軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3-16

久しぶりの夜の舟。友さんに誘われた。勝様からの宿題を前に唸ってたからだろうな。なんでこの人は、こうもタイミングを見計らってくれるんだろう。人付き合い得意じゃないのに。計算に没頭し始めると周りが見えなくなるのに。もう反射炉の計算終えたのかな?

「知ってるか?海はな、絶望との戦いなんだ。陸の見えない海、星の見えない夜、本当に到達できるのか、地図は本当に合っているのか、自分の計算は正しいのか、どこにいるのか。全てが疑心暗鬼だ。それでも信じられるのは、自分で割り出した方角の計算のみ。それだけが拠り所だ」

友さんやっぱり舟のことだと饒舌になる。ハンドル握ると人が変わるのと同じなのかも。

「その覚悟もなく、ただただ自身の虚栄心のために船に乗り、ずっと船酔いしてた役立たずが勝様だ」

急なディスりだよ。びっくりした。

「あれ以来勝様を見る目がすっかり変わってしまってな、何を言っていようが『船酔いしてた役立たずのくせに』と思ってしまうんだ。何も響かん」

辛辣。この上なく辛辣。

「お前がその勝様に良い様に使われてるのが、ワシは我慢ならん。海の上で寝てただけのくせに。邪魔な荷物でしかなかった。もちろんお前と違って、立場は弁えてるぞ。これは個人的な感情だ」

なぜか俺も被弾してるけど、その付け加えてるのが余計辛辣なんだよ?普段の口数の少なさがより火力を高めてるよ?

「お前はもっと誇れ。お前よりも遥か前から、幕府は知を集めていた。箕作殿も内田殿もワシもおった。だがな、お前がおったから我らは動き始めた。幕府はただ集めただけ、お前は知を動かした。幕府が出来んかったことをお前は成したんだ。そしてあの隠し財産。幕府がすべき、幕府がせんかったことまでしてるだろ。誇って良い」

ダメだ、泣いちゃいそう。

「お前が持ち込んだ効率によって、それまでのやり方では十年経っても到達出来んところまで、ワシらは来れたんだ。まさか蘭語だけでなく英語を扱えるようになるなど思ってもいなかった。お前の3人の保護者をもっと使え。もっと頼れ。もっと甘えろ。ギリギリまだそれが許されるんだぞ」

「じゃあさ友さん、みんなが大事に大事にしてる泥舟を俺がぶち壊しても、友さんは支持してくれる?」

「当たり前だ。そもそも泥舟だったら大事にする必要ないだろ。何の価値もない」

「それが、価値だけはあるんだよ。大事すぎてみんなが泥舟って気付いてないだけで」

「ん?お前は何を禅問答を始めたんだ?」

「幕府。みんなが代々大事にしてる幕府は、残念ながらもう立て直しが無理なくらい、ボロボロなんだ。家康公の頃には良い仕組みだったのかもしれない。でも、200年以上経って、どうにもならないくらいの借金まみれ。あれは無理だ」

「………支持する。ワシはお前を連れて、どこにでも行ってやる。それこそアメリカだって良い。任せろ。ワシはもう既に行ったことあるんだぞ。ワシの計算は間違っておらんかったからな。はっはっはっ」

攘夷派が幕府に引導を渡せない。その流れにしちゃってた。である以上、誰かが渡すしかない。俺に出来るのか?やれるのか?リーダーシップもカリスマ性もない。目指すべき国家観があるわけでもない。それでもやるしかないのか。そこまでの覚悟はまだ持ててない。怖い。どんどん俺の知らない幕末化してる。思わず震えてしまった。

「武者震いか?」

「ちょっと肌寒かっただけだよ」

「そこを素直に言えればもっと可愛いんだがな」

「それを言わないのが粋ってもんじゃないの?」

久しぶりに笑い合った。友さんがいる。きっと箕作様も内田様も。心強い。それだけでラクになった。ついでに甘えてみようかな。

「勝様のお宅に来るの、ご老中なんだって。友さん一緒に行ってくれる?」

「なっ!!!ろっ、老中?」

「うん。どう?」

「……行くのは付き合う。内田殿のお宅で待つ」

「え?甘えろって言ったじゃん!」

「それとこれとは話が違う。大丈夫だ。立場のある人ほど、子供を斬るなど外聞の悪いことはせん」

「それって斬られてもおかしくないってこと?」

「聞いてるぞ。お前が佐久間殿に喧嘩売りまくってると。何度か抜かれそうになっていると。知らんとでも思ったか?」

バレてたんだ。知らなかった。

「お前をきちんと預かって無事に元服させるか、内田殿にお返しするか、それをするのがお前を居候させてるワシの役目だ」

無言で抱き合っちゃった。内緒だけど、ちょっとだけ泣いちゃった。

さ、いざ江戸へ。勝様邸へ。

とはいえ、やだなあ。どんな人かも知らんし…。