軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Ⅱ235.私欲王女は駆ける。

「ジャンヌ!一体何所に居られたのですか⁈」

「ジャンヌ!怪我とかないっすか⁈」

教室へ入るより前に廊下で私を待っていてくれていたステイルとアーサーに迎えられる。

既に行き交うクラスメイトから「ジャンヌ」「フィリップとジャックが探していたわよ」と言われていたから予想はできた。早足で駆け寄る最中、それを待たずに二人からもこちらに駆けつけてくれた。

目を丸くして険しい表情で私を見る二人に先ずは「心配かけてごめんなさい」と謝罪する。

「……忘れ物取りに行ったら、途中で猫が木に降りられなくなったのを見かけて。それでおろおろしていたら授業に出れなくて」

ちゃんと言い訳は考えていた。

実際は私ではなくアムレットのネイトルートでのイベントだけれど、これなら安全かつ合法に言い訳できる。最終的に猫は無事に木から下りられました、まで告げて笑ってみせればステイルが「猫……ですか」と少し肩の力を緩めてくれた。そしてアーサーは

「…………本当に危ないこととか、変な目に遭ったりしてませんか?」

ッッまだ疑っている⁈

まさかの!アーサーの方が遥かに疑っている‼︎私の顔をじっと見つめて訝しむ表情はどこからどう見ても納得していないという表情だった。

ステイルもアーサーの言葉に彼を見て、それから私と見比べるとまた肩が自然に上がって強張った表情をし始める。駄目だ親友アーサーには勝てない!!

しまいにはステイルから「まさか……また、誰かに捕まったとか」と潜めた声で言ってくるから余計に焦る。むしろ捕まったどころか私が図々しく入り込んだと言った方が近いのに‼︎二人への疑いの眼差しに私は僅かに背中を反らしながらぶんぶんと首を横に振る。違うわ、大丈夫、本当にと繰り返しながら今回ばかりは自業自得で二人に説得を繰り返す。

「本当に。誓って、全く、危ないことも悪い目にも遭わなかったわ。アラン隊長も居たし、本当にただ授業に出れなかっただけ、本当よ」

一言ひとこと、二人へ言い聞かせるように区切って話す。

今度は全く嘘じゃない。全く身の危険という意味では危険な目にも遭わなかったし、誰かに捕まったわけでもない。アラン隊長だって見回りの教師から阻む以外、ずっと近くで見張ってくれていた。

両手を胸の前まで上げて見せながら弁明すれば、やっとアーサーからも疑いの色が少し収まった。「なら良いンすけど……」と小さく零した後、長く息を吐き出した。ステイルもアーサーがそうした途端、眼鏡の黒縁を押さえながらも一応納得してくれた。

流石、アラン隊長の信頼度は高い。

放課後にはもしかすると二人から確認されちゃうかもしれないけれど、きっとアラン隊長なら上手く躱してくれる。

二人の疑いにほっと胸を撫で下ろした私は、早速渡り廊下へと二人を誘った。

「さぁパウエルと合流しましょう。きっと待っていると思うわ」

お待たせしてごめんなさい、と改めて謝りながら二人の手を両手で引く。

私達の分の鞄を持ってくれるアーサーとステイルに今日こそお昼をゆっくり食べましょうと声を掛けながら、いつもの彼が待つ渡り廊下へ向かう。

「ちょっ、ジャンヌ⁈」「あのっ、手……‼︎」と声が聞こえたけれども、今は話をここで終わらせる為にもぐいぐいと次の段階へと連れて行く。ここで話の続きをしたらそのままなし崩しにパウエルと合流してもその話題になりかねない。

無言で牛のように引っ張る私に、二人も次第に無言のまま歩幅を合わせて急ぎ足になってくれた。

そしてやっと渡り廊下へ辿り着けば、やっぱりパウエルが待ってくれていた。

二人を引っ張って先頭を駆ける私から彼へ響く声で呼びかける。パウエル、と呼べば、俯きがきの顔で窓際に寄りかかっていた彼がパッと顔を上げてこちらに振り返ってくれた。俯いていた時は顔の向きの所為か落ち込んでいるかのように見えたけれど、一瞬でいつもの明るい表情だ。

真正面から見るパウエルの輝く眼差しにそれだけでつい嬉しくなってしまう。

「良かった、今日も会えねぇんじゃないかと……」

「そんな訳ないじゃない!昨日は本当にごめんなさい、色々と用事があって」

胸を手で押さえて撫で下ろすパウエルに、立ち止まってから笑顔で返す。

以前のネイトに怒った翌日とかもそうだけれど、本当に心配性だなと思う。きっと私達から直接ではなくてカラム隊長からお断りされてしまったから、遠巻きにされたと心配したのだろう。

パウエルを私達が嫌いになるわけがないのに。これで私達が突然退学したら、また気に病むのだろうかと思うと心配になる。その時にはちゃんと彼が納得するお別れをと今から考えないと。

パウエルに不要な心配もかけたくないし、気に病んで欲しくもない。……まぁ、彼のゲームの設定を思い出せば、すぐに〝見放された〟と心配してしまうのもしょうが無いところがあるけれども。今はステイルの大活躍のお陰でこうしてゲームよりはずっと暮らしをしてくれているのが救いだ。

「待たせてしまったのもごめんなさい。二人とも移動教室の私が遅れてしまったから待っていてくれていたの」

「いや、俺は全然待ってないから。そうだったんだな。今日も一緒に飯食えるなら良かった」

「勿論よ!フィリップもジャックも、勿論私もパウエルに会えるのを楽しみにしているもの!」

「そっか。そう言ってくれると嬉し、……?なぁ、ジャンヌ。二人とも大丈夫か?」

走ってきた勢いのまま憧れの第三作目キャラでもあるパウエルとのマシンガントークに夢中になってしまった私は、そこでふと彼が指で指し示す方向に振り返る。

見れば、私が引っ張ってきた二人が完全に俯いたまま背中が丸くなっている。

パウエルの次はこっちが⁈と息を飲んでから、全身が跳ね上がった。ちょっと早足したたけなのに、二人とも耳まで赤いしぐったりしている。揃って黒縁と銀縁の眼鏡まで両方曇っている。

こんな距離、アーサーは当然ステイルだって全速力でも余裕の筈なのに!

もしかしてあれだけ心配かけちゃったから後から気疲れしてしまったのだろうか。それだけ私が予想していた以上に心配をかけていたのだと思うと申しわけなくなる。

ふ、二人とも⁈と声を掛けても返事がない。すると、慌てる私へ水を掛けるようにパウエルが落ち着いた声を放った。

「……多分。その手だと思うぞ」

彼が目で順々に指し示すのは、私が両手に握ったそれぞれ二人の手だ。

あっ、と一音洩れてから、さっきまで二人を引き摺りっぱなしだったことを思い出す。いくら急いでいたとはいえ、三人の内で一番足の遅い私に引っ張り引き摺られてこられた二人だ。もしかして私が気付いていない内に背後では私にぶつかったりしないように辺に歩幅を合わせたりと無駄に疲れたのかもしれない。

「取り敢えず放してやったらどうだ?」というパウエルの言葉を合図に両手を開くようにして放せば、ポトリと力なく二人の手をほどけて落ちた。合わせて二人の俯けた顔が更に真下へ落ち、がっくしと肩を落とす姿に慌てて私は平謝りする。

「あの、ご、ごめんなさい二人とも。いくら急ぎたかったとはいえ、突然引きずり回しちゃって。私と繋いでいたら走りにくかったわよね……⁈」

「いえ、……そういうことでは。……久々だったので、つい」

「~っ……大丈夫です。全ッ然平気です……!」

私の謝罪にぽつぽつと言葉を返してくれるステイルと、何か気合いをいれるように息の詰まった声で返してくれるアーサーは殆ど二人同時に口を覆った。

手の甲で押さえ付けるステイルと、腕ごと使って押さえるアーサーで赤い顔が言葉とは裏腹に逸されてしまう。やっぱり私の所為だった‼︎

でも、疲れているのは私の所為だとして顔まで赤いのはどうしてか。怒っている……と二人には思わないし、じゃあどうしてと考える。

腕を引いたのが悪かったのかと首を傾ける中、渡り廊下を生徒が何人も行き交っていく。ちらちらと、顔が真っ赤な二人と対する私とパウエルに興味津々の目を向けている。よく考えれば、この状態ってまた変に誤解を招くんじゃないだろうかと心配になる。

もう最近は私が特に変な噂職人みたいになっている上にサボった後の背徳感も手伝って人の目が余計に心配になってくる。と、……そこで気付く。

「……もしかして、人前で手を繋いだのが駄目だった?」

ゴフッッッ‼︎‼︎と。直後には二人が同時に咳き込んだ。

ゲホッゲホッゴホッッ‼︎と何度も連続して噎せ返り、気管支を痛めたんじゃないかと思うくらいに盛大に咳が続く。病気だったら確実にウイルス蔓延させそうなほどの派手さに、私も慌てて二人の名前を呼ぶ。

「大丈夫⁈」とアワを食いながら叫び、最後には私とパウエルで二人の背中を擦るまでに至った。本当に血を吐かないか心配になる。

一通り咳をし終えて落ち着いた二人は、ゼェハァと息を整えてからぐるりと私に身体ごと向き直った。

「そォいうことに‼︎何故!今頃になって気付くのですか‼︎‼︎」

「やっとッすか⁈つか気付いてなかったンすか⁈‼︎」

がばっっ‼︎と同時に顔を上げた二人からの怒号を同時に浴びる。

渡り廊下どころか校舎中に響きそうな声が同時に放たれて、正直何を言われたか聞き取れなかった。ただ、顔を塗ったように真っ赤にして目をくわりと見開いた二人は今度こそ確実に怒っている。

声の勢いに吹き飛ばされそうになりながら顔が引き攣ってしまう。ご……ごめんなさい⁇と訳も分からず謝ってしまう。どうやら思った通り、人前で手を繋いだことが駄目だったらしい。

でもよく考えれば当然だ。一昨日もそれでアーサーに迷惑を掛けたばかりだし、ステイルだって今は弟じゃなくて親戚だ。

そんな中で二人と今度は手を繋いで走ったなんて見られたら生徒の目が嫌でも気になるだろうし、また妙な噂を立てられたらと思えば緊張や気恥ずかしさで流石の二人も顔が赤くなる。私もついサボりの話を遮断したかったとはいえ、また考え無しの行動をしてしまったと反省する。

真っ赤な顔に映えた黒と蒼の眼光に半歩下がりながら、私は両手を前に必死に笑顔を作る。

「そ、そうよね。いくらその、親戚だからといってあまりくっついちゃったらまた学校で変な噂になるわよね。ごめんなさい、今度から人前ではもうちょっと気をつけるわ。二人も、私がうっかりしたら無理にでも振りほどいて良いからね」

本当に本当にごめんなさい、ともう今日で二桁には及んでいる言葉を繰り返す。

すると私へ刺すように視線を注いでいた二人の肩が僅かに揺れた。何か言いたげに唇を震わせたと思えば、また目を逸らされてしまう。

少しはお怒りが収まったかしらと思うけれど、顔の赤さは変わらず継続されたままだ。フィリップ?ジャック?と恐る恐る話しかければ、今度はアーサーから弱々しい声で返される。

「……~っ、無理……言わねぇで下さい……!」

「申し訳ありません、確かに俺達にも非がありました…………」

続いてステイルまでしゅんと落ち込んだような声に、私は一人首を傾げてしまう。

何故そこでステイル達にまで非があることになるのだろう。私の言い方が悪かったのだろうかと振り返るけれど、今度は全くわからない。

左右に何度も首を傾けては二人を見つめるのを繰り返すけれど、それ以上のヒントは貰えなかった。代わりに地に垂れるような重くなった声でステイルから「行きましょうか……」と促され、アーサーもそれに応じるようにぐらりと鉛になったように頭ごと姿勢を持ち上げる。

取り敢えず二人と仲直りできたのだろうかと小さく安心しながら、また私達のいざこざで待たせてしまったことをパウエルへ

「…………パウエル?」

顔を向けた先で、パウエルが完全に私達から顔ごと背けてプルプル震えていた。

口を押さえているような動作のまま背中を向けた彼に、呼びかければステイルとアーサーも彼へ気になったように目を向ける。

自分に注意が向いたことに気付いたらしいパウエルは、次の瞬間に堰を切ったかのように大声で笑い始めた。

はははははははっ‼︎はははっ……!と、まるでカランコロン鳴る玩具のように全身で笑いながら大きな身体が丸まって小さくなる。途中からヒィヒィ言い出して、若干呼吸困難みたいになってから私は背中を擦るべく彼に駆け寄った。

背中に手をあてた途端、笑い混じりの声で「いや大丈夫だっ……!」と本人から止められる。

「ほんっとに……なんか、フィリップがこんな面白いやつって知らなかったから……。……わりぃ、すげぇ楽しくて……」

そう言いながら、目に溜まった涙を手の声で拭うパウエルは輝くほど満面の笑みだった。

笑いすぎて赤い顔とその笑顔にうっかりドキッとしてしまう。前にもこうやって彼がステイルのことで楽しそうに笑ったことがあったなと思いながら、唇を絞って見返した。本当に、本当に私こそあのパウエルがこんな笑い方をするなんてと言いたくなるけれど。

「本当にフィリップだけじゃなくジャンヌとジャックと一緒に会えて良かった……。やっぱ、フィリップって人間なんだな」

じゃあ行こうぜ、とそのまま背中を向けて歩き始める彼に、私も茫然としながら従った。

どういう意味だろうと思いながら、背後に付いて来てくれるステイルへと顔を向けると、……まだ片手で火照った顔の下半分を覆うようにして俯いていた。比較的顔色が収まったアーサーがステイルの肩に腕を回して、彼を引っ張るようにして歩いてくれている。しかも今はちょっと楽しそうだ。ステイルを見て笑っている。

歯を向けて笑うアーサーに、今は無抵抗にステイルはそのまま校門近くまで引かれていった。