作品タイトル不明
3-14
横須賀の学校の完成が近づいている。横浜から見てるだけだけど。幕府がどんな戦闘集団を持ってるかを知らない。伝説のスナイパー、ゴ◯ゴ13みたいなヤツ抱えてて、気付いたら死体で漂流してたなんて嫌だから、舟も乗りたくない。怖い。
最近のルーティンになりつつある、近づく舟の人を望遠鏡で覗いてたら、普段見ない顔がやって来た。勝様だ。佐久間氏もいる。あと見たことある顔。河井さんだ!十中八九、河井さんを引き抜いてやったぞ、ドヤってことなんだろうが、油断は禁物。出迎えるふりして、とりあえず体はアメリカ公使館、首だけ出して待つ。
「藤二、そんな所で何をしてる?河井殿を連れて来たぞ。嬉しくないのか?」
「いや、嬉しいですけど、捕らえられたりしませんか?」
「捕える?誰を?」
「いや、私を。ありもしない罪で捕らえられて、首切られるとか」
「はっはっはっ、だから怯えてたわけか。ないわ。洋書調所は幕府が設立したんだぞ?そこにおる人間が捕縛の対象になることはない」
「でも私は調所に所属もしておりませんが」
「元服前の子供だからな。子供だからこそ捕まえても何にもならん。簡単なことだろ。さ、早く来い」
本当は誰かにいて欲しかったけど、邪魔しちゃ悪い。仕方ない、腹を括ろう。それよりも不気味なのは佐久間氏。まだ一言も発してない。もしかしたら勝様が手を下さない代わりに、佐久間氏が動くのか?でもそうすると、河井さんがここにいるのが辻褄が合わん。
どうも話を聞くと、勝様は本当に付き添いだったみたい。佐久間氏は弁論を教える気になったらしい。それにしては大人しすぎる。どうした?肩透かしされてる感じで、これはこれで気味が悪い。河井さんには何がしたいかを聞いたら、なんと学生と一緒に学びたい、と。教科書を読んだら知らないことが多すぎるから、学び直したいとのこと。
そう来たか。確かに河井さんにはリーダーシップがある。率先して天才を変態へと誘い、優秀な人に天才との隔絶を思い知らして欲しい。自己を過大評価する人ほど使いにくいものはない。身近に「この人には絶対に敵わない」と思う人を置けたかどうかで、非常に優秀な駒になるか、扱いづらい駒にすらなれないかが変わってくるはず。年が親子ほど離れているような人が自発的に学ぶ。そんな姿を見てどんな化学反応が起きるか。とにかく刺激して欲しい。何ならそのまま海軍の上官になってくれて構わない。
話も終わりかけになったタイミングで、佐久間氏が口を開いた。口を開いたんだけど、どうも要領を得ない。何がしたいんだこの人?
「……ワシを、いや、ワシは………どう…使える?」
怖い怖い怖い怖い怖い。何があった?何を企んでる?大体ここについてからの態度からして、明らかにおかしい。獰猛さが影を潜めてる。
「質問の意図が分かりかねます」
「だから、その、なんだ、ワシは何をしたら良い?」
「弁論を教えて下さい、と言ってますよね?」
「そうではなくて、えぇーい、ワシが満足出来るようにワシを使ってみろと言ってるんだ、バカモノ!!」
そういうこと。恭順の姿勢を見せようとして失敗したってことか。
「佐久間様に弁論を教えることを依頼しているのは、佐久間様以上にそれを教えるのに長けている人が見つからなかった、その一点です。それ以上でもそれ以下でもありません。佐久間様以上に長けている人がいるのなら、佐久間様である必要がないのです」
「なっ!!」
「私が知る佐久間様は、決して天才ではありません。それは先日申し上げました。ですがその一方で、世間でのあなたの評判は違う。自称するだけでは作れない世間の声と私の認識がかけ離れています。であるならば、考えられることは2つ。世間の見る目がないのか、私が佐久間様の天才さを感じられていないか。世間の評判を作る『何か』があったのではないでしょうか。それをぜひ見てみたい。ぜひ見せてください。お願いします」
「そのような見下ろすような発言出来るほど、お前は天才なのか?」
「何をおっしゃいますか?私は天才ではありません。他の方よりも、多少効率の上げ方に気付くのが早いだけの凡才です。足元にも及ばない」
「「「は?」」」
「何を呆けてるんですか?私自身は、自分の力で何も生み出せておりません。蘭書で書かれていることを実践しただけ。外国人から学ぶのも、その方が効率が良いから。天才を集めるのも、1人よりも人数多い方が効率的に物事が進むからこそ、知の結集に注力してるだけ。天才たちの効率を上げることに細心の注意を払い、効率を下げる要因を可能な限り取り除く。それだけですよ」
「お前の理屈を聞いてると、ワシは天才ではないから相手をしない、とも取れるぞ!」
「あぁ、確かにそうとも取れますね。でもその認識も、それはそれで合ってます。天才たちの邪魔にしかならない者は排除したいですから」
「なんだと?見ておれ!ワシの才をお前に認めさせてやる」
「楽しみにしておきます」
「差し当たって図書館を使わせろ!いいな!!」
「大事に扱っていただけるならどうぞ。あとは騒がないでくださいね」
「分かっておるわ!」
ドスドス去っていく足音も、本当はイヤなんだけどな。
「藤二、それ以外にもう一つ話があるんだ。河井殿、佐久間が妙なことをしないか見張っててくれないか?」
勝様、そんな不穏なことやめて!やっぱり斬られる?