作品タイトル不明
76.聖剣の慟哭と、優しき略奪者
「認めん……認めんぞぉぉぉッ!! 俺は勇者だ! 最強なんだよぉぉぉッ!!」
プライドを粉々にされたクズポンが、狂乱の叫びを上げる。
彼は血走った目で聖剣を握りしめ、禁断の領域へと足を踏み入れた。
「 限界突破(リミットブレイク) ……二千倍……さらに二千倍……倍々だぁぁぁッ!!」
なるほど、スキルの重ね掛けか。
すでに限界を迎えていた聖剣に、さらに天文学的な倍率の負荷を掛ける暴挙。
それはもう、強化ではない。ただの自壊だ。
……ほんと、物を大事にしない。あいつに腹が立ってしょうがない。
バギィィィンッ!!
不快な破砕音が響き渡る。
「不滅」の属性すら耐えきれず、聖剣の刀身に亀裂が走った。
溢れ出した魔力が黒い嵐となり、空間を歪ませ、周囲の瓦礫を溶解させ始める。
「まずいです! エネルギーが暴走しています!」
エリーが顔色を変えて叫ぶ。
「このままでは剣が爆発し、この廃棄都市ごと消滅します!」
元・魔族、つまりは勇者の聖剣を前に見たことがあるのだろう。その被害も。
だからこそ、エリーはそのエネルギーによる被害を正確に予測できたみたいだ。
「斬れない……。あれはただの崩壊現象だ。近づけば蒸発する」
キリカですら、その熱量にたじろぎ後退した。
物理攻撃も魔法も通じない、純粋なエネルギーの暴走。
SSRの家臣たちですら手出しできない状況下で、しかし、わたしだけが前に進んだ。
「社長!? 危ねぇっすよ!」
コノワの制止を背中で聞く。
わたしは冷静だった。
逃げるのは簡単だ。この暴走エネルギーごと、聖剣を【 資源回収(リファイン) 】してしまえばいい。
キエリュウ戦でやってみせたように。無駄に垂れ流すエネルギーは、わたしのリサイクルショップの対象範囲内だ。
そうやってエネルギー回収すれば、わたし達は無傷で助かる。
だが、それでは聖剣も消滅してしまう。
「(……泣いてる)」
わたしには聞こえていた。
持ち主に無理強いされ、壊れる寸前まで酷使された聖剣の、断末魔の叫びが。
「来るなァ! これは俺の力だ! 俺と一緒に死ねぇぇぇッ!!」
クズポンが破れかぶれに剣を振り回す。
指向性を失った魔力の奔流が、津波のようにわたしを襲う。
「スキル発動――【 資源回収(リファイン) 】」
わたしは右手をかざし、自分に直撃するエネルギー「だけ」を瞬間的に買い取る。
ジュッ、と音がして、目の前の致死の熱線が消失する。
だが、余波までは防ぎきれない。
「ぐっ……!」
熱風が頬を焼き、スーツの隙間から肌を焦がす。
痛い。熱い。
わたしは歯を食いしばり、同時に【 商品修繕(リペア) 】を発動して、焼けた皮膚を無理やり治しながら歩を進める。
一歩、また一歩。
破壊の嵐の中を、ただ「あの子」を助けるためだけに。
「な、なんだ貴様は!? なぜ死なない!? なぜ近づける!?」
クズポンが恐怖に引きつった顔で後ずさる。
わたしは彼の目の前まで辿り着き、赤熱し崩壊しかけている聖剣の刃を、素手で掴んだ。
ジュウウウッ……!
手袋が焦げ、肉が焼ける音がする。
構うものか。
「痛かったね。……もう、頑張らなくていいよ」
わたしは優しく語りかけ、最大の魔力を注ぎ込んだ。
「スキル発動――【 商品修繕(リペア) 】」
カッ!!
眩い光が、黒い嵐を塗り替える。
暴走していた膨大なエネルギーを、破壊ではなく「修復のためのリソース」へと変換し、聖剣のひび割れを内側から塞いでいく。
ズタズタになった魔力回路を繋ぎ直し、歪んだ構造を矯正する。
同時に、システムが書き換わる音がした。
『――所有権の移行を確認。対象:聖剣エクスカリバー』
「な、なにぃぃぃ!? 俺の魔力が……吸われる!?」
クズポンが絶叫し、その手から聖剣が離れる。
嵐が、霧散した。
キィィン……。
澄んだ音が響き渡る。
わたしの手の中には、新品同様――いや、それ以上に美しく輝きを取り戻した聖剣が握られていた。
刀身は穏やかな青い光を帯び、嬉しそうに脈動している。
「か、返せ! それは俺の……!」
へたり込んだクズポンが手を伸ばす。
だが。
バチィッ!!
聖剣から紫電が迸り、クズポンの手を弾いた。
明確な拒絶。
武器に見限られたのだ。
「あ、あぁ……」
「君には過ぎた玩具だったんだよ」
わたしは冷たく言い放ち、聖剣をアイテムボックスへとしまう。
もはや、ここには勇者などいない。
ただの無力な、道具を壊すだけの子供がいるだけだ。
「連れて行け」
「ウッス」
わたしの指示で、黒スーツの男たちが無言でクズポンを取り囲む。
抵抗する気力もなく、彼はゴミのように引きずられていった。
「う、うわぁぁぁん!! 覚えてろぉぉぉ!!」
負け犬の遠吠えが遠ざかっていく。
廃棄都市に、静寂が戻った。
「兄貴! ご無事ですか!?」
「主よ……!」
コノワやエリーたちが駆け寄ってくる。
わたしはボロボロになった手を振って応える。
廃棄都市の住人たちが、わたしの名を称える 勝鬨(かちどき) を上げるのだった。