軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Ⅱ210.私欲少女は引き、

……やってしまった。

教室に入った直後、プライドは最初にそう思った。

おはよう、の笑みのまま扉を抜けてすぐ強張った笑みのまま固まってしまう。自分が今うっかり何をやってしまっていたかと、昨日までの状況を思い出す。

彼らの視線から逃れるようにカクカクと顔を上げれば自分より背の高いアーサーも若干強張った表情で見返した。ごめんなさい、と今更言っても遅いと思いながらプライドはそ~っと緩めた。

アーサーと組んでいたその腕を。

ネイトと話し、別れてから教室に至るまで考え事の最中だったプライドとアーサーは、お互い引っ張り引っ張られるままずっと同じ状態だった。

誰の目から見ても明らかにジャンヌが自分からジャックと腕を組んで仲良く歩いている様子は、すれ違う生徒達は当然のこと特にクラスメイトにはかなりの衝撃だった。

ステイルも何度かそれを按じて「ジャンヌ、そろそろ」とアーサーから腕を放すように小声で助言をしたが、考え事中の彼女の頭には届いていなかった。それどころか早く教室へとぐいぐい前へ進むプライドが教室の扉を開ければ、それを迎えたクラスメイト全員の目が「何があった」と叫んでいた。

既に彼女達が教室へ到着する前には〝ジャックかジャンヌに振られた〟という誤解この上ない噂が広まった後だったのだから。

しかし、本人達が登場してみれば寧ろ恋人成立かのように腕を組んで歩いている。その刺さるような熱視線を受け、プライドもアーサーもやっと我に返ったところだった。

アーサーもアーサーで、最初にネイトの前で腕を組まれた時こそ顔を真っ赤にしてかなり動揺したが、その後の出来事の所為で今は思考が大分散らかってしまっていた。しかし視線の放射を受けてしまえば嫌でも自分の状況を思い出す。しっかりとプライドの方から組まれていた腕の感覚に熱が上がるのと同時に、昨日のいざこざが蘇った。

「ジャンヌ、ジャック、……結局付き合うことになったの⁇」

違います‼︎と、プライドとアーサーが声を合わせて叫ぶ。

両手を離した手でまるで銃へ降伏するように両手を頭の横まで上げるプライドと背中に剣でも差しているように姿勢を正すアーサーの姿に、一歩背後に控えていたステイルは思わず音もなく笑ってしまう。正直、このまま成り行きを見ていたい気分にはなったが、昨日盛大に笑って面白がってしまった以上今日はちゃんと味方になってやろうとすぐに思い直す。

「今日は少し遅刻してしまったので、ジャンヌがジャックの腕を引いてあげていただけですよ」

笑いを堪えながら、いつものすませた顔で告げるステイルの言葉にプライドもアーサーも全力で頷いた。

極めつけに針を刺すように、ステイルは質問を投げかけた女子へも「あと、二人は付き合ってません」と柔らかな声でしっかり断言する。

そのまま二人の背中を押すようにしていつもの定位置の席へと促した。しかし、その後にもガヤガヤと集ってくるクラスメイトに〝噂〟の真偽について問いただされる。

ジャンヌが振ったって本当なの、昨日あの後はどうだった、仲直りできたの、と。席に荷物を降ろした途端に起こった凄まじい人の数にステイルは一瞬でもう三年の学級に今行くのは無理だなと理解した。

にこやかな笑みで本人達の代わりに一つ一つ丁寧に「あれは誤解です」と対応していく。

代理人に対応を任せ、また別のボロを出しそうなアーサーとプライドは大人しくいつもの席に着く。しかしそうすれば今度は窓際と正面からステイルを除けて直談判すべく別の生徒が溢れてきた。

ステイルが答えているのと同じような質問ばかりを投げかけられ、プライドは否定しながらも焦燥を顔に出さないようにするので精一杯だった。頭の中では、昨日危惧していたことが現実になってしまったと慌て出す。

ステイルに関係ない筈の対応を手伝わせてしまっていることも申しわけなく、それ以上に巻き込み事故を起こしてしまったアーサーへの苦しくなる。

膝の上に置いていた両手指をぎゅっと気付かれないように握りながら、肩が強張っていく。そしてもう一人の注目の的であるアーサーは

……っつーか俺、振られた以前になんで告白したことになってンだ……?

未だに前日の出来事の主題を飲み込みきれず、受け答えしながら頭の隅でそう思う。

昨日、何よりも衝撃で頭に残っているのがプライドからの爆弾発言だった所為で、それ以外のことが殆ど頭から抜け落ちていた。

彼の記憶ではプライドが女子達に自分を褒めさせられ、最後に爆弾発言をされた覚えしかない。誤解されること自体は別に構わないと思うアーサーだが、ここまでの注目を浴びるのは視線が痛い。〝ジャンヌ〟に振られたと思われること自体は構わないし気にしない。しかし、話に尾ひれが付きすぎて完全に自分が告白したような話に纏められていることに困惑してしまう。

むしろあの時、自分に発言権自体殆どなかった。しかも噂を聞いただけの生徒ならまだしも、どうしてその場にいた生徒までもがまるで自分が告白して振られたのを見ていたような反応をするのか。全員が全員、興奮したまま嘘偽りない表情で熱を上げた表情をしていればいっそ自分の記憶がおかしいのかとまで思ってしまう。

結果、自分と周囲との温度差の違いに逆に冷静になっていく。十四ってこんなガキだったか?と思いながらも、むしろプライドよりも落ちついて熱を上げる彼らに対応する。

「いや……ですから、全ッ然そォいうんじゃないですって。ジャンヌが困ってるんで止めて下さい」

「そ、そうよ。ジャックとフィリップの言う通り、あの後も普通に仲良く帰ったから。喧嘩もしていないわ」

むしろアーサーよりも、プライドの方が表情筋を意識した笑みで必死になる。

今世で第一王女として社交界でもしつこく女性陣に食い付かれることはなかったプライドだが、前世でも地味に生きてきた彼女はこういう噂や囃し立ての渦中から遠く離れていた。

時折、こういうことで騒いでいた男女に関しても「賑やかだなぁ」くらいにしか思わず、まさか今自分がその渦中にいるだなんてと思ってしまう。

今日をなんとか凌げば、きっと明日には直接インタビューではなく遠巻きで噂されるだけになる。そうはわかっていても、この後すぐに三年の教室を見に行きたかったプライドは腰を上げたくても上げられない状態がもどかしかった。

もうこれは無理かしら、と諦めも覚えながら十四才少年少女の取材に答え続ける。まるでゴシップアイドルのような気分にもなったが全く嬉しくない。そう思っている間にも紛れ込まされるように突拍子もない質問がまた女子から投げられる。

「ジャンヌは恋愛に興味ないの?」

「⁈あ、あるわよ?勿論!その、ただちょっと理想が高いだけで……‼︎」

まさか教師に〝王子様か騎士様〟なんて発言したとは言えない。

一度はその所為で監禁騒ぎの引き金を引かせてしまったのだからと思えば余計にだった。しかしここで恋愛に興味が無いと言えば、何かの拍子に教師へ話した内容と食い違って怪しまれるかもしれない。あくまで恋愛には興味がある年相応の女子を演じきらないととプライドは必死に自分に言い聞かす。

これ以上嘘を雪だるま式に膨らますのもステイルやアーサーに申しわけなくてたまらない。ここはちゃんとそれらしく振る舞いつつ、ボロを出さないように乗り切らなくちゃと思考を回したその時。

「……ジャンヌ!話し中ごめんね。〝約束していた今朝の〟勉強なんだけど、私の席で教えて貰っても良い?」

天使が舞い降りた。

プライドは反射的にそう思った。何人もの女子がジャンヌジャンヌと自分に質問をぶつける中、聞き覚えがしっかりある声は一番耳に届いた。口を開けたまま声の方向へと目を向ければ、人混みの一番後ろでアムレットが手を振っていた。

一限目後はさておき、今朝は約束した覚えがないプライドはすぐにそれが助け船だと理解した。にこっと優しい朱色の眼差しで笑い掛けてくれるアムレットに息も止まれば、直後にはステイルとアーサーも同時に全力でその船を押しやった。

「そうでしたね、ジャンヌはアムレットと約束だと昨日から話していました。どうぞ僕らが答えるのでジャンヌはアムレットに勉強を教えて上げて下さい、是非」

「そうっすね!昨日からの約束優先して下さい‼︎俺らも忘れててすみませんでしたどうぞ!」