軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17.男を憎み、誰にも屈しなかった「狂犬」は、初めて「負ける喜び」と「飼われる幸せ」を知りました【Side:ガラ】

【Side:ガラ】

月明かりが差し込む、割り当てられたばかりの個室。

アタイはベッドの上で、再生したばかりの「右手」を、何度も握ったり開いたりしていた。

(……動く。熱い。自分の手だ)

夢じゃねえ。

指先の感覚も、掌の汗も、脈打つ血管も、全部本物だ。

数年前に抗争で失い、無骨な鉄塊に変えるしかなかったアタイの右腕。

それが、あのガキンチョ――いや、リオン様の一撫でで戻ってきた。

……信じられねえよ。

アタイはずっと、この世界を呪っていたんだから。

アタイは、この廃棄都市デッドエンドのゴミ捨て場に、赤ん坊の頃に捨てられた。

親の顔なんて知らねえ。

物心ついた時から、周りは敵だらけだった。

特に「男」どもは最悪だった。

力の弱い女や子供を、ただの「肉」や「慰み者」としてしか見ていねえ。

アタイも何度も襲われかけた。

殴られ、蹴られ、泥水を啜らされ……それでもアタイは、牙を剥いた。

『女だからって、ナメんじゃねえぞオラァァァッ!!』

噛みつき、急所を蹴り上げ、奪った武器で突き刺した。

「狂犬」――いつしかそう呼ばれるようになった。

そうやって強くならなきゃ、喰われるだけだったからだ。

気づけば、アタイの周りには似たような連中が集まっていた。

男たちに弄ばれ、捨てられた女たち。

親を殺された子供。

役立たずと捨てられた老人。

みんな、行き場のない弱者だ。

だからアタイが守るしかなかった。

【餓狼団】なんて強そうな名前をつけたのも、アタイが義手を武器に変えて戦い続けたのも、全部あいつらを守るためだ。

(男になんて、絶対に屈してやるものか)

それがアタイの生きる芯だった。

どんなに殴られても、どんなに強い奴が現れても、心だけは絶対に折らなかった。

男なんて全員、弱いものを虐げるクズだと思っていたから。

……なのに。

『君と、君の仲間たち全員に……わたしの仕事を手伝ってほしいの』

あの方――リオン様は、違った。

アタイの全力を受け止め、完膚なきまでに叩きのめした圧倒的な「強者」。

なのに、負けたアタイを見下すことも、辱めることもしなかった。

それどころか、アタイが命懸けで守ってきた「足手まといの家族たち」を、嫌な顔ひとつせず受け入れた。

『今日からここが君たちの家だよ』

あの言葉を聞いた瞬間。

アタイの中で、張り詰めていた「何か」が、プツンと切れたんだ。

(ああ……もう、頑張らなくていいんだ)

肩に背負っていた重すぎる荷物を、ふっと降ろされた気がした。

ずっと「屈してなるものか」と力んで、歯を食いしばって生きてきた。

誰かに頼るなんて弱さだと思っていた。

でも、違う。

この人になら――負けてもいい。

いや……負けたい。屈したい。

この圧倒的に強くて、海のように優しい「オス」の足元にひざまずいて、頭を垂れることが、こんなにも心地いいなんて。

「……ははっ。なんだよ、これ」

身体の奥が、熱い。

今まで押さえつけてきた反発心がひっくり返って、猛烈な「服従願望」に変わっていくのがわかる。

もっと命令されたい。

もっと「お前はアタイのペット(所有物)だ」って、刻み込まれたい。

コンコン。

ドアがノックされ、銀髪のメイド――アナが入ってきた。

「ガラ。起きているかしら」

「……ああ。なんだい、メイドの姉ちゃん」

アタイは慌てて緩んだ顔を引き締める。

「新しい制服を持ってきたわ。明日からはこれを着なさい」

渡されたのは、子供たちと同じ青いつなぎ……ではなく、アタイの身体に合わせて仕立てられた、黒を基調とした機能的な戦闘服だった。

素材が良い。軽いし、丈夫そうだ。

「リオン様が、あなたの戦闘スタイルに合わせて【 仕様変更(リメイク) 】してくださったのよ」

「……わざわざ、アタイのために?」

「ええ。『彼女はよく動くから、伸縮性のある素材がいい』ってね」

アナはため息をつきつつ、少しだけ表情を緩めた。

「……感謝しなさい。あの方は、自分の懐に入れた者にはとことん甘いのよ」

「分かってるよ。……言われなくても、死ぬ気で働くさ」

アナが出て行った後、アタイは新しい服を抱きしめ、匂いを嗅いだ。

新品の布の匂いと……かすかに、あの方の残り香がする。

「んふぅ……♡ ご主人様の匂い……」

アタイはベッドに転がり、服に顔を埋めて足をバタバタさせた。

あー、たまんねえ。

今まで「ナメんじゃねえ!」って威嚇ばかりしてきたけど、今は違う。

「ワン……なんてな」

誰もいない部屋で、小さく鳴き真似をしてみる。

背筋がゾクゾクした。

アタイは、リオン様のペットだ。

最強の番犬だ。

あの方に近づく敵は全部噛み殺すし、あの方が「お手」と言えば、尻尾を振って手を出すだろう。

「一生、飼い殺してくれよな……ご主人様……♡」

窓の外、リオン様の部屋がある塔を見上げる。

強がりな狂犬はもういない。

そこには、首輪をつけられる喜びを知ってしまった、一匹の忠実な雌犬がいるだけだった。