軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

5

「ないわ。お城に上がったのはこれが初めてだもの。普段はリリも知っている通り、孤児院に通っているだけだし……お会いする機会なんて……」

「確かにないわね」

納得した。

クロエは眉を寄せ、苦い顔で言った。

「てっきり、別の誰かを待っているのだと思って通り過ぎようとしたら、何故か話しかけられたの。もうどうすればいいのか分からなくって」

ただでさえデビュタントで緊張しているというのに、突然第二王子に話しかけられるなど、どんな不運だろう。

以前の私なら、それも当然と傲慢に受け入れただろうが、それが愚かな行為であることはもう分かっているし、素直なクロエができるはずもない。まず思いつきもしないだろう。

今の私なら……角が立たない程度に付き合い、適当なところで具合が悪いと言って屋敷に帰らせてもらう、という消極的な方法を取ると思う。

第二王子に失礼なことはできないし、父の面目にも関わってくる。それを考えれば、適当なことはできないのだ。

「……大変だったわね」

心から言うと、クロエも真顔で頷いた。

「本当に。もう、ずっと生きた心地もしなかったの。リリが来てくれて、本当に嬉しかったんだから」

キュッと両手を握られ、心底嬉しそうに微笑まれた。

私が来たことが、クロエの力になっているのなら嬉しい。そう思い、私も彼女の手を握り返す。

二人で話していると、ウィルフレッド王子と話していたアルが振り返り、私に言った。

「僕はもう少し弟と話があるから、今の内にヴィクターに挨拶してくると良いよ。彼も今は一人のようだし」

アルの視線を追うと、確かに近くに兄がいた。側には誰もいない。兄は、こちらに気づいているようで、私と目が合うと、ほんの少しではあるが、笑ってくれた。

アルに視線を戻す。彼はクロエにチラリと目を向け、私に「彼女も連れて行くといい」と暗に訴えてきた。

少しの間だけでもウィルフレッド王子と距離を取らせようという配慮だと気づき、私は頷いた。

「そう……ですね。そうします。クロエ、あなたも一緒に来ると良いわ。一人でいても退屈でしょう?」

「え、でも……いいの? 私、リリのご兄弟と面識はないんだけど」

ここに一人にされたくない。だけど、付いていくこともできない。

クロエの表情にはとてもわかりやすくそう書いてあった。それに私は笑顔で言う。

「良いわよ。ヴィクター兄様は、私にあなたという友人がいることは知っているもの。むしろ紹介しない方があとで兄様に叱られてしまうわ」

「そ、そう……それなら」

私の言葉を聞いて、おずおずとではあるがクロエが頷く。私はアルとウィルフレッド王子にしばらく席を外す旨を告げた。

アルは笑顔で「行っておいで」と言ってくれたが、ウィルフレッド王子は当たり前と言おうか、あまり良い顔をしなかった。

「リズ嬢は兄上の婚約者ですから好きにすればいいと思います。……ですが、クロエ嬢。あなたの今日のパートナーはオレではなかったのですか?」

「そ、その……」

嫌な言い方だ。

言い返せないクロエに、ウィルフレッド王子は更に詰め寄ろうとした。それをアルが咎める。

「ウィル、見苦しいよ。無理やりエスコート役を奪い取ったお前に、カーライル嬢を責める資格はない。リリ、良いから彼女も連れていってあげて」

「っ! 兄上!」

「お前は、女性のエスコートというものをもっと勉強することだね。今日のお前は何もかもが駄目だよ。僕の弟として、失格かな。いくら立ち居振る舞いが良くても、これじゃあ認めてあげられない」

「……」

アルに冷たく指摘され、ウィルフレッド王子は黙り込んだ。アルが私に早く行けと視線を向けてくる。それに私は頷き、クロエの手を握った。

「行くわよ」

彼女を連れ、兄の元へと向かう。

私に引っ張られたクロエが、戸惑いを隠せない様子で尋ねてきた。

「ね、ねえ。本当にこっちに来ても良かったの?」

「もちろん。クロエだって、あのままあそこにいたくなかったでしょう?」

「それはそう……だけど。でも、ウィルフレッド殿下の意向を無視して、だなんて……」

「アルが良いっておっしゃって下さったのだもの。大丈夫よ」

短い時間だろうが、せっかくウィルフレッド王子から引き離す機会をくれたのだ。今のうちにクロエを少しでも落ち着かせたい。

そう思い、クロエを宥めると、彼女は私を見て羨ましそうに言った。

「……ありがとう。でも、初めて二人が並んでいるところを見たけど、アラン殿下とリリってすごくお似合いよね。良いな。さっきのやりとりだけでも、アラン殿下がリリのことを大事に思っているのが伝わってきちゃった」

「いきなり何の話?」

どうしてそんなことを言われたのか。

分からないと首を傾げるとクロエは言った。

「だって、アラン殿下が私のことを気に掛けて下さったのって、私がリリの友達だからでしょう? 単なる伯爵令嬢の私なんて放っておいても良いはずなのに、こうして助けて下さって。きっと、リリに格好良いところを見せたかったのよ。良いなあ、リリ。本当に殿下に愛されているのね。素敵だわ」

「え、ええ!?」

まさかそんな風に言われるとは思わなかった。

私はしどろもどろになりつつも、クロエに言った。

「あ、あの……アルはその……すごく優しい方だから……別に今のも特別ってわけでは……」

アルは誰に対しても優しい。そう思い、否定したのだが、クロエの顔は笑っていた。

「うーん。それはそうだろうけど、絶対リリのために動いて下さったってところはあると思う。だって殿下ってば、終始リリのことを見ていらっしゃったもの。ふふ、リリ、素敵な方と婚約したのね。正直ちょっとキツかったけど、あなたが幸せな婚約をしたって確かめることができたことは本当に嬉しい」

「……ありがとう」

友人に大事な人を褒めてもらえたのが嬉しい。心の中が温かくなるようだ。

お礼を言うとクロエは、

「何を言っているの。二人に助けられたのは私でしょ。お礼を言うのは私の方よ。ありがとう、リリ」

と、とても可愛い笑顔を返してくれた。