作品タイトル不明
第488話 夏の暑さを忘れてしまいますね
スイカ割りに勝るとも劣らない、うちの村の夏の一大イベント。
それは花火大会だ。
といっても、初めて開催されたのは昨年の夏。
それがあまりに大反響だったことから、今年もやろうということになっている。
花火を作ってくれるのは、村のドワーフたち。
各工房が競うように色んな花火を作り出し、それが夏の夜空を彩るのだ。
しかも今年は昨年を上回る数の花火を用意してくれているという。
「ぜひ当日を楽しみにしているだ!」
ドワーフたちを代表するドランさんも自信満々だ。
「私も大砲を打ち上げる」
「それは花火じゃないよね!?」
『兵器職人』のギフトを持つドナが物騒なことを言っていたので、全力で止めた。
さらに昨年の花火大会の噂を聞きつけて、大勢の観光客が村にやってきた。
打ち上げ場所から近いホテルは、すでに数か月前から予約で満杯になっているほど。
そして花火大会の日には、日中から村の各所に屋台が並ぶ。
焼きそばにチョコバナナ、フライドポテトにイカ焼き、わたあめにりんご飴、ラムネにかき氷……そんな中、見たことのないようなゲテモノ料理を売ってる屋台もある。
激臭ドリアンライスボールに、ゾンビ色シェイク、激辛バナナスープ、ザリガニ風味ピザ、スイカのタバスコかけ、などなど。
「ま、マズい! これはマズイぞ!」
「うーん、素晴らしいマズさだ!」
「クセになりそうだぜ……」
一部界隈に大人気だったりするけど、もし子供が間違って食べてしまったらトラウマものだ。
やがて長い夏の日が暮れていき、いよいよ最初の花火が打ち上げられた。
ひゅううううううううううっ、どどどどどどどどんっ!
夜空に大輪の花が咲いた。
「「「おおおおおおおおおおおおおおおっ!」」」
大歓声が上がる中、次々と花火が打ち上げられていく。
どどどどどどどどどんっ!
「すごい。去年を遥かに上回る大迫力だね」
「そうね。ドワーフたちが気合を入れて準備してただけのことはあるわ」
「花火を見ているとなぜか夏の暑さを忘れてしまいますね」
僕たちは宮殿の最上階にあるルーフバルコニーで花火を鑑賞していた。
花火がすぐ近くに見える特等席だ。
セレンとミリアの他に、一つ下のフロアに住んでいるセリウスくんとフィリアさん、それにミランダさんたち飲んだくれ三人組も来ている。
「こいつは酒が進むぜええええっ!」
「うふふ、そうですわねぇ。もっとも、普段から同じくらい飲んでますけど!」
「ごくごくごくごくっ、ぷはああああっ!」
彼女たちは呼んでないんだけどなぁ。
「あれ? あそこの花火、ちょっと欠けてない?」
「ほんとだわ。作るときに失敗したのかしら?」
「いえ、欠けた部分が動いています。何かが横切っているのでは?」
よく見ると、打ち上げられる花火を必死に避けながら、巨大な生き物がこちらに向かって飛んできているところだった。
やがて僕たちのいるルーフバルコニーまでやってきたのは、一体のドラゴンで。
「何だ、ドーラじゃないか」
『こ、こ、これは一体何なんじゃあああああっ!?』
そのドラゴンから慌てたような念話が届く。
「違うよ。これは花火といって、みんなで見て楽しむためのものだよ」
『な、何じゃ、てっきり、わらわを始末して食べるために、攻撃しておるのかと……』
安堵の息を吐いた後、ドラゴンの身体が見る見るうちに小さくなっていく。
そうしてルーフバルコニーの上に降り立ったのは、幼女だった。
彼女は村の東にある大山脈に住んでいる古竜で、訳あって以前からこの村との交流がある。
こうして人化すると人間の幼女にしか見えず、僕たちはドーラと呼んでいた。
「心配しなくても誰も食べたりしないって。それより、どう? これ、食べてみない?」
「むむ、何じゃ、その甘ったるいニオイのする食べ物は?」
僕が差し出したのはりんご飴だ。
ドーラは怪訝そうな顔をしつつも、受け取って噛り付いた。
バリバリシャリシャリ。
さすが人化してもドラゴン。
硬い飴の部分を軽々と齧ってしまった。
「っ、外側の甘い部分と中の酸味が絶妙にマッチして、とっても美味いのじゃ!」
当初はワイバーン料理を目当てにこの村に来ていたドーラだけど、最近では他にも色んな料理を食べるようになっている。
肉や魚系はもちろんのこと、果物やお菓子などの甘い系も好きなので、りんご飴も気に行ってくれると思った。
「せっかくだから、ドーラも一緒に花火を見ようよ」
「うーむ、なかなかの迫力じゃな。しかしよく見ると音の割に大した火力ではなさそうじゃ。さっきはついビビってしまったが、この程度の威力では火竜であるわらわには効かぬな」
「ビビったんだ」
と、そのときだった。
ドオオオオオオオオンッ!!
「ひっ!?」
ひと際大きな爆発音が鳴り響き、ドーラが小さな悲鳴を上げた。
「な、何じゃ、今のは……っ? 凄まじい速さで、鉄の塊のようなものが空へと飛んでいったように見えたが……」
「あー」
どう考えてもドナだ。
事前に注意するだけじゃなくて、当日もしっかり監視しておかないといけなかったね……。
花火に交じって、鉄塊が次々と発砲される。
「あれは大砲といって、兵器の一種だよ」
「へ、兵器!? や、やっぱりわらわを始末する気なんじゃああああああああっ!」