軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編3

「麒麟?」

『何かどでかい事を言い出しそうな予感がする』とのハルバートの勘のもと、船の甲板にアメリアを呼び寄せ始まったカインに対する事情聴取もとい尋問は、聞き慣れない単語から始まった。

「そう。この大きい子は麒麟っていう魔獣。

で、ドー・ドーのお母さん」

麒麟はドー・ドーに恐る恐るといった様子で近づき、顔を近づけてぺろりと舐める。当のドー・ドーははじめ不思議そうにしていたものの、匂いで何か感じるものがあるのか、今は尻尾を振っている。

「産まれてすぐにはぐれちゃったから、

お母さんだとは思ってないみたいだね。

この麒麟、ドー・ドーの匂いを辿って、

遠い僕のところまで来てくれたんだよ」

カインはちょっと寂しそうに言うが、麒麟はそれでも嬉しそうに子を舐めている。

「え、ドー・ドーも大きくなったらこうなるの?」

「そうみたい」

「へぇ~・・・」

麒麟の見た目は顔は竜だが身体は馬のような牛のような、少なくともあまり犬要素はない。

「いっぱい食べそうだし、僕頑張って稼がなきゃ」

その大きな身体をひとしきり眺め、マテオは謎の決意をしている。

そこにイアンが割って入ってきた。

「なあ、聞いて良いか。

さっきクラーケンがドー・ドーを追ってたんだが、

これはなぜか分かるか?」

「ああ、多分食べようとしていたんだと思うよ。

麒麟はものすごく魔力が強いから。

しかも麒麟の幼体なんて、ものすごいご馳走だもの」

マテオがそれを聞いてふんすふんすと怒っているのを横目に、動物好きの船長がイアンに通訳を求めていた。

ひとしきり話を聞いた船長は目と口をこれでもかと大きくかっ開くと、

ズシャア!!

と甲板にひれ伏した。

船長が東の国の言葉で船員たちに何か呼びかけると、同様に驚いた顔をした船員たちが次々に頭を下げだす。

「なんだなんだ?」

「ああ、もしかして東の国の人?

この麒麟、元は東の国の神獣だからねえ」

船長は船室からタペストリーを持ってくると、麒麟の伝承が描かれたというそれを見せてくれた。

「あ、ほんとだ、麒麟だ」

「船長はこう言ってるぜ。

麒麟がこの船にいるなんて嘘みたいだ。

この船はきっと末永く安全に航海できる。

ってな」

ドー・ドーはひれ伏したままの船長に駆け寄ると、その頬をぺろりと舐めた。麒麟はその様子を見ると自分も船長に近づき、その長い髭を1本器用に引き抜き船長に寄越した。

「我が子がお騒がせしました、ってさ」

カインがイアンに言い、イアンが船長に通訳する。

船長は泣きながらその髭を掲げ持ち、

麒麟がカインを乗せて再び飛び去るまで見送った。

ーーーーー

「だから言っただろ?

クラーケンは食うと美味いのよ」

その夜、港町は沸きに沸いた。

アメリアが引っ張り上げたクラーケンは街の人々に振る舞われることとなり、余った部分は商人ギルドが預かることになった。

テントマーケットの料理人たちがこぞって腕を振るい、フライだの醤油焼きだのパエリアだの、思い思いのクラーケン料理を人々は楽しんだ。

ハルバート一行は「リボンと道」に戻り、宿の料理人にクラーケン料理を頼み、テラスの広いテーブルであれこれ食べ比べをしている。

「ほんとだ、フライ美味しい。

弾力があるのにサクッと歯が入るのね」

アメリアは膝にリファを乗せ、「まだリファには早いかなあ」など思案している。幸い宿の女性スタッフのおかげでリファも楽しめたようで、すっきりした顔をしていた。

「僕が仕留めたんだよ!」

すっかり自信を取り戻したマテオは得意顔でもりもり料理を食べ、足下ではドー・ドーも茹でクラーケンを食べていた。

ドー・ドーは母と一緒には行かなかった。

マテオのそばにいることを選び、母が飛び去るのを見送った。

『僕はパパの顔を知らなかったけど、

ママがいたから寂しくなかった。

ドー・ドーはママの顔を知らなかったけど、

僕がいるから寂しくないのかも』

マテオはそう思い至り、この小さな友人を大事にしよう、と誓った。

たとえどんなに大きくなっても。

ーーーーーー

楽しかった宴会もお開きとなり、イアンは帰って行った。

アメリアと子供たちは先に部屋に戻ってもらっている。

ハルバートにはやることがあった。

テラス席の食器を片付ける、短髪の女性スタッフに声を掛ける。

「今日は力を貸してくれてありがとう。

・・・見違えましたよ、ダフネ嬢」

アッシュグリーンの髪を短く切り、日に焼けた姿をしたその女性は、ハルバートのかつての婚約者(内定)、ダフネであった。

手に持っていたビールグラスを置き、台拭きを握りしめたダフネは、気まずそうに呟いた。

「・・・気づいていらしたのね」

「最初は気づきませんでした。

あまりに変わっているものですから」

「ええ、ずいぶん違うでしょう?

恥ずかしいわ。

…気づいていてよく、私に子供を預けたわね。

怖くはなかったの?」

私が子供を害するとは思わなかった?

ぬるい南風に短い髪を踊らせ、ダフネはテラスの柵にもたれかかった。

自分自身をあざ笑うようなその寂しい笑いは、後に聞いた彼女の境遇を思い起こさせた。

「…あなたの事は、『金の隊』から聞きました。

ずいぶん苦労されたようだ」

「同情はいらないわ」

「…俺があなたにリファを託したのは、

今のあなたが生き生きとして見えたからだ。

あの頃よりずっと。

…ここの暮らしは楽しいですか」

ダフネはふふ、と笑うと、

「正直言って、すごく楽しいわ。

…あの頃を思い出すことがないくらいに」

と語り出した。

「最初はね、つらかったわ。

何で私が平民に、とか、

父はなぜ私を愛してくれなかったのか、とか、

色々妬みひがみが消えなくて。

でもここで仕事をして、

お給金を貰って自分の手で暮らして、

リサさんやお客さんたちに良くして貰って、

いつの間にかどうでも良くなったの」

そう言って歯を見せて笑ったダフネは、すっきりとした穏やかな笑顔だった。

「手に入らなかったものに執着するのもつまらないじゃない」

「あなたの言うとおりだ」

「今は名も変えたわ。私はネリー。

昔の侍女の名前を貰ったの。

髪も切って名も捨てて、

今の自分を気に入ってるのよ、これでも」

「今のあなたのほうが何倍も魅力的だ」

「いやあね、もう脈はないわよ」

それはわかってる、とハルバートも笑う。

「また港町に来てね。家族みんなで」

「ああ、息子が船が好きなんだ。

また必ず来よう」

笑顔で握手を交わして、二人は別れた。

ハルバートに背を向け、空いたグラスと食器を持ち直しながら、

ダフネはまた、笑った。

ーーーー

「マテオ、家族旅行楽しかった?」

「楽しかった!」

船体の点検のため一日遅れで出港した帆船を見送り、イアンにも別れを告げ、一家は無事に家に帰り着いた。荷を解きながら、マテオは母の問いに全力で答える。

指をひとつひとつ折りながら、今回の旅の収穫をリストアップする。

帆船を見れた、イアンおじさんがかっこよかった、

ママのファンに会えた、パパの魔術が凄かった、

ドー・ドーのママにも会えた、

クラーケンが美味しかった。

ほら!いっぱい!

マテオの心の思い出ファイルにはページがたくさん加わった。

何より、ちょっとした冒険を味わえてワクワクした。

『次はどこへ連れてってもらおうかな』

味をしめたマテオは、次の旅行先を頭の中で物色するのだった。

ー番外編 fin-