軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3

愕然としていると、アルが私を慰めるように言った。

「大丈夫だよ。安心して。僕は信じていないから」

「アル……」

縋るようにアルを見上げる。彼は私の目を見てしっかりと頷いてくれた。

「ウィルは昔からこの話をし続けてきたけれど、僕は信じていないし、君を『悪役令嬢』なんかにしたりもしない。だけど悲しいことに共通点はあるよね。名前もそうだし、立ち位置もそうだ。だから、全てを無視することはできないと思うし、それは賢くない」

「はい」

「僕たちにできることは何か。真偽は分からないけど、せっかく弟から情報を得られるんだ。最大限にそれを生かせば良い。『悪役令嬢』にならないようにそれとは真逆の行動を取る。そうすれば、君が『悪役令嬢』になることはない」

コクコクと何度も頷いた。

アルの言う通りだ。

まだ、何も始まってはいない。私は何も――いや、ドレスの件は反省したけれども――していないのだから、『悪役令嬢』が取る行動を取らないようにすれば済むだけの話なのだ。

つまり、昨日決意したのと同じ。完璧な令嬢になればいい。

そうすれば、私は『悪役令嬢』にはならないし、今後酷い目に遭うこともない。

「頑張ります……」

心から告げると、アルは頷いた。

「うん。僕も協力する。といっても君は大丈夫だと思うんだけどね。本当、君みたいに素直で可愛い子のどこが『悪役』だって言うんだろう」

「あ、ありがとうございます……」

気づかなかった時なら、「そうですよね!」と心から同意しただろうが、今となっては視線を逸らすしかない。本当に、心臓が痛い。

今までの私、一体何をしていたのか。

あまりにも自分の行動が見えていなさすぎて、今更ながらに溜息が漏れる。

「アルをがっかりさせないように務めます。それで、ですね。早速なんですけど、一つご相談したいことがありまして」

「何?」

首を傾げ方に色気を感じる。思わずドキッとしてしまった。それを押し隠し、私は昨日のことを話した。元々相談しようとは思っていたが、こんな話を聞けば、より一層一人で太刀打ちなどできないと思ってしまう。アルが協力者になってくれて本当に良かった。

「あの、私には、専属の執事がいます。先ほどもお茶を運んでくれたのですが、その、彼との付き合い方について悩んでいまして」

「ああ、さっきの。まだ若そうだったよね、彼」

思い出すように頷くアルに、私は同意した。

「はい。本人の申告ではありますが、今年で十四歳になるそうです。名前はルーク。そしてその……私の悩みなのですが、どうにも彼と意思の疎通ができていないような、そんな気がするのです」

「意思の疎通? 具体的には?」

「私の顔を見るだけで怯えるというか……それでつい、私の方もカッとなってしまって当たってしまうんです。あ、もちろん手は挙げていません。言葉、だけなのですけど……」

「言葉だけ、か。それは最近の話? それともずっと?」

細かく尋ねてくる様子から、真剣に話を聞いてくれているのが伝わってくる。それを有り難いと思いつつ私は答えた。

「……お恥ずかしながら、その……わりと長い期間にわたり、この状態です。言い訳のしようもありませんが、昨日になって初めて、彼の様子が普通ではないと違和感を覚えました」

「昨日、突然態度が変わったということはないの?」

当然の疑問だったが私は首を横に振った。

「いいえ。ありません。不思議な話なのですが、思い返してみればいつもルークは、私に対し、あんな態度だったように思います。そしてそれを一度も疑問には思いませんでした」

「なのに、昨日は気になったの?」

「その……『悪役令嬢』のことがありまして。私も色々なことに過敏になっていたのだと思います。普段は気にならないところまで気になったというか……」

正直なところを告げる。アルは少し考える素振りをみせた後、真面目に私に言った。

「その執事に君が言った言葉というのは、どんなものなの? 僕に教えることはできる?」

「それ、は……」

アルの言葉に、私は思いきり動揺してしまった。

私がルークに言った数々の言葉。それを思い出すことはできるが、アルに教えられるのかと言われれば答えは『いいえ』だ。私が何を彼に言ったのか、それをアルには知られたくない。

――ああ、そうか。

それで、ようやく気がついた。

私は、他人に知られては困るようなことをルークに言っていたのか。

唇を噛みしめる。

黙りこくってしまった私を見て、アルが静かに告げた。

「その様子だと気づいたかな? 一応言っておくけど、もし君が僕に詳細を教えられないというのなら、それは『悪いこと』だよ、リリ。君は、君の執事に悪いことをし続けていたんだ。言葉は暴力になり得る。時には、殴るよりもね。君も昨日、経験したから分かるだろう?」

「あ……」

アルの言っているのは、ウィルフレッド王子のことだ。

私はウィルフレッド王子の言葉に、酷く傷つきはしなかったか。

言葉だけ、なんて言って笑い飛ばせないほどのショックを受けたから、今こうしてアルの協力を得ようとしているのではなかったか。

そしてよく考えてみれば、ルークは私に直接棘のある言葉を投げつけられていたのだ。話を盗み聞きしていただけの私より傷ついたのは間違いない。しかも、長い間。

「……」

自分のやってきたことに気づき、絶句した。

先ほどのドレスの比ではない。手を出していないのだからなんて言い訳にもならないと思った。

「わ、私……どうしたら……」

「今までのことを謝るしかないね。君が、悪いことをしたという自覚があるのなら、なおさらだ」

「謝る。そ、そうですね」

それでルークが許してくれるかは分からないが、とりあえずはそうするしかない。