軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3

◇◇◇

ノエルの授業は、意外にもとても分かりやすかった。

最初はどうなることかと思いながら彼の教えを受けていたのだが、私はすぐにそのわかりやすさに驚くことになった。

大魔法使いなどと呼ばれるくらいだ。ノエルはいわゆる天才型で、人にものを教えるのには向いていないのではと思ったのだが、彼の教えは基本を重視するもので、私でも安心してついていくことができた。

「意外だわ。もっと訳の分からない説明をされると思ったのに」

どうしようもなく本音だったのだが、ノエルは心外だという顔をした。

「魔法は理論と計算だよ。基本がしっかりしていないと、難しい魔法は使えなくなる。君はその辺りがいい加減なんだ。雑だと言い換えてもいい」

雑だという自覚はある。

痛い所を突かれたと思っていると、ノエルはさらに言った。

「魔力量は多いのにねえ。でも、だからこそ失敗した時取り返しのつかないことになる。自身のためにも、しっかり学んだ方が良いと思うよ」

「……肝に銘じるわ」

すでに一度やらかしている身である。あの時はノエルが魔力を吸い取ってくれたおかげで助かったが、そうでなければどうなっていたことか。

あんな失敗を二度としないためにも、頑張らなくてはいけないと、私は今までに類を見ないくらい一生懸命頑張った。

とはいえ、そう簡単に魔法が上手くなるようなら苦労はしない。

なかなか上達しない私に、ノエルは優しかった。

「急がば回れって言うしね。君が頑張っているのは分かるから、焦らなくて良いよ。のんびりやろう」

そう言って、熱心に指導してくれた。これにはお目付役として見ていたルークも驚いたようで、一回目の授業が終わる頃には、すっかりノエルを私の教師として認めるまでになっていた。

「確かに公爵様のお目は確かだったようです」

癪ではあるが、頷かざるを得ない。ルークは複雑な表情をしていた。

ノエルはその後、父に挨拶をして屋敷を出て、猫の姿で何食わぬ顔で戻ってきた。

「さすがにこれだけ長い間、元の姿に戻ってると、かなり魔力を消費するなあ。魔法を使わないで、今くらいの時間が限界」

用意しておいた猫用のおやつを出してやると、ノエルは大喜びで食いついた。さっきまでの超絶美形のルーノ先生を覚えているだけに、分かっていてもそのギャップに戸惑ってしまう。

彼はあっという間におやつを食べきると、満足げに毛繕いを始めた。

「ふーっ。やっぱり厨房の料理人たちが作ってくれるおやつは最高だね☆ 魔力は回復しないけど、気力は回復するよ」

ゆらゆらと尻尾が揺れている。そのふくふくとした表情を見ていると、ノエルだと分かっていても、つい、悪戯をしたくなってしまう。ツンツンと身体を突くと、ノエルは「何をするんだい」と私を睨んだ。

「せっかくの幸せなひとときを邪魔しないでもらえるかな、ゴシュジンサマ」

「そんなつもりじゃなかったのだけれど、つい。ごめんなさい。ねえ、聞いてもいい? 人型を取ると、魔法は使えないの? さっき教えてくれた時もノエルは一切魔法を使わなかったわよね?」

「うん? まあね」

ノエルはあっさりと頷いた。

「呪いに反抗して人型を取っているわけだからね。人型を維持するだけでも相当の魔力を使う。その上さらに魔法をというのは、難しいよ。もし使えば、あっという間に今の姿に戻ってしまうだろうね。だから、ゴシュジンサマの家庭教師をしている時は、基本私は魔法を使わない。覚えておいてくれたまえ」

「分かったわ」

「魔力を溜めるのにも時間が掛かるからねえ。本当、この身体は不便だよ」

やれやれと言いながら、ノエルは大あくびをした。

どうやら猫の姿の時は、猫の本能が勝るらしい。すっかり眠たくなったらしく、ノエルは日当たりの良い場所に移動し、丸まって昼寝を始めた。

「……本当、こうしているとただの猫にしか見えないのに、不思議だわ」

「そうですね。でもまあ、お嬢様の家庭教師としては十分及第点でしたし、よしとしましょう」

ルークがノエルの餌皿を回収しながら言う。それに私も同意した。

「ええ、素晴らしい教師だったわ。……今までの先生の誰よりも分かりやすかったもの」

今まで私の魔法が下手だったのは、教え方が悪かったからではないかと思うほどの違いを感じた。それを告げると、ルークも頷く。そうして、何故か苦虫を噛み潰したような顔をした。

「ルーク?」

「いえ、ちょっと思っただけです。お嬢様の家庭教師の話、殿下がお聞きになればどのようなお顔をなさるのだろうか、と」

「……」

思わず、黙り込んでしまった。ちょっとそれは考えたくない。

「……アルには家庭教師の先生が来たとだけいえば……」

「お嬢様がそれで良いとおっしゃるのなら従いますが、本当にそれでよろしいのですか?」

「よろしいわけないじゃない……言ってみただけよ」

ぶんぶんと首を横に振った。

まさか、本気のはずがない。

それでなくとも、アルにはノエルには注意して欲しいと言われているのだ。家庭教師の件は父の決定で私にはどうしようもなかったことだが、それを秘密にして、万が一彼にバレた場合、言い訳のしようがない。

それに――。

「もし、アルに同じことをされたら、絶対に嫌だと思うもの。ちゃんと話すわ」

「ええ、それがよろしいかと」

ノエルに家庭教師になってもらった、などと言えば、今は呼んでいない契約精霊のノワールも怒り狂うと思うのだが、さすがに彼の方まで気にしてはいられない。

それに、ノエルと犬猿の仲ということもあり、用事がない時以外は呼ばないようにしているのだ。

できるだけ呼んで欲しいとは言われているが、(ノエルを見張りたいかららしい)ノワールがやたらとノエルに突っかかるので、私としては勘弁して欲しい。

仕方ないので、ノエルが留守にしている時などに呼ぶようにしているのだが、それもノワールは気に入らないようだった。

だけど、ノエルはノワールのように自分の世界に帰ったりはできないのだ。彼の家は別にあるのかもしれないが、少なくとも今はうちの屋敷が彼の家。そうなると、どうしたってノエルの方を優先せざるを得なくなってしまう。

――申し訳ないけど。

基本、精霊というものは、必要とする時以外は呼び出さないのが普通なのだ。ずっと呼び出しているなど非常識だし、できれば今の扱いで我慢して欲しい。

「頭が痛いわ……」

とりあえず、アルには直接話をしよう。手紙にすると、変に誤解されるかもしれない。アルの顔を見て説明するのが一番良いはずだ。

「アル……。いつなら訪ねても大丈夫かしら」

私は溜息を吐きながら、机の引き出しを開け、彼とのやり取りに使っている便箋を取り出した。