軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第87話 賢者は新型兵器と対峙する

「ユゥラ専用……どういうことだ?」

私が尋ねると、所長は得意げな顔をした。

よくぞ訊いてくれたと言わんばかりの表情である。

「このゴーレムは革新的ですよ! 既存の常識を打ち破ることになるでしょう」

所長は身振り手振りを加えて力説する。

どうやら相当な自信作らしい。

目が爛々として瞬きをしなくなっていた。

「魔巧国のゴーレムや先ほどの試作ゴーレムは、誰でも扱えるような兵器にするのが設計理念でした。そうすることで、手軽に優秀な戦力を増やせるわけですね。とても理に適っています、はい」

そこまで言ったところで、所長は突如として駆け出した。

彼女は件のゴーレムの前に立って肩に手を置く。

そして、勢いよくこちらに振り向いた。

「ところが、この専用機のゴーレムは違いますっ! その設計理念とは真逆に突き抜けちゃったんですよ」

「真逆?」

「ユゥラちゃんだけが使うことを想定して、外装から機能まであらゆる面を最適化しております。他の人ではまず操縦できませんね」

「なるほどな」

私は彼女の評価を少し上げる。

彼女の手法は、確かに革新的であった。

使い手が限定されるのなら、性能を尖らせてしまうのは悪くない。

既存の概念や常識に囚われていては、まず辿り着けないだろう。

鉄砲や強化鎧、高性能なゴーレム等、汎用性を高めて誰でも戦える未来を目指したジョン・ドゥとは、見事に対立する考えだった。

彼も巨人ゴーレムを製造していたが、あれはあくまでも決戦兵器である。

一連の開発を見るに、ジョン・ドゥの方針とはずれていた。

あれは対魔王を想定して、例外的に生み出されたものだ。

一方で所長はこういった兵器の方が好みらしい。

誰でも使える兵器の開発も楽しんでいるが、本領を発揮できるのはこういった方面なのだろう。

それにしても、所長とユゥラは初対面のはずなのだが、どうやって専用機を製造したのか。

いつの間に情報を集めたのかが謎であった。

ユゥラについて探れるほどの権限を所長に与えた覚えはない。

(……ルシアナが面白半分で伝えたのか?)

少し考えた私は原因を推測する。

ルシアナなら、それくらいのことはするだろう。

もっとも、それを処罰するつもりはない。

専用機の開発は、魔王領にとって悪いことではなかった。

ルシアナも私を騙したわけではない。

彼女はこれが有益になると判断して、所長に情報提供を行ったに違いない。

私は専用機に近付いて細部まで観察する。

改めて見ても、実に精巧な造りであった。

「ユゥラ専用とのことだが、私でも操縦できないのか」

「魔王様ほど規格外ならできなくもないでしょうが、たぶん使い勝手は悪いと思いますよ?」

「そうか」

所長の見解を聞きつつ、私は観察を続ける。

専用機からは一切の魔力が感じられなかった。

燃料が充填されていない状態だ。

いや、そもそも燃料を保持する場所が見当たらなかった。

試作ゴーレムの場合、背中に箱が設けられていた。

しかし、専用機は箱も背負っていない。

細身である専用機には、内蔵するだけの空間もないだろう。

私の視線で察したのか、所長が嬉しそうに補足を挟んだ。

「さっそくお気付きになりましたか! この専用機には、魔力を溜める部分がありません。必要ないので取っ払っちゃいました」

「他に動力源を搭載しているのか」

「はい! ユゥラちゃんに憑依してもらって、自前の魔力で動かしてもらう仕組みですね! 大精霊の分体ということなので、そういったことも可能なはずです」

「……ふむ、確かにそうだな」

ユゥラの身体は、魔力的な物質で構成されている。

そのため、任意で物体をすり抜けることが可能だった。

加えて高度な知能も持ち合わせている。

城内での暮らしの中で、魔道具に干渉できることも判明していた。

したがってゴーレムへの憑依も問題なくできるはずだ。

「この専用機は遠隔操作できないので、どちらかと言うと鎧に近いですね。ユゥラちゃんに装着してもらう感じです」

「ユゥラ、憑依できるか」

私が尋ねると、ユゥラは専用機を注視し始めた。

彼女は少々の沈黙を経て回答する。

「兵器の内部構造を解析――可能です。実行しますか」

「ああ、頼む」

「命令を受諾――憑依を実行します」

ユゥラの身体が薄まって拡散し、専用機と重なった。

すぐさま専用機の全身各所が発光する。

術式が起動したのだ。

専用機はゆっくりとした動作で動き出した。

首を回し、私と所長を交互に視認する。

それを目にした所長は、舞い上がって喜んだ。

「おお! おお! 成功しましたねぇ! ユゥラちゃん、どうですか! 特に問題はなさそうですかっ?」

「機体への定着率を計測中――非常に良好です」

専用機からユゥラの声がした。

それを聞いた所長は、ますます興奮する。

彼女は深呼吸しながら恐る恐る指示を送った。

「で、では、試しに色々動いてもらえますか……?」

「命令を受諾――機体の試験駆動を開始します」

ユゥラは専用機を歩かせ始めた。

そこから徐々に加速し、やがて床を砕きながら跳躍した。

さらに壁を蹴って回転すると、四肢を使って床に着地してみせる。

獣を彷彿とさせる躍動的な動きであった。

挙動はだんだんと激しくなっていく。

所長と並ぶ私は、遠巻きにその様子を見守る。

「大したものだな」

「いやはや、頑張って開発した甲斐がありましたよ。七徹しちゃいましたもんね。最後に帰宅したのがいつなのかも覚えていないですし」

所長はしみじみと呟く。

聞き捨てならない言葉が混ざっていたが、ここで注意するのは野暮だろう。

ひとまず所長のアンデッド化は絶対に実施すると心に決める。

私は内心をよそに話題を転換する。

「……ところで、なぜユゥラ専用のゴーレムを製造したんだ」

「いやぁ、あのゴーレムが力の使い方を知るきっかけになればと思いましてね? 周りが強大な力を抑制するより、本人がしっかり管理できる方がいいと思ったんです。無垢で色々と危うい時期にこそ、そういう機会に恵まれるべきでしょうから」

所長は珍しく真面目な表情で語る。

そのような思想を持っているとは意外だった。

彼女なりに考えた結果、専用機を製造したようである。

場に沈黙が訪れる。

所長は思い出したように笑顔になった。

「まあ、実際は私が開発したかっただけなんですけどね! だって専用機って素敵じゃないですか! それなのに前の職場は自由にやらせてくれなかったので、本当に退屈だったんですよ」

「……そうか」

私は戸惑いを抑えて相槌を打つ。

一体どちらが本音なのか、所長の横顔からは判断が付かない。

或いは両方とも正解なのかもしれなかった。

その間、専用機の動きはさらに過激化していた。

所々で残像を発生させながら、目にも留まらぬ速さで縦横無尽に動き回っている。

専用機が故障する気配はなかった。

かなり頑丈に作られている。

その途中で、所長がこちらを向く。

彼女は控えめな口調で話を切り出した。

「魔王様、少しお願いがあるのですが……」

「何だ。言ってみろ」

「試作ゴーレムを使って、ユゥラちゃんの専用機と戦っていただけませんか? 今後の参考のために戦闘資料が必要でして」

いつの間に取り出したのか、所長は紙の束を抱えていた。

見ればそれは記録用紙だった。

ゴーレムの性能を書き留めておくつもりらしい。

別に断るだけの理由もない。

実験するのは良いことだ。

私は迷わず首肯する。

「ふむ、いいだろう」

「ありがとうございます! ではユゥラちゃんにも確認しましょうっ」

所長はユゥラを呼び止めて事情を説明した。

話を聞いたユゥラは、微動だにせずに答える。

「提案に賛同――マスターとの模擬戦闘を希望します」

「ユゥラちゃん、ありがとうございます! さっそく場所の準備をしましょうっ」

所長が手を打つと、室内の中央部に立方体の結界が形成された。

それなりの広さがある。

あの中で戦えばいいということだろう。

私は結界内の試作ゴーレムと再度接続を行った。

間を置かずに専用機を操るユゥラが入ってくる。

私達は一定の距離で対峙した。

「マスター、よろしくお願いします」

「ああ、こちらこそよろしく頼む」

所長は結界のすぐ外に立ち、そこから声を張って告げた。

「ユゥラちゃんの専用機には、飛行と光線の機能が搭載されています。どちらもやや安定しないので、使用の際は注意してください!」

「説明を理解――助言を感謝します」

礼を言ったユゥラは、駆動音を鳴らしながら身構える。

彼女は拳を上げて腰を落とした。

ぎこちなさは無く、様になっていた。

明らかに素人の構えではない。

誰かから習ったのだろうか。

私の疑問をよそに、専用機の魔力反応が高まっていく。

同時に大精霊の力も感じた。

「戦闘態勢に移行――マスター、お覚悟を」

そう宣言すると、ユゥラは床を蹴って跳びかかってきた。