軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Ⅱ186.私欲少女は欲しがり、

「本当にその時のネイトが妙だったの?ジャック」

アーサーの話を聞いたプライドは、紫色の目を丸くさせながら確認した。

ネイトと離れた後、廊下を歩きながらステイルやパウエルもその話へ興味深く耳を傾けた。

ネイトがどこまで本気で答え、どこまで適当に答えているかの確証はない。プライドが彼に語りかけた話題も、全てあくまで初対面の相手として自己紹介も含めて身の回りの話から始めていたとステイル達も判断していた。

だからこそ、いつまでも仲良くなろうと本題を切り込まないプライドにネイトが業を煮やした。それを察したからこそプライドよりも一歩先にステイルが彼へ最大の不審点である授業欠席について尋ねた。

結果、彼の我が儘もしくは理由とも言えない理由を聞いた勤勉生徒のパウエルの怒りを買うことになるだけだった。ステイル達にとってもそして本人にとってもパウエルが怒ることは予想外でもあったが、同時に無理もないとも考える。

学校は基本的に勉学を望む生徒の為に作られている。更には出逢い目的の生徒ですら授業にはしっかり出ている中、その義務すら放棄して教室だけ使っている彼からその言い分を聞けば、真面目に勉学と仕事を両立させている生徒からただただ不興を買うだけだった。

「はい。……いやつっても、別に確証はないンすけど。ただ俺がそう感じたってだけで気の所為の可能性も……」

「お前の見立て自体が充分な確証だ」

「すげぇなジャック。俺なんて全然気付かなかった」

プライドに確認され、自信なさそうに頭を掻くアーサーにステイルが断言した。

人の取り繕いの表情に敏感な彼の目が確かなのは、相棒であるステイルが一番よく理解していた。パウエルもステイルの断言を聞き、そうなのだろうと感心する。

自分もネイトの話はプライドとのやり取りからしっかり聞いていた筈だったが、全くその違和感に気づけなかった。

ステイルやパウエルにとっては全く気付けなかった変化でも、アーサーからすればネイトの表情変化は明らかだった。ただ、何故よりにもよって〝あの場面〟でそんな急に誤魔化そうとしたのかは、アーサーにもステイル達にもまだ検討がつかない。そしてプライドは

……やっぱり……。

ヒヤァ……と背中全体が冷風を浴びたように冷たくなった。

ステイルほどはっきりとアーサーの目利きを知っているわけではないにしろ、プライドも彼が言ったことなら信用には充分価すると思う。何より、彼が人を貶めるような嘘や中途半端な確証だけを口にする人間ではないことはプライドもよくわかっている。

だからこそ、アーサーから聞いた〝信憑性の高い〟ネイトの反応はそのまま彼の現状を判断するに大きな手がかりだった。

もともと出来の良い頭を更に働かせながら一つ一つ組み立てれば既に充分に形が出来上がっていた。彼女は先ほどの昼休みで核心こそ突けなかったものの、必要な情報は殆どネイトから聞き出せたのだから。

最後にネイトへ確認した事実と、そして極めつけにアーサーからの見立てを得ればもう組み上がる仮説は事実だとしか思えない。そうだとすれば、彼の言動にも全て納得がいく。

……助けないと。

その意思が頭に真っ直ぐ突き刺さる。

今、彼もまた自分が恐れた通りに追い詰められている最中なのだとしたら、そしてこの先更なる悲劇が待ち構えているのだとしたら取るべき行動は一つだった。

彼が授業をさぼる理由も、なのに学校には通う理由も、そしてパウエルの言葉に感情的になった理由も、他者への罵倒も全てが彼の抱えているものの結果だと彼女は確信する。

しかし、それでもまだゲームほどの取り返しの付かない状況にはなっていない。それを確認できたことだけがプライドにとって救いだった。次の休み時間、三限が終わったらすぐにネイトの教室へ行こうと決める。

彼が待っていてくれればまた一つ踏み込める。いっそ今日から早速とも考えたが、そこは踏みとどまった。自分の中では確定したとはいえ、それこそ確たる証拠は何もない。

自分がいくつか言い当てたことでネイトが自分から話してくれれば幸運だが、昼休みの様子だとそこまで打ち解けてくれるのは難しいだろうと自覚する。せめて次に提示する選択肢を〝どちらか〟だけでも検討してくれればと今から願う。

自分の所為で、ネイトに不信感を植え付けてしまった。あの場でもっと仲良くなれれば、パウエルとの間にも上手く立ち回ることができれば仲良くなれたかもしれないとも思う。今でこそ正反対の立場とも思えるパウエルとネイトだが、二人とも根はとても優しい子だということもプライドは前世の記憶で知っている。

第二作目のネイトと第三作目のパウエルとの接点はないが、現実では同じ学校に通っているというだけで充分に運命的な接点だとも思う。今回のことが解決して、ネイトが普通に授業を受けるようになったらパウエルとも和解は難しくないとも。

……まぁ、ゲームでもネイトは授業をさぼりまくっていたけれど。

ゲームのネイトの設定を思い出せば、まぁそれも同じく仕方が無いのだけれどとプライドは思う。

ゲームのネイトにとっても今のネイトにとっても〝それ〟だけが存在意義だったのだから。ゲーム開始時はラスボスへ、そして今はきっと別の相手へと。

いくら主人公のアムレットが授業に出ないのと尋ねてもけろりと受け流し、それよりこれみろよ、ちょっと付き合えよと仲良くなった彼女を振り回す彼は今と同じく問題児だったと思う。そして、きっと誰よりも寂しがり屋だったと。

だからこそ、現実でも教室で明らかに孤立している彼に友人の一人でもできればなと少し思う。勿論、一番大事なのは彼の問題解決に他ならない。

「本当は、……彼から話してくれれば良いのだけれど」

ハァ……、と口の中だけで呟いた彼女は代わりに大きく溜息を吐いた。

渡り廊下まで送ってくれたパウエルと別れを告げ、ステイル、アーサーと共に中等部へと戻っていく彼女は難しいとわかりながらそう願う。

本当ならば今日の放課後すぐにでも動きたい。そして必要とあらば本気で動こうとも思う。今彼が最悪の事態を免れていても、追い詰められていることに変わりは無い。そして自分はそれを一分一秒も本当は許したくない。

しかし、〝予知〟も〝弱みを知る特殊能力〟もその名を冠して動けるのは真実のみ。

その為にもあと少し、あと少しと次の休み時間にさらなる確証とネイト本人の口から語られるのを求めるしかない。

……助けて、って。一言言って全部話して貰えれば一番早いのだけれども。

しかし、信頼を充分に得ていない自分達ではそれも難しいと。

そう思いながらプライドは教室へと戻った。

……

「助けてくれー!おーい!……誰かー!!」

校内のとある場所。

そこで生徒二名が揃って助けを呼んでいた。昼休み終了の予鈴が鳴っても、助けを求める彼らはその場を動けない。代わりに誰かと声を張り上げて既に十五分が経過していた。授業も開始し、本来ならばいつものように教室へ戻る彼らはそれもできない。教室どころか今はもう何処にも行き場がなかった。

「誰か!!おーい!!……おい、どうする?かなりやばいんじゃないか?」

呼び続き過ぎて息を上がってきた。

しかも昼休み中ならまだしも授業中。通りすがる生徒などいるわけがない。

唯一の望みは見回りの警備や教師だが、彼らがいつ自分達の近くを通りかかってくれるかもわからない。その間に喉が枯れてしまったら終わりだと、危機感から汗だけでなく喉の渇きまで尋常ではない彼らは口を閉じ顔を見合わせた。

今は三限目。次の四限と下校になっても見つけて貰えなかったら、本格的に最大危機だと嫌でも理解していた。

「あいつらもどっかいっちまったみてぇだし……完全に置いて行かれたぞ」

「くそっ……!一体どうなってるんだ……?!」

歯を食いしばり、拳を握り締めながら彼らは自分達を見捨てていった相手を思い出す。

彼らが今の状況に追いやられているのを知る人間はゼロではない。自分達がこうなったのを知りながらも置いていき、そして未だに助けが来ないところから考えても見捨てられたと考えるのが正しい。

奴らが自分達を嵌めたのか、それとも第三者か。最悪の場合、自分達をこのまま放課後の人目が無くなった頃合いまで放置し、売り飛ばす気ではないかとさえ考える。いや、それどころか最も恐ろしいのはこのまま死ぬまで見つけてもらえないことだ。あり得ない話ではない。何故なら今彼らがいるのは

「ヒャッハハハハハハハッ……」

突然。

お互いの息の音しか聞こえなかった空間に、別の音が放り込まれてくる。同時に先ほどまではなかった足音がすぐ近くからこちらに近付きているのが聞こえてきた。

おい!まさか!誰かいるか⁈助けてくれ!と二人は慌てて再び声を上げた。突然聞こえた足音も、そして不快な笑い声も今は気にならない。それよりも運良く人が通ってくれたという方が強かった。

おーい‼︎そこにいるんだろ!!と何度も彼らが喉を張り上げるが、声の主は歩みを早めるどころか最初は返事をしようともしなかった。ただ、一定の間隔で近付いた足音が途中でピタリと止まったことだけに彼らも理解する。見上げ、口を開け、目を凝らして声の主を必死に探した。

深い深い、穴の底から。