軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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◇◇◇

結果を言えば、ウィルフレッド王子の言ったことは本当だった。

城の浴室を使わせてもらい、新しいドレスに着替えた私は、別棟にある召喚場で精霊契約を行った。

見ているのはアルだけ。たった二人だけでの精霊召喚だったが、私の呼びかけに、すぐに精霊は応じてくれた。嘘みたいに簡単だった。

『その呼びかけに応じよう』

現れたのは、全身真っ黒の闇の精霊。以前の精霊とは違い、男性体だった。黒い鎧のようなものを身に纏っている。

「え、えと……」

彼は私を見ると、一つ頷いた。

『お前が我の契約者か。契約者よ、汝の名を告げよ』

「リ、リズ・ベルトランよ……」

『リズ・ベルトラン。我は、ノワールだ。闇の上級精霊。以後、汝の契約精霊として宜しく頼む』

「……ええ、宜しく」

こんな感じで、実にあっさりと契約が終わってしまったのだ。

今までの苦労は何だったのかと言いたくなる呆気ない結末に、私は唖然としたままだったし、アルも驚きを隠せないでいた。

「……まさかこんな簡単に。ウィルの言ったことは本当だったのか?」

それについては私も全くもって同感だった。

今まで、どんなに頑張っても精霊契約できなかったし、その原因もさっぱりだった。それが、ウィルフレッド王子の助言に従っただけであっさり契約できたのだから、彼の言葉が真実だったとしか考えられない。

「でも私、ついに契約できたんですね」

驚きつつもこちらにやってきたアルに告げる。知らず涙が込み上げて来ていた。

ずっと感じていた心の重荷がなくなり、安堵のあまり倒れそうだ。

「良かった……」

喜びを噛みしめるように告げると、アルが嬉しげに私の両手を握った。

「おめでとう、リリ。ずっと苦しんでいた君が、ついに結果を出すことができて僕も嬉しいよ」

「アル、ありがとうございます」

嬉し涙が零れる。アルは、私が精霊契約できなくても構わないと言ってくれたが、私はそれはどうしても嫌だと思っていた。

アルは次期国王に相応しい人だ。そんな人を私のせいで皆から奪うわけにはいかない。だから、何が何でも精霊契約を成功させなければならないと決意していたのだ。それが最高の形で叶い、私は心底安堵していた。

「アル、これでアルは王太子を降りるなんておっしゃいませんよね」

念のため、確認すると、アルはパチパチと目を瞬かせた。

「え? もしかしてリリ、そのことを気にしてた?」

「当たり前です」

何を言っているのか。ムッとアルを睨むと、彼は困ったように口を開いた。

「別に僕はどっちでも良かったんだよ?」

「アル!」

「だって、僕にとって一番大事なのは、リリをお嫁さんにできるかどうかだし。お嫁さんにできるのなら王子のままで良いけれど、無理なら降りるしかないよね。その程度の問題だよ。前にも似たようなことは言ったよね」

それは聞いたが、許容できるかどうかは別問題だ。蒼白になりつつも、アルを見つめる。彼はふわりと笑みを浮かべた。

「まあ良いじゃないか。リリはこうして無事契約できたんだから。僕は王太子のままだし、もしの話は要らないよね」

「それは……そうですけど」

「ね? それが全てだよ」

アルが笑顔で私の言葉を封じる。上手く丸め込まれてしまったと思ったが、実際、彼が王太子を降りる話はなくなったのだ。起こらない可能性の話をしても意味はないと思い、渋々ではあるが頷いた。

アルが私の隣に浮いている契約精霊――ノワールに目を向ける。

「へえ、上級精霊だ。すごいね、リリ」

『お前は――ああ、言わなくても分かる。炎と風の上級精霊の加護を受けているな。――ローズブレイド王国の王太子か』

ふん、と匂いを嗅ぐように鼻を動かし、ノワールが言った。横柄な態度だったが、アルは気にせず「うん」と頷く。

「初めまして。ご推察の通り、僕はアラン。ローズブレイド王国の王太子、アラン・ローズブレイドだ。でも君には、君のご主人様の未来の夫だと言った方が分かりやすいかな?」

『夫だと? 主?』

ノワールがこちらに視線を向ける。真っ黒な瞳には、黒水晶が嵌まっているかのようだ。その瞳に見据えられた私は、素直に返事をした。

「ええ……アルは、私の婚約者なの」

『――そうか。分かった。心に留めておこう』

「ところで、ノワールだったっけ? 君はどうしてリリの召喚に応じてくれたのかな? リリの魔力なら、中級精霊くらいが妥当だと思ったんだけど。君、上級精霊の中でもかなり力が強いよね?」

「え? そうなんですか?」

とにかく契約できればそれでいいと思っていたから、ノワールが『上級精霊』であるという事実を普通に聞き流していた。だけど確かに、アルが言う通り、私は魔力量はそこそこあるが、ものすごく優秀というわけではない。以前、アルの精霊に運が良ければ上級精霊と契約できるかもとは言われたが、中級精霊くらいが妥当だという判断はまちがっていないと思った。

ノワールはアルと私を見て、一つ頷き、口を開いた。

『……以前、主は闇の中級精霊を呼び出したことがあっただろう。その時の精霊が、主と契約できなかったことを申し訳ないとずっと悔いている。今回も本来なら彼女が出てくる予定だったのだ。だが、こちらにも少々事情があり、我と変わったというところだ』

「変わった? そんなことが可能なのか?」

『契約するかどうかは精霊側に一任されている。こちらで話がつけば問題ない』

アルの疑問に、ノワールは淡々と答える。感情が乏しいと言えばいいのだろうか。声に抑揚が殆どない。

――これが闇の上級精霊。

勇ましい鎧姿のノワールをじっと観察する。

私が契約した彼と、これからは二人三脚でやっていかなくてはならない。上手く付き合っていけるか、今の段階では分からないけれども、闇の上級精霊であるノワールの力がもしかしたらアルの役に立つかもしれないから、誠心誠意努力して仲良くなりたいと思った。

アルが、「まあ、リリをきちんと守ってくれるのならそれでいいんだけど」と無理やり納得するような言葉を紡ぐ。それにノワールは『当たり前だ』と即座に返していた。

アルがそれに微かに笑い、ノワールに尋ねる。

「じゃあもう一つだけ。君がリリを守ってくれるつもりなのは分かった。その上で聞くけど、君たちの事情というのは、リリを危険にさらすようなことじゃないよね?」

『違う。主自身には全く関係のないことだ』

「その事情とやらを教えるつもりは?」

『……今言う必要性を感じない。どうせすぐに説明することになるのだから』

そう言ったノワールの表情は苦虫を何匹も噛み潰してしまったかのように苦かった。

アルは、とりあえずは納得したのか頷き、私に視線を向けてきた。

「まあ、ちょっと何を考えているのかよく分からないところはあるけど、良い精霊と契約できたと思うよ。良かったね、リリ」

「ありがとうございます」

アルが言ってくれるのなら安心だ。

とにかくこれで障害はなくなった。私はアルと結婚できる。

そう思うと、精霊契約ができた喜びとはまた別の喜びがじわじわとわき上がってきた。

「リリ、嬉しそうだね」

「はい」

「そう、僕も嬉しいよ。これで堂々と結婚準備にも入れるからね。……まずは婚約式か。早く君を僕のお嫁さんにしたいよ」

熱い目で見つめられ、照れくささのあまり、思わず視線を逸らしてしまう。

アルが甘い声で私を誘う。

「リリ、恥ずかしがっていないで、こっちを向いてよ。君の可愛い顔を見せて欲しいな」

そんな風に言われれば、より一層恥ずかしくなってしまう。

真っ赤になった私を見たアルが楽しそうな声で笑う。その声が本当に楽しそうで、アルも私が契約できたことを心から喜んでくれているのだということが分かった。

――良かったわ、本当に。

精霊契約ができて。

たくさんの人たちに心配させてしまったし、私も随分と悩んだけれど、結果として上級精霊と契約できたのだから、もう全部辛かったことは水に流せると思った。