軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

05.本性

翌日は、私の部屋に訪れて早々に「アクセサリー」の話から始まった。

「お姉様が持っているあのネックレス、すごく素敵ですよね」

「え? そうかしら……?」

もとから部屋に保管してあったアクセサリーを大人しくなった侍女に任せる形で、身支度をしていた。

あくまで貴族の身だしなみの一環なのだと思っていたからこそ、気にしていなかったのだ。

そんな風にあらためてアクセサリーに意識を向けていれば、リアーナは再び口を開いて。

「でも私なんかには似合わないですよね……」

「! そんなことは……」

「いいんです! 私は無理を言ってお姉様をわずらわせたくないので!」

私がリアーナに返事をする前に、彼女がそう言ってきた。

こちらを気遣ってくるにしては、どこか押しが強い言い方だったが、別に問題を起こされたわけでもないので、スルーすることにした。

リアーナは私の部屋にずっと滞在するわけではなく、言いたいことが終わればすぐに部屋から出ていった。

そんな彼女の様子を不思議に思うものの、自分としてはこの家からの脱出計画を考える方が大事だと、そこまで気に留めなかった。

そして翌々日は、来て早々――リアーナの口から出たのは「家族」の話題だった。

「お姉様は、お父様とお兄様とお茶会をしないのですか?」

「ええ、あまりしないわね」

「え~! もったいないです!」

「で、でも……誘われる機会がな……」

「あんなにも美味しい茶葉は、一緒に飲んでこそですよ!」

それだけ言うと、彼女は言い切ったとばかりに部屋から去っていった。

リアーナとは会話というよりも、一方的な言葉のドッジボールを受けているような印象を持った。

そしてこの日を境に、よりリアーナによる「家族」の自慢話が加速していく。

具体的には、翌々翌日には――。

「お父様に勉学のことで褒められたんです~! 飲み込みが速いって!」

「そう、良かったわね」

「お姉様からしたら、初歩中の初歩かもなんですが……」

「そんなことな……」

「でも! お姉様と肩が並べられるように! 勉学に励みますね!」

「は、はぁ……」

そう一方的にまくしたてられる始末。

こうした話題で、毎日訪れては話してくるようになったのだ。そして私としては――次第にリアーナの話を聞くのが、億劫になってくる。

気づけば、そうした話題をぶつけられ続け……謹慎期間の終わりになる一週間が過ぎようとしていた。

(リアーナってこんな子だったかな……? 確かに明るい主人公って感じだけれど、なんだか……)

そんな疑問を持った本日もまた、リアーナは私の部屋に訪問してきた。

そして訪問した彼女は、口を開いて。

「お姉様っ! 本日で謹慎期間があけるんですよね?」

「え、ええ……確かに、そうね」

「その……お姉様としたかったけど、できなかったことをしたくて……」

「……?」

「ほ、本日は私の部屋でお茶会をしませんか?」

リアーナの言葉を聞いて、私は虚をつかれた。

だって、今日もまた怒涛な話をされると思っていたから。

けれどリアーナの話を聞いて――もしかしたらの想いがよぎった。

(もしかして、こうして謹慎期間に私のもとに訪れたのは――私が寂しくないように気遣ってくれたのかしら?)

あまりにも自慢話が多かった気もするが、そう思えば……自分が知るゲームの「リアーナ」という人物とよく似ている行動な気がした。

なにより最近は煩わしいと思っていたがために、リアーナに罪悪感を持つ。

突然の提案に、うまく答えられないままでいると――リアーナからは「お嫌でしょうか……?」と上目遣いで、尋ねられた。

罪悪感が生まれたのはもちろんのこと、ここでリアーナを拒絶して――お父様とお兄様に怒られるのも嫌だなと思った私は……彼女の提案を受け入れることにした。

「ええ、行きましょうか」

「本当ですか! 嬉しい~! 私にも侍女がつけられたので、お姉様に美味しいお茶を振る舞いますね!」

「そうなの? それじゃあ……」

リアーナの後をついて行こうとする中、私は部屋に控えていた侍女に「ここで待っていて」と伝えた。

お茶会であれば、長時間の拘束とまではいかないし――私に対して嫌悪感を持っている家族と会うわけでもないので、問題ないと思ったのだ。

(リアーナからの距離感に驚いてしまっていたけれど、あくまで彼女は私のことを思いやって、ここまで積極的に動いてくれたのかも)

そう、この時までは――私はゲームで知っている「リアーナ」を信じてしまっていた。

◆◇◆

リアーナに連れられて、彼女の部屋へ向かう。

彼女の部屋は、私やお兄様、お父様の部屋からは少し距離があるものの――その部屋の広さは、私と同じくらいの広々とした部屋だった。

またお兄様とお父様からプレゼントされているのか、ラブリーなぬいぐるみや桃色の家具がたくさんあった。

(デザインが……私の部屋と全然違うわね……)

特に羨ましいとは思わないが、そんなリアーナの部屋につい、目が向いてしまっていた。

そしてリアーナは私を――ソファで彼女と対面に座る座席に、案内した。

リアーナにつけられた侍女が、リアーナのお世話をするべく紅茶の準備をする。

その間に、私に対しては「なぜ、こいつがここに来たのか?」という敵視のような、視線を感じた。

この家では「厄介者」として扱われている私だからこそ、忠誠を誓っていない使用人や侍女たちは、そういう想いは強いのだろう。

しかしリアーナの命令もあるため、私の前にも紅茶が置かれ――リアーナと話すことになった。

会話の内容は相変わらず、お父様とお兄様にこうしてもらった……という自慢ばかりではあったが、彼女の気遣いを無下にするのも憚られるので、うんうんと頷きながら彼女の会話を聞き続けた。

するとリアーナの話は、ここの部屋の話へと変わっていく。

「お父様とお兄様の計らいで、まだ部屋は――皆様から遠いところにあるんです」

「そうなの」

「ゆっくりと環境に慣れてほしいってことらしくて…本当にお優しいですよね。私、感激です!」

私にマウントを取りながら、そう話すリアーナは――ポットにお茶が少なくなっていることに気づき、使用人にお茶をくみにいかせた。

正直、リアーナの自慢話に慣れてきたといっても、これ以上は聞きたくない気持ちが大きくなっていた。

(それに、もう十分……お茶会の時間も過ごせたでしょう……)

いつもなら、言いたいことを短時間で言い切って、すぐに部屋から出ていくリアーナだったが、自分の部屋ということもあり、もっと話したくなったのかもしれないが……。

彼女の気遣いを無碍にしないという――今回の目的は達成されたはずだ。

これ以上、お茶のおかわり分も含めて聞くのは、もうお腹いっぱいだ。

「リアーナ、お茶のおかわりは大丈夫よ」

「あら? そうですか?」

「ええ、だから私はそろそろ部屋に戻らせてもら……」

「けれど、私にとっては――必要なことなんです」

「え?」

リアーナの口から出た言葉の意味に、理解が追い付かず――私は彼女の顔をじっと見つめる。

すると彼女は、不敵な笑みをニヤッと浮かべたのだ。

リアーナの侍女は、紅茶のおかわりの準備をしに出ていったため……この部屋ではリアーナと二人っきりになっていた。

「ねえ、オリビア」

「!」

(――名前で呼んできた?)

目の前のリアーナは、当然のごとく話し始めた。

そんな彼女の言葉に、私は目を見開く。

「私にふさわしいのは、こんな遠い部屋じゃなくて……あなたの部屋よね?」

「は?」

「家族に認められない半端な娘より、愛される私のほうがふさわしい……そう思わない?」

「何を言って……」

「ねぇ、知ってる? あなたはこの家には必要ないの……早く、この家から出て行ってくれない?」

勝ち誇った顔で、そう言うリアーナに私は絶句した。

優しいと思っていたゲーム主人公だったのに、実はこんな裏の顔があったことに衝撃を受ける。

そんな中、リアーナは私が座るソファのほうへ近寄り、わざと耳打ちしてきた。

「ああ、それとも……ゴミは自分では動けないものね? 私が、スムーズにこの家から出て行けるようにしてあげましょうか?」

「なっ、あなた……!」

とんでもない発言に、私が距離を取ろうと立ち上がった時。

――ガチャーン!

「キャアッ!」

「え?」

わざとらしく、リアーナはテーブルのティーカップを床にこぼし、リアーナ自身も床に転がった。

そのタイミングに、先ほどのリアーナの侍女が戻ってきて――。

「なっ……! リアーナ様……! 大丈夫ですか……!?」

「私はお姉様と仲良くなろうと……そう思ったのに……でも、お姉様が……」

「! オリビア様! この行動は看過できませんよ!」

「ちょ……ちょっと、私はそんなことは……」

侍女は私に対してきつい口調で、言い放つ。

先ほどのリアーナの悲鳴や、侍女の大声によって――騒ぎは大きくなっていき、会いたくない家族までもここにやってきたようで。

「いったい何事だ!」

「リアーナ! どうしたの!?」

駆けつけたお父様とお兄様は、状況を見るなり――私を睨みつける。

そんな彼らをたきつけるように、リアーナは口を開く。

「うぅっ、お姉様が……こんなみすぼらしい部屋なんて、家族じゃないって……。もっとみすぼらしくなればいいって……」

「私はちが……っ」

咄嗟に、リアーナの言葉を否定するように私は口を開くも――お父様が私の声を遮るように、言葉を紡いだ。

「妹が気に入らないからと……なんて非道なことをっ! 後で沙汰を言い渡す! 今すぐ部屋に戻れっ!」

「大丈夫かい? リアーナ……」

私の意見は聞かずに、一方的に言い渡すお父様のヘンリー。

お兄様のミシェルは、リアーナを気遣うように、彼女に寄り添っていた。そして私は、半ば強制のように自室へ戻されるのであった。

◆◇◆

自室に帰って来た私は、立ち尽くしながら――手をギュッと握り、やるせない気持ちに震える。

(平穏のために……この屋敷にいる間は、大人しく過ごそう――そう思っていたけれど……そっちがそう来るのなら、容赦はしないわ)