作品タイトル不明
20.秘密の散歩
◇リアーナ視点◇
「そ、その……国の太陽に……っ」
「ほほっ、そんなに堅苦しい挨拶はせんでよい。可愛らしい伯爵令嬢よ」
「!」
ニコッとほほ笑んでくれる優しい国王が、光り輝いて見えた。
それと同時に、胸の中に自信が湧いてくる。神様は私を見捨ててはいなかったと。
そう私がわざわざここに来たのは――先ほどあのオリビアの魔の手から救ってくれた、とある人物……国王陛下に会うことが目的だった。
「さぁ、歩いて疲れたじゃろう――そこのソファに座りなさい」
「は、はい……! ありがとうございますっ」
「先ほどは、災難じゃったなぁ……あの公爵に酷いことを言われたようで……」
「! お気遣い下さり、ありがとうございますっ……その怖かったです」
「そうか……それは辛いのう」
「で、でも、陛下がお声をかけてくださったおかげで、本当に助かりました……っ!」
「よいよい、可愛らしいお嬢さんを守るのは――すべきことじゃからな。特に悪い公爵からなら――救って当然じゃ」
「陛下……」
私の胸がジーンと打たれる。そうなのだ、私に声をかけるべき言葉は非難ではなくて、こうした労わりの言葉であり……私を気にかけるものであるはずだ。
(そう悪いのは……オリビアであり、あの公爵の方だわ)
私はそう結論付ける。
陛下は、私のことを孫のように思ってくれているのか――とても柔らかな表情をしている。
以前のお父様とお兄様のように、愛情を持ってくださっている。
だからこそ、私はニヤッと笑みを深めて――許せなかった「舞踏会の日の事件」を話した。
「その……陛下に個人的な辛さを話すのは忍びないのですが……」
「ほっほっほ、気にするでない……そなたと接しておると――他人行儀のほうが寂しいからのう」
「お心遣いありがとうございます、陛下。それでは――お耳に入れてほしい話がありまして……先ほどの公爵にも関連して、私の姉だったオリビアの話です」
「ほう?」
「実は先日の舞踏会の日に……おかしなことがありまして……。亡くなった伯爵家の奥様が、屋敷に現れたんですっ!」
私はあの日に感じた憤りと辛さをベースに、陛下に話した。
だってそれほど、許せないことを――オリビアがしたのだ。
どう考えたって、おかしいし……罪を犯している。
「おかしいと思いませんか? しかも今は――公爵夫人となっていて、あんなに横暴な振る舞いを……っ!」
「ふむ……確か、オリビアは――魔法が使えなかったと、噂で聞いておったんじゃが……」
「まさしくそうですわっ! 陛下がおっしゃる通り、姉は使えない人だと――屋敷でも認識しておりました!」
「なるほど……公爵と……その夫人の罪か……」
陛下はニヤッと不敵な笑みを浮かべたかと思うと。
「そなたは知っておるか? 死者が今世に現れるのは、魔力共鳴が起きた時と……墓を荒した時じゃ」
「え……?」
「墓を荒すと、死者が持っていた魔力を貰える――禁忌的な方法じゃが……その結果、怒りに任せて死者が蘇るとも言われておる」
「そうなんですね……」
「どちらもあくまで、実際の根拠がなく――噂レベルの話じゃが……」
陛下は、一度言葉を区切ったのち。
「墓を荒して魔力がもらえるのは――本当のことじゃ」
「え?」
「わしが思うに……オリビアは、墓を荒して――魔力を得ているのではないか? それで魔法が使えないコンプレックスを解消している可能性がある」
「!」
陛下の言葉に、私はハッとなる。
そうだ、あんなにも堂々と出ていったオリビアはおかしいと思っていたが――まさか墓を荒して、魔力を得ていたのなら……自信満々に出ていったのも理解できる。
「た、確かに、あの時――奥様が、娘の魔力を感じて出て来たって……言っていました!」
「ほう、それは――面白い話じゃのう……?」
「でも、確か……お墓を荒した形跡はなくて……」
「リアーナよ、何も問題ない」
「え?」
「墓が荒れるのは何も――後からだって問題ないのじゃ。そうじゃな、例えば……一週間後の午後に、王城から伯爵家に騎士がくるじゃろう。その時に荒れておれば――いいんじゃ」
「そ、それはつまり……」
(私が墓を荒せば――どうにかなるってこと……?)
陛下からの言葉に、私は目を見開く。
しかしそんな罰当たりなことをしてしまっていいのだろうか。
「わしは、リアーナが苦しむのを見たくないんじゃ。そのためなら、どんなことだって――些末のことだと思わんか?」
「そう……私はもう、苦しみたくないわ……」
陛下の言葉を聞くと、身体の奥から活力が湧くような感覚があった。
それと同時に、陛下も嬉しそうにほほ笑んでいる。
「それに、わしからは万全の準備を持って――その墓場荒らしの犯人を見つけよう。専門の者を用意するし……検証の期間だって設けよう」
「!」
「来月には――公爵家が容疑者として……国中に知れ渡る。そして、有罪を言い渡され――公爵家はなくなる」
「オリビアも……公爵家も……なくなる……」
陛下の言葉を聞いて私は、思わずニヤッと笑みを浮かべていた。
だって、陛下が助けてくれるこの計画は――あまりにも魅力的すぎて。
「分かりましたわ! 私……伯爵家でやることを成しますわ」
「ほっほっほ。そうか、気分が良くなったようで――わしも嬉しいわい」
「それと陛下……私……、実は陛下の息子の……」
「おや、シューベルトのことか?」
「は、はい……っ。そ、その……」
(さすがに、シューベルト様とのご関係を、彼のお父様に言うのは――良くないわよね)
つい、自分のために話してくれる陛下に、今一番の希望を口に出してしまいそうになる。
気恥ずかしさが大きくなり、私は口をつぐみながら――顔を赤くしてしまった。
そんな私を見た陛下は、優しく目じりをやわらげると。
「ほっほっほ。そうか、シューベルトが気になっておったか。あいつはまだ、若く青いことばかり考えているから心配じゃったが――リアーナのような、賢い妻がいたら――安心じゃな」
「!」
「今回のことが上手くいったら――シューベルトとの結婚を認めよう。平民からの王妃であり、公爵家の闇を暴いたとなれば……国中が祝福してくれるだろうよ」
(シューベルト様と結婚……!)
陛下の話を聞くと、本当に叶う実感が湧く。
こうした話ができる人だからこそ、国のトップにつけるのだと――そう思った。
「へ、陛下……! 私、頑張りますわ!」
「うむ、リアーナの頑張りに――わしも、応えたいからな」
「あ、ありがとうございますっ! では、早速――伯爵家へ帰って……時期を見て、動きますわ……!」
「ああ、気を付けて帰りなさい……そうだな、王城の騎士を見送りのためにつけよう」
陛下は、一度手を合わせて――「パン」と音を出すと、扉の外から声が聞こえてきて。
「陛下、お呼びでしょうか?」
「ああ、大切な……ご令嬢をエントランスまで案内せよ」
「はっ」
(す、すごい……陛下の命令に瞬時に駆けつけてくれるなんて……!)
私は陛下の姿に、頼もしさを感じた。
そのまま、陛下に「失礼します」と言って――騎士に連れられて、帰りの馬車の場所まで向かった。
これからのことに期待で胸を膨らませて、やる気に満ちていた。
だから、一人……応接間に残された陛下のその後は知らなくて。
「ほっほっほ。わしと同じ……魅了の魔法が使える者、か」
応接間で、陛下はぽつりと言葉を紡ぐ。
「わし一人では、シューベルトを御すことができなかったから……あの者の力も使って、手中に収めよう」
彼は胸元からペンダントを取り出して、一人の女性の写真を見つめる。
そこには、シューベルトによく似た女性の写真があった。
その写真を見つめながら、陛下は言葉を紡ぐ。
「そなたによく似て、シューベルトは頭がかたい。しかしそなたは――もういない。まったく、側に居てくれたのなら……話を聞きたかったのに」
陛下は哀愁を持った声で、そう言った。
ペンダントを握る手は、力がこもっているのか――しっかりと握っており……ペンダントの外装に、パキパキと音を立てながら“霜”が付く。
「じゃが――死者として現れない、そなたが悪い。墓を掘って、恋焦がれたわしに……姿で現れるんじゃなくて、魔力を寄こすなんて」
陛下の声音は、暗く――低くなった。
「国の平和のために、他の意見を聞く必要なんてない。王に従ってこそ――王国だ。そう思ったから、わしを支えるために魔力をくれたのだろう?」
陛下は嬉しそうに恍惚な様子で、ニコッと――写真を見つめてほほ笑むのであった。
◆◇◆
◇オリビア視点◇
慰労会が終わってから二週間ほど――いつもの平穏な日常を過ごしている。
(リアーナとは――先日の慰労会でほぼ決別したと言ってもいいし……伯爵家にいるヘンリーたちも、なんだか、こちらに遠慮しているようだから……)
ようやっと、目的である伯爵家からの脱出が叶った気がする。
ただ気にかかるのは――。
(陛下のあの態度……よね)
表立って言ってはいないが、チクチクとした棘を言葉に含んでいた。
なにより、レインの行動を邪魔するような発言だったり。
(変に刺激しなければ、何もしてこない……かしら。既存の物語では、陛下を敵にすることなんてなかったから……)
前世で知った知識外の対応になってしまう。
それでも、こうして自分の人生を生きるためには、どうにか対処したいとは思うものの……。
「目立った行動がなければ……こちらから、何もできないわよね……」
「オリビア様? いかがいたしましたか?」
「あ、いえ、なんでもないわ」
エマにそう問いかけられて、私はハッとなる。
つい、陛下の今後のことを考えると、気持ちが口に出てきていたようだ。
しかし現に、何か陛下が、レインに悪事を働いてはいないため――考えることしかできない。
(それよりも、今は――こうして公爵家のためにできることをしなきゃ……!)
「ねぇ、この書類の確認が終わったのだけど――どうかしら?」
「まぁ……! お早いですね……! バートンに確認してきます……っ!」
私は自室の机の上に置いてある書類を手に取って、侍女のエマに渡した。
するとエマは、部屋から出ていく。
そう、私は今……エヴァンス公爵家の女主人として、公爵家で必要な備品の発注書や確認書類周りに目を通していた。
先日は「雪山イベント」のため、自分の魔法の力でレインをサポートすることができたが――ああした大掛かりなトラブルは早々ない。
それに基本的に、私は公爵家に居る日が多いため……何をするべきか悩んでいたら。
(そもそも、公爵家に嫁いだのなら……家のことがあったのよね。お義母様が、そこの手綱を握っていたのもあって――私が関与していいのか、気が引けていたけど……)
そう、魔力の受け渡しをする前から……レインのお母様は、屋敷の女主人として書類周りのことを率先してやっていたようだ。
結婚したばかりの頃は、レインからも妻としての役目は問わないと聞いていたので、あくまで気ままな猫のように、害のない存在を目指していたのだが……。
(お義母様に、勇気を出して聞いたら……あっさり、女主人としてよろしくね……って言われてしまったのよね……)
慰労会から帰って来た翌日に、お義母様に会う機会があったので、彼女にそれとなく――「公爵家の仕事」を私が手伝ってもいいか……と聞いたら。
顔を輝かせて、「ぜひ!」と言われたのだ。
そのあと聞かされたのは、お義母様も私が最近魔法を使っていたり、自分の魔力を貰ってくれていた手前、仕事をさせるのは忍びないと思っていたらしい。
(もっと早くにお声がけすれば、良かったわ……)
お互い相手を気にしすぎて、どうぞどうぞ……といった状態になっていたようだ。
前にお義母様からは、早くに隠居をして――彼女は行きたい場所があると言っていた。
(愛する……亡き先代公爵様を、偲ぶ場所だって……おっしゃってたわよね)
もし私が女主人として役割を果たせたら、お義母様の願いは叶うだろうか。
そしてそう考えた私は、はたと気づく。
(はじめは……安泰な暮らしができればいいと思っていたのに……公爵家に来てから、考えがだいぶ変わって……)
自分の変化を感じていれば――自室の扉がガチャッと開く。
バートンに確認しに行ったエマが帰って来たのだと思い、そちらに目を向ければ。
「レ、レイン様……っ!?」
「突然、申し訳ございません、オリビア……!」
突然ノックもせずに入って来たレインは、どこか焦った様子でドアを閉めていた。
そして口元に人差し指をつけて――「シ――」とジェスチャーをした。
(たしか、今日は……朝食をともに摂ったのち……レイン様は司法院に向かわれた気がするんだけど――早めに帰ってきたのかしら?)
あれ、と思いながらレインを見つめていれば。
扉の外から「公爵様~~! 逃げないでください! こういう調査は私たちに任せて……」とレインを探す、司法院の騎士たちの声が聞こえてきた。
いったい何事なのかと、レインに視線を投げかければ。
「困らせてしまいすみません……オリビア」
「い、いえ……困ってはいませんが――レイン様、いったいどうされて……」
「うーん……話せば長くなるのですが……」
レインは顎に手を当てて、悩ましい顔つきになった。
そして妙案が浮かんだように、「そうですね!」と明るい声を出す。
「オリビア、今は……時間が空いていますか?」
「え? ええ、屋敷の書類の確認も終わって――バートンの最終チェックに出しているので、もうあとは待つだけですが……」
「さすが、手際がいいですね。チェックをしてくださりありがとうございます」
「いえ、お役に立てたのなら――それが嬉しいですわ」
「では、僕と――秘密の散歩に行きませんか?」
「秘密……? 散歩……?」
レインの言葉の意味が分からず、頭にハテナマークを浮かべていたら――彼はうるうると希うような視線をこちらに向けてきて。
「散歩は嫌いですか……?」
「あ、い、いえ……! 嫌いじゃありませんよ。レイン様と散歩に行きますわ」
そう答えたら、レインは見るからに嬉しそうにパアッと顔を明るくさせて……私の方へ近づいてきた。
彼は「さぁ、立ち上がってください」と言って、私の方へ手を差し出す。
なにがなんだか分からないままだが、彼の気持ちにおされるように……彼の手に自分の手をのせると。
グニャリと視界が歪む。
(ん? これってレイン様の魔法の――)
そう気づいた時には、すでにレインの空いている片手から魔法陣が出現していて……。
みるみるうちに瞬間移動をすることになったのだ。