軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第254話 賢者は宿敵を振り返る

思い返すと、バルクほどの因縁のある難敵は珍しい。

生前、幾度も交戦した記憶がある。

彼の陰謀は常に狡猾で、翻弄されてばかりだった。

それでも打ち勝てたのは、ひとえにあの人のおかげだろう。

魔王になって再会した時、バルクは私への復讐に燃えていた。

策略を巡らせて先代魔王ディエラを復活させると、彼は全力で挑んできた。

最終的には私が勝利したものの、バルクの執念はそれでも尽きない。

死後にグウェンの助力を得た彼は、精神世界にてジョン・ドゥと結託した。

飽くなき復讐心には、素直に感心してしまいそうだ。

私にとってバルクという男は、長きに渡って敵対してきた呪術師であった。

「ふむ……」

容器内に保管されたバルクの魂は、未だに復元を繰り返していた。

これこそが彼の特性だ。

たとえ死を迎えても、数年の時を経て復活できる。

魔術による魂の破壊を受けても、時間経過で蘇ってくる。

それを防ぐため、常に魂を破損させて蘇りを防止していた。

もっとも、今となっては必要性の低い措置だろう。

この魂には、バルクの精神が内在していない。

私の精神世界で死滅してしまったためだ。

あれから自我の復帰は観測できていない。

元四天王のバルクは、魂を残して死んだらしい。

非常に珍しい状態だが、元より彼は特殊な体質であった。

こういったことも起こり得る。

「非常に純度の高い魂です。グウェンさんが精神を丸ごと抜き取ったからこそ、このような状態になったのでしょう。いつ見ても惚れ惚れしてしまいますねぇ!」

所長は頬を赤らめて熱弁する。

私も稀少性は理解しているつもりだが、彼女の感動はそれ以上だった。

興奮するあまり、ぶつぶつと独り言に没頭し始めている。

いつもの光景なので、あえて触れることもないだろう。

これから魂を漂白してバルクの痕跡を完全に抹消する。

そうすることで、復元の特性だけを残した無垢な魂に仕立て上げるのだ。

それをあの人の蘇生に使う。

術の触媒としては最適に近かった。

世界全土を巡っても、この魂を超える物はあるまい。

蘇生については、グウェンの力を借りるつもりだった。

彼女に漂白した魂を改竄してもらうのである。

グウェンは記憶や精神を扱うことを得意とする。

それらの要素は、魂とも密接に関連していた。

本人も魂の改竄は可能だと豪語していたので心配はしていない。

私と所長が共同で研究しても辿り着けただろうが、きっと数十年単位の年月を浪費する羽目になる。

この時期に蘇生へと踏み切れたのは、ひとえにグウェンの存在があったからだ。

彼女の協力には感謝しなければならない。

ただし交換条件として、外出の権利と没収した力の一部の返却を約束させられた。

前者に関しては、既に実行している。

会議以降、グウェンは自由に行動していた。

ただし、その動向は常に監視している。

彼女に施した術も解除していないので、妙な真似をすれば即座に殺すことができる。

それを理解しているため、グウェンも不審な行動は取らない。

基本的に城内を散策し、魔王軍の兵士や使用人との会話を楽しんでいるようだった。

力の返却はあまり望ましくないが、こればかりはグウェンを信用するしかない。

こちらが承諾しなければ、あの人を蘇生させられないのだ。

決して善良とは言い難いグウェンではあるものの、魔王軍への復讐は考えていない……と思いたい。

もし何かあった際は、私は責任を持って対処するつもりだった。

「…………」

私は容器内の魂を見る。

魂は絶えず形を変えながら浮遊している。

此度の計画は、確実に成功するだろう。

私はそれを直感的に悟っていた。

現在の人々は英雄を求めている。

それに便乗する形で、史上有数の英雄を蘇らせようと試みるのだ。

世界の意思が、成功率を格段に引き上げてくるに違いない。

悪を滅する不条理な法則が、そういった作用を引き起こすことを私は知っている。

(ついにあの人と再会できるのか)

今の世界を見て、彼女はどう感じるのか。

そして魔王となった私に何を思うのか。

愚かな選択だと怒るのか。

憐れなことをしていると悲しむのか。

少なくとも喜びはしないだろう。

正義に徹する彼女は、このような解決方法を望んでいなかった。

私は、私の考える世界平和を伝えようと思う。

それを聞いたあの人が、どういった反応をするのかは分からない。

もし彼女が魔王による世界平和を受け入れるのなら、それでいい。

私は安堵と歓喜を覚えて、彼女と共に永劫の魔王軍を築く。

それがきっと理想だった。

絶対悪による世界平和は不滅を約束される。

しかし善良な彼女は、私の考えを拒否する可能性があった。

あの人は、正義に生きる人格者だった。

そんな彼女だからこそ、私は誰よりも憧れた。

私の結論は理解されず、刃を交えることになるかもしれない。

今まで目を背けてきた展開だ。

だが、私はそろそろ直視しなければならない。

既にあの人と再会する道は定まっているのだから。

葛藤や恐怖はあるが、それでも私は進む。

かつて、私とあの人は失敗した。

勧善懲悪ではいけなかった。

故に私は支配と脅威による人類の団結を目指した。

もうそれしか残されていない。

私は調停の魔王だ。

もう一度、世界を救った勇者と会わなければならない。