軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2-32

勝様が貸借対照表を書けるようになるのに、結局半年以上掛かった。これに専念してるわけじゃないからしょうがない。年を越したからついでに、調所の昨年分までもやってもらおう。本当は試作品を資産に入れるのもおかしいんだけど、入れないと経費で消えるだけで、実験と試作の金額のデカさを実感させられない。そして、ようやくそれを理解してくれる人が生まれた。

ね?貸借対照表を読めるようになると、出納帳の見え方変わってくるでしょ?「試作は想像の三倍、実験、研究は想像の五倍」だって。稼いでることも含めて、分かってもらえましたか?

なぜ金を無心しない?なんて呑気なこと言われた。「これは初年度から出しております。その時点で同じこと言われてれば、請求してますよ」ってイヤミは忘れずに。

でも真面目な話、これは嫌味でもなんでもなく、実験しない人にはこの金の掛かり方は理解されないと思う。だからこそ、帳簿に真剣に向き合ってもらえて良かった。そして、改めて実感してもらえた。数字は嘘をつかない、という事実を。

さて、ついでだから決めてもらおう。計画の全てを一気に進めるのは無理。優先順位と資金調達の交渉。

「今、実用化を待っている、目処が付いている研究が3つあるというお話を覚えてらっしゃいますか?優先順位とそこに掛かる費用について、結論を出してもらえますか?」

「それなんだがな、計画を聞いてもらえるか?そこの算段に関わってくるものだ。他言無用。良いか?」

「私はただの内弟子です。他言無用との重大なお話を聞かせないで下さい」

「待て、逃げようとするな。今後の調所に関わる重要な話だ」

「だったらそれこそ箕作様や内田様や友さんと話して下さいよ。ただの子供に負わせないでください」

「ただの子供が口だけで異国の人間を追い払える訳なかろう!いい加減座れ!」

「…聞くだけですよ。私は何も決めません。話しません」

「それで構わん。今、幕府の攘夷派の中で蕃書調所を取り潰せ、という声が大きくなってきている。当然ワシを始め、開国派は大反対。攘夷派の言う理由は大きく二つ。一つは金。もう一つはその金を掛けて得られるものが分からない、と」

「バカですか?ペリーに大砲撃ち込ませれば納得するんですか?そんなバカ、誰かが叩き切れば良いじゃないですか!」

「待て待て、結局その者たち、と言うよりは、幕府が開国して得られる利が見えぬから、そういうことを言っておるのだ。調所よりも無駄使いをしている所は、他にいくらでもある。それを数字で示そうとしているのだ」

「勝様、はっきり言わせていただきます。まずその人たちは、ペリーとの交渉の場にいたんですか?海から乗り込んで来たペリーを自力で追い払えたんですか?寝言は寝て言えよ、バカどもが。何の役にも立たんバカより、金掛けて追いつこうとしてる天才たちの方が価値があるに決まってるじゃないですか!」

「だから待て。ワシらはむしろ、お前と同じ認識をしておる。最早鎖国など言ったところで無意味。ならばいっそ、諸外国に学ぶべきだと」

落ち着け、俺。考えろ。頭を回せ。確か討幕がなされた要因は、薩長の裏に外国があったこと、幕府の資金不足、幕府側が一枚岩ではなかった。ほかにもありそうだけど、パッと出てきたのはこれ。

「勝様、まず呼び方を変えませんか?そうですね、保守でもないし、うん、守旧派と呼びましょう。一見幕府のことを考えているように見せかけて、自身の立場と利益しか考えない、古臭い理にしがみつくことしか考えない守旧派、良いじゃないですか」

「呼び方を決めるのに何の意味があるんだ?」

「呼んでるうちに分かりますよ。気分的に『古臭い価値観を捨てられない可哀想な人たち』って思うようになりますよ。言葉は言霊です。次、黒船を作りましょう。日本製の黒船。その黒船でアメリカへ渡り、ペリーを再度連れてくる。その段階で、我らは、あっ、ついでに我らも名称をつけましょう。革新派などどうですか?武士は幕府に仕える。だが革新派は、幕府ではなく日本国に仕える、旧来の武士にはない新しい考え方。どうですか?」

「待て、幕府を裏切るのか?」

「そんな重く考える必要はないですよ。ただ、先日のように国と幕府の都合がズレた時に、国の都合を選択する、ということですよ。そもそも開国派などと名乗ったら『もう開国済み』で終わってしまう。国の利益を優先する。それだけです。言葉は言霊です」

「呼び方は今は置いておこう。黒船だ。もっと具体的に話せ」

「まず、下田の拠点にしていた所、あそこを急ぎ整備しましょう。次、江戸よりも土地がある横浜あたりに黒船の製作場所と港を作りましょう。そこで黒船を作る。おそらく一年。次、アメリカへ渡りペリーを再度黒船で連れてくる。その上で、革新派は下田に引っ込む。『再度ペリーとの交渉から始めてください。連れてきました。こちらは首も口も挟みません。はい、どうぞ』ですよ。この間の役に立たなかった役人も守旧派ですよね?本人の前では何も出来ず、いなくなったらデカい口を叩く。使えないヤツの典型です」

「どうやって呼んでくるんだ?」

「それこそ、『お前もやりたいこと出来なかっただろ?市中に落とさなければ撃って良いぞ』ですよ」

「過激過ぎるだろ………。ところで藤二、お前の方がむしろ話してること、気付いてるか?」

やられました。