも展開が凄まじい情報だった。
ジルベールの進捗状況だけでも大きな進展だというのに、そこに続けてヴァルから知らされた裏稼業の暗躍と雇い主。しかもその人物は中等部の特別教室にいる生徒だ。続けざまに放たれたプライドによる新たな予知。
それが一日のほんの数時間で知らされた情報だという事実は、歴戦の騎士達にとっても怒濤の展開に他ならない。
「通常の生徒では住処など把握はできないが、特別教室のレイ・カレンは仮にも貴族だ。貴族の敷地も自治領も……勿論、城下での別宅も大概は城で把握できている。ちょうど学校の開校に合わせて買ったらしい別宅が城下にある。きっとレイ・カレンもそこに住んでいる」
「けどよ、あくまで第一王女じゃなくて〝ジャンヌ〟として行くンだろ?見ず知らずの庶民相手に貴族が会ってくれるもんなのか?」
「〝ライアー〟の名さえ出せば門も開かれるだろうというお考えだ。姉君もそこに関しては心配していないようだった。その後は別だが」
そこまで言うとステイルはゴクッと一口分喉を潤した。
自身の予知を聞かせた後のプライドは、その後の行動についても恐ろしく落ち着いて語っていた。今後どのような行動を取りたいと考えているか、その勝算も含めて語る彼女にステイルとジルベールも圧倒された。
彼らにとっては初めて聞く事実だが、プライドにとっては既にこの数日間ずっと考えてきた対策である。
「勿論、俺とお前も〝フィリップ〟と〝ジャック〟として同行する。もう一人の護衛については、……今回はハリソン副隊長にお任せすると思います」
そう言って、ステイルは視線をテーブルの一番端へと移した。
アーサーに誘われ、アランの飲み会に同席することにしたハリソンはステイルとは反対側の端席に腰を下ろしていた。第一王子から直々に名指しを受けたことに背筋を伸ばした彼は、詳細を聞く前から「承知致しました」と迷いなく頷いた。
今回はあくまで保護者無しの〝庶民〟としての来訪。そこで、最も屋敷の人間に気付かれずプライド達の周囲を張れるのに彼が最適だとステイルが判断した。
既に学校生活でもステイル達にすら気付かれない動きで気配を消して警護している彼ならば忍び込むことも用意であることは間違いない。仮に気付かれて怪しまれても、ハリソンなら高速の足で逃げられるだろうということも計算済みでのステイルの采配だった。ジルベールもこの選択には文句一つなく同意した。
そうステイルが説明してからも、ハリソンの表情は変わらない。
プライドを守るに当たって場所や自分の立場など全く関係のないことだ。「命に掛けて」と頭を低くするハリソンに、ステイルも満足そうに笑みで返した。
アランの部屋でハリソンと酒を交わすことは初めてのステイルだが、口数が少ない上に任務に差し障りない以上は承諾してくれる彼は充分関わりやすいとステイルは思う。ただ、その口数の少なさと酒を進まない様子が自分の所為かどうかだけが僅かに気になった。
実際はステイルの存在は関係なく、ただただ酒の席でハリソンは進んで酒を飲んで他者と関わることをしないだけとは知らない。
「ハリソン……お前、頼むからちょっとしたことでレイ・カレンにナイフとか投げるなよ?貴族相手じゃ洒落になんねぇぞ」
「護衛の為であればやむを得ない」
「少なくともこの前のネイトのように口が悪い程度で実力行使は止めろ。あくまで我々は影ながらの護衛であることを忘れるな」
「ッハリソンさんマジで頼みます!自分もちゃんとプライド様に無礼がないように御守りするんで‼︎危険がない限りは控えて下さい‼︎」
「隊長の命ならば」
頼みます‼︎とアランの不安とカラムの釘差しに続き、アーサーの懇願が続いてやっとハリソンも頷いた。
殆ど口を付けていなかったジョッキを傾けながら、ここで自分への要件は最後だろうかと考える。プライドの予知を始め、重要事項がいくつも並べ立てられたことには驚いたハリソンだが、今のところラジヤ帝国については進展がないことだけが残念だった。たった一つでもアダム関連の情報を知れれば、自分は許される時間全てを費やしても奴を探しにいくのだがと頭の中だけで考える。
「それにしても、まさかネイトに続いて再び予知をされたのには驚きました。あまりにも短期間な内での予知でしたので」
「確かに最近は頻繁ですが、姉君には珍しくありません。ティアラや母上と違い、姉君は予知をする感覚に波が大きいので。逆に二、三年全く予知をしなかった年もありました」
定期的に予知をする現女王ローザと違い、プライドの予知の頻度は不確定。過去の予知能力者にもそういった人間は珍しくなかったと、ステイルは説明する。更にはネイトの時にジルベールと話したように最初にプライドが〝予知〟したとされる〝学校と生徒の危機〟から派生して頻繁に予知をするという事例もあると話せば騎士達もそれぞれ納得したように頷いた。フリージア王国では有名な王位継承者の〝予知〟能力だが、その詳細を知る者は少ない。
「まぁ僕としても予想していたこととはいえ、よりにもよって特別教室から問題児が出たことは些か残念でしたが」
特別教室。
その言葉に自分で言いながら苦々しそうに声を低めるステイルに、彼らも僅かに顔を顰めた。
高等部ではセドリックが所属しているクラスは、中流階級以上の人間のみで構築された教室だ。しかも、プラデスト自体が中級層から下級層の生徒へ向けての存在である為、特別教室はあくまで学校〝体験〟として一度の所属可能人数も絞られている。期間も通年ではなく、短期間ずつで順番に回す仕組みだ。
同盟共同政策の始め、そして世界初の機関ということで国内だけでなく国外からも注目を浴びているプラデストに入学希望をする貴族等の生徒は多い。それほど競争率が高い中で、栄えある開校直後に入学を認められた人間がその機会を私情で扱うなど許されない。
しかもそれだけではない。その更に奥の事実まで彼らは既に踏み込んでいた。自分一人の入学の機会を棒に振るだけでは済まされないレイの横暴さにはステイルとジルベールも額を押さえた。しかもプライドの予知を聞けば余計に全てが綺麗に繋がってしまったのだから。
彼女からの説得さえ聞かなければ、彼女の大事な学校を踏み荒らした罰として報復を入れてやりたいとステイルは思う。しかし、もうプライドから話を聞かされた以上はそうもいかない。
「ネイトといい、ファーナム兄弟といい、レイと特別教室いい……中等部だけでここまで問題を抱えているとは。教師の苦労には頭も下がる」
そう言ってステイルは目だけをカラムに合わせた。
潜入の為とはいえ、彼もまた〝教師〟の枠組みの一人であることに違いはない。しかも、そもそも今回のことをプライドが予知する前から明るみにできたのはカラムの功績も大きかった。
ステイルの視線の意味を察し、「いえ」と短い言葉で返したカラムはその場で頭を下げた。自分はあくまで〝講師〟、教師として学校の問題に直接あけくれている彼らと同列に労われるべきではないと。講師として頻繁に職員室に出入りしながら彼らの激務を目にしたカラムだからこそ思う。
ネイトの事情さえ、あの慌ただしさの中では教師の誰も気付くことはできなかった。空き教室に逃げ回る彼を唯一捕まえることができた自分ですら、プライドの予知がなければネイトの危機に気付くことは難しかったのだから。
「ですが、既にその雇われた高等部生徒の洗い出しと今後の対策はジルベール宰相が検討して下さっているのですよね?」
さっきのお話によると、と今度はエリックが口を開いた。