作品タイトル不明
『四州近衛家』の存在理由
最初の張り詰めた空気はかなり消えていた。
「稀仁」
方仁親王が静かに口を開く。
「其方、己の子孫がどうなるか、考えたことはありますか」
…… また重い話きた。
「一応は」
「では、女子はどうなると思う?」
私(長慶)は少し考えた。今までの主上たちとのやり取りを踏まえ、かつ自分の立ち位置を考える。
『四州近衛家』… 皇家に近く、武家にも近い、異質な家。
しかも『稀人』を抱えた家系。放置されるはずがない。
「…… 婚姻でしょうか」
「うむ」
方仁親王は頷かれた。
「おそらく其方の娘達は、皇家、親王家、そして各宮家へ、婚姻という形で入っていく」
主上も静かに続けられる。
「血を繋ぐためだ」
「……」
「其方の血は、ただの武家ではない」
主上はそこで、少し困ったように笑われた。
「未来を知る『稀人』の血。それを朝廷が全く欲しがらぬと思うか?」
欲しがるに決まってる。むしろ全力で囲い込みに来る。
おそらく、血ではなく、子供達の育つ環境だ。自然と身につく知識や考え方。
私(長慶)は頭を抱えたくなった。
そんな私(長慶)を見て『はるちゃん』が苦笑する。
「だからおもう様達、かなり早い段階から考えておられたのですよ」
「……何をです?」
「『四州近衛家を、皇家の外郭にする』ことを」
さらっと言った。ギョッとして、思わず『はるちゃん』をまじまじ見てしまった。
待って。今すごいこと言った。いつもの”あいす”の話を持ち出している、十四歳の女の子の台詞じゃない。
方仁親王が静かに頷く。
「皇家は、時に血を外へ流し、時に外から取り込むことで続いてきた」
「ですが、普通は天皇直系の男子は出家するのでは?」
「本来はな」
方仁親王の目が細められる。
「だが伏見宮は違った。いや、あれもそうだったはずだ。しかし時代の流れの中で『宮家』を増やしていったのだろう」
空気が少し変わった。
「伏見宮は、本来“皇家の予備”として残された宮だ」
主上が言葉を継ぐ。
「万が一、本流が絶えた時のためにな。本来は『皇家』と同じようになされたはずだ」
私(長慶)は静かに頷いた。令和のおばちゃん的に、子育てした経験上、ついこの言葉に対して反発してしまうけど、伏見宮という存在は、ズバリ皇家の『スペア』ということだ。
それはいつ何時『役目』が降りてきても準備がなされているということを意味していたということなんだろう。
おそらく全ては『皇家』に準ずるように。常に準備がなされているべき『家』なのだ。
つまり本来は『伏見宮』系統の『宮家』は存在しなかったはずなんだろう、主上の言葉を聞いて確信した。
それほど後継に関する問題は『皇家』にとって重要だった。
『政争の具』として度々引き込まれたからだ。それは『伏見宮家』も同様だったはず。
主上は『旧宮家』の話を聞いてから、『伏見宮』系統の『宮家の存在』を気にしていたのは、おそらく『なぜ、皇家の男子は仏門に入り、伏見宮家はそうでなくなったのか』ということだ。
そこに何らかの『意図』があったのではないかという懸念。
主上が『伏見宮』のことを挙げられる度、何度も何度も確認されるような主上は時々深く考え込む表情をされた。
方仁親王は主上の考え込む様子を気にしながら言葉を続けようとした
「四州近衛家は……」
「それに近い位置になると?」
「そうだ。だが役割は異なる。『四州近衛家』は単なる宮家ではない。『武家であり、公家であり、皇家に連なる』そういった存在だ」
方仁親王の言葉に主上が、どこか遠くを見るような目をされる。
「戦乱の世では、“純粋”だけでは残れぬ」
その言葉は重かった。
千数百年以上も続いた皇家だからこそ、分かっているのだ。
理想だけでは、血統は続かない。『はるちゃん』が小さく息をつく。
「ですから、将来――」
そこで少し頬を赤らめながら続けた。
「私達の娘も、いずれは皇家や宮家へ嫁ぐのでしょうね」
ぐっ。
急に現実味が来た。
娘。
いやまだ十一歳なんだけど私(長慶)。
でも戦国時代だと普通にそういう話になるし、理解はできた。
主上が優しい顔をされる。
「案ずるな。無理に泣かせるような婚姻はさせぬ」
「主上……」
「だがな」
主上は少し笑われた。
「おそらく其方の娘達は、かなり人気が出るぞ」
「やめてください、怖い」
「未来知識。四州近衛家。皇家との縁。加えて其方の血筋」
方仁親王が淡々と数え上げる。
「政治的価値が高すぎる」
きゃ〜やめて。数字みたいに言わないで。思わず『令和のおばちゃん』は耳を塞ぎたくなるよ。
「……五百年後」
「はい」
「其方の血も、どこかで皇家に残っておるかもしれぬな」
その言葉に、私(長慶)は息を呑んだ。
その可能性は、確かにある。
四州近衛家の女子達が、代々、皇家や宮家へ入っていくなら…
五百年という時間の中で、血は幾重にも混ざり合っていくのだから。
方仁親王が小さく笑った。
「それもまた、“続く”ということだ」