作品タイトル不明
後奈良天皇④
主上は言葉を続ける。
「されどな」
静かな声。
「国とは、“続ける”ことに意味があるのであろう?」
私(長慶)は息を呑んだ。
「一代で完成せずともよい。次へまた次へ。そうやって繋いでいけば、いつか誰かが辿り着く」
その言葉に脳裏に浮かんだのはさっきの”石板の『写』”だった。
数万年前、未来へ託した考古学者。
そして今、未来へ国を繋ごうとする主上。
全部、同じだった。“次へ渡す”ために生きている。私(長慶)も同じだった。
主上はこちらを真っ直ぐ見つめる。
「稀仁」
「はい」
「其方は少し、生き急ぎすぎる」
主上の言葉に脳内の『長慶おじさん』も私(長慶)も言葉を失う。
図星だった。
「…… 見えておりますか」
「分かるとも」
主上は静かに笑われた。
「其方は常に先を見ておる。十年先、二十年先、百年先を」
そして
「その代わり、“今の己”を削っておる」
その一言が深く突き刺さった。
思い返せばそうだ。
千熊丸になってからずっと走り続けてきた。
阿波を守るため。家族を守るため。未来を変えるため。
止まれば終わる気がしていた。
けれど…
「其方はまだ十一ぞ」
主上が呆れたように言う。
「時折、老人のような顔をする」
『はるちゃん』がぶふっと吹き出した。
「分かります!」
「はるちゃん?」
「よし様、たまにお爺さまみたいなお顔になりますもの!」
待って。親娘揃ってその評価!?
『長慶おじさん』が脳内で「誰のせいじゃ」と拗ね始めた。
主上は肩を震わせながら笑われている。
え、今、主上が笑ってる? しかも結構楽しそうに?
その場の空気の柔らかさに、思わずこちらも笑ってしまった。
戦国の御所。主上の私室。
本来なら、息をするのも苦しいほど張り詰めた場所のはずなのに。
今ここにあるのは、どこか普通の家族の空気だった。
その時だった。
ふと思い出したように主上が言われる。
「そういえば」
?
「稀仁。其方、阿波で“冷やした甘味”を作ろうとしておるな?」
え? その事なんで知ってるの? 『はるちゃん』が「あっ」と口元を押さえた。
「はるちゃん?」
「…… 少しだけ、お話しました」
「少し?」
「“氷のように冷たい菓子がある”と申しておったぞ」
主上、めちゃくちゃ興味津々の顔になってる。
あ、これ、完全に“食いついた顔”だ。
「その……あいす、だったか?」
アイスきたーーー!?
戦国時代の帝から“アイス”って単語聞く日が来るとは思わなかった!
「えっと……理論上は可能です」
「ほう」
「ただ、冷却技術と衛生管理と乳の確保と糖分の供給が――」
「できるのか?」
主上の目が完全にキラキラしていた。『はるちゃん』も横で期待に満ちた目をしている。
「よし様……冷たい甘味……」
だめだ。この親子、完全に同じ顔してる。
私(長慶)は天を仰ぎたくなった。
おかしいなあ、今の今まで日本の未来を背負う話してたはずなのに。
どうして最終的に、“アイスを食べたい帝と皇女”になってるの!?
私(長慶)は額を押さえた。