軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第62話 賢者は修復されたゴーレムを確かめる

「永遠の命と若さ? そんなの欲しいに決まってるでしょ。即答だわ」

私の問いかけに対し、ルシアナは迷いなく言い放つ。

ヘンリーにした質問を、同じく幹部であるルシアナにも訊いてみたのだ。

結果、真逆の答えが返ってきた。

二人きりの謁見の間にて、ルシアナは肩をすくめて述べる。

「やっぱり死んじゃうのは嫌よ。ずっと生きられるのならアタシはそれを望むわ」

「潔いな」

「その方がサキュバスらしいと思わない?」

ルシアナはどこか得意げに言う。

彼女は日頃から種族に誇りを持っており、常に堂々としていた。

端々の言動も自信に満ちている。

魔王軍でも彼女に心酔している者は多いと聞く。

サキュバスの特性ではなく、彼女自身の魅力が要因だろう。

「どうせ不死者になるのなら、吸血鬼なんて魅力的ね。やっぱり姿が大きく変わらないのは大事よ……何にしても、魔王サマを置いては死なないから安心してね?」

ルシアナはいたずらっぽく笑うと、私の鼻を指でつついた。

そこで私は初めて気付く。

彼女は永遠の命だけが動機ではない。

私のことを気遣っていた。

自分だけが先に死を迎えることに抵抗があるらしい。

「付き合わせてすまない」

「謝らないで。そんなの今更でしょう? お互いに利があるんだから、気にしなくていいの」

そう言ってルシアナは嘆息する。

少し呆れている様子だった。

私は反論できずに黙る。

生憎と気の利いた言葉が思い浮かばなかった。

ただ感謝するしかない。

そんな私を見かねたルシアナが話題を変えた。

「まあそれはいいとして、研究所から連絡よ。ゴーレムの解析が済んだみたい」

「そうか」

私も思考を切り替える。

少し時間がかかるとのことだったが、想像よりもずっと早い。

解析を依頼してから十日しか経っていなかった。

おそらくは、寝る間も惜しんで解析に没頭したのだろう。

伝言を終えたルシアナは、扉を開きながらこちらを向く。

「アタシはやることがあるから一緒に行けないけど、また結果を聞かせてね」

「分かった」

私が頷くと、ルシアナは手を振って退室した。

気楽な言動だが、彼女は他人のことを思いやることができる。

生前の関係では、まず気付けなかった一面だ。

当時の私達は敵同士で、対峙した時点で殺し合うことしかできなかった。

なんとも奇妙な縁である。

一人になった私は、さっそく研究所に向かうことにした。

とにかくゴーレムの様子を確かめなければならない。

道中、グロムとヘンリーに事情を話して連れていく。

研究所の入り口では、所長が待っていた。

「魔王様っ! ようこそお越しくださいました! どうぞどうぞ、お入りくださいませ」

彼女は慇懃な調子で私達を出迎えると、そそくさと先導を始めた。

入口の検問を通って廊下を進む。

ヘンリーが研究所を訪れるのは初めてのことだが、魔力の登録は済んでいるので警報は鳴らない。

興味深そうに内装を見回すヘンリーは、すれ違うたびに礼をする所員を見やる。

「随分と歓迎されているんだな」

「それはそうですとも。先日、魔王様には素晴らしい試料を提供していただきましたから。所員一同、感謝しておりますよ」

嬉々として答える所長の目には、くっきりと隈が浮かんでいた。

相当な寝不足が窺える。

しかし、彼女は妙に元気だった。

研究を心の底から楽しんでおり、極度の疲労も気にならないらしい。

とは言え、過労で倒れられても困る。

いずれ研究所では休息を義務付けなければならないだろう。

反発されるだろうが、こればかりは譲れない。

思わぬ課題点に気付きつつ、私は研究所内を進む。

途中、ヘンリーは所長に質問を投げた。

「俺は鉄砲ってやつを見に来たんだが、どこにあるんだ?」

すると所長は、笑顔でヘンリーに詰め寄った。

彼女はヘンリーの手を握ると、勢いよく上下に振る。

「鉄砲に興味がおありでしたか! それでしたら他の者に案内させましょう! 是非とも試射をして性能を実感していただければと思いますっ!」

所長は通りかかった所員を呼び止め、ヘンリーを鉄砲の保管室へ案内するように指示をした。

その所員はすぐに頷いてヘンリーを先導する。

「大将、俺は鉄砲を見てくるよ。後で合流させてくれ」

「分かった」

ヘンリーを見送った私とグロムは、引き続き所長についていく。

先を歩く所長は、私達を見ながら饒舌に語る。

「いやはや、あのゴーレムはすごいですねぇ……解析を進めるほど驚きましたよ。本当に魔巧国で製造されたものですか?」

「間違いない。私が魔巧国の軍から鹵獲した」

他国で製造することは不可能だろう。

魔巧国ほど技術力の高い国を聞いたことがない。

「解析が済んだと聞いているが、本当なのだな?」

「そこはご安心ください。我々も総力を以て取り組みましたから。それなりの成果はできておりますよ」

威圧感を込めて問いかけるグロムに、所長は胸に拳を当てて答える。

彼女は少しも動じていない。

研究にかける熱意は本物のようだ。

やがて私は目的の部屋に到着した。

そこは研究所の地下で、分厚い鋼鉄の扉によって仕切られていた。

所長は何重もの施錠を解除して扉を開く。

「では、どうぞ。こちらです」

扉の先には、白一色の空間が広がっている。

その中央にゴーレムが座っていた。

鹵獲した当時と比べると真新しく、見知らぬ部品が増設されている。

ゴーレムを目にしたグロムは、さっそく駆け寄っていった。

「おお! おお! 綺麗に復元されているではないか!」

「他の箇所を参考に、破損部分を修理してみました。いくつかの機能を損失していますが、ひとまず動かすことはできますね」

所長がつらつらと説明をする間、グロムは夢中になってゴーレムを触っていた。

明らかにいつもより舞い上がっている。

実は誰よりもゴーレムの解析を心待ちにしていたのではないだろうか。

よほど造形が気に入ったらしい。

「こちらが解析結果です。ゴーレムに関する情報を余さず載せています」

「ふむ」

手渡された資料に目を通す。

ゴーレムの基礎性能や内部構造について、かなり細部まで調べられているようだった。

やはり既存の術式や設計とは系統がまるで異なる。

魔巧国が独自で進める技術が多用されていた。

目の前のゴーレムは、可能な範囲で復元されたものらしい。

したがって再現ができなかった箇所については、研究所の技術力で補っているそうだ。

所長の言う通り複数の機能を失っているが、辛うじて駆動関連は無事らしい。

その中でも特に気になったのは、視界共有の機能である。

ゴーレムの頭部に収められた小型水晶が眼球の役割を果たし、映り込んだ光景を術者の視界に反映するというのだ。

これによって、術者は自分の身体のようにゴーレムを遠隔操作できるのである。

ただし離れすぎると機能せず、必然的に操れなくなるらしい。

砦での戦闘時、ゴーレムが聖杖軍に追い打ちを仕掛けなかったのはこのためだろう。

視界共有が可能な範囲でしかゴーレムを稼働させられないのだ。

術者が砦に居座った状態だと、自ずと行動範囲が制限されることになる。

高性能なゴーレムの意外な弱点であった。

(なるほど……)

私は資料を一通り読み込む。

その全容を把握した上で、所長に話しかけた。

「所長。君個人の見解を聞かせてほしい」

「……遠慮なく言ってもいいですか?」

「問題ない」

私が許可をすると、所長はゴーレムを眺めながら苦い顔をして述べる。

「設計思想や意図は理解できます。発想力に関しては、もう天才そのものですね。悔しいですが認めざるを得ません。しかし、技術力が致命的に足りていません」

所長は私の持つ資料をめくり、その中の一枚を指差した。

彼女は眉を寄せて不満げに主張する。

「まず前提として、このゴーレムは完成していません。試験的に実戦投入されたものを、魔王様は鹵獲されたのでしょう」

所長はまたも資料をめくる。

今度は別の一枚を私に見せた。

赤文字の注釈が全面を覆わんばかりに書き込まれている。

「軽く挙げられるだけで百七十八もの魔術的欠陥があります。もちろん破損や故障を抜いた数です。信じられないことですが、欠陥同士が上手く噛み合うことで本来以上の性能を叩き出しているようですね。仮に欠陥を潰して完璧に調整しても、ここまでの性能はなりません。まさに奇蹟の産物です」

「やはりそうか」

私も所長と概ね同意見であった。

魔巧国は確かに凄まじい技術力を保有している。

しかし、それでもこのゴーレムを製造し得るだけの段階ではない。

不具合や未解決の欠陥構造がなぜか補い合っており、結果的にこの兵器を成立させていた。

意図的に設計したとは思えない。

所長が奇蹟と形容するのも頷ける。

「よろしければ作動させてみますか? 元々の性能は出せませんが、何か発見があるかもしれません」

「そうだな。頼む」

私は頷いて応じる。

やはり実際に動かしてみるのが一番分かりやすい。

改善点の洗い出しにも必須の作業である。

ゴーレムに寄り添うグロムも、期待した様子でこちらを見ていた。

口には出さないまでも、その気持ちは伝わってくる。

せっかくなので、彼の強い要望に応えようと思う。