軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3-3

対戦は、アリス対ジュリエット、アリス対ブラッドリー、ブラッドリー対ジュリエットの順番に決まる。

「ふーん。なんだか……私への配慮っぽい順番ね? まぁ、こっちは助かるんだけど、舐められるのもムカつくわ」

ジュリエットが準備運動をしながらそう言った。

ハーヴェイからの推薦を受けたアリスと、ハーヴェイのいとこであるブラッドリーには連続で戦わせて、ジュリエットだけに休憩が与えられているという意味だろう。

「対戦、よろしくお願いいたします」

内心、ちょっと面倒な相手だと思いながら、アリスは取り合わずにいた。

するとジュリエットににらまれてしまう。

「……ホールデンって、礼儀正しくてつまんないわ。なんだか、自分たちこそ正統派です! っていう主張が強すぎるのよ」

「そ、そんなこと言われましても……」

「ノックスこそが最強だという事実を、あなたに教えてあげるんだから」

「べつに、私はホールデンの代表じゃないので! ホールデン副団長や、私のお父様……それからハーヴェイ殿下に勝ってから最強を名乗ってください」

アリスは声を荒らげた。

確かにアリスはホールデンの流派だけれど、代表ではない。テレンスを師としている者の中では、残念ながら最弱である。

負ける気はないけれど、アリスに勝っただけで「ホールデンが弱い」と見なされたら困る。

「あらあら……戦う前に負けたときの言い訳をするなんて、随分と弱腰ですこと」

「なんですって!」

「あー、あの……。二人とも……続きは試合でやってくれないか?」

審判役となる副団長ティンダルからの制止が入り、舌戦は終わる。

(ジュリエットさんだけには、負けられない……っ!)

ホールデン子爵家が、アリスのせいで馬鹿にされることなどあってはならない。

これまで、他家の令嬢をこんなふうに意識した経験はなかった。

胸の中がモヤモヤとして、冷静ではない自覚がある。

アリスは大きく何度も深呼吸をして、平静さを取り戻そうとした。

(大丈夫、大丈夫……私はできる……いつもどおりに……)

そう心の中で唱えてみたものの、心臓の音がやけにうるさい気がした。

多少の高揚感や闘争心は、持っていていいもののはず。

けれど今のアリスは、自分の心の状態がよい状態か悪い状態かもわからなくなっている気がした。

そのままどこかふわふわとした気分で木剣を構える。

「それでは、始め!」

ティンダルの声が響くとすぐに、ジュリエットが高く掲げた剣をアリスの胴目がけて打ち込んでくる。

アリスはそれを正面で受け止めた。

(軽い!)

普段、ランドルやテレンスを相手に稽古をしているせいか、ジュリエットの剣は軽く感じられた。

「チッ!」

舌打ちをしたジュリエットが間合いを取り、別の方向から攻撃してくる。

とにかく速い剣さばきだった。

(でも、これなら……っ!)

アリスには相手の剣筋が見えている。

速さも、力も、普段の対戦相手から格段に落ちる気がした。

だから、ジュリエットの攻撃は、アリスには当たらない。

何度か打ち合うと、ジュリエットの隙が見えてくる。

彼女は攻撃の直後、後方に下がるときに守りが甘くなるみたいだ。

そこを狙い、アリスは渾身の一撃を相手に与えようとした。

(取った!)

そう確信した次の瞬間、足に鈍い痛みが走る。

姿勢を維持できていないことが、自分でもわかった。

(え……?)

彼女の木剣から一度も目を離していない。

それなのにアリスは倒されている。

妙に、時間がゆっくりと流れている気がした。

ジュリエットが勝ち誇った笑みを浮かべているのが、はっきり見える。

ドン、という衝撃のあと、今度は左手に痛みが走った。

転んで、咄嗟に手を地面についてしまったのだ。

自分の身体になにが起こったのか、完全には把握できていない。それでもアリスは剣を両手で持ち直し、すぐさま立ち上がろうとしたのだが……。

首の付近に木剣があてられて、アリスは身動きが取れなくなっていた。

真剣だったら死に至る急所だ。そこに剣が届けば勝負は終了となってしまう。

「そこまで!」

ティンダルの声が響く。

アリスは、敗北したのだ。

「私の勝ち!」

ジュリエットが飛び跳ねて喜ぶ様子を、アリスはぼんやりと見つめていた。

ところが、審判役のティンダルがジュリエットに近づき、軽く頭を小突く。

「反則に決まっているだろうが! ここは白鹿騎士団だ。他国だったら近衛騎士に相当する、騎士の中の騎士だぞ? 剣術勝負で対戦相手の足を引っかけるなんて行為が、許されるわけがない」

「ええ? だって、実戦ならお綺麗な剣術なんて意味ないわ」

「意味ないわ……じゃない! ジュリエット・ノックス!! これは実戦ではないのだから、剣だけで戦え」

「そんなことを言われましても……ノックス男爵家は、常に実戦を意識した剣術を得意としているので」

ジュリエットに悪びれる様子はない。

ティンダルがため息をついて、今度は尻もちをついたままのアリスのほうへ視線を動かした。

「アリス・ホールデン……大丈夫か?」

「はい……」

立ち上がりながら、アリスはどうしようもないほどの敗北感に苛まれていた。

(私……彼女の足技が見えていなかった。隙があると思わせたことすら、本当は戦略だったんだわ。たとえ反則でも、見えていなかった私は……実戦なら死んでいた……)

アリスも、一度だけ命を懸けた戦いに巻き込まれたことがある。

そのときのアリスは、敵に砂をかけたし、ハーヴェイも石を投げていた。

ジュリエットの言うとおり、実戦なら綺麗な剣術に意味はない。

確かにジュリエットは、反則技を使った。

それでも、無様に尻もちをついたのはアリスだ。

油断して、随分と視野が狭くなっていたことに気づかされる。

「では、この勝負……反則により、アリス・ホールデンの勝利とす……」

「いいえ! 私は勝っておりません!!」

ティンダルの言葉を、アリスは慌てて遮った。

試合と実戦は違う。

それでも心構えとして、アリスはジュリエットの全身や、周囲を警戒したまま戦わなければいけなかったのではないだろうか。

「ジュリエットさんは、わざと私に隙を見せたのだと思います。それなのに、私は彼女の意図を見抜けず、罠に嵌まったんです。……だから、勝っておりません」

「そ……そうか……? では、不成立ということで……次に行こう。なんだか面倒くさくなりそうだから、とりあえず次だ」

ティンダルがそう言うと、先輩騎士たちと一緒に試合を見守っていたブラッドリーが立ち上がり、アリスのほうへ歩いてきた。

「じゃあ、私は見学してまーす」

ジュリエットが下がり、アリスはブラッドリーと対峙する。

(せめて……一勝はしたい。……でも……どうしよう……)

両手で剣を構えてから、アリスは初めて先ほど転んだ際に手首を痛めていたことに気がついた。

左手首だし、骨は折れていない。おそらくは軽い捻挫だろう。

(剣を握れないほどではないけれど、本気は出せないかも……)

手首を痛めたことを報告したら、この試験は中止になるかもしれない。

もしくは、ブラッドリーに手加減されてしまうかもしれない。

本気を出せずに無様に負けるのなら、ジュリエットのせいにして棄権したほうがいい気がしてきた。

(いいえ、なにを弱気になっているの! ……私、やってみせるわ!)

観戦している騎士たちが集まるほうへ視線を動かす。

するとハーヴェイと目が合った。

夢を叶える方法を示してくれた彼に、アリスは報いたかった。

推薦人に恥をかかせてはならない。

ランドルに言われたからではなく、アリス自身が心からそう思っていた。