軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第445話 動けない豚はただの豚よ

ルークが部屋を出ていった後、エミリナはふぅと息を吐いた。

「村長ちゃんを揶揄うのは楽しいですけど、あんまりやると、そのときが来たときに信じてもらえなくなりますわよ? オオカミ少年の逸話のように」

「はっ、んな心配は要らねぇよ。どうせ信じる信じないなんて言ってる状況じゃねぇだろうからな」

鼻で笑うミランダだが、その瞳にはどこか真剣な色味が混じる。

「……いずれにしても、そう遠い話ではねぇはずだ。なにせオレの直観が訴えてきやがる。そのときが近づいてきてるってな」

「あなたの直観は当たりますものねぇ。できればもうしばらく、この平和な日々を堪能したいところですけど……」

「残念だが、こうして毎日ぐうたらしてられるのも長くはねぇぜ。つーわけで……」

陰気な空気を振り払うように、ミランダは叫ぶ。

「今はとにかく全力でぐうたらしてやるぜえええええっ!!」

「ですわね! さあ、今日はもっと飲みますわよおおおおおおっ!!」

二人の酒盛りは翌日の朝方まで続いたのだった。

◇ ◇ ◇

「またいたわ! 冬の間に良い感じに増えてくれたみたいね!」

狩猟チームのリーダー、セレンは嬉しそうに叫んだ。

その視線の先には、豚の魔物オークの姿がある。

身の丈二メートルを超す筋骨隆々の体躯を誇るオーク。

普通の人間なら見かけただけで恐怖のあまり腰を抜かすか逃げ出すところだろうが、セレンの反応は真逆だ。

それもそのはず。

彼女たち狩猟チームにとって、オークは絶好の獲物であり、もはや美味しい豚肉にしか見えない。

村でも彼女たちが狩ってくるオーク肉は大人気で、村の名物として、それ目当ての観光客が数多く訪れるほど。

ただ、最近はあまりに乱獲し過ぎたことでオークの数がかなり減ってしまっていた。

そのため冬の間は狩りを自粛しており、この日が久しぶりの解禁日。

すでに彼女たちは四体のオークを仕留めていた。

なお、狩猟チームはセレン率いる第一部隊のほかに、十名程度で構成される部隊が二隊あり、別々に狩りを行っている。

「ブヒ?」

自分を狙う人間の存在に、オークが気づく。

しかし先陣を切って突っ込んでいたセレンは、すでにその足元にいた。

「はっ」

セレンの二本の剣が、それぞれオークの両足を斬り裂く。

「ブヒイイイイイッ!!」

強靭な肉体を持つオークは、その程度では倒れない。

雄叫びを上げ、すぐさま反撃しようと動き出す。

「~~~~ッ!?」

だが足が上手く動かなかった。

驚くオークが目にしたのは、先ほど斬られた部分から凍り付いていく自分の両足だ。

「動けない豚はただの豚よ」

セレンはただ斬っただけでなく、同時に魔法でオークの足を氷結させていたのである。

こうなってはもはや一方的に人間たちに蹂躙されてしまうだけだ。

狩猟チームにとっても、動かないオークは攻撃の狙いをつけやすい。

そしてできるだけストレスをかけずに素早く仕留められれば、食肉が硬くなるのを防ぐことが可能だった。

「俺に任せろ」

『剣士』のギフトを持ち、狩猟チームの主力として活動しているペルンが、オークの首を一瞬で斬り裂く。

オークはあっさり絶命した。

「これで五体目ね」

討伐したオークは、チームに同行している解体師の手によってその場で解体される。

そうすることで食肉の劣化を抑え、しかも運搬が容易になる。

いくら解体していても、普通なら五体ものオークを運ぶのはそれだけで重労働だが、チームには運搬専門の人間がいた。

「よっと」

新たに解体を終えたオークを加え、計五体分を納めた箱を軽々と持ち上げたのは、『巨人の腕力』というギフトを持つゴアテである。

ギフトの能力に胡坐をかくことなく、日々の筋力トレーニングにも余念がない彼は、今や一人で十体分ものオークを運搬できるまでになっていた。

「東方向にまた別の気配が。ニオイからして恐らくオークかと」

そう報告したのは、『獣の嗅覚』というギフトを有する青年、ニキタだ。

「やっぱり狩猟をしばらく休止していたのがよかったみたいね」

「にしても、こんなに増えるだろうか?」

「ブラックウルフを狩っておいたのも功を奏したのかもしれない」

この魔境の森において、オークには天敵と言える魔物が存在した。

それがブラックウルフだ。

その名の通り漆黒の毛並みの狼で、単体の強さはオークに及ばないものの、群れを形成して積極的にオークを狩る。

ブラックウルフに食い荒らされたと思われるオークの死骸を何度も見かけていたことから、ブラックウルフの数を減らすことで、オーク繁殖の助けになるかもしれないと考えたのである。

「いたわ! しかもなかなかの大物ね!」

六体目のオークを発見し、喜ぶセレン。

だが距離を詰めていったところで、ある違和感を覚えた。

「……? 大物っていうか……大き過ぎない?」

そのオークが彼女の接近を察知し、振り返る。

「ブルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

轟く強烈な雄叫び。

これには百戦錬磨の狩猟チームも、思わず足を止めた。

「こ、こ、こいつはただのオークじゃない……っ!」

慌てて叫んだのは『獣の嗅覚』のニキタだった。

「オークキングだっっっ!!」