軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1-21

side 神主の爺様

内田殿もあの様子だと、だいぶやられたようじゃな。日野からの帰りに顔だけ見せに来たが、あの小僧、ほんとにどうなる?ワシの手に負えんことだけは確か。だからこそ、どうにか出来そうな人に投げたんじゃが、大丈夫だろうか?おそらく内田殿に並ぶ御仁など、天下広しといえどそうそうおるまい。

2週間ほど経った。内田殿がまたやって来た。腹を括ったようじゃ。相談とは言うが、自らの答えを見出すため、人に話すことで頭を整理するためだろう。しかもこの件は、ワシの他に相談相手などおらぬだろうし。対外的には内弟子としながら、藤二を天文方の仕事を手伝わせて、才を見極めたいと。あの口ぶりだと、使えそうな目星が多少でもありそうな感じじゃな。算法家がどれだけ願っても、己の才だけでは辿り着けぬような頂ではないか。

どうもあの様子では、はっきりとは言わんかったが、関流を叩き込むためではなさそうじゃ。それだけが心配だった。あやつはワシが知っておるような型に、はめ込んではならぬ。どこに行くか分からん暴れ馬みたいなもんじゃ。馬よりももっと獰猛なもんかもしれんな。とにかく、調教するには向かん。まだまだ小さな童なのにな。

でもなぜか、あやつから童の感じはせんのよな。落ち着きっぷりといい、肝の座りといい。狐憑きなんて言って慌てていた、あやつの父の方がよっぽど可愛らしいもんじゃ。

内田殿がまた来た。年単位で顔を合わせてなかったのに。どうも藤二の家族と一度顔を合わせておるがこそ話がしづらいと。仲立ちしろと。ま、気持ちは分からんでも無いがな。弟子にしてくれと言われた経験は豊富だろうが、預からせてくれなんて、どうすれば良いか分からなくて当然。話をして藤二の家族が承服したら、連絡するという段取りとするか。相手が相手なだけに、丁稚に出すなんて気楽な話ではないからの、多少の時間は必要じゃろうて。すももの時期になって来なければ、こちらから出向くとするかの。

あとは、外山殿が数独の研究を始めて、近いうち算額を持って来ると。外山殿には、ちとやりすぎた手前、気になってはいた。立ち直ったようで何よりじゃ。で、藤二は怒らんかと聞いてきた。大丈夫。あやつはそんな了見の狭いことで怒りなどせん。大体内弟子にしたら、表面上は関流じゃろうて。何も問題はない。早いか遅いかそれだけ。それを指摘したら納得しておった。まだ冷静さは足らんようじゃ。

おぉ、来た来た。行く手間が省けたわ。早速数独に気付きおった。ああいうところはやっぱり目敏い。ん?自分で作ったと言っておきながら、他人事のように評するのはどういうことじゃ?とはいえ今日は、藤二よりも父親の方に用があるんじゃ。まずはコイツを引き剥がさねば。また菓子で釣っておくか。ようやく来たわ。さて、ちと気合いを入れねば。

「おぉ、来たか」。

「はい。お変わりがないようで何よりです」。

「藤二のことでな」。

「藤二がまた何か?」

「またとは?」

「いえ、先日、師匠からの紹介とおっしゃる方が、算法の話をしたいと藤二を訪ねて来られまして。その後、何やら寺子屋の方にも来られたらしく、団子やら饅頭やらをいただきっぱなしなのですが、私がお会いしたのは一度きり。お返しも何も出来ず、どうしたものかと思案しておったところです」。

「内田殿か?」

「そうですそうです」。

「ワシの用件も、まさに内田殿のことでな」。

「そうでしたか。お召しも上等そうでしたので、藤二が何かやらかしてないかも心配しておったのです」。

「どこから話そうか。まずは、その内田殿が藤二を引き取りたいと。内弟子に迎えたいと仰せなのじゃ」

「それは良きお話。私も次男だったゆえ、次男の苦労を重々承知しておりますので、大変ありがたい話です。いつ頃を考えておられるのでしょうか」

「まだ時期は決まってはおらぬのだがな」

「そうですか。では、まずは私と藤二で内田殿の所へ伺い、その後にどうすれば良いかをご相談させていただければよろしいですか?」

「いや、それが中々出来んのじゃ。内田殿、お前が思うておるよりも、ずっとずっと大物じゃ」

「え?それはどこかの藩の勘定方を務めていらっしゃるとか?」

「いやいや、そんなもんじゃない」。

「藩の勘定方よりも?算法を続けて、いずれそうなれればと考えられる一番高いところでしたのに」。

「幕府」

「幕府?えっ?えっ?は?あの内田様ご本人が幕府の?」

「それだけではない。内田殿は関流の宗家預かりじゃ」。

「……それはま」

「まことじゃ」

「…師匠と算法の話をしている段階で、藤二には算法の才があるやも知れぬと多少の期待はしておりました。師匠にも寺子屋の師匠にも、算法の本を頂戴したようで、藤二にそろそろ算法の師匠をどうすれば良いかの、ご相談をしたかったのですが」。

「あやつに師はいらぬ」。

「えっ?内田様の内弟子と仰っておりましたよね?」

「もちろん形式上は内弟子じゃ。だが、内田殿が師として藤二に算法を教えるのではないようじゃ」。

「…師匠、失礼ながら、私を揶揄っておいでで?」

「揶揄っておらぬ。断じて!」

ワシと藤二の間にあったこと、ワシと関流との間にあったこと、ワシと内田殿との間にあったこと、ワシが知る内田殿と藤二の間にあったこと。これらを話してやった。これを話しても理解は出来ぬだろうが。当事者の一人のワシですら、理解できておらぬ。それでも話さんと、話が進まん。

「……どう捉えて良いか、全く分かりません。師匠は藤二をどう見ていらっしゃるので?」

「一番難しい問いじゃな。うーん、お主が『狐憑き』と称して連れて来た時、そんな小石ではないとは思った。小石ではなく岩じゃと。ただ、よく見る算法好き、算法の出来る岩ではなく、別の形をした岩だとは思ったがな。でじゃ、岩かと思ったものが実は山かも知れんと、年末に来た時に思った。岩の大きさの判別なら出来る。しかし、山の判別は無理じゃ。そう思うて内田殿に頼んだ。そうしたら、山は山でも富士かも知れぬ、というのが今の状況かの?」

「分かるような分からぬような。いや、お恥ずかしい。我が子でありながら、そのような才があろうとは」。

「それは気にするな。子の才を測るためには、親は子よりも才が無ければ測れん。それでは、子は親を絶対に越えられん。そうでないのが人の世じゃ」。

「そう言っていただけて、多少安堵しました。このお返事はいつまでに?」

「期は決まっておらぬ。内田殿にもそう申してある。話が大きすぎる故にな。家族で然と話し合え」。

「かしこまりました。お返事は師匠に?」

「それで構わん。」

「では必ずお返事を持って参ります。それまでお時間を少しばかり頂戴いたします。家族もだいぶ待たせている様子なので、今日はこの辺で」。

「いつでもいいからの。しっかりと考えるんじゃぞ」。